【完結】君に会えたら

たいけみお

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Chapter 6:「ゼミ仲間」

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【5月7日(月)の週】


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TOKYO CHIC 2001号

「君に会えたら」 第6話 掲載

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片桐純
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片桐純(かたぎり じゅん、11月24日生まれ)日本の小説家。


略歴

高校3年生時、「パラレルワールド」で集公舎文芸賞大賞受賞。

伝統ある文芸賞を17歳という若さ(歴代最年少)で受賞したこと、そしてその独特の作風から、文学界だけでなく、音楽業界、映画界などの様々なジャンルのアーティストに強い影響を与えている。

映画監督の河野光一、人気ロックバンド「franc」のボーカルで作詞・作曲を手掛けるジョシュア、画家の山本鬼山などが、片桐純のファンであることを公言している。

現在は大学(大学名非公表)4年に在籍しながら作家活動を続け、現在までに6作品が出版されている。全てベストセラー入り。現在は「君に会えたら」を「TOKYO CHIC (集公舎出版)」で連載中。


著作は以下の通り。

1 パラレルワールド (集公舎文芸賞大賞受賞)

2 6月6日午後6時 (鴻池洋次SF大賞受賞)

3 アンコンディショナル・ラブ(短編集)

4 空き教室でいっぱいキスをしよう(短編集)

5 絶対的な真実(桜庭栄治文学賞受賞)

6 メメント・モリ

7 君に会えたら(未完)

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オンライン上の略歴に載っている通り、私は某大学の4年生。

今日は週に一度、唯一大学に通う、ゼミの日。


「今日4人で飲みに行こうよ?隆司、就職内定したんだって!」

同じゼミの4年生は私を含めて4人。


美夏(ミカ)、隆司(タカシ)、公太(コウタ)、そして私。

隆司の就職が決まって、これで全員、卒業後の進路が決まったことになる。


駅近くの居酒屋。

金曜日の夜ということもあって、人でごった返していた。



「隆司の就職内定を祝って、かんぱーい!」

「「かんぱーい!」」

「どもども!」



「これでとりあえず俺たちの就職活動は終わったってことだよな。絢は就職しないって言ってたもんな?」

ジョッキを片手で軽々傾ける公太が、さりげなく私に話を振ってきた。

「うん、私は執筆とバイトで食べてくから就職はしないよ。だからもう全員進路決定だね」

「執筆とバイトだけって、すごい覚悟だよな。絢がどんなの書いてんのか知らないけど」

「ペンネーム教えてよ。絶対に買うから!で、どんなの書いてるの?雑誌の記事とか?」

「桃野くんが直接原稿取にくるってことは、もしかして結構売れてるとか?」

たまに大学まで桃野くんが原稿を取りに押し掛けてくるから、ライターの仕事をしてることは言ってあるけど、私が「片桐純」ということをこの3人は知らない。

ちなみに。

私が「桃野くん」と呼ぶから、みんなも年上の彼を「桃野くん」と呼ぶ。



「正体ばれるとプレッシャーで好きなように書けなくなるから内緒」

ま、執筆してる際に記憶が飛ぶ私としては、実際のところどうなのかは不明だけど。


「ま、それはわかる気がする。俺だったら、ちょっと気恥ずかしいかも」

「そうかもな」

「えー、私だったら絶対に自慢するのに!」

「あはは、それは美夏だからだろ。そういえば、絢がバイトしてる銀座のケーキ屋、すごい人気らしいな。この間TVで特集してたぞ」


私が「片桐純」だと知らない彼らは、私が「アシュフィ」でバイトをしていると思っている。

面倒くさいので、そういうことにしてある。


「なんてったって「君に会えたら」の舞台だから・・・ケーキもすごくおいしいんだって。あぁ、私にも耕介みたいな人、現れないかなぁ」

どうやら美夏は「君に会えたら」の大ファンらしい。


「耕介ってどんな男なの?」


隆司は意外に興味深々。

そんなことに興味があるなんて知らなかった。

おまけに、就職するまでに禁煙すると宣言したばかりなのに、さっそくタバコに火をつけた。



「すっごい一途、でもツンデレ?不器用?おまけにイケメン!」

「女ってそういうの好きだよなぁ」

「そんな男、実際にはいないのにな」

公太は爆笑していたけど、隆司は煙草を吸いながら、明後日の方向を向いている。


「夢のないこと言わないでよ!とにかくね、毎週ちょっとずつ2人に進展があって、もうドキドキなんだから!」

からかわれてちょっとむくれた美夏だったけど、すぐに立ち直ってこう言った。


「今度、絢がシフト入ってる時に一緒に行こうよ?アシュフィを見てみたいし、ケーキも食べたいから!」

「今度いつ入ってるの?」

「明日。9時半から15時まで」

「じゃ、明日、15時前に行こうか?」



次の日の土曜日、3人は本当にアシュフィにやってきた。

「本当にバイトしてんだな」

「真面目にしてるよ!で、何がいい?」

「お勧めを適当に詰めてよ。せっかく来たからいっぱい買って帰る!」

「俺このプリン、今食べたい。めちゃくちゃ旨そう」

「空いてたら、そこのベンチで食べれるよ。よかったらお茶入れて持ってくけど?」


そう言って空いてるかどうかふとベンチの方を見ると、そこにはなんと缶コーヒーを片手に佇んでいる桃野くんがいた。

土曜日だというのにスーツを着ている。


「あれって桃野くんじゃない?」

隆司が気付いた。

「相変わらず目立つなぁ。さすがイケメン。っていうか、どう見ても地味な編集者にしとくのもったいないよな。なんでモデルとかやらないんだろ」

公太が感心したようにそう呟いた。

「わーほんとだ!桃野くんに会えるなんて今日はめっちゃツイてる!・・・そういえば「TOKYO CHIC」って桃野くんの出版社だよね?もしかしたら、耕介と聡美がこれからどうなるか教えてくれるかな?!」

