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47、宰相の奸計 4
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「さて……僕に何か言うことは?」
「?」
「何か、ございましたか?」
「リシュリー様?」
何か報告事があっただろうか?コテン、と侍女達は首を傾げる。
「ん~護るにも人数に限界があるからなぁ……」
「あの……どうか、なさいましたか?」
侍女の中で一人、物凄く顔色が悪い侍女がそう聞いてきた。
「ごめんね。僕は人間の悪意が読めるんだよ…君自身が僕に恨みが無くてもね?」
「リ、リシュリー、様…」
「一体どうされました?」
「騎士の皆は自分で身を守ってよ?」
「リシュリー様!?」
「どうされ?」
侍女達が困惑の声を上げたところで、ガターンと物凄い大きな音と共に、リシュリー達がいた小ホールの扉が屈強な男達に寄って蹴り壊される。
小ホールには入り口が二箇所ある。その何方からもゾロゾロと得物を持った男達が入ってくるのだ。
「きゃあ!!」
「いやぁ!!」
「何者だ!!!」
侍女達はその男達を見て悲鳴をあげ、騎士達は腰の剣を抜いてリシュリーと王子を守ろうと前に出る。小ホールには窓がある。だが、外からの侵入を防ぐ為に全て格子が嵌め込まれていて窓から外には出られない。
男達は全員覆面らしい布を被っており顔がわからない。一言も発しないが確実に殺気だけは放っていて、ここにいる者はどうやら生きて外に出さないつもりだろう。
「リシュリー様!侍女殿!下がっていてください!」
これだけの騒ぎの中、外にいる王太子宮見張りの騎士達は何をしているのか…
殺されていない事を、祈るよ…
「護れ………」
たった一言、臨戦体制の小さな風の精霊に命ずる。
室内に突風が吹き荒れる。咄嗟の事に侍女達は悲鳴さえ出せないで必死にお互いを抱きしめた。
「ぐぅ!」
「う………!」
「!?」
侵入者達の足も止めた。止めたばかりで無く、風の精霊はかまいたちを起こし、前衛にいた侵入者達を切り刻んだ。
「きゃ………!!」
「いゃ…!!」
「そこを動かず、目を瞑ってろ!」
侵入者達達が怯んだ隙に、護衛の騎士達は雄叫びをあげて敵に切り掛かっていく。
これだけの人数…どこに?
入り口には常に見張りの騎士、窓はほとんど格子によって固められ、庭も城内もゴロゴロと騎士が駐留していると言うのに…
「本気だね…」
なりふり構わず、自分の身さえ危なくなるこんな策を講じてきた。ここでリシュリーとリュミエールの命さえ取れればそれでいい。そんな気迫が垣間見える。
「きゃあ!!」
入り口にいる侵入者達にばかり気を取られていたら、後ろへ後退していたはずの侍女がいつも間にか覆面男に人質として拘束されている。
どこから!?
来たというのか?入れる入り口は決まってて……
「床!!」
小ホールの隅には荷物が入っているだろう木箱が幾つか置いてある。その下の床が破壊されていてそこから刺客達が入ってくる……気が付けば完全にリシュリー達は取り囲まれていた。
「おのれ!どうあっても王子を守れ!!」
「おう!!」
騎士達の気迫溢れる掛け声とは逆に、こちらは人質が一名と後から後から湧いてくる刺客達…
「侍女の命が惜しければ、剣を捨てろ!!」
ご定番の脅しだと分かっているのに、そこは民を守ろうとする悲しい騎士の性…一瞬、面白いほど皆んな躊躇する。そこを相手は見逃すはずが無いのだ。
刺客の得物は剣のみでは無い。暗器も仕込んできているだろう証拠に、騎士の動きに隙ができたその一瞬で短刀が飛んでくるのが見えた。
「くっ…!」
今、使うべきか分からないが、リシュリーの腕の中には幼い王子が眠っているので避け切るのはまず不可能だ。
「風よ!!」
声高らかに小さき仲間の名前を呼ぶ。この地に来て、最後まで一緒にいてくれた大切な仲間。
先程の疾風とは比べ物にならないほどの力量を放つ風の竜巻…室内でリシュリーを中心とし、侍女も騎士も守り切る風の壁を作り、風の精はこの場にいる刺客達を全て薙ぎ倒した。
室内はもちろんの事こと、小ホールの窓と言う窓は全て割れ、その威力を外部に知らしめる。
「……お疲れ様…後は、任せて……」
この場にいる、目に見える敵は薙ぎ払った。けれども嫌な悪意は消えていない。霧散するよりもより凝り固まって、まるで憎悪が形を持って襲ってくる様な錯覚さえして寒気がする。
散っていく風の精霊に挨拶もそこそこに、リシュリーは自分の力を使った…
「声を立てずに、状況を見て、刺客がいない所から逃げなさい。」
「な、何を!?」
目の前の敵は消えても一向に動こうとしないリシュリーに騎士達は一斉に振り向いた。
「リシュリー様、御髪が……」
いつものリシュリーならば銀の短髪…けれども侍女や護衛騎士が見たものは床に着くかと思われるほど、豊かに流れる輝く銀髪…
「ハハ…力使っちゃったから…少し、人間の姿を保つのが難しいだけ…」
「力…?」
「何の力でございます?」
「ここに、奴らが見たそうな幻影を残している。ま、僕らが皆んなやられて死体がゴロゴロしている、ね。」
「凄い…そんな事が…」
にわかには信じられない事だが、目の前のリシュリーの変化がそれが可能だと告げているのだ。
「さ、早く…!あの木箱の下に通路がある。僕は幻影を保のにここにいなきゃならないから。サージェに、伝えて…!」
それは危険だと、口々にリシュリーを説得しようとしたのだが、更なる足音が聞こえてきて、一同は固まってしまった。
「早く!力が働いている時ならば、僕らの姿は見えないから!行きなさい!」
ドヤドヤと近寄る者達の足音と、リシュリーの気迫籠ったその声に騎士達は早々に増援を求める判断をした。護衛騎士一人を残して、後の者は泣き崩れる侍女を抱えて地下に降りたのだ。
「?」
「何か、ございましたか?」
「リシュリー様?」
何か報告事があっただろうか?コテン、と侍女達は首を傾げる。
「ん~護るにも人数に限界があるからなぁ……」
「あの……どうか、なさいましたか?」
侍女の中で一人、物凄く顔色が悪い侍女がそう聞いてきた。
「ごめんね。僕は人間の悪意が読めるんだよ…君自身が僕に恨みが無くてもね?」
「リ、リシュリー、様…」
「一体どうされました?」
「騎士の皆は自分で身を守ってよ?」
「リシュリー様!?」
「どうされ?」
侍女達が困惑の声を上げたところで、ガターンと物凄い大きな音と共に、リシュリー達がいた小ホールの扉が屈強な男達に寄って蹴り壊される。
小ホールには入り口が二箇所ある。その何方からもゾロゾロと得物を持った男達が入ってくるのだ。
「きゃあ!!」
「いやぁ!!」
「何者だ!!!」
侍女達はその男達を見て悲鳴をあげ、騎士達は腰の剣を抜いてリシュリーと王子を守ろうと前に出る。小ホールには窓がある。だが、外からの侵入を防ぐ為に全て格子が嵌め込まれていて窓から外には出られない。
男達は全員覆面らしい布を被っており顔がわからない。一言も発しないが確実に殺気だけは放っていて、ここにいる者はどうやら生きて外に出さないつもりだろう。
「リシュリー様!侍女殿!下がっていてください!」
これだけの騒ぎの中、外にいる王太子宮見張りの騎士達は何をしているのか…
殺されていない事を、祈るよ…
「護れ………」
たった一言、臨戦体制の小さな風の精霊に命ずる。
室内に突風が吹き荒れる。咄嗟の事に侍女達は悲鳴さえ出せないで必死にお互いを抱きしめた。
「ぐぅ!」
「う………!」
「!?」
侵入者達の足も止めた。止めたばかりで無く、風の精霊はかまいたちを起こし、前衛にいた侵入者達を切り刻んだ。
「きゃ………!!」
「いゃ…!!」
「そこを動かず、目を瞑ってろ!」
侵入者達達が怯んだ隙に、護衛の騎士達は雄叫びをあげて敵に切り掛かっていく。
これだけの人数…どこに?
