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49、サージェスとの別れ 2
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「怪我は?」
サージェスは腕にリシュリーとリュミエールを抱きかかえて、小ホールの出口まで進んでいく。ここは凄惨な暗殺未遂現場となってしまった。火事のことを考えても建て直すのがいいのかもしれない。そして地下にいる者達。今日のこの日の為に名目上は捕囚として監禁して来たわけだが、その実、口封じに命を狙われない様にする為に匿っていたとも言えるのだ。蟻の子一匹入れない様な警備にしていた事が、彼らを守りきる事になって良かった…
しかし、それだけの警備をつけていたはずなのに、今回どうしてこんなにも刺客の侵入を許してしまったかと言えば、それは宰相の孫娘、リシュリー付きとなった侍女の手引きが原因であった。
彼女はリュミエールの物が入っているからと大量の木箱を搬入させた。勿論中には刺客入り。かねてより地下を掘って作っていた通路と、王太子宮小ホールの床が繋がれ、抜け道の完成となったのだ。
「宰相の失脚は免れぬ!一族諸共、全て捕らえよ!!」
リシュリーとリュミエールのあの様な姿を見てしまったサージェスの怒りは凄まじく、宰相に関わる者は誰一人許すまじと言う凄まじい気迫が伺えた。
「「「はっ!!」」」
騎士達もサージェスの命を遂行すべく散って行く。この場に残った者達は現場の検証と、山の様な死体の処理だ。
「サージェ、まだ殺すの…?」
この場にいる者達は、ほぼリシュリーが絶滅させている。もしかしたら精霊と人間では命に対する価値が違うのかもしれないと思わさせる程、容赦ない攻撃だ。
「必要ならばしなければ、この死体の山にはお前達が……」
ゾクリ……嫌な寒気と震えが今更ながらサージェスを襲う。
「ふぅ…大丈夫…リュミーは守った……」
「リシュリー?大丈夫か?」
人の姿を保つのが難しい程力を使ったと言っていなかったか?
「ん……」
まだ大丈夫……まだ…
「まだ、気にかかる事があるんだけど…」
「どうした…?大丈夫だ。今城内を調べさせている。何かあれば都度報告が入る。」
まだ、あの悪意の塊を目にしていない…
ギュッとリシュリーはリュミエールの身体を抱き締める。もう大丈夫だからと他の誰かに大切な我が子を預けたりなどできそうになかったから。
「ねぇ…サージェ…」
「どうした?」
「ん、大好き…愛してるよ。」
「リシュリー………」
ホッとしたのか表情が少し蕩けて甘くなっているリシュリーにサージェスはキスを送る。
「直ぐに片付けて、お前の憂いを取る。だから、お願いだから少し休んでいてくれ。」
こんなに頼もしい主人なんている?頼りたい時に欲しい言葉と行動をしてくれる。
頼りにしてるよ…サージェ…
サージェスはリシュリーを信頼する騎士に預け、事後処理の指揮を取り出した。
「さ、リシュリー様。部屋へ帰りましょう。」
リシュリーの変化にはみんなそれぞれ驚きはしたものの、世にも不思議な事が起こる事に慣れてしまっている周囲の者達はこれくらいでは動揺しない。
「うん。サージェ、頑張って!」
リシュリーの声援にサージェスは片手だけで応えて背を向けた。
「邪教!!!覚悟!!」
出ようとした入り口側からそんな声が上がった。
「な!?」
数人が塊の様になって押し寄せて来るのが目に入った。同じ騎士団の制服を着ている、裏切り者だ……
ギン!!護衛騎士が一人の剣を受け流し、二人目を受ける。サージェス達も気がついて、直ぐにこちらに向かってくる。
けど、間に合わない…全ての刺客の視線はリシュリーの腕に抱かれたリュミエールに注がれていたから。彼らは一度切り付けられただけでは諦めない。自らが絶命するまでリュミエールに刃を突き立てようとする…
「リシュリー!!リュミー!!」
サージェスの絶叫が聞こえた。リシュリーが刺客の一刀を躱してもその次を躱せる保証は無い。
なら、動きを止める……奴らの、観たいものを見せてやりながら……
「リュミエール!!」
全ての者の時が止まったかの様に映像は緩やかに流れる。飛び散る血潮に、裂かれた二体の身体…
刺客はしてやったりと、ほくそ笑んだ。
サージェスの叫びは間に合わず、騎士達が刺客を打ち取っても時間を戻す事は叶わない。
「リシュリー!!!」
鬼気迫る表情のサージェスが倒れ込むリシュリーの細い身体を受け止めた。その血濡れた腕の中にはリュミエールは居なかった。
「リシュリー!!リシュリー!!リシュリー!!!!」
サージェスの絶叫の中、リシュリーはうっすらと目を開けた。
「サージェ……あの子を……よろしくお願いします。」
苦悶の表情に、無理矢理笑みを貼り付けてリシュリーは両手を上げた。
ポワっと光る球体がリシュリーの上空に現れた。そこには、う~ん、と寝返りをしているリュミエールが浮かんでいる。どうやら何処にも怪我はない様だ。
それを見て、ホッとしたのか、リシュリーは細く、色白の綺麗な手から力を抜いた………
「リシュ………リシュリー…?嘘だろう?リシュリー!?リシュリー!!!」
リシュリーの胸から腹にかけて、真っ黒に燻んだ剣がザックリと差し貫いている……
「嫌だ……リシュリー!!」
愛している、愛しているんだ!
逝かないでくれ!!
