【完結】君に会えたら

たいけみお

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Chapter 5:「ノンフィクション?」

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【4月30日(月)の週】


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TOKYO CHIC 2000号 記念特集号

「君に会えたら」 第5話 掲載

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今朝の報道番組曰く、まだ4週しか掲載されていないのに、「君に会えたら」は一大ブームを巻き起こしているらしい。

「人気の秘密は、耕介の純粋なココロにある!」

ゴールデンウィーク中だと言うのに、朝からウチでコーヒーを飲んでいる桃野くんは、「君に会えたら」について、珍しく熱弁を振っている。

ヘタレの桃野くんが言うから、超ウケる。


でもまぁたしかに今朝の番組でも、ゲストの御意見番達が同じようなことを言っていた。

「耕介の魅力が、女性読者のココロをぎゅっと締めつけて離さない」って。


全ての真相を知っている作者としては、ちょっと・・・気恥ずかしい。



ところで先日。

「君に会えたら」に因んだエッセイを桃野くん経由で吉岡さんに渡した。

いきなりその場を立ち去ったことはちょっと大人気なかったと反省したから。


吉岡さんはとても喜んでくれた。

でもこう付け加えた。


「その時が来たら、私のところで「片桐純」を語らせて下さい。絶対に悪いようにはしませんから」

「・・・覚えておきます」


まぁその時は永遠に来ないと思ったけど、今回は大人な対応をした。

そんな私の心を見透かしていたようで、吉岡さんは笑っていたけど。



ちなみに私が吉岡さんに渡したエッセイは、予定されていたものと緊急に差し替えになって、今週月曜日発売の「TOKYO CHIC」2000号 記念特集号に掲載された。

そのせいで、アシュフィはいま、熱狂的な耕介ファンに埋め尽くされている。

この数日ですっかり観光地化してしまった、と言っても過言ではないくらいの大騒ぎ。

事前に智志さんと陽子に、掲載許可を貰って正解だった。


「ゴールデンウィーク中っていうのもあって、もう凄いことになってるの!」

智志さんと陽子は悲鳴を上げている。




「ねぇ絢ちゃん、このエッセイのことなんだけど」

引きこもりが本格化している桃野くんは、私の部屋のダイニングテーブルで「TOKYO CHIC」2000号を開いた。


「自分で吉岡さんに渡しておいて聞くのも変だけどさ、ここに書かれてることって本当?「君に会えたら」ってノンフィクション?」

「どう思う?」


「俺には・・・真実に聞こえるけど」

「そこら辺は読み手に任せる。真実かどうかは大して重要じゃないから」


掲載されたエッセイは巻頭カラー。

エッセイと言っても、詩のように書いた。

私が以前撮ってセピア色に加工をした写真と併せて。



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___________文と写真:片桐純



「君で会えたら」の舞台「zucca」は、銀座にある洋菓子店「アッシュフィールド」がモデルになっている。

耕介はここで聡美を見つけ、静かに恋に落ちた。


彼の不器用さを「弱さ」だという人もいるだろう。

彼の選択を「卑怯」だという人もいるだろう。


でも私は、


彼がその恋を宝物のように大事にしていることを知っている。

この瞬間が少しでも長く続いてくれるよう、いつも祈っているのを知っている。


それはきっと彼が、「無条件の愛」と「生の儚さ」を知っているから。


「彼女の笑顔に出会えたのは「この世」の奇跡だ」 

彼はそう言って私に笑った。


ここには、人には理解されにくい形の恋が存在する。

そして私はこれを―――「愛」と呼ぶ。


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「もし本当に耕介が実在するんだったら、俺、会うの恥かしいんだけど」

「どうして?」

「それは俺がヘタレだからだよ。なにわかりきったこと聞いてんだよ」

桃野くんが拗ねた。可愛すぎる。



「桃野くんは、桃野くんだよ。耕介じゃないんだから」

「そうだけどさ」

「それに耕介はそんなにすごいヤツじゃないし」


「そうなの?・・・ってことは、やっぱり実在するんだ」

「・・・それは、どうかな」



そんなことを話していたら急に思い出した。


「ところで、誕生日は結局どうなったの?明後日じゃない?今年も誰かの押しに負けちゃったの?」

「よくぞ聞いてくれた!今年は負けなかった!っていうかまだ負けてないよ!」

子供のようにガッツポーズをした桃野くん。


「ふふ、偉いじゃない。でもそれって、誕生日は1人ってこと?おまけに5日って土曜だよ?」

「誕生日に1人って言ったらまた面倒なことになるから、ここ来ていい?」

ここ来ていい?って、今日だって祝日なのに朝からここにいるんですけど。


「1人だなんて言わなきゃいいじゃない。ウソ付けないの?」

「俺、旗の立ったオムライスが食べたいなぁ・・・食後のコーヒーとプリンも付けてほしいんだけど」

桃野くんは上目づかいで、私の同情を引こうとしてるらしい。



「桃野くん、このままだと本当にひきこもりになっちゃうよ?!」

「ウチに1人でひきこもりじゃないから・・・絢ちゃんチだから大丈夫だよ」

「全然大丈夫じゃないし!」


「絢ちゃん、いつでもここに来ていいって言ったのに」

「でもまさか休日とか・・・誕生日も寂しくここに来るとは思わないでしょ?!」

「絢ちゃんは俺の人生からたった二つしかない幸せを奪うんだ。そんなに冷たい人だったんだ・・・」


冗談のように聞こえるかもしれないけど、桃野くんの目は至って真剣。


「そんなこと言ってないでしょ?私はただ桃野くんの将来を心配して・・・」


そう言った途端、桃野くんの顔が急に「年下限定Sモード」に変わった。


うわっ。なにか企んでる。

右の口角が上がってるし。



「そもそも、絢ちゃんも俺も引きこもり体質なんだから、お互い協力して最悪の事態を避けようよ」

「最悪の事態って?」

桃野くんは、ふっ、と笑った。


「聞くけど、絢ちゃんのゴールデンウィークの予定は?」

「執筆」

「出かける予定ないんだ」

「ないよ。仕事したいもん」


「じゃ、俺がここにいなかったら、約1週間、ほぼ誰とも接触がないってことだよね?」

「まぁね」

「つまり、絢ちゃんに孤独死する可能性があるってわけだ」

「・・・」



「で、俺もここに来なかったら、家でちょっと仕事してあとは引きこもり生活。約1週間誰とも口を利かず、外出もせず、おまけに絢ちゃんのコーヒーも飲めない最悪な環境」

「・・・」


「ここはアシュフィにも近いから、プリンもすぐに買いに行けるし」

「・・・」


「絢ちゃんの仕事モードをよくわかってるから、それを邪魔することもないし」

「・・・」


「ここはお互いの心と体の健康のために協力し合おうよ、ね?」


まるで勝ち誇ったような顔をしてる。


はぁ。


私は深くため息をついてこう言った。




「・・・もう、桃野くんが幸せならなんでもいいや。スキにして」

桃野くんが大喜びしたのは言うまでもない。



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