【完結】君に会えたら

たいけみお

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Chapter 13:「アンコンディショナル・ラブ」

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【6月30日(土)】


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TOKYO CHIC 2008号

「君に会えたら」 第13話 掲載

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「絢~、腹減ったぁ~」


由幸がまた、タダ飯を食べにやってきた。

それも土曜の夕方。


「由幸、土曜の夜だよ?20の男子だよ?彼女とデートとかないわけ?」

「そんな堅いコト言うなよ。俺は絢のメシが喰いたいよ、って、あれ?桃野オマエ、ここでなにしてるんだよ?!」

由幸は、赤ソファーでまったりとコーヒーを飲んでる桃野くんを見つけた。



「仕事半分、癒し半分」

「なんだそれ?!お前こそデートしとけよ。もう26だろ?俺より確実にヤバいだろ」


「俺も絢ちゃんが作ってくれるご飯の方がいいし。ここには絢ちゃんのコーヒーもアシュフィのプリンもあるし、まったりできるし・・・引きこもりなんだ、俺」

「うぜぇ・・・桃野、ウザすぎる!」




でもまぁ、なんだかんだ、

いつものように3人で食事をするはめになる。

今夜はホットプレートで焼き肉大会。



「この肉、超うめぇ」

「頂き物。松坂牛って書いてあった」

「まじ?それ、超高級じゃん!」

「たくさん頂いたの。遠慮しないでいっぱい食べてって?炊き立てのごはんもあるよ」

「このたれは?なんかすげぇカラフルだけど・・・」

桃野くんが目をぱちくりさせている。



「それは私が作ったの。こっちから醤油だれ、レモンだれ、ごまだれ、梅だれ・・・」

「すごっ」

「このレモンだれ、うまっ」

桃野くんが買ってきてくれた缶ビールを飲みながらの焼き肉は、なかなか楽しい。





「そういえば昨日、大学で隣に座ってたコが必死に「TOKYO CHIC」読んでたんだよ」

「へぇ」

「だからさ、ちょっと借りて「君に会えたら」読んだんだけど・・・絢、あんなことよく書けるな。読んでてこっちが恥かしくなった」

「そんなに恥かしいコト、書いたっけ?」


「耕介って、めっちゃ乙女じゃん。男はそういう部分を必死で隠して生きてるのに、絢はそれをストレートに書きすぎ。ま、それが人気の秘密なんだろうけど」

「由幸くんも隠してるんだ」

桃野くんがニヤリと笑って切り込んだけど、由幸はそれを無視した。



「なぁ、耕介って絢の好きな男がモデルなの?」

「へ?」

「この間言ってただろ、好きなヤツがいるって。どう考えても耕介は祐じゃないしさ」


「俺もその話聞きたい」

桃野くんは梅だれ松坂牛を頬張りながら、由幸の話に乗ってきた。


「違うよ。好きな人が耕介のモデルなんじゃないよ」

「じゃ誰?想像であそこまで書けるもんなの?想像にしては耕介の気持ちの機微とか、描写が細かすぎない?」

小説に全く興味がない由幸にしては、妙に鋭い指摘をしてくる。


「私をバカにしてる?これでもプロなんだけど」

「なんだよそれ、真面目に聞いてんのに。だけどさ、耕介の気持ちの繊細な描写に反して、聡美の方は全く放置だよな。読者からしたら、彼女が何考えてるのか全然わかんねぇ。なんで?」

「それは・・・「君に会えたら」の主人公が耕介だからだよ」

「それにしたって、もうちょっと聡美の気持ちを匂わせてもよくね?今の感じだと、全く先が読めないし」

「いいんだよ、それで。そういう設定なんだから」

「わけわかんね。ま、それも「君に会えたら」の人気の秘密か・・・」


勝手に由幸が自己完結してくれたお陰で、この場は助かった気がする。

これ以上突っ込まれたら、聡美のことがばれそうで怖い。




「・・・ところで、祐くんってどういう人なの?耕介と全く違うって言ったけど」

牛肉から由幸に目線を移した桃野くんは、珍しく真面目な口調でそう問いかけた。

「あー、祐は・・・地元のアイドル。愛されキャラ。祐は耕介みたいに自分の気持ちを内に閉じ込めたりしないよ。祐がもし耕介だったらストレートに聡美に「好きだ」って言って、有無を言わせず連れ去るね」


