7 / 62
Chapter 6:「ゼミ仲間」
しおりを挟む
【5月7日(月)の週】
*******************************
TOKYO CHIC 2001号
「君に会えたら」 第6話 掲載
*******************************
片桐純
________________________________
片桐純(かたぎり じゅん、11月24日生まれ)日本の小説家。
略歴
高校3年生時、「パラレルワールド」で集公舎文芸賞大賞受賞。
伝統ある文芸賞を17歳という若さ(歴代最年少)で受賞したこと、そしてその独特の作風から、文学界だけでなく、音楽業界、映画界などの様々なジャンルのアーティストに強い影響を与えている。
映画監督の河野光一、人気ロックバンド「franc」のボーカルで作詞・作曲を手掛けるジョシュア、画家の山本鬼山などが、片桐純のファンであることを公言している。
現在は大学(大学名非公表)4年に在籍しながら作家活動を続け、現在までに6作品が出版されている。全てベストセラー入り。現在は「君に会えたら」を「TOKYO CHIC (集公舎出版)」で連載中。
著作は以下の通り。
1 パラレルワールド (集公舎文芸賞大賞受賞)
2 6月6日午後6時 (鴻池洋次SF大賞受賞)
3 アンコンディショナル・ラブ(短編集)
4 空き教室でいっぱいキスをしよう(短編集)
5 絶対的な真実(桜庭栄治文学賞受賞)
6 メメント・モリ
7 君に会えたら(未完)
________________________________
オンライン上の略歴に載っている通り、私は某大学の4年生。
今日は週に一度、唯一大学に通う、ゼミの日。
「今日4人で飲みに行こうよ?隆司、就職内定したんだって!」
同じゼミの4年生は私を含めて4人。
美夏(ミカ)、隆司(タカシ)、公太(コウタ)、そして私。
隆司の就職が決まって、これで全員、卒業後の進路が決まったことになる。
駅近くの居酒屋。
金曜日の夜ということもあって、人でごった返していた。
「隆司の就職内定を祝って、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
「どもども!」
「これでとりあえず俺たちの就職活動は終わったってことだよな。絢は就職しないって言ってたもんな?」
ジョッキを片手で軽々傾ける公太が、さりげなく私に話を振ってきた。
「うん、私は執筆とバイトで食べてくから就職はしないよ。だからもう全員進路決定だね」
「執筆とバイトだけって、すごい覚悟だよな。絢がどんなの書いてんのか知らないけど」
「ペンネーム教えてよ。絶対に買うから!で、どんなの書いてるの?雑誌の記事とか?」
「桃野くんが直接原稿取にくるってことは、もしかして結構売れてるとか?」
たまに大学まで桃野くんが原稿を取りに押し掛けてくるから、ライターの仕事をしてることは言ってあるけど、私が「片桐純」ということをこの3人は知らない。
ちなみに。
私が「桃野くん」と呼ぶから、みんなも年上の彼を「桃野くん」と呼ぶ。
「正体ばれるとプレッシャーで好きなように書けなくなるから内緒」
ま、執筆してる際に記憶が飛ぶ私としては、実際のところどうなのかは不明だけど。
「ま、それはわかる気がする。俺だったら、ちょっと気恥ずかしいかも」
「そうかもな」
「えー、私だったら絶対に自慢するのに!」
「あはは、それは美夏だからだろ。そういえば、絢がバイトしてる銀座のケーキ屋、すごい人気らしいな。この間TVで特集してたぞ」
私が「片桐純」だと知らない彼らは、私が「アシュフィ」でバイトをしていると思っている。
面倒くさいので、そういうことにしてある。
「なんてったって「君に会えたら」の舞台だから・・・ケーキもすごくおいしいんだって。あぁ、私にも耕介みたいな人、現れないかなぁ」
どうやら美夏は「君に会えたら」の大ファンらしい。
「耕介ってどんな男なの?」
隆司は意外に興味深々。
そんなことに興味があるなんて知らなかった。
おまけに、就職するまでに禁煙すると宣言したばかりなのに、さっそくタバコに火をつけた。
「すっごい一途、でもツンデレ?不器用?おまけにイケメン!」
「女ってそういうの好きだよなぁ」
