14 / 50
14、失踪 4
しおりを挟む
「ちょっっっと!!」
サラーラは叫び声を殺す為に、自分の声を飲み込んで勢い余ってむせこんでしまった……
「だ、大丈夫?」
お客が帰ったタイミングを見計らい、窓に小石を打つけると言う古典的な方法でサラーラに気がついてもらえたのだが…サラーラは酷く驚いた様だ。
「しっ!!静かに…!見つかったら、半殺しでは済まないのに…なぜ、帰ってしまったの?」
リシュリーの無事を確かめる様に、サラーラはそっと優しくリシュリーの頬に手を当てる。あの後、大変だったそうだ。数日はリシュリーは具合が悪いと思われていたそうなのだが、ふと気がついたらいないではないか。娼館の中だけでオーナーは大騒ぎをしたそうだ。事情を知る兵士達にもリシュリーの行方を聞いたが全く足取りがつかめないと…これ以上見つからなければ、上官へ報告した上で大々的な大捜索になるかもしれないと言われ、オーナーは真っ青な顔でガタガタと震えているらしい。それでも店を開かないわけには行かないので、毎日営業はしているのだが…
「ん。だよね?でも、どうしても、探し物を見つける力が足りなくて……ここに戻ってきちゃった。」
リシュリーはニコッと笑う。天使かと思うほどの整った笑顔には、捕まった時の危険性など微塵も感じさせはしないくらい、いつまででも見ていたくなる美しさがある。
ハッとサラーラは気がついたようだ。ここにいてはいけない人物が当たり前の様にいるから当たり前のようにそれを受け入れてしまっていたけれども、リシュリーは本来ならここにいてはいけない様な存在だった。
「貴方様のお陰ですわ。手紙がきたのです。先日。母が…母の病がすっかりと癒やされたと……」
サラーラは両手を組み、床に跪いて嬉しそうにそう述べる。病が治った母親はまた収監される運命にあるのだが、母親本人のしっかりした字で精霊の導きだと感謝を述べる旨がつらつらと書かれていたのだと言う。その手紙が見つかったら酷く責められるのでもう燃やしてしまったのだが。サラーラの話を聞いて火の精霊が大きく肯き、本当だとサラーラの周りをピョンピョン跳ね回っている。
「うん…良かったね。」
「貴方様の、いいえ、精霊様のお陰ですわ。私達ははおろかな選択をしたというのに……助けて貰うばかりだなんて……」
今は無きサラーラの実家の領地でも、豊かな精霊の加護があったのだ。感謝しつつ精霊と共に過ごしていたあの日々がサラーラの脳裏にありありと蘇ってくる。
「……帰りたい……」
懐かしいあの地に…あの緑の大地の色に匂い…風の心地良さに、豊かな生き物達の息吹…全てがサラーラには懐かしい。
「……なるほど…サラーラの故郷は素晴らしいね…」
祈る思いで感謝を述べるサラーラから流れ出る思考が、リシュリーにも流れ込む。素晴らしかった故郷の景色に、深い深い感謝の念はリシュリー達が永年請い求めていたものだ。
フワリ…銀の髪が透けて輝く様に見えたのはきっと眼の錯覚かも知れない…
ゆったりとした、風というか空気そのものがリシュリーの周囲を意志があるものの様に自在に揺蕩っている様な不思議な空間がここに生まれているのも…
「うん…やっぱり人は僕らの共存体だ。サラーラの祈りだけで、物凄く気持ちがいい…」
気分が高揚するだけじゃなく、お腹が一杯になる様な…あ…力が溜まって行くんだ、これ……
キラキラした尊敬の瞳でサラーラはリシュリーを見つめている。もう、隠し立て出来ない程にサラーラの前ではリシュリーは人間の様には見えないだろう。
ニコニコ親しみを込めて微笑んでいる姿は人間そっくりだけれども…
「ありがとう、サラーラ!力が少し戻ったよ!これで行ける!」
自分の運命!一緒に子供を作る相手の所に!!
「リシュリー…?行くって…?見つかったら…!!」
「…大丈夫…でも、お願いがあるんだ。サラーラ…」
「な、何です?」
「時々でいい…心の中でいいから、さっきみたいに精霊にありがとうって伝えてくれる?」
サラーラの部屋の窓から、月明かりがリシュリーの周囲を包む様に照らす。
「もちろん!もちろんだわ!子供の頃からの習慣だもの!母だって、感謝したり無いほど感謝しているわ!」
「うわぉ!それは有難い!」
ニッコリと、満面の笑顔を残し、リシュリーはその場から飛び立つ。それは決して人間にはできない所業…その姿の美しさはどこをとっても邪神などとは程遠いのに、自分達はつくづく愚かだとサラーラは思わざるを得なかった……
サラーラは叫び声を殺す為に、自分の声を飲み込んで勢い余ってむせこんでしまった……
「だ、大丈夫?」
お客が帰ったタイミングを見計らい、窓に小石を打つけると言う古典的な方法でサラーラに気がついてもらえたのだが…サラーラは酷く驚いた様だ。
「しっ!!静かに…!見つかったら、半殺しでは済まないのに…なぜ、帰ってしまったの?」
リシュリーの無事を確かめる様に、サラーラはそっと優しくリシュリーの頬に手を当てる。あの後、大変だったそうだ。数日はリシュリーは具合が悪いと思われていたそうなのだが、ふと気がついたらいないではないか。娼館の中だけでオーナーは大騒ぎをしたそうだ。事情を知る兵士達にもリシュリーの行方を聞いたが全く足取りがつかめないと…これ以上見つからなければ、上官へ報告した上で大々的な大捜索になるかもしれないと言われ、オーナーは真っ青な顔でガタガタと震えているらしい。それでも店を開かないわけには行かないので、毎日営業はしているのだが…
「ん。だよね?でも、どうしても、探し物を見つける力が足りなくて……ここに戻ってきちゃった。」
リシュリーはニコッと笑う。天使かと思うほどの整った笑顔には、捕まった時の危険性など微塵も感じさせはしないくらい、いつまででも見ていたくなる美しさがある。
ハッとサラーラは気がついたようだ。ここにいてはいけない人物が当たり前の様にいるから当たり前のようにそれを受け入れてしまっていたけれども、リシュリーは本来ならここにいてはいけない様な存在だった。
「貴方様のお陰ですわ。手紙がきたのです。先日。母が…母の病がすっかりと癒やされたと……」
サラーラは両手を組み、床に跪いて嬉しそうにそう述べる。病が治った母親はまた収監される運命にあるのだが、母親本人のしっかりした字で精霊の導きだと感謝を述べる旨がつらつらと書かれていたのだと言う。その手紙が見つかったら酷く責められるのでもう燃やしてしまったのだが。サラーラの話を聞いて火の精霊が大きく肯き、本当だとサラーラの周りをピョンピョン跳ね回っている。
「うん…良かったね。」
「貴方様の、いいえ、精霊様のお陰ですわ。私達ははおろかな選択をしたというのに……助けて貰うばかりだなんて……」
今は無きサラーラの