入り口には常に見張りの騎士、窓はほとんど格子によって固められ、庭も城内もゴロゴロと騎士が駐留していると言うのに…
「本気だね…」
なりふり構わず、自分の身さえ危なくなるこんな策を講じてきた。ここでリシュリーとリュミエールの命さえ取れればそれでいい。そんな気迫が垣間見える。
「きゃあ!!」
入り口にいる侵入者達にばかり気を取られていたら、後ろへ後退していたはずの侍女がいつも間にか覆面男に人質として拘束されている。
どこから!?
来たというのか?入れる入り口は決まってて……
「床!!」
小ホールの隅には荷物が入っているだろう木箱が幾つか置いてある。その下の床が破壊されていてそこから刺客達が入ってくる……気が付けば完全にリシュリー達は取り囲まれていた。
「おのれ!どうあっても王子を守れ!!」
「おう!!」
騎士達の気迫溢れる掛け声とは逆に、こちらは人質が一名と後から後から湧いてくる刺客達…
「侍女の命が惜しければ、剣を捨てろ!!」
ご定番の脅しだと分かっているのに、そこは民を守ろうとする悲しい騎士の性…一瞬、面白いほど皆んな躊躇する。そこを相手は見逃すはずが無いのだ。
刺客の得物は剣のみでは無い。暗器も仕込んできているだろう証拠に、騎士の動きに隙ができたその一瞬で短刀が飛んでくるのが見えた。
「くっ…!」
今、使うべきか分からないが、リシュリーの腕の中には幼い王子が眠っているので避け切るのはまず不可能だ。
「風よ!!」
声高らかに小さき仲間の名前を呼ぶ。この地に来て、最後まで一緒にいてくれた大切な仲間。
先程の疾風とは比べ物にならないほどの力量を放つ風の竜巻…室内でリシュリーを中心とし、侍女も騎士も守り切る風の壁を作り、風の精はこの場にいる刺客達を全て薙ぎ倒した。
室内はもちろんの事こと、小ホールの窓と言う窓は全て割れ、その威力を外部に知らしめる。
「……お疲れ様…後は、任せて……」
この場にいる、目に見える敵は薙ぎ払った。けれども嫌な悪意は消えていない。霧散するよりもより凝り固まって、まるで憎悪が形を持って襲ってくる様な錯覚さえして寒気がする。
散っていく風の精霊に挨拶もそこそこに、リシュリーは自分の力を使った…
「声を立てずに、状況を見て、刺客がいない所から逃げなさい。」
「な、何を!?」
目の前の敵は消えても一向に動こうとしないリシュリーに騎士達は一斉に振り向いた。
「リシュリー様、御髪が……」
いつものリシュリーならば銀の短髪…けれども侍女や護衛騎士が見たものは床に着くかと思われるほど、豊かに流れる輝く銀髪…
「ハハ…力使っちゃったから…少し、人間の姿を保つのが難しいだけ…」
「力…?」
「何の力でございます?」
「ここに、奴らが見たそうな幻影を残している。ま、僕らが皆んなやられて死体がゴロゴロしている、ね。」
「凄い…そんな事が…」
にわかには信じられない事だが、目の前のリシュリーの変化がそれが可能だと告げているのだ。
「さ、早く…!あの木箱の下に通路がある。僕は幻影を保のにここにいなきゃならないから。サージェに、伝えて…!」
それは危険だと、口々にリシュリーを説得しようとしたのだが、更なる足音が聞こえてきて、一同は固まってしまった。
「早く!力が働いている時ならば、僕らの姿は見えないから!行きなさい!」
ドヤドヤと近寄る者達の足音と、リシュリーの気迫籠ったその声に騎士達は早々に増援を求める判断をした。護衛騎士一人を残して、後の者は泣き崩れる侍女を抱えて地下に降りたのだ。
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