「そんな男、実際にはいないのにな」
公太は爆笑していたけど、隆司は煙草を吸いながら、明後日の方向を向いている。
「夢のないこと言わないでよ!とにかくね、毎週ちょっとずつ2人に進展があって、もうドキドキなんだから!」
からかわれてちょっとむくれた美夏だったけど、すぐに立ち直ってこう言った。
「今度、絢がシフト入ってる時に一緒に行こうよ?アシュフィを見てみたいし、ケーキも食べたいから!」
「今度いつ入ってるの?」
「明日。9時半から15時まで」
「じゃ、明日、15時前に行こうか?」
次の日の土曜日、3人は本当にアシュフィにやってきた。
「本当にバイトしてんだな」
「真面目にしてるよ!で、何がいい?」
「お勧めを適当に詰めてよ。せっかく来たからいっぱい買って帰る!」
「俺このプリン、今食べたい。めちゃくちゃ旨そう」
「空いてたら、そこのベンチで食べれるよ。よかったらお茶入れて持ってくけど?」
そう言って空いてるかどうかふとベンチの方を見ると、そこにはなんと缶コーヒーを片手に佇んでいる桃野くんがいた。
土曜日だというのにスーツを着ている。
「あれって桃野くんじゃない?」
隆司が気付いた。
「相変わらず目立つなぁ。さすがイケメン。っていうか、どう見ても地味な編集者にしとくのもったいないよな。なんでモデルとかやらないんだろ」
公太が感心したようにそう呟いた。
「わーほんとだ!桃野くんに会えるなんて今日はめっちゃツイてる!・・・そういえば「TOKYO CHIC」って桃野くんの出版社だよね?もしかしたら、耕介と聡美がこれからどうなるか教えてくれるかな?!」
美夏が興奮したように言う。
「そんなのムリに決まってんだろ?」
苦笑する公太。
私はとりあえず3人を連れて、桃野くんの元へ向かった。
「あれ、久しぶりだね。いつ以来だっけ?」
桃野くんは3人に会えて、とても嬉しそう。
「桃野くん、今日仕事だったの?」
「あぁ、打ち合わせとかいろいろ」
「そっか・・・あのね、美夏が桃野くんに聞きたいことがあるんだって。じゃ、私はまだバイト中だから戻るね」
「あの3人は絢が「片桐純」だってこと知らないんだ」
陽子は3人のためのお持ち帰り用ケーキを、
私はお盆に5人分のプリンと、ハーブティーを用意しているところ。
4人が楽しそうに話してるのが、この少し離れたカウンターからでも見える。
「うん。ライターとは言ってあるけど、それ以上は話してないんだ」
「桃野くん、「君に会えたら」のこと聞かれて困ってるんだろうなぁ」
ぷっ、と陽子が吹いた。
「でもたしかに「君に会えたら」いいよ。心臓を鷲掴みされる感じ。耕介ステキだよ」
「なにそれ。俺じゃ不満だって言いたいわけ?」
背後で智志さんが黒いオーラを放っている。
誤解のないように言っておくけど、この2人は結婚5年目だと言うのにまだラブラブ。
羨ましい限り。
「もちろん智志が一番。でも・・・あぁ、耕介すごくいい。あんなに繊細な気持ちを丁寧に描ける絢もすごいよね。もしかして実際にそういう人に会ったことあるの?祐は違うキャラだし」
そう、祐はどちらかというと俺様キャラ。不器用な耕介とは大違い。
「それは企業秘密だよ」
そんなことをしている間にちょうど15時になったから、私はシフトを上がり、4人の元へ向かった。
「で?あのあと、二人はどうなっちゃうんですか?!」
「それは言えないよ。それに言っちゃったら、美夏ちゃんの楽しみも減っちゃうでしょ」
「えぇ、待てないです!耕介のことを考えると、せつなくて、胸がキュンってなって、眠れなくなるんです!お願いです、教えてくださいっ!」
「美夏ちゃん、それはムリだって。くくっ」
実際、桃野くんが美夏にストーリーを暴露できるとは思わないけど、あの怪しげな微笑みを見ると、どうも「年下限定Sモード」に入ってる気がする。
「美夏、その辺であきらめな」
隆司と公太も爆笑してる。
「まぁ、「君に会えたら」がこれからどうなるのかは教えてあげられないけど・・・読者の気持ちがよくわかったよ。ありがとう美夏ちゃん。「片桐先生」に伝えとくから」
桃野くんは美夏に満面の笑みを浮かべた。
美夏の顔がポッっと赤くなる。
気のせいか、隆司と公太の頬も少し赤くなった気がする。
やっぱり桃野スマイルは最強。
私はプリンとハーブティーを静かにテーブルに置いて公太の横に腰掛けた。
