21 / 50
21、救出 1
しおりを挟む
地下牢にはほぼ誰も居ない。まるで忘れ去られた様に見張りもいないのだ。見張りもいなければ、誰が地下牢に入れられた者を世話するのだろうか。ここには牢に捉えられた者を世話しようとする者さえもいない………
「見殺しにする気か……」
意識ある者ならばここに入れられた時点で死を覚悟している。しかし、こうも意図的に何もされないとなると、ただ苦しみながら餓死しろと宣告されている様にしか思えず、地下牢の空気は重くなる。
「ふ~~ん…餓死か…人間は大変だね?」
「………他人事では無いぞ…もれなく、そなたも含まれる。」
まだべったりと王子に引っ付いているリシュリーには死という概念が無いのかもしれない。自分も危ないと言われているのに、我関せずだ。
「大丈夫だと思うよ?………ほら!」
ドォォォォォォン……
いきなり上階から地を揺るがす様な爆発音がした。地下牢にもパラパラと砂埃が舞い落ちる。
「な!?」
「……どうなっている…?」
状況把握のため、しばし牢内は無言だ。皆聞き耳を立て上階で起こっている情報が欲しいのだ。
(殿下~~~~~!!)
「!?」
微かにだが、見知った者の声がする。
「殿下!救援では!?」
空耳かもしれないと思った…それほどまでに欲しかった援軍の騎士達だろうか?しかし確かに、王太子を呼ぶ声がここまで届いた。
「ほらね?まだ居るし、ここまでくるよ…」
ガァン!!
階上から地下牢に続く扉が蹴破られた音だ。
「殿下!!居られますか!!」
「ロキシーか!!ここに居る!皆いるぞ!!」
「…!?……よろしゅうございました!!今、そちらに参ります!皆!!地下だ!地下に居られる!!」
他にもいるだろう騎士達を呼びあつめロキシーと呼ばれた騎士が慌てて降りてきた。
「ね?大丈夫だったろ?」
ニコニコとリシュリーは微笑む。
「なぜ、分かった?」
不思議がるのは仕方がない。かつて人間達の中にあった精霊の力も、今は無くなってしまったも同然だったから。
「……君には、分かんないかもしれないけどさ、僕には見えるものがある。精霊に関することは特にね?騎士達の他に、精霊に関わる人が大勢きているんじゃないのかな?」
「殿下!!ご無事ですか!?」
王太子と共に行動している見慣れすぎた制服にマントを着た騎士に、白を基調として簡素な装備の騎士達がドヤドヤと地下牢に入ってきた。
「聖騎士……」
白を基調とした騎士達は大神殿に仕えている聖騎士と見た。今では顧みられることもなく、邪教の象徴とも言える精霊に仕えようともする者達は少ない。神殿に裂かれる国費もほぼ無きに等しく、装備品には装飾も入れられずに非常に慎ましい装備しか与えられていない。それ故ここに残っている者達は信仰心の熱い、精霊に傾倒した酔狂とも言える者達ばかりだ。
「間に合って宜しゅうございました!」
感無量になる所をグッと堪えて、騎士達は王太子達の牢の鍵を開けていく。
「あの………殿下………この方は……?」
王太子の足の拘束を切ろうとしても王太子からピッタリとはなれない若者がいる。それも考えられない様な尋常でない色と美貌を持って。
「殿下!!ご無事ですか!?」
戸惑っている騎士達に遅れて白と緑を基調とした神官服を纏った神官達が入って来て跪いた。
「…王太子殿下には………!!」
挨拶を述べようとしている神官がピタリと止まってしまった。その目はリシュリーに釘付けになっている。
「神官殿…?あの者に心当たりがおありですか?」
よく見なくても、宰相側が禁忌としている色を纏い、地下牢で拘束もされず、王太子の御前だと言うのに平伏さえしていない。助けに入った騎士達は皆困惑しきりであった。
「あ……こんな、事が………!」
「うん、行けるね……力が少し戻った。毎日の奉仕ご苦労様。」
「貴方様が…!貴方様が来られるとは!」
神官はその場で平伏してリシュリーを拝み出す。
「神官よ…この者を知っているのか?」
「恐れながら……王太子殿下に申し上げます。王室は精霊典を手放してしまわれましたから…だと存じます…。」
「精霊か……」
宰相派の様に全てを滅ぼしてしまおうなどとは思わないが、全てを信じ切るには眉唾すぎた……だから現在の王室は大神殿とも付かず離れずの距離を保っていたのだ。
「左様に御座います。はっきりと、精霊典に記載されてございます。」
精霊信仰の要とも言われる精霊典には目の前にいるリシュリーの様な精霊の容姿がはっきりと描かれているのだ。それに騎士、聖騎士、神官達をここに導いたのは小さな不思議な鬼火であった。
「お初にお目通りいたします。私は大神殿にて仕えております神官、マートと申します、精霊王様…」
「!?」
神官の言葉にここに居た全ての者達が一斉にリシュリーへと振り向いた。
「え~まだ精霊王じゃ無いよ?爺ちゃん存在してるしね?それに、そんなに力は出せない。それで精霊王なんてね~言われても誰も納得しないでしょ?それより、上で睡眠草を焚いたね?」
ここまで香ってくるこの香りは間違えないだろうけど…やっぱり、効力はずっと落ちている。
「はい!ご存じでありましょうか?」
「皆が元気だったらここまで匂わさなくても一瞬でここの全ての人を眠りに誘うのに…落ちたものだな………」
どちらかと言うと幼く見えるリシュリーは感情のない美しい顔を上に向けていた。何も表さない美しい表情は性別も年齢も、生死をも全てをかき消してしまうゾッとするほどの存在感だ。
「そうです!全て眠らせております。誰一人傷付けてはおりません。さ、殿下、お早く!奴らが目を覚さぬうちに!」
「見殺しにする気か……」
意識ある者ならばここに入れられた時点で死を覚悟している。しかし、こうも意図的に何もされないとなると、ただ苦しみながら餓死しろと宣告されている様にしか思えず、地下牢の空気は重くなる。
「ふ~~ん…餓死か…人間は大変だね?」
「………他人事では無いぞ…もれなく、そなたも含まれる。」
まだべったりと王子に引っ付いているリシュリーには死という概念が無いのかもしれない。自分も危ないと言われているのに、我関せずだ。
「大丈夫だと思うよ?………ほら!」
ドォォォォォォン……
いきなり上階から地を揺るがす様な爆発音がした。地下牢にもパラパラと砂埃が舞い落ちる。
「な!?」
「……どうなっている…?」
状況把握のため、しばし牢内は無言だ。皆聞き耳を立て上階で起こっている情報が欲しいのだ。
(殿下~~~~~!!)
