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48、サージェスとの別れ 1
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遠慮も何も無い者達はどこまで行っても態度が悪い。護衛騎士に庇われたリシュリーとリュミエールがいる小ホールに、先程の覆面を付けた者達と同じ装束の男達が入ってくる。入ってくるなり辺りは一面の仲間の死体だ…それを見てキュッっと眉を顰めるも、ただそれだけだった。後はただ周囲を見回し、中央付近に座り込んでいるリシュリー達の元へと近寄って来る。
「リシュリー様…どうか、私から離れません様に……!」
「大丈夫…音を立てずにこのまま耐えなさい…」
歩いて来る男の目にはどんなふうに映っているのか…男はリシュリー達の周囲をグルグルと回りながら、何かを確認している様であった。何度かそうしてから、一つ頷く。
「宰相殿に連絡を!邪教徒の一味を一掃したと!」
一掃、と言うには送った刺客全員が同じように切り刻まれて絶命している、なんとも説明し難い現状ではあるが、目の前にはリシュリーと思われる銀の髪、赤子の動かぬ姿が確認できたのだ。任務は完全にに遂行されただろう。
ニヤリと、覆面を付けていても男が醜く笑っているのがわかった。
「証拠を残すな!身元を表す物がないか確認しろ!」
仲間の死を悼むわけでは無く、証拠隠滅を図ろうと言うのだ。次々入口から入ってくる男達も武器の回収やら、何やらゴソゴソと遺体の山を漁っている。
実に醜悪極まれる惨状だ。
サージェ、早く来て!!
これでこの者達を逃してしまったら、背後にいる宰相はまたごまかすに違いない。そして、リシュリーにはもう、時間がないのだ。次に同じ様な事があったらリュミエールを守りきる力はないだろう……
「全員、動くな!!!」
来た!!!サージェ!!!
後始末をつけている刺客達に気取られぬ様に完全に気配を消して、サージェス率いる騎士団が小ホールの二つの入り口を完全に占拠した。こうなってはもう、逃げられない。
サージェスは血気盛んに陣頭指揮を取る。小ホールの惨状をざっと確認して、その顔からは一気に血の気を失った…
「リシュリー………リュミエール……!!」
「なんて、事だ!!」
騎士団長であるフランクルの剣を持つ手がぎりぎりと軋んでいる。
サージェスの目には血溜まりの中に沈んだリシュリーとリュミエールの姿が写っている。
「おのれ………フランクル、一人もだ…いや、証人は一人でいい…後は、生きてここから出すな…………」
感情の失せたサージェスの低く冷たい声が響く…
「くそ!我らとて、邪教を優遇する王など要らん!この場で打ち取ってくれる!」
騎士団と刺客が入り乱れた乱戦が始まった。愛する妻と子供を失ったと思ったサージェスは鬼気迫る迫力で敵を撃つ。
「サージェ……ここにいる、僕はここだよ…」
乱戦の中に入るわけにもいかず、護衛騎士も踏み込んでくる刺客を斬り払うのに忙しい。なんとか無事を知らせたいのに。
「リシュリー!!リュミエール!!」
サージェスの目には血溜まりの中に沈む妻子が見えているはずだ。敵の目を眩ませる為にリシュリーが起こした幻影が……もう動かないのに、一目でもう儚くなっている様に写しているのに、それでもサージェスは諦められないのだろう。
刺客を打ち取りながら、必死に二人の名前を呼ぶ。
「サージェ!来て!!!」
たまらずリシュリーはサージェスに叫ぶ。
あんなに苦しそうな姿を見たくはなかった。幻影を作り敵を騙すためとは言え、サージェスを苦しませたくなんて無いのに。
「リシュリー…?リシュリー!!!」
鬼気迫る表情をしていたサージェスは一瞬にして泣きそうな顔になる。リシュリーが幻影を解いたから……
「リシュリー!リシュリー!!リシュリー!!!」
一目散に駆け寄って来たサージェスは思い切りリシュリーを抱きしめる。
「サージェ…!来てくれた…!良かった、間に合って……」
「どうしてこんな事に!?髪はどうしたのだ?」
見た事ないほどに輝く銀髪が床に靡いている。
「へへ……力使い過ぎちゃってさ…ちょっと人間の姿、保てないの…」
「リ……大丈夫なのか!?」
その大丈夫の中には、リシュリーが消えないのかと言う心配が入っているのだ。
「ん……もう少し……」
サージェスに抱きしめられて、こんなに後悔した事はない……
離れたくない…離れられない…精霊がどうとかじゃなくて、魂が嫌だって言ってる……精霊婚をしているから大丈夫とか、そんな事でもない…一瞬でも……離れたくない……
「リュミエール、リュミエールは!?」
「大丈夫。ちゃんと生きてる。今は眠ってるんだ。」
「そうか……そうか…良かった……!!」
ギュウッと抱きしめながら、サージェスは震えて、泣いている…一国を担う王太子が、泣いてる……
「ごめん、サージェ…」
「何を謝る?リュミエールを守ったのだろう?二人とも生きていてくれた。謝ることなど何も無い!」
「うん……うん…うん…」
サージェスはリシュリーとリュミエールを保護し、残党狩りを命じる。床の穴から通じる出口は既に押さえてあって、もう外部からは侵入できない。そして先程刺客が宰相の名を口にした事で、宰相の元にも近衞騎士を派遣する。
もう、終わったかに、誰の目にもそう見えた……
「リシュリー様…どうか、私から離れません様に……!」
「大丈夫…音を立てずにこのまま耐えなさい…」
歩いて来る男の目にはどんなふうに映っているのか…男はリシュリー達の周囲をグルグルと回りながら、何かを確認している様であった。何度かそうしてから、一つ頷く。
「宰相殿に連絡を!邪教徒の一味を一掃したと!」
一掃、と言うには送った刺客全員が同じように切り刻まれて絶命している、なんとも説明し難い現状ではあるが、目の前にはリシュリーと思われる銀の髪、赤子の動かぬ姿が確認できたのだ。任務は完全にに遂行されただろう。
ニヤリと、覆面を付けていても男が醜く笑っているのがわかった。
「証拠を残すな!身元を表す物がないか確認しろ!」
仲間の死を悼むわけでは無く、証拠隠滅を図ろうと言うのだ。次々入口から入ってくる男達も武器の回収やら、何やらゴソゴソと遺体の山を漁っている。
実に醜悪極まれる惨状だ。
サージェ、早く来て!!
これでこの者達を逃してしまったら、背後にいる宰相はまたごまかすに違いない。そして、リシュリーにはもう、時間がないのだ。次に同じ様な事があったらリュミエールを守りきる力はないだろう……
「全員、動くな!!!」
来た!!!サージェ!!!
後始末をつけている刺客達に気取られぬ様に完全に気配を消して、サージェス率いる騎士団が小ホールの二つの入り口を完全に占拠した。こうなってはもう、逃げられない。
サージェスは血気盛んに陣頭指揮を取る。小ホールの惨状をざっと確認して、その顔からは一気に血の気を失った…
「リシュリー………リュミエール……!!」
「なんて、事だ!!」
騎士団長であるフランクルの剣を持つ手がぎりぎりと軋んでいる。
サージェスの目には血溜まりの中に沈んだリシュリーとリュミエールの姿が写っている。
「おのれ………フランクル、一人もだ…いや、証人は一人でいい…後は、生きてここから出すな…………」
感情の失せたサージェスの低く冷たい声が響く…
「くそ!我らとて、邪教を優遇する王など要らん!この場で打ち取ってくれる!」
騎士団と刺客が入り乱れた乱戦が始まった。愛する妻と子供を失ったと思ったサージェスは鬼気迫る迫力で敵を撃つ。
「サージェ……ここにいる、僕はここだよ…」
乱戦の中に入るわけにもいかず、護衛騎士も踏み込んでくる刺客を斬り払うのに忙しい。なんとか無事を知らせたいのに。
「リシュリー!!リュミエール!!」
サージェスの目には血溜まりの中に沈む妻子が見えているはずだ。敵の目を眩ませる為にリシュリーが起こした幻影が……もう動かないのに、一目でもう儚くなっている様に写しているのに、それでもサージェスは諦められないのだろう。
刺客を打ち取りながら、必死に二人の名前を呼ぶ。
「サージェ!来て!!!」
たまらずリシュリーはサージェスに叫ぶ。
あんなに苦しそうな姿を見たくはなかった。幻影を作り敵を騙すためとは言え、サージェスを苦しませたくなんて無いのに。
「リシュリー…?リシュリー!!!」
鬼気迫る表情をしていたサージェスは一瞬にして泣きそうな顔になる。リシュリーが幻影を解いたから……
「リシュリー!リシュリー!!リシュリー!!!」
一目散に駆け寄って来たサージェスは思い切りリシュリーを抱きしめる。
「サージェ…!来てくれた…!良かった、間に合って……」
「どうしてこんな事に!?髪はどうしたのだ?」
見た事ないほどに輝く銀髪が床に靡いている。
「へへ……力使い過ぎちゃってさ…ちょっと人間の姿、保てないの…」
「リ……大丈夫なのか!?」
その大丈夫の中には、リシュリーが消えないのかと言う心配が入っているのだ。
「ん……もう少し……」
サージェスに抱きしめられて、こんなに後悔した事はない……
離れたくない…離れられない…精霊がどうとかじゃなくて、魂が嫌だって言ってる……精霊婚をしているから大丈夫とか、そんな事でもない…一瞬でも……離れたくない……
「リュミエール、リュミエールは!?」
「大丈夫。ちゃんと生きてる。今は眠ってるんだ。」
「そうか……そうか…良かった……!!」
ギュウッと抱きしめながら、サージェスは震えて、泣いている…一国を担う王太子が、泣いてる……
「ごめん、サージェ…」
「何を謝る?リュミエールを守ったのだろう?二人とも生きていてくれた。謝ることなど何も無い!」
「うん……うん…うん…」
サージェスはリシュリーとリュミエールを保護し、残党狩りを命じる。床の穴から通じる出口は既に押さえてあって、もう外部からは侵入できない。そして先程刺客が宰相の名を口にした事で、宰相の元にも近衞騎士を派遣する。
もう、終わったかに、誰の目にもそう見えた……
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