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21、救出 1

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 地下牢にはほぼ誰も居ない。まるで忘れ去られた様に見張りもいないのだ。見張りもいなければ、誰が地下牢に入れられた者を世話するのだろうか。ここには牢に捉えられた者を世話しようとする者さえもいない………

「見殺しにする気か……」

 意識ある者ならばここに入れられた時点で死を覚悟している。しかし、こうも意図的に何もされないとなると、ただ苦しみながら餓死しろと宣告されている様にしか思えず、地下牢の空気は重くなる。

「ふ~~ん…餓死か…人間は大変だね?」

「………他人事では無いぞ…もれなく、そなたも含まれる。」

 まだべったりと王子に引っ付いているリシュリーには死という概念が無いのかもしれない。自分も危ないと言われているのに、我関せずだ。

「大丈夫だと思うよ?………ほら!」

 ドォォォォォォン……

 いきなり上階から地を揺るがす様な爆発音がした。地下牢にもパラパラと砂埃が舞い落ちる。

「な!?」

「……どうなっている…?」

 状況把握のため、しばし牢内は無言だ。皆聞き耳を立て上階で起こっている情報が欲しいのだ。

(殿下~~~~~!!)

「!?」

 微かにだが、見知った者の声がする。

「殿下!救援では!?」

 空耳かもしれないと思った…それほどまでに欲しかった援軍の騎士達だろうか?しかし確かに、王太子を呼ぶ声がここまで届いた。

「ほらね?まだ居るし、ここまでくるよ…」

 ガァン!!

 階上から地下牢に続く扉が蹴破られた音だ。

「殿下!!居られますか!!」

「ロキシーか!!ここに居る!皆いるぞ!!」

「…!?……よろしゅうございました!!今、そちらに参ります!皆!!地下だ!地下に居られる!!」

 他にもいるだろう騎士達を呼びあつめロキシーと呼ばれた騎士が慌てて降りてきた。

「ね?大丈夫だったろ?」

 ニコニコとリシュリーは微笑む。

「なぜ、分かった?」

 不思議がるのは仕方がない。かつて人間達の中にあった精霊の力も、今は無くなってしまったも同然だったから。

「……君には、分かんないかもしれないけどさ、僕には見えるものがある。精霊に関することは特にね?騎士達の他に、精霊に関わる人が大勢きているんじゃないのかな?」

「殿下!!ご無事ですか!?」

 王太子と共に行動している見慣れすぎた制服にマントを着た騎士に、白を基調として簡素な装備の騎士達がドヤドヤと地下牢に入ってきた。

「聖騎士……」

 白を基調とした騎士達は大神殿に仕えている聖騎士と見た。今では顧みられることもなく、邪教の象徴とも言える精霊に仕えようともする者達は少ない。神殿に裂かれる国費もほぼ無きに等しく、装備品には装飾も入れられずに非常に慎ましい装備しか与えられていない。それ故ここに残っている者達は信仰心の熱い、精霊に傾倒した酔狂とも言える者達ばかりだ。

「間に合って宜しゅうございました!」

 感無量になる所をグッと堪えて、騎士達は王太子達の牢の鍵を開けていく。

「あの………殿下………この方は……?」

 王太子の足の拘束を切ろうとしても王太子からピッタリとはなれない若者がいる。それも考えられない様な尋常でない色と美貌を持って。

「殿下!!ご無事ですか!?」

 戸惑っている騎士達に遅れて白と緑を基調とした神官服を纏った神官達が入って来て跪いた。

「…王太子殿下には………!!」

 挨拶を述べようとしている神官がピタリと止まってしまった。その目はリシュリーに釘付けになっている。

「神官殿…?あの者に心当たりがおありですか?」

 よく見なくても、宰相側が禁忌としている色を纏い、地下牢で拘束もされず、王太子の御前だと言うのに平伏さえしていない。助けに入った騎士達は皆困惑しきりであった。

「あ……こんな、事が………!」

「うん、行けるね……力が少し戻った。毎日の奉仕ご苦労様。」

「貴方様が…!貴方様が来られるとは!」

 神官はその場で平伏してを拝み出す。

「神官よ…この者を知っているのか?」

「恐れながら……王太子殿下に申し上げます。王室は精霊典を手放してしまわれましたから…だと存じます…。」

「精霊か……」

 宰相派の様に全てを滅ぼしてしまおうなどとは思わないが、全てを信じ切るには眉唾すぎた……だから現在の王室は大神殿とも付かず離れずの距離を保っていたのだ。

「左様に御座います。はっきりと、精霊典に記載されてございます。」

 精霊信仰の要とも言われる精霊典には目の前にいるリシュリーの様な精霊の容姿がはっきりと描かれているのだ。それに騎士、聖騎士、神官達をここに導いたのは小さな不思議な鬼火であった。

「お初にお目通りいたします。私は大神殿にて仕えております神官、マートと申します、精霊王様…」

「!?」

 神官の言葉にここに居た全ての者達が一斉にリシュリーへと振り向いた。

「え~まだ精霊王じゃ無いよ?爺ちゃん存在してるしね?それに、そんなに力は出せない。それで精霊王なんてね~言われても誰も納得しないでしょ?それより、上で睡眠草を焚いたね?」

 ここまで香ってくるこの香りは間違えないだろうけど…やっぱり、効力はずっと落ちている。

「はい!ご存じでありましょうか?」

が元気だったらここまで匂わさなくても一瞬でここの全ての人を眠りに誘うのに…落ちたものだな………」

 どちらかと言うと幼く見えるリシュリーは感情のない美しい顔を上に向けていた。何も表さない美しい表情は性別も年齢も、生死をも全てをかき消してしまうゾッとするほどの存在感だ。

「そうです!全て眠らせております。誰一人傷付けてはおりません。さ、殿下、お早く!奴らが目を覚さぬうちに!」




















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