「このプリンめっちゃ旨い!なんだこのなめらかさは!」
「だよね?俺、このプリン食べると幸せになるんだ。こう、天国に昇る感じ?」
桃野くんもパクっとプリンを頬張り、本当に幸せそうな顔をした。
何度見ても、この瞬間の桃野くんは本当に可愛い。
「桃野くんがプリン好きとか、ちょっと意外ですよ。甘いもの苦手そうなのに」
「甘いもの全然ダメだよ。あの舌に残るベトベト感がだめでさ。でも、このアシュフィのプリンだけは別」
「そうなんだ。でもこれホントに旨いですよね」
「俺、これないと生きていけないから」
「そこまで?!桃野くん、ウケる!」
「・・・で、今日も絢に原稿の催促ですか?」
同じく桃野くんのプリン好きにウケつつ、隆司がプリンを口に運びながら聞いた。
「絢ちゃんにはちょっと仕事の話があるんだけど・・・これからみんなでどっか行く予定なの?」
「いや、ケーキを買いに来ただけですよ。美夏がアシュフィ見たいって言うし」
「じゃあこの後、絢ちゃんを借りても大丈夫かな?」
「あ、はい。特にこの後の約束もしてなかったですし」
ということで、全員がプリンを食べ終わると、私と桃野くんは3人と別れて、私のマンションに向かった。
3人でこれからまたどっか行くのかなぁ。
ちょっと羨ましかったりする。
「・・・で、仕事の話ってなに?」
「仕事の話なんてないよ。絢ちゃんのコーヒー飲みたかっただけ」
「えぇ?!」
「ごめん。土曜にフルで仕事してる俺へのご褒美だと思って許してよ」
「桃野く~ん!」
3人がいたのに、嘘ついてコーヒーって、どういうこと?!
「言い訳するわけじゃないけど、本当に俺・・・絢ちゃんのコーヒーとアシュフィのプリンがないと生きていけないんだって。こればっかりはどうしようもないんだよ。ね?」
「はぁ、いつからこんなワガママになっちゃったんだろ・・・」
私はポツリと呟いた。
声に出すつもりはなかったけれど、出してしまっていたらしい。
「う~ん、気がついたのはここ最近かな。ま、絢ちゃんくらいしか、こういう俺は知らないと思うけどね」
その瞬間、桃野くんの右の口角が上がったのを私は見逃さなかった。
*******************************
TOKYO CHIC 2001号
「君に会えたら」 第6話 掲載
*******************************
片桐純
________________________________
片桐純(かたぎり じゅん、11月24日生まれ)日本の小説家。
略歴
高校3年生時、「パラレルワールド」で集公舎文芸賞大賞受賞。
伝統ある文芸賞を17歳という若さ(歴代最年少)で受賞したこと、そしてその独特の作風から、文学界だけでなく、音楽業界、映画界などの様々なジャンルのアーティストに強い影響を与えている。
映画監督の河野光一、人気ロックバンド「franc」のボーカルで作詞・作曲を手掛けるジョシュア、画家の山本鬼山などが、片桐純のファンであることを公言している。
現在は大学(大学名非公表)4年に在籍しながら作家活動を続け、現在までに6作品が出版されている。全てベストセラー入り。現在は「君に会えたら」を「TOKYO CHIC (集公舎出版)」で連載中。
著作は以下の通り。
1 パラレルワールド (集公舎文芸賞大賞受賞)
2 6月6日午後6時 (鴻池洋次SF大賞受賞)
3 アンコンディショナル・ラブ(短編集)
4 空き教室でいっぱいキスをしよう(短編集)
5 絶対的な真実(桜庭栄治文学賞受賞)
6 メメント・モリ
7 君に会えたら(未完)
________________________________
オンライン上の略歴に載っている通り、私は某大学の4年生。
今日は週に一度、唯一大学に通う、ゼミの日。
「今日4人で飲みに行こうよ?隆司、就職内定したんだって!」
同じゼミの4年生は私を含めて4人。
美夏(ミカ)、隆司(タカシ)、公太(コウタ)、そして私。
隆司の就職が決まって、これで全員、卒業後の進路が決まったことになる。
駅近くの居酒屋。
金曜日の夜ということもあって、人でごった返していた。
「隆司の就職内定を祝って、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