ぷっ。

私は思わずビールを噴き出しそうになった。

由幸が祐のことをよくわかってたから。


「汚ねぇ、絢!」

「へぇ、祐くんって強気だね。躊躇しないんだ」

「全くしないね。それに、生まれた時から絢一筋。他のコには見向きもしない」

「そりゃ・・・すごいな」


その表情の意味はよく読み取れないけど、桃野くんは私の顔をじっと見つめた。

微笑むでもなく、苦笑するでもなく、

ただひたすら「無」、っていう感じで。



「祐はすげぇよ。俺、アイツの年齢を超えたから、余計にわかる・・・アイツがどれほどすげぇヤツだったか」

「―――そうだよな。今の俺の年齢になっても、何が真実かなんてひとつもわかんねぇのに・・・そこまで最初から確信がある、ってすごいことだよ」

「だろ?」

「・・・どうしたら、そんなのわかるんだろうな。祐くんに聞いてみたいよ」


桃野くんは祐の話をしばらく止めなかった。

私もそのままにしておいた。

ここで、この3人で、祐の話をするのは意外なことにとても心地よかったから。



「ところでそもそも話だけどさ・・・由幸くんは、絢ちゃんと祐くんとはどういう関係?」

「え、知らなかったっけ?俺は絢の従弟で、絢と祐と俺は幼なじみで、アシュフィの陽子は祐の姉貴」


「へ?由幸くん、陽子さんとも知り合いだったんだ・・・おまけに陽子さんが祐くんのお姉さん?!」

「そう。俺は3人の可愛い弟よ」

「なるほどね、だから絢ちゃんは由幸くんに甘いんだ」

「桃野にも相当甘いと思うけど?ありえねぇだろ、こんなに毎日ここにいるとか・・・マジありえねぇから」

由幸が爆笑した。

でもすぐに、真面目な顔に変わった。



「祐はさ・・・俺のヒーローなんだ。永遠のヒーロー」

「ん」


「でも俺、すげぇ祐のこと恨んだ」

「え?」


「祐が絢を泣かせるとか、1人にするなんてありえねぇ。祐はそういうヤツじゃなかったから・・・何やってんだよ、って。オマエ、何してくれたんだよ、って・・・」

「あぁ」

唇を噛んだ由幸を、桃野くんはじっと見つめていた。


「ねぇ、プリン食べる?さっき陽子が持ってきてくれたんだけど」

「食べる」

由幸は子供のようにすくっと立ち上がって、冷蔵庫に向かった。




結局その日も由幸は食べ逃げをし、私と桃野くんで片付けをする。

最近はいつも「明日の朝、バイトで早いから」ってここを去っていくけど、

一体なんのバイトをしてんだか・・・

コンビニとかに変えたのかな?



そんなことを考えてたら、桃野くんがまた、祐の話をし始めた。

よっぽど祐に興味があるらしい。


「祐くんてタイプは違うけど、1人の女の子に一筋っていう意味では耕介と一緒だよね」

「ん~、そう言われてみればそうかもね」

「もし、絢ちゃんが祐くんのことをスキじゃなかったら、本当はどうしてたのかな。さっき由幸くんが言ってたみたいに、絢ちゃんを連れ去ったのかな」



「連れ去るだろうけど、気持ちを無理強いしたりしないよ」

「どういうこと?」


「祐はその時の自分の気持ちをよくわかってて、それに正直に生きる人。それが祐にとっての絶対的な真実だから。「好きなモノは好き」って、後先考えず、自分の気持ちをオープンにしてるだけなの」

「うん」


「だから連れ去るっていうか、自分の目の届くところに常に置いておく、っていうか・・・まぁそれは私が祐のことを好きだって、彼がわかってたからやったことかもしれないけど」

「あぁ、、なるほどね」

「つまり究極な話、祐にとっては、私が祐を好きかどうかは二の次で・・・自分がやりたいようにやってるだけなんだけどね。でもまぁ、仮に私が祐のことを好きじゃなかったとしても、最終的には彼の愛情に負けてたと思うな」

「・・・本当にすごいな、祐くんは」


「祐はすごいよ。祐は・・・愛の塊みたいな人」

祐のことを桃野くんが褒めてくれて、私はすごく嬉しかった。



後片付けが終わって、赤ソファーでコーヒーを飲んでいる桃野くんが、足もとにいる私の頭に右手をのせた。

「絢ちゃん、好きな人に告白しないっていってたよね。なんで?」

「私はもう大切な人を失いたくない。それに・・・私はその人のことを、ちゃんと愛してあげられないから」


「どういう意味?」

「祐が私に与えてくれたような無条件の愛を、私はその人に与えられないから」


「どうして?」

「例えば―――執筆中、その人のこと完全に忘れてるし、意識も飛んでるでしょ」

「まぁ、そうだけど」


「祐は、私のこと忘れるなんて、一瞬たりともないよ」

「・・・」

「何があっても、常に私のことを考えてくれてた」

「・・・」

「それがどういう意味だか、桃野くん、本当にわかってる?」



いつか、ちゃんと言っておかないといけないと思っていた。

飯島さんと違って、桃野くんはわかっていないかもしれないから。



「それはね・・・それができない私はね―――狂ってる、ってことだよ」

いま、目の前にいる、大好きな人を、忘れてしまうくらい、

時間を失い、祐の幻覚を見てしまうくらい、狂ってるってこと。



「絢ちゃんは狂ってなんかないよ!」

怒ったような、哀しそうな顔をしてる桃野くん。

ごめんね、そんな顔をさせて。


でもその顔を見た瞬間、やっぱり桃野くんは飯島さんから聞いたんだな、ってわかった。

だったら、これ以上の説明はいらない。



「わかるでしょう?執筆を何よりも優先する、狂気を伴った「片桐純」である私と一緒にいても哀しい想いをするだけ・・・私、その人には本当に幸せになってもらいたいの。祐が無条件の愛で私を幸せにしてくれたみたいに―――その人にも幸せになって欲しいの」

桃野くんはそれに対して何も言わなかった。





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