上 下
49 / 50

49、サージェスとの別れ 2

しおりを挟む
「怪我は?」

 サージェスは腕にリシュリーとリュミエールを抱きかかえて、小ホールの出口まで進んでいく。ここは凄惨な暗殺未遂現場となってしまった。火事のことを考えても建て直すのがいいのかもしれない。そして地下にいる者達。今日のこの日の為に名目上は捕囚として監禁して来たわけだが、その実、口封じに命を狙われない様にする為に匿っていたとも言えるのだ。蟻の子一匹入れない様な警備にしていた事が、彼らを守りきる事になって良かった…

 しかし、それだけの警備をつけていたはずなのに、今回どうしてこんなにも刺客の侵入を許してしまったかと言えば、それは宰相の孫娘、リシュリー付きとなった侍女の手引きが原因であった。
 彼女はリュミエールの物が入っているからと大量の木箱を搬入させた。勿論中には刺客入り。かねてより地下を掘って作っていた通路と、王太子宮小ホールの床が繋がれ、抜け道の完成となったのだ。

「宰相の失脚は免れぬ!一族諸共、全て捕らえよ!!」

 リシュリーとリュミエールのあの様な姿を見てしまったサージェスの怒りは凄まじく、宰相に関わる者は誰一人許すまじと言う凄まじい気迫が伺えた。

「「「はっ!!」」」

 騎士達もサージェスの命を遂行すべく散って行く。この場に残った者達は現場の検証と、山の様な死体の処理だ。

「サージェ、まだ殺すの…?」

 この場にいる者達は、ほぼリシュリーが絶滅させている。もしかしたら精霊と人間では命に対する価値が違うのかもしれないと思わさせる程、容赦ない攻撃だ。

「必要ならばしなければ、この死体の山にはお前達が……」

 ゾクリ……嫌な寒気と震えが今更ながらサージェスを襲う。

「ふぅ…大丈夫…リュミーは守った……」

「リシュリー?大丈夫か?」

 人の姿を保つのが難しい程力を使ったと言っていなかったか?

「ん……」

 大丈夫……まだ…

「まだ、気にかかる事があるんだけど…」

「どうした…?大丈夫だ。今城内を調べさせている。何かあれば都度報告が入る。」

 まだ、あの悪意の塊を目にしていない…

 ギュッとリシュリーはリュミエールの身体を抱き締める。もう大丈夫だからと他の誰かに大切な我が子を預けたりなどできそうになかったから。

「ねぇ…サージェ…」

「どうした?」

「ん、大好き…愛してるよ。」

「リシュリー………」

 ホッとしたのか表情が少し蕩けて甘くなっているリシュリーにサージェスはキスを送る。

「直ぐに片付けて、お前の憂いを取る。だから、お願いだから少し休んでいてくれ。」

 こんなに頼もしい主人なんている?頼りたい時に欲しい言葉と行動をしてくれる。
 頼りにしてるよ…サージェ…

 サージェスはリシュリーを信頼する騎士に預け、事後処理の指揮を取り出した。

「さ、リシュリー様。部屋へ帰りましょう。」
  
 リシュリーの変化にはみんなそれぞれ驚きはしたものの、世にも不思議な事が起こる事に慣れてしまっている周囲の者達はこれくらいでは動揺しない。

「うん。サージェ、頑張って!」

 リシュリーの声援にサージェスは片手だけで応えて背を向けた。

「邪教!!!覚悟!!」

 出ようとした入り口側からそんな声が上がった。

「な!?」

 数人が塊の様になって押し寄せて来るのが目に入った。同じ騎士団の制服を着ている、裏切り者だ……

 ギン!!護衛騎士が一人の剣を受け流し、二人目を受ける。サージェス達も気がついて、直ぐにこちらに向かってくる。

 けど、間に合わない…全ての刺客の視線はリシュリーの腕に抱かれたリュミエールに注がれていたから。彼らは一度切り付けられただけでは諦めない。自らが絶命するまでリュミエールに刃を突き立てようとする…

「リシュリー!!リュミー!!」

 サージェスの絶叫が聞こえた。リシュリーが刺客の一刀を躱してもその次を躱せる保証は無い。

 なら、動きを止める……奴らの、観たいものを見せてやりながら……

「リュミエール!!」

 全ての者の時が止まったかの様に映像は緩やかに流れる。飛び散る血潮に、裂かれた二体の身体…

 刺客はしてやったりと、ほくそ笑んだ。

 サージェスの叫びは間に合わず、騎士達が刺客を打ち取っても時間を戻す事は叶わない。

「リシュリー!!!」

 鬼気迫る表情のサージェスが倒れ込むリシュリーの細い身体を受け止めた。その血濡れた腕の中にはリュミエールは居なかった。

「リシュリー!!リシュリー!!リシュリー!!!!」

 サージェスの絶叫の中、リシュリーはうっすらと目を開けた。

「サージェ……あの子を……よろしくお願いします。」

 苦悶の表情に、無理矢理笑みを貼り付けてリシュリーは両手を上げた。

 ポワっと光る球体がリシュリーの上空に現れた。そこには、う~ん、と寝返りをしているリュミエールが浮かんでいる。どうやら何処にも怪我はない様だ。

 それを見て、ホッとしたのか、リシュリーは細く、色白の綺麗な手から力を抜いた………

「リシュ………リシュリー…?嘘だろう?リシュリー!?リシュリー!!!」

 リシュリーの胸から腹にかけて、真っ黒に燻んだ剣がザックリと差し貫いている……

「嫌だ……リシュリー!!」
 
 愛している、愛しているんだ!
 逝かないでくれ!!

 リシュリーの身体が発光し出し、光が消える様に、パッと消えて、散っていった…
 




















しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...