リシュリーの身体が発光し出し、光が消える様に、パッと消えて、散っていった…
サージェスは腕にリシュリーとリュミエールを抱きかかえて、小ホールの出口まで進んでいく。ここは凄惨な暗殺未遂現場となってしまった。火事のことを考えても建て直すのがいいのかもしれない。そして地下にいる者達。今日のこの日の為に名目上は捕囚として監禁して来たわけだが、その実、口封じに命を狙われない様にする為に匿っていたとも言えるのだ。蟻の子一匹入れない様な警備にしていた事が、彼らを守りきる事になって良かった…
しかし、それだけの警備をつけていたはずなのに、今回どうしてこんなにも刺客の侵入を許してしまったかと言えば、それは宰相の孫娘、リシュリー付きとなった侍女の手引きが原因であった。
彼女はリュミエールの物が入っているからと大量の木箱を搬入させた。勿論中には刺客入り。かねてより地下を掘って作っていた通路と、王太子宮小ホールの床が繋がれ、抜け道の完成となったのだ。
「宰相の失脚は免れぬ!一族諸共、全て捕らえよ!!」
リシュリーとリュミエールのあの様な姿を見てしまったサージェスの怒りは凄まじく、宰相に関わる者は誰一人許すまじと言う凄まじい気迫が伺えた。
「「「はっ!!」」」
騎士達もサージェスの命を遂行すべく散って行く。この場に残った者達は現場の検証と、山の様な死体の処理だ。
「サージェ、まだ殺すの…?」
この場にいる者達は、ほぼリシュリーが絶滅させている。もしかしたら精霊と人間では命に対する価値が違うのかもしれないと思わさせる程、容赦ない攻撃だ。
「必要ならばしなければ、この死体の山にはお前達が……」
ゾクリ……嫌な寒気と震えが今更ながらサージェスを襲う。
「ふぅ…大丈夫…リュミーは守った……」
「リシュリー?大丈夫か?」
人の姿を保つのが難しい程力を使ったと言っていなかったか?
「ん……」
まだ大丈夫……まだ…
「まだ、気にかかる事があるんだけど…」
「どうした…?大丈夫だ。今城内を調べさせている。何かあれば都度報告が入る。」
まだ、あの悪意の塊を目にしていない…
ギュッとリシュリーはリュミエールの身体を抱き締める。もう大丈夫だからと他の誰かに大切な我が子を預けたりなどできそうになかったから。
「ねぇ…サージェ…」
「どうした?」
「ん、大好き…愛してるよ。」
「リシュリー………」
ホッとしたのか表情が少し蕩けて甘くなっているリシュリーにサージェスはキスを送る。
「直ぐに片付けて、お前の憂いを取る。だから、お願いだから少し休んでいてくれ。」
こんなに頼もしい主人なんている?頼りたい時に欲しい言葉と行動をしてくれる。
頼りにしてるよ…サージェ…
サージェスはリシュリーを信頼する騎士に預け、事後処理の指揮を取り出した。
「さ、リシュリー様。部屋へ帰りましょう。」
リシュリーの変化にはみんなそれぞれ驚きはしたものの、世にも不思議な事が起こる事に慣れてしまっている周囲の者達はこれくらいでは動揺しない。
「うん。サージェ、頑張って!」
リシュリーの声援にサージェスは片手だけで応えて背を向けた。
「邪教!!!覚悟!!」
出ようとした入り口側からそんな声が上がった。
「な!?」
数人が塊の様になって押し寄せて来るのが目に入った。同じ騎士団の制服を着ている、裏切り者だ……
ギン!!護衛騎士が一人の剣を受け流し、二人目を受ける。サージェス達も気がついて、直ぐにこちらに向かってくる。
けど、間に合わない…全ての刺客の視線はリシュリーの腕に抱かれたリュミエールに注がれていたから。彼らは一度切り付けられただけでは諦めない。自らが絶命するまでリュミエールに刃を突き立てようとする…
「リシュリー!!リュミー!!」
サージェスの絶叫が聞こえた。リシュリーが刺客の一刀を躱してもその次を躱せる保証は無い。
なら、動きを止める……奴らの、観たいものを見せてやりながら……
「リュミエール!!」
全ての者の時が止まったかの様に映像は緩やかに流れる。飛び散る血潮に、裂かれた二体の身体…
刺客はしてやったりと、ほくそ笑んだ。
サージェスの叫びは間に合わず、騎士達が刺客を打ち取っても時間を戻す事は叶わない。
「リシュリー!!!」
鬼気迫る表情のサージェスが倒れ込むリシュリーの細い身体を受け止めた。その血濡れた腕の中にはリュミエールは居なかった。
「リシュリー!!リシュリー!!リシュリー!!!!」
サージェスの絶叫の中、リシュリーはうっすらと目を開けた。
「サージェ……あの子を……よろしくお願いします。」
苦悶の表情に、無理矢理笑みを貼り付けてリシュリーは両手を上げた。
ポワっと光る球体がリシュリーの上空に現れた。そこには、う~ん、と寝返りをしているリュミエールが浮かんでいる。どうやら何処にも怪我はない様だ。
それを見て、ホッとしたのか、リシュリーは細く、色白の綺麗な手から力を抜いた………
「リシュ………リシュリー…?嘘だろう?リシュリー!?リシュリー!!!」
リシュリーの胸から腹にかけて、真っ黒に燻んだ剣がザックリと差し貫いている……
「嫌だ……リシュリー!!」
愛している、愛しているんだ!
逝かないでくれ!!
リシュリーの身体が発光し出し、光が消える様に、パッと消えて、散っていった…
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