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43、可愛い子 3
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「王太子殿下…騎士団長殿が……」
会議を放り出してリシュリーの部屋へと駆け込んだサージェスの様子を確認しに来たのだろう。
「入ってもらえ…」
フランクルならば幼い時からの服心中の腹心だ。この場に居合わせても問題ない。
「失礼します!」
騎士らしくキビキビと挨拶して王太子妃としてのリシュリーに敬意を示した後は、ズカズカと室内に入って来て、生まれたての赤子の顔をマジマジと見つめている。
「うぉ!本当にいる………」
職務も忘れて思わず本音が漏れた様だ。サージェスの腕の中には生きて眠っている本物の赤子だ。
「我が子だ…」
「確かに…髪はリシュリー様ですね?顔の造形は、うん、貴方様にも似ています。」
「そうか!?似ているか?」
「それはそうでしょう。両親の特徴を受け継ぐのですから。」
「ふふふ、可愛いでしょ?ね、サージェ名前はリュミエールでいい?」
「もうお名まで……?」
「決めていたんだよ、最初から…いい?」
リシュリーの瞳がキラキラしている。
「分かった…リシュリーの望む通りにしよう。」
本来ならば国を上げてのお祝いの内にお子の出産と名前の披露となるのだが、今回ばかりは全ての常識など当てはまろうはずもなく…
「…リュミエール様…私は近衛騎士団長フランクル・ラズリーと申します。これからは命をかけて、御身をお守りいたしましょう。」
フランクルはその場に跪き、まだ目も開かない赤子に忠誠を誓った。
「フランクル……其方の忠誠…しかと受け止めた…これからもよろしく頼む。」
「お任せくださいませ、殿下。けれどももう黙って城から抜け出さないで下さいね?」
「言い訳出来ぬな…」
「そうでもありません。収穫はありましたから。」
「わかった…そちらに行こう。」
兼ねてから追わせていた宰相の動きで何か掴んだものがあるのだろう。サージェスはもう一度リュミエールを優しく抱きしめてからリシュリーに渡した。
「すまない。リシュリー、仕事に戻らなければ…」
「うん、行ってらっしゃい!」
「侍女長!急ぎリュミエールに必要な物を全て手配する様に!乳母や子守の候補を後で私の元に寄越せ。」
「心得ましてございます、殿下。」
「父様はお仕事だって。行ってらっしゃいしようね?」
リシュリーに促される様に、幼い赤子は目を開ける。サージェスに向けられたのはリシュリーの濃い紫の瞳とサージェスと同じく薄い紫の、左右非対称の色を持つ綺麗な澄んだ瞳だった。
「うわぁ……」
「これは…」
「お美しい…」
赤子特有の濁りのない綺麗な瞳に宝石の様な輝きが混じってはもう溜息しか出ない。
「欲張りさんだなぁ……両方から貰ったの?」
リシュリーは愛しそうにリュミエールにキスをする。
「不思議な事が起こるものだ。もう大抵の事では驚かされぬな……」
呆れる様に、それでも愛しさが溢れてくる様な笑顔を向けて、サージェスはリュミエールをそっと撫でる。
「行ってくる…!」
王となるもの、我儘ばかりはしていられないのだから。
「おめでとう、ございます?王子様のお誕生だそうで?」
執務室に戻ると既に報告を受けていた大臣達が皆複雑そうな表情でサージェスを出迎えた。
「ああ!可愛いものであった!」
臣下の複雑な心境を理解しつつも、やはり我が子は可愛いものだ。そこは素直に可愛さを強調し肯定とする。
「しかし、不思議なものですな?人間ではあり得ようもないほどの不思議ですぞ?」
今日も一段と衣装が輝く宰相アルゴンは皮肉を隠そうともせずにそう言い切った。
「当たり前であろう?リシュリーは精霊だ。ならばその子供も人間の域におらず、人の理など通じるはずもない。」
「……………お名は、なんと?」
悔しそうに宰相は問う。
「我が子の名はリュミエールだ!皆に大々的に周知する様に!」
「「「はっ…!」」」
精霊との間に子が産まれた。御伽噺の様な事が起こったのである。水や大地が腐りつつあるマランダ王国にとっては、この御伽噺の様な展開に一縷の望みを託す者達が大勢起こったとしてもなんら不思議はない。何かに助けを求めたい、助かりたい、助けてほしい…それが精霊であるのならば、今まで反発していた民衆は掌を返した様に精霊についたのだ。
「あさましい事この上ないが…これも学の無い民がなす事…腹立たしいが受け入れねばならぬだろうさ。」
「ほっほ…流石は王太子殿下ですなぁ。自宮を焼け落とされても、周囲の者達に強弁に出られなかったと言うのに。さて、時期国王としての才はいかに…?」
ニヤリといやらしく人を小馬鹿にしたように笑う宰相にサージェスは冷たい視線を送る。
「才とは?努力次第で王たる裁量はどうにでもなるが、己が力量を完全に超えた場合、宰相ならばどの様に動かれるのか?是非、拝見したいものだ。」
何をしても止まらない国の崩壊を、精霊力の回復に賭けてみる。今現在これの他に一体どの様な手立てがあるのか…それがわからない宰相では無いだろうに、この者は一体何がしたいと言うのだろうか…