美夏が興奮したように言う。


「そんなのムリに決まってんだろ?」

苦笑する公太。

私はとりあえず3人を連れて、桃野くんの元へ向かった。


「あれ、久しぶりだね。いつ以来だっけ?」

桃野くんは3人に会えて、とても嬉しそう。


「桃野くん、今日仕事だったの?」

「あぁ、打ち合わせとかいろいろ」

「そっか・・・あのね、美夏が桃野くんに聞きたいことがあるんだって。じゃ、私はまだバイト中だから戻るね」



「あの3人は絢が「片桐純」だってこと知らないんだ」

陽子は3人のためのお持ち帰り用ケーキを、

私はお盆に5人分のプリンと、ハーブティーを用意しているところ。

4人が楽しそうに話してるのが、この少し離れたカウンターからでも見える。


「うん。ライターとは言ってあるけど、それ以上は話してないんだ」

「桃野くん、「君に会えたら」のこと聞かれて困ってるんだろうなぁ」

ぷっ、と陽子が吹いた。


「でもたしかに「君に会えたら」いいよ。心臓を鷲掴みされる感じ。耕介ステキだよ」

「なにそれ。俺じゃ不満だって言いたいわけ?」

背後で智志さんが黒いオーラを放っている。


誤解のないように言っておくけど、この2人は結婚5年目だと言うのにまだラブラブ。

羨ましい限り。



「もちろん智志が一番。でも・・・あぁ、耕介すごくいい。あんなに繊細な気持ちを丁寧に描ける絢もすごいよね。もしかして実際にそういう人に会ったことあるの?祐は違うキャラだし」

そう、祐はどちらかというと俺様キャラ。不器用な耕介とは大違い。

「それは企業秘密だよ」


そんなことをしている間にちょうど15時になったから、私はシフトを上がり、4人の元へ向かった。




「で?あのあと、二人はどうなっちゃうんですか?!」

「それは言えないよ。それに言っちゃったら、美夏ちゃんの楽しみも減っちゃうでしょ」

「えぇ、待てないです!耕介のことを考えると、せつなくて、胸がキュンってなって、眠れなくなるんです!お願いです、教えてくださいっ!」

「美夏ちゃん、それはムリだって。くくっ」

実際、桃野くんが美夏にストーリーを暴露できるとは思わないけど、あの怪しげな微笑みを見ると、どうも「年下限定Sモード」に入ってる気がする。


「美夏、その辺であきらめな」

隆司と公太も爆笑してる。


「まぁ、「君に会えたら」がこれからどうなるのかは教えてあげられないけど・・・読者の気持ちがよくわかったよ。ありがとう美夏ちゃん。「片桐先生」に伝えとくから」

桃野くんは美夏に満面の笑みを浮かべた。

美夏の顔がポッっと赤くなる。

気のせいか、隆司と公太の頬も少し赤くなった気がする。

やっぱり桃野スマイルは最強。



私はプリンとハーブティーを静かにテーブルに置いて公太の横に腰掛けた。

「このプリンめっちゃ旨い!なんだこのなめらかさは!」

「だよね?俺、このプリン食べると幸せになるんだ。こう、天国に昇る感じ?」

桃野くんもパクっとプリンを頬張り、本当に幸せそうな顔をした。

何度見ても、この瞬間の桃野くんは本当に可愛い。


「桃野くんがプリン好きとか、ちょっと意外ですよ。甘いもの苦手そうなのに」

「甘いもの全然ダメだよ。あの舌に残るベトベト感がだめでさ。でも、このアシュフィのプリンだけは別」

「そうなんだ。でもこれホントに旨いですよね」

「俺、これないと生きていけないから」

「そこまで?!桃野くん、ウケる!」



「・・・で、今日も絢に原稿の催促ですか?」

同じく桃野くんのプリン好きにウケつつ、隆司がプリンを口に運びながら聞いた。


「絢ちゃんにはちょっと仕事の話があるんだけど・・・これからみんなでどっか行く予定なの?」

「いや、ケーキを買いに来ただけですよ。美夏がアシュフィ見たいって言うし」

「じゃあこの後、絢ちゃんを借りても大丈夫かな?」

「あ、はい。特にこの後の約束もしてなかったですし」

ということで、全員がプリンを食べ終わると、私と桃野くんは3人と別れて、私のマンションに向かった。

3人でこれからまたどっか行くのかなぁ。

ちょっと羨ましかったりする。



「・・・で、仕事の話ってなに?」

「仕事の話なんてないよ。絢ちゃんのコーヒー飲みたかっただけ」

「えぇ?!」


「ごめん。土曜にフルで仕事してる俺へのご褒美だと思って許してよ」

「桃野く~ん!」

3人がいたのに、嘘ついてコーヒーって、どういうこと?!



「言い訳するわけじゃないけど、本当に俺・・・絢ちゃんのコーヒーとアシュフィのプリンがないと生きていけないんだって。こればっかりはどうしようもないんだよ。ね?」

「はぁ、いつからこんなワガママになっちゃったんだろ・・・」

私はポツリと呟いた。

声に出すつもりはなかったけれど、出してしまっていたらしい。


「う~ん、気がついたのはここ最近かな。ま、絢ちゃんくらいしか、こういう俺は知らないと思うけどね」

その瞬間、桃野くんの右の口角が上がったのを私は見逃さなかった。



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