上 下
16 / 50

16、遭遇 1

しおりを挟む
「ねぇ!こんばんは!!お兄さん達、何探してるの?」

 分からんものは分からんし、でも黙っても見てもいられないし、ので、直接声をかける方法をとるしかない、とリシュリーは動く。関係ないならばそれでいい。でも少しばかり探し人と関わりがあるならば手がかりは欲しいのだから。

「何奴だ!!!」

 リシュリーは気楽に、普通に、不信感無くちゃんと挨拶までして声をかけたつもりである。しかし、それが返ってここにいた者達の警戒心を一気に引き上げた様だ。

 全ての人間が得物を持っていた。腰に刺している剣。それを一斉に引き抜いて、一気にリシュリーを取り囲む。

「え……え~~~こんばんは?」

 あれ?違ったかな?挨拶間違えた?

 何がいけなかったのかリシュリーはわからない。が、取り囲まれてしまったのならば変に抵抗しない方がいい、と最初に捕まった時に学んでいる。そうすれば痛い思いもしなくて済むのだ。

「何者だと聞いている!!」

「リシュリーです。」

 名前だよね?

「何故ここにおるのだ!」

「人を探していたんですけど、見失っちゃって……」

 これも本当。

「人探し?怪しい奴め…!」

 ジリジリとリシュリーを取り囲む人達の中で、リシュリーは困った声を出す。

「え~お兄さん達だって怪しいよ?こんな森の中で剣を抜いて一体誰と戦うの?」

 どう考えてもこの場合、丸腰のリシュリーよりも戦闘体制バッチリな彼らの方が異様である。

「ふん!お前の様な得体の知れぬ者が徘徊していると言うから警備に来ているところだ!その面妖なフードを取れ!」

 フード…これを取ったらどうなるかな?ちょっとだけ悪戯心がムクムクと持ち上がってくるけど、きっと碌な事にはならないんだろうと最初の記憶が告げている。

「う~~ん…どうしよう?」

 リシュリーはしっかりと学んでおけばよかった。人間の短気さと横暴さを………

 シュッ………左耳のすぐ近くで風を切る音がした。本当ならば左目の辺り…

 そしてパラリとフードが落ちる。1人の男がリシュリーのフードを左目を潰す勢いで切り裂いたのだ。

 風の精霊グッジョブ!!!

 リシュリーの肩に乗っていた小さな風の精霊は咄嗟に風を起こして剣の軌道を反らせた。だからリシュリーの左の目は無事。けれども左目横の皮膚は裂けて少し血が流れ出てしまった。

「お………前!!」

「なんだ、こいつ!!」

「王子の仲間か!?」

 月光に照らされた輝く銀の髪に、月の光を吸収して発光している様な濃い紫の瞳。明らかに人間じゃない風態を感じ取り、男達に一斉に緊張がはしった。

「痛いなぁ……脱ごうかどうか考えてたのに、待ってくれない……」

 男達の殺気だった怒鳴り声にもびくりとも反応せず、リシュリーは切られたフードを指で摘んであ~あ、と残念そうだ。

「何者だ!」

「だから、リシュリーだって…」

「その容姿、神殿側からの間者か!?」

 神殿?間者?はてなんじゃそりゃ?リシュリーはコテンと首を傾げる。

「捕まえておいたほうが…」

「神殿の方の……」

「王族派なのでは?」

「罠かもしれません…」

 リシュリーが首を傾げている間にヒソヒソと姦計が計られていて…その間もリシュリーに向かって男達が抜いた剣先は下げられないままである。

「何はどうあれ、あのままの容姿の者は問答無用で捕獲、処罰対象だ。あれだけの容姿の持ち主、何やら事情がありそうではないか?」

 ジリジリと押し迫る男達。

「あ、やっぱり捕まるんだな……」

 けど、なにやら此方としては良い流れかな?男達が近づいて来れば近づくほど、精霊の気配らしきものがチラチラと見え隠れしているから…

 接触したかな…なら、ついて行く?

「分かった!こーさん!降参する!お兄さん達に勝てそうにもないし、そんなつもりもないし!」

「どう言うつもりだ?捕まったらどうなるか、分かっているのか?」

「充分に怪しい人物として縛り上げるぞ!」

「はいはいどうぞ~」

 最初の拘束で既に縛られているから、なんとなく縛られる雰囲気は分かるから、自分から両手を後ろに回して、縛られ準備はOKだ。

「くっ…こいつ、頭おかしいのか?」

「自分から…?」

 精霊信仰を持っている者は問答無用で処断されている昨今、なんとか逃げようとする者がいても、自分から縛られに来る者はほぼ皆無だ。なぜなら周囲の民衆への見せしめにされる事が多く、処刑も追放も本人の尊厳など皆無だからだ。

「…どうする?」

「う~む……」

「使えるか?」

「どうしたの?まだ?」

「こいつ…少し頭が緩いのか?何されるか分かってるのかよ?」

「良くて、縛られて投獄?」

 悪くて処刑だ…だけれど、賭けるしかない…

「はっ!こいつの事は上のお偉方が処理するだろうよ!見たこともねぇほどこんだけ色が濃いんだ。神殿の奴らを黙らせるのに一役買うんじゃねぇの?」

 面倒臭そうに1人の男がリシュリーを縛り上げる。どうやら神殿と言う所に差し出されでもするのだろう…










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

すてきな後宮暮らし

トウ子
BL
後宮は素敵だ。 安全で、一日三食で、毎日入浴できる。しかも大好きな王様が頭を撫でてくれる。最高! 「ははは。ならば、どこにも行くな」 でもここは奥さんのお部屋でしょ?奥さんが来たら、僕はどこかに行かなきゃ。 「お前の成長を待っているだけさ」 意味がわからないよ、王様。 Twitter企画『 #2020男子後宮BL 』参加作品でした。 ※ムーンライトノベルズにも掲載

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

【完結】私の可愛いシャラン~夏椿に愛を乞う

金浦桃多
BL
「こ、コレが、恋……。あの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。」 大陸一の領土を誇るルクスペイ帝国の第二皇子であるミカエル。 外遊の最後に、隣国のプロスペロ王国へ向かう事になった。 今まで人間に興味のなかったミカエルだが、お忍びで来た城下町で、プロスペロ王国第三王子シャランの愛らしい笑顔に一目惚れして頭から離れない。 王家主催の晩餐会で再会するが、愛らしかったシャランが月下で儚く佇む姿を見つける。 彼が打ち明けてくれた事情を知った事で、ミカエルはある決断を下す。 「可愛いシャラン、私の伴侶になってくれ。政略などではなく、一人の男として、君を愛している。」 成人の儀を行うと共に、シャランは婚約者として帝国へと共に向かうのだった。 しかし、そこに現れるミカエルに固執する令嬢と、不穏な影。 「貴女のような自分の事しか考えられない人に、ミカエル様に相応しくない。僕は彼を愛している!」 人間に興味がなかったミカエルと、ナルシストと勘違いされて悩んでいたシャランが出会い、様々な出来事を乗り越えて、幸せになる物語。 ミカエル(帝国第二皇子)✕シャラン(王国第三王子) このお話は、 王国編→攻め(ミカエル)視点 帝国編→受け(シャラン)視点 で進みます。 ・ご都合主義です。ゆるーく読んで頂けると助かります。 ・異世界ファンタジー。 ・ゆるゆる魔法あり。 ・同性婚OKの世界観。 ・子供は出来ません。 ・王国編→帝国編 ・R18は帝国編になります。 キーワード ・R18・異世界ファンタジー・溺愛・ハッピーエンド・流血暴力表現あり・視点変更あり・花言葉・太陽と月 ・この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...