「どもども!」
「これでとりあえず俺たちの就職活動は終わったってことだよな。絢は就職しないって言ってたもんな?」
ジョッキを片手で軽々傾ける公太が、さりげなく私に話を振ってきた。
「うん、私は執筆とバイトで食べてくから就職はしないよ。だからもう全員進路決定だね」
「執筆とバイトだけって、すごい覚悟だよな。絢がどんなの書いてんのか知らないけど」
「ペンネーム教えてよ。絶対に買うから!で、どんなの書いてるの?雑誌の記事とか?」
「桃野くんが直接原稿取にくるってことは、もしかして結構売れてるとか?」
たまに大学まで桃野くんが原稿を取りに押し掛けてくるから、ライターの仕事をしてることは言ってあるけど、私が「片桐純」ということをこの3人は知らない。
ちなみに。
私が「桃野くん」と呼ぶから、みんなも年上の彼を「桃野くん」と呼ぶ。
「正体ばれるとプレッシャーで好きなように書けなくなるから内緒」
ま、執筆してる際に記憶が飛ぶ私としては、実際のところどうなのかは不明だけど。
「ま、それはわかる気がする。俺だったら、ちょっと気恥ずかしいかも」
「そうかもな」
「えー、私だったら絶対に自慢するのに!」
「あはは、それは美夏だからだろ。そういえば、絢がバイトしてる銀座のケーキ屋、すごい人気らしいな。この間TVで特集してたぞ」
私が「片桐純」だと知らない彼らは、私が「アシュフィ」でバイトをしていると思っている。
面倒くさいので、そういうことにしてある。
「なんてったって「君に会えたら」の舞台だから・・・ケーキもすごくおいしいんだって。あぁ、私にも耕介みたいな人、現れないかなぁ」
どうやら美夏は「君に会えたら」の大ファンらしい。
「耕介ってどんな男なの?」
隆司は意外に興味深々。
そんなことに興味があるなんて知らなかった。
おまけに、就職するまでに禁煙すると宣言したばかりなのに、さっそくタバコに火をつけた。
「すっごい一途、でもツンデレ?不器用?おまけにイケメン!」
「女ってそういうの好きだよなぁ」
「そんな男、実際にはいないのにな」
公太は爆笑していたけど、隆司は煙草を吸いながら、明後日の方向を向いている。
「夢のないこと言わないでよ!とにかくね、毎週ちょっとずつ2人に進展があって、もうドキドキなんだから!」
からかわれてちょっとむくれた美夏だったけど、すぐに立ち直ってこう言った。
「今度、絢がシフト入ってる時に一緒に行こうよ?アシュフィを見てみたいし、ケーキも食べたいから!」
「今度いつ入ってるの?」
「明日。9時半から15時まで」
「じゃ、明日、15時前に行こうか?」
次の日の土曜日、3人は本当にアシュフィにやってきた。
「本当にバイトしてんだな」
「真面目にしてるよ!で、何がいい?」
「お勧めを適当に詰めてよ。せっかく来たからいっぱい買って帰る!」
「俺このプリン、今食べたい。めちゃくちゃ旨そう」
「空いてたら、そこのベンチで食べれるよ。よかったらお茶入れて持ってくけど?」
そう言って空いてるかどうかふとベンチの方を見ると、そこにはなんと缶コーヒーを片手に佇んでいる桃野くんがいた。
土曜日だというのにスーツを着ている。
「あれって桃野くんじゃない?」
隆司が気付いた。
「相変わらず目立つなぁ。さすがイケメン。っていうか、どう見ても地味な編集者にしとくのもったいないよな。なんでモデルとかやらないんだろ」
公太が感心したようにそう呟いた。
「わーほんとだ!桃野くんに会えるなんて今日はめっちゃツイてる!・・・そういえば「TOKYO CHIC」って桃野くんの出版社だよね?もしかしたら、耕介と聡美がこれからどうなるか教えてくれるかな?!」
美夏が興奮したように言う。
「そんなのムリに決まってんだろ?」
苦笑する公太。
私はとりあえず3人を連れて、桃野くんの元へ向かった。
「あれ、久しぶりだね。いつ以来だっけ?」
桃野くんは3人に会えて、とても嬉しそう。
「桃野くん、今日仕事だったの?」
「あぁ、打ち合わせとかいろいろ」
「そっか・・・あのね、美夏が桃野くんに聞きたいことがあるんだって。じゃ、私はまだバイト中だから戻るね」
「あの3人は絢が「片桐純」だってこと知らないんだ」
陽子は3人のためのお持ち帰り用ケーキを、
私はお盆に5人分のプリンと、ハーブティーを用意しているところ。