会議を放り出してリシュリーの部屋へと駆け込んだサージェスの様子を確認しに来たのだろう。
「入ってもらえ…」
フランクルならば幼い時からの服心中の腹心だ。この場に居合わせても問題ない。
「失礼します!」
騎士らしくキビキビと挨拶して王太子妃としてのリシュリーに敬意を示した後は、ズカズカと室内に入って来て、生まれたての赤子の顔をマジマジと見つめている。
「うぉ!本当にいる………」
職務も忘れて思わず本音が漏れた様だ。サージェスの腕の中には生きて眠っている本物の赤子だ。
「我が子だ…」
「確かに…髪はリシュリー様ですね?顔の造形は、うん、貴方様にも似ています。」
「そうか!?似ているか?」
「それはそうでしょう。両親の特徴を受け継ぐのですから。」
「ふふふ、可愛いでしょ?ね、サージェ名前はリュミエールでいい?」
「もうお名まで……?」
「決めていたんだよ、最初から…いい?」
リシュリーの瞳がキラキラしている。
「分かった…リシュリーの望む通りにしよう。」
本来ならば国を上げてのお祝いの内にお子の出産と名前の披露となるのだが、今回ばかりは全ての常識など当てはまろうはずもなく…
「…リュミエール様…私は近衛騎士団長フランクル・ラズリーと申します。これからは命をかけて、御身をお守りいたしましょう。」
フランクルはその場に跪き、まだ目も開かない赤子に忠誠を誓った。
「フランクル……其方の忠誠…しかと受け止めた…これからもよろしく頼む。」
「お任せくださいませ、殿下。けれどももう黙って城から抜け出さないで下さいね?」
「言い訳出来ぬな…」
「そうでもありません。収穫はありましたから。」
「わかった…そちらに行こう。」
兼ねてから追わせていた宰相の動きで何か掴んだものがあるのだろう。サージェスはもう一度リュミエールを優しく抱きしめてからリシュリーに渡した。
「すまない。リシュリー、仕事に戻らなければ…」
「うん、行ってらっしゃい!」
「侍女長!急ぎリュミエールに必要な物を全て手配する様に!乳母や子守の候補を後で私の元に寄越せ。」
「心得ましてございます、殿下。」
「父様はお仕事だって。行ってらっしゃいしようね?」
リシュリーに促される様に、幼い赤子は目を開ける。サージェスに向けられたのはリシュリーの濃い紫の瞳とサージェスと同じく薄い紫の、左右非対称の色を持つ綺麗な澄んだ瞳だった。
「うわぁ……」
「これは…」
「お美しい…」
赤子特有の濁りのない綺麗な瞳に宝石の様な輝きが混じってはもう溜息しか出ない。
「欲張りさんだなぁ……両方から貰ったの?」
リシュリーは愛しそうにリュミエールにキスをする。
「不思議な事が起こるものだ。もう大抵の事では驚かされぬな……」
呆れる様に、それでも愛しさが溢れてくる様な笑顔を向けて、サージェスはリュミエールをそっと撫でる。
「行ってくる…!」
王となるもの、我儘ばかりはしていられないのだから。
「おめでとう、ございます?王子様のお誕生だそうで?」
執務室に戻ると既に報告を受けていた大臣達が皆複雑そうな表情でサージェスを出迎えた。
「ああ!可愛いものであった!」
臣下の複雑な心境を理解しつつも、やはり我が子は可愛いものだ。そこは素直に可愛さを強調し肯定とする。
「しかし、不思議なものですな?人間ではあり得ようもないほどの不思議ですぞ?」
今日も一段と衣装が輝く宰相アルゴンは皮肉を隠そうともせずにそう言い切った。
「当たり前であろう?リシュリーは精霊だ。ならばその子供も人間の域におらず、人の理など通じるはずもない。」
「……………お名は、なんと?」
悔しそうに宰相は問う。
「我が子の名はリュミエールだ!皆に大々的に周知する様に!」
「「「はっ…!」」」
精霊との間に子が産まれた。御伽噺の様な事が起こったのである。水や大地が腐りつつあるマランダ王国にとっては、この御伽噺の様な展開に一縷の望みを託す者達が大勢起こったとしてもなんら不思議はない。何かに助けを求めたい、助かりたい、助けてほしい…それが精霊であるのならば、今まで反発していた民衆は掌を返した様に精霊についたのだ。
「あさましい事この上ないが…これも学の無い民がなす事…腹立たしいが受け入れねばならぬだろうさ。」
「ほっほ…流石は王太子殿下ですなぁ。自宮を焼け落とされても、周囲の者達に強弁に出られなかったと言うのに。さて、時期国王としての才はいかに…?」
ニヤリといやらしく人を小馬鹿にしたように笑う宰相にサージェスは冷たい視線を送る。
「才とは?努力次第で王たる裁量はどうにでもなるが、己が力量を完全に超えた場合、宰相ならばどの様に動かれるのか?是非、拝見したいものだ。」
何をしても止まらない国の崩壊を、精霊力の回復に賭けてみる。今現在これの他に一体どの様な手立てがあるのか…それがわからない宰相では無いだろうに、この者は一体何がしたいと言うのだろうか…
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