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41、可愛い子 1

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 リシュリーが言うには精霊は周囲の者達から精気を貰う。そうやって自分のうちに精霊力を蓄え具現化するらしい。王太子宮を鎮火し、その次に行われた精霊婚、また大々的に国民に精霊信仰が解禁されたことにより、以前よりも精霊に対する信仰や信頼、親愛は深まっているのだ。だからリシュリーは外にいて大気に紛れる精気を吸収しているのだ。

「順調か…?」

 気持ち良さそうにゴロゴロと寝台で微睡むリシュリーの髪をサージェスは優しく撫でる。リシュリーのお腹はほんのりと膨らんでる様にも見えて、自然と愛しさが募った。

「サージェ…最初よりはね?随分と居心地が良くなった!」

…?だが、まだ問題があるんだな?」

「まぁね…悪意は全くの0にはならないみたいよ?」

「そうか……」

 精霊信仰に対する嫌悪や憎悪…それはきっとリシュリーの存在にも繋がり、憎悪の対象はリシュリーへ向く……あれだけの力を見せつけたというのに、まだ精霊という存在を認めたくない輩がいる……

「サージェ…この話になると怖い顔になる。」

 いつの間にか険しくなった表情をまたリシュリーに指摘されてしまった…今、リシュリーは妊娠中…人間で言えばストレスは厳禁という時期なのだそうで。あまり不快な気持ちにはさせたくはない。

「…すまない…」

 折角、精霊界からここまで来たというのに、人間達は悪意をぶつける事しかできないで……

「だから、良いんだって~サージェが一人でなんとかしようったって、それは無理があるだろう?もう、何代も前から築き上げられていたものを今日、明日で変えられない。だから、この子をお願いね?」

「リシュリー?」

「サージェ、良く覚えておいて?この子がこの国を引いていく…精霊との橋渡しになるんだ。どちらかを憎み排除するんじゃなくて、どちらも受け入れ、共に生きる道を作るんだ…お願いだから…そんな子に育ててね?」

 リシュリーはサージェスに手を伸ばし、そっと両頬を包みながら自分の方に引き寄せる。チュッと軽い口付けをしてサージェスをギュッと抱きしめた。

「僕はこの子を命懸けで守る。いくら悪意があったって守り抜くさ…だから、サージェはこの子を育てるんだ。どんな事があったって、誰にも負けない様な強い子になる様に!」

 子を産んだらリシュリーは力尽きる……なんとなく、そんな予感が止まないサージェスの情けない顔を下から覗き込みながらリシュリーは明るく笑いかける。

「大丈夫、まだまだ時間はあるよ…?」

「そうか…」

 そんな時リシュリーの表情に心底救われながら、サージェスは願った。

 早く、力を蓄えて出ておいで…お前の母様の力を奪い取らなくても良い様に…出てきたならば父様も有らん限りの力で、お前を守るから…

 そっと、リシュリーの胎に手を伸ばせば、そこはホンワリと暖かく優しい気配に心が安らぐ…

 出ておいで、お前の顔が早く見たい……

 心からこんな事を願う日が来ようとは、そう願う自分に心底驚きながらサージェスは温かなリシュリーを抱きしめる。

 



「………下…!」

「……殿下…」

「…殿下!」

「……ん…………」

 目を開ければ侍女長が不安気な面持ちでサージェスを見つめていた。

「…どうした?」

「どうしたも、こうしたもございません!御公務に戻られません殿下を臣下の皆様方が探しておいででしたよ?」

 なるほど…どれくらいか分からないが、リシュリーの顔を見にきたついでに、どうやら自分も一緒に眠ってしまった様だ。

「すまない、助かった。直ぐにいくと伝えよ!」

「御意に…こちらへ、お茶をお入れしましたので、お飲みになってくださいませ。」

「ああ、すまない…」
 
 チラリと見るとリシュリーもよく眠っている…そっと柔らかな銀の髪を撫でて、口付けを落とす…

 いつの間にか、こんなにもリシュリーが大切になってしまっていた……

「行ってくる。」

 リシュリーと、精霊の血を引く我が子を守るために…!

「リシュリーを頼んだ。」

「承知いたしました…」

 サージェスは後ろ髪を引かれる思いで、リシュリーの部屋を後にした。一瞬、仄かにリシュリーが光っている様にも見えたのだが、流石に目の錯覚だろうと思い直し、今、自分のやるべき事に意識を向ける。

 憎悪や悪意があるのならば取り去らねば、また王太子宮の様に業火に巻かれる者が出るかも知れないからだ。




「進捗は?」

 会議室に向かいながら、報告に上がってくる者達から情報を得る。王太子宮に火を放った実行犯らしき者達の大半は捉えられ、地下牢へと繋がれている。しかし、その者達の誰もが城に火を放つ為のものではないと聞いていたと証言している。城壁の補強に必要なんだとかの説明を受けていたそうだ。

「ふん…何も知らぬ者を………恥知らずが!」

 実行犯は言われた事を忠実に行った使用人だ。そして、主犯格の者達からすれば簡単に切り捨ててしまえる程、彼らの命も軽いのだろう。
 サージェスは爆発しそうな怒りをグッと抑え込み、そんな卑怯者共を追い詰めるために今日も執務室へと向かうのだ。
















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