4人が楽しそうに話してるのが、この少し離れたカウンターからでも見える。
「うん。ライターとは言ってあるけど、それ以上は話してないんだ」
「桃野くん、「君に会えたら」のこと聞かれて困ってるんだろうなぁ」
ぷっ、と陽子が吹いた。
「でもたしかに「君に会えたら」いいよ。心臓を鷲掴みされる感じ。耕介ステキだよ」
「なにそれ。俺じゃ不満だって言いたいわけ?」
背後で智志さんが黒いオーラを放っている。
誤解のないように言っておくけど、この2人は結婚5年目だと言うのにまだラブラブ。
羨ましい限り。
「もちろん智志が一番。でも・・・あぁ、耕介すごくいい。あんなに繊細な気持ちを丁寧に描ける絢もすごいよね。もしかして実際にそういう人に会ったことあるの?祐は違うキャラだし」
そう、祐はどちらかというと俺様キャラ。不器用な耕介とは大違い。
「それは企業秘密だよ」
そんなことをしている間にちょうど15時になったから、私はシフトを上がり、4人の元へ向かった。
「で?あのあと、二人はどうなっちゃうんですか?!」
「それは言えないよ。それに言っちゃったら、美夏ちゃんの楽しみも減っちゃうでしょ」
「えぇ、待てないです!耕介のことを考えると、せつなくて、胸がキュンってなって、眠れなくなるんです!お願いです、教えてくださいっ!」
「美夏ちゃん、それはムリだって。くくっ」
実際、桃野くんが美夏にストーリーを暴露できるとは思わないけど、あの怪しげな微笑みを見ると、どうも「年下限定Sモード」に入ってる気がする。
「美夏、その辺であきらめな」
隆司と公太も爆笑してる。
「まぁ、「君に会えたら」がこれからどうなるのかは教えてあげられないけど・・・読者の気持ちがよくわかったよ。ありがとう美夏ちゃん。「片桐先生」に伝えとくから」
桃野くんは美夏に満面の笑みを浮かべた。
美夏の顔がポッっと赤くなる。
気のせいか、隆司と公太の頬も少し赤くなった気がする。
やっぱり桃野スマイルは最強。
私はプリンとハーブティーを静かにテーブルに置いて公太の横に腰掛けた。
「このプリンめっちゃ旨い!なんだこのなめらかさは!」
「だよね?俺、このプリン食べると幸せになるんだ。こう、天国に昇る感じ?」
桃野くんもパクっとプリンを頬張り、本当に幸せそうな顔をした。
何度見ても、この瞬間の桃野くんは本当に可愛い。
「桃野くんがプリン好きとか、ちょっと意外ですよ。甘いもの苦手そうなのに」
「甘いもの全然ダメだよ。あの舌に残るベトベト感がだめでさ。でも、このアシュフィのプリンだけは別」
「そうなんだ。でもこれホントに旨いですよね」
「俺、これないと生きていけないから」
「そこまで?!桃野くん、ウケる!」
「・・・で、今日も絢に原稿の催促ですか?」
同じく桃野くんのプリン好きにウケつつ、隆司がプリンを口に運びながら聞いた。
「絢ちゃんにはちょっと仕事の話があるんだけど・・・これからみんなでどっか行く予定なの?」
「いや、ケーキを買いに来ただけですよ。美夏がアシュフィ見たいって言うし」
「じゃあこの後、絢ちゃんを借りても大丈夫かな?」
「あ、はい。特にこの後の約束もしてなかったですし」
ということで、全員がプリンを食べ終わると、私と桃野くんは3人と別れて、私のマンションに向かった。
3人でこれからまたどっか行くのかなぁ。
ちょっと羨ましかったりする。
「・・・で、仕事の話ってなに?」
「仕事の話なんてないよ。絢ちゃんのコーヒー飲みたかっただけ」
「えぇ?!」
「ごめん。土曜にフルで仕事してる俺へのご褒美だと思って許してよ」
「桃野く~ん!」
3人がいたのに、嘘ついてコーヒーって、どういうこと?!
「言い訳するわけじゃないけど、本当に俺・・・絢ちゃんのコーヒーとアシュフィのプリンがないと生きていけないんだって。こればっかりはどうしようもないんだよ。ね?」
「はぁ、いつからこんなワガママになっちゃったんだろ・・・」
私はポツリと呟いた。
声に出すつもりはなかったけれど、出してしまっていたらしい。
「う~ん、気がついたのはここ最近かな。ま、絢ちゃんくらいしか、こういう俺は知らないと思うけどね」
その瞬間、桃野くんの右の口角が上がったのを私は見逃さなかった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる