[完]子供が欲しい精霊は、今日も番を誘います

小葉石

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25、帰城 1

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「城へ行く。」
  
 王太子に充てられた部屋へ帰ってくると、リシュリーはパッと立ち上がってすぐにサージェスに飛びついて来た。 

「城?サージェの家?」

「ああ、そうだ。これ以上公務を放り出してはおけないからな。リシュリーは何をして貰っていたんだ?」

 サージェスが部屋へと入ってきた時、リシュリーは大神官ルショルテに何やら頭に手を置いてもらっている所であった。

「今での祈りをもらってた!」

「祈り…」

「そう、の力になる。」

 小さい精霊達もそれを良く知っている。ここにきてからと言うもの、リシュリーの側から離れなかった小さな精霊達は神官達についてまわり、今は大神官にベッタリと張り付く様にして付き纏っているのだから。

「あ、だからといって、人間の生命力を奪うわけじゃないよ?人間の気持ち、それが僕達の力の源なの。」

「それはもう知っているが……お前はどうする?」

 少しだけ探る様な労わる様な、申し訳なさそうな視線を、サージェスはリシュリーに向けてきた。

「…何が?」

 コテン、と首を傾げるリシュリーにサージェスは真剣に言うのだ。

「これから私が帰る所は、王族と少しばかりの人間の他、全てが敵だと思って貰っても良いところだ。リシュリーの存在を否定など出来ないが、ここにいる時の様に敬われる事も、好待遇を受ける事もないかもしれない。」

 それに、どうの様な位置付けで王城、それも王太子の側近くに置いておけると言うのか……側から見たらリシュリーはただの不審者とも言えるのだから。

「ほっほっほっほっ…心配なさいますな、殿下。どれ、私も国王陛下を見舞おうとしましょうかね。」

 神官は厚遇されていないと言っても、まだ国を代表とする大神殿の大神官が赴くとなれば話は別だろうとルショルテは言いたいのだった。その大神官ルショルテがリシュリーの後見人となると言う。

「そなた、身体が効かんのに…」

「何を言います!王太子殿下!生きる目的であったとお出合いしたのですぞ!この爺、もういつ死んでも惜しくはありませんわ!」

「殊勝なことを…」

 サージェスは半ば呆れながらも、その笑顔は優しいものだった。

「サージェ、行くんだろう?」

「勿論。」

「なら、ここにいる者達に異論は無いんだよ!勿論、僕も行く。君がいる所が僕の居場所だがら…牢の中でも、地の果てでも一緒に行くよ。」

 ニコッと微笑みながら、抱きつかれてしまっては熱烈なプロポーズを受けているものと錯覚してしまいそうになる。

「ご安心ください、王。我らは貴方様を御守り申し上げます。」

 部屋の中にいた神官達も、廊下に控えていた者達もルショルテ以下一同、リシュリーに向かって平伏した。


 リシュリー一行は王太子宮預かりにて滞在する事になった。大神官ルショルテは国王を見舞い、リシュリーの件を告げるのだが、意識がほとんどない様な状態の宜しくない国王が一体どこまで理解できたのやら怪しいものであった。

「月日が経つのは残酷ですな…」

 既に目が見えず人に頼らなければ歩けもしない大神官と、思い病で意識も怪しい国王と、昔を振り返り思い出を語るには少々遅すぎたのかもしれない。

「サージェス様はご立派になられました。稀代の王と呼ばれるでしょう。私はこれよりの生を全てあの者達に捧げる所存。命を賭して守りましょうぞ。ですから陛下、ご安心くだされ…」

 大神官ルショルテの言葉を聞いてなんと思った事だろう。返答のない国王は一筋の涙を持ってルショルテに答えたのだった。 



「ねぇ、サージェ?」

「ん?」

 夜も深け、そろそろ意識が落ちて行こうと言う時に、リシュリーは話かけてきた。

「嫌じゃないの?」

 人間と子供を作る。肉体を持たない精霊は人間の事情には聡くない。ので……今夜もリシュリーから誘ってから、事を致したわけなのだ。事情を知る周囲の者達はそっと部屋を出ていき、自然に二人だけにしてくれた様だ。無事に済んで良かったのではあるが……
 
 リシュリーには疑問が残る。

「何がだ?」

 当然のように抱き枕のようにしてサージェスはリシュリーを抱え込み本気で寝る気でいるようだ。

「だって、僕…男だよ?」

 普通の男性は女性を求め、子を望むものではないのだろうか?力の関係上致し方なかったとしても、普通に成してしまっているサージェスの事をリシュリーは不思議で仕方がないのだ。

「ふ……今更だろう?地下牢で襲ってきたくせに…」

「ん~僕でも平気なんだって、不思議なんだよ。ま、その方が僕には都合が良いんだけどね。」

 リシュリーは都合やら、義務やら、仕事の一環としての行為であるらしい。王族ともなればそれはサージェスにも言える事で仕方ない事ではあるのだが、サージェスにはそれだけでは無いと自分ではもう気がついていた…

「王家の血を引き継ぐ為ならば、父上でも良かったのではないか?」

 病に倒れた父に務まるとは思えないのだが、父王も精霊の血を引いているだろうし、もし、自分に兄弟がいたらそちらとでも………

「それはダメだよ、サージェ。そんな事したら君と僕の子で王位継承争いが起こるだろ?僕は不穏な種を撒くつもりはないの…飽くまでも君と僕、の子供が必要なんだよ…」

「そうか……」

 そうか……と呟いて、もう一度ぎゅうっとリシュリーを抱きしめて今度こそ本当に夢の中へと落ちていく……







 
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