「!?」
微かにだが、見知った者の声がする。
「殿下!救援では!?」
空耳かもしれないと思った…それほどまでに欲しかった援軍の騎士達だろうか?しかし確かに、王太子を呼ぶ声がここまで届いた。
「ほらね?まだ居るし、ここまでくるよ…」
ガァン!!
階上から地下牢に続く扉が蹴破られた音だ。
「殿下!!居られますか!!」
「ロキシーか!!ここに居る!皆いるぞ!!」
「…!?……よろしゅうございました!!今、そちらに参ります!皆!!地下だ!地下に居られる!!」
他にもいるだろう騎士達を呼びあつめロキシーと呼ばれた騎士が慌てて降りてきた。
「ね?大丈夫だったろ?」
ニコニコとリシュリーは微笑む。
「なぜ、分かった?」
不思議がるのは仕方がない。かつて人間達の中にあった精霊の力も、今は無くなってしまったも同然だったから。
「……君には、分かんないかもしれないけどさ、僕には見えるものがある。精霊に関することは特にね?騎士達の他に、精霊に関わる人が大勢きているんじゃないのかな?」
「殿下!!ご無事ですか!?」
王太子と共に行動している見慣れすぎた制服にマントを着た騎士に、白を基調として簡素な装備の騎士達がドヤドヤと地下牢に入ってきた。
「聖騎士……」
白を基調とした騎士達は大神殿に仕えている聖騎士と見た。今では顧みられることもなく、邪教の象徴とも言える精霊に仕えようともする者達は少ない。神殿に裂かれる国費もほぼ無きに等しく、装備品には装飾も入れられずに非常に慎ましい装備しか与えられていない。それ故ここに残っている者達は信仰心の熱い、精霊に傾倒した酔狂とも言える者達ばかりだ。
「間に合って宜しゅうございました!」
感無量になる所をグッと堪えて、騎士達は王太子達の牢の鍵を開けていく。
「あの………殿下………この方は……?」
王太子の足の拘束を切ろうとしても王太子からピッタリとはなれない若者がいる。それも考えられない様な尋常でない色と美貌を持って。
「殿下!!ご無事ですか!?」
戸惑っている騎士達に遅れて白と緑を基調とした神官服を纏った神官達が入って来て跪いた。
「…王太子殿下には………!!」
挨拶を述べようとしている神官がピタリと止まってしまった。その目はリシュリーに釘付けになっている。
「神官殿…?あの者に心当たりがおありですか?」
よく見なくても、宰相側が禁忌としている色を纏い、地下牢で拘束もされず、王太子の御前だと言うのに平伏さえしていない。助けに入った騎士達は皆困惑しきりであった。
「あ……こんな、事が………!」
「うん、行けるね……力が少し戻った。毎日の奉仕ご苦労様。」
「貴方様が…!貴方様が来られるとは!」
神官はその場で平伏してリシュリーを拝み出す。
「神官よ…この者を知っているのか?」
「恐れながら……王太子殿下に申し上げます。王室は精霊典を手放してしまわれましたから…だと存じます…。」
「精霊か……」
宰相派の様に全てを滅ぼしてしまおうなどとは思わないが、全てを信じ切るには眉唾すぎた……だから現在の王室は大神殿とも付かず離れずの距離を保っていたのだ。
「左様に御座います。はっきりと、精霊典に記載されてございます。」
精霊信仰の要とも言われる精霊典には目の前にいるリシュリーの様な精霊の容姿がはっきりと描かれているのだ。それに騎士、聖騎士、神官達をここに導いたのは小さな不思議な鬼火であった。
「お初にお目通りいたします。私は大神殿にて仕えております神官、マートと申します、精霊王様…」
「!?」
神官の言葉にここに居た全ての者達が一斉にリシュリーへと振り向いた。
「え~まだ精霊王じゃ無いよ?爺ちゃん存在してるしね?それに、そんなに力は出せない。それで精霊王なんてね~言われても誰も納得しないでしょ?それより、上で睡眠草を焚いたね?」
ここまで香ってくるこの香りは間違えないだろうけど…やっぱり、効力はずっと落ちている。
「はい!ご存じでありましょうか?」
「皆が元気だったらここまで匂わさなくても一瞬でここの全ての人を眠りに誘うのに…落ちたものだな………」
どちらかと言うと幼く見えるリシュリーは感情のない美しい顔を上に向けていた。何も表さない美しい表情は性別も年齢も、生死をも全てをかき消してしまうゾッとするほどの存在感だ。
「そうです!全て眠らせております。誰一人傷付けてはおりません。さ、殿下、お早く!奴らが目を覚さぬうちに!」
82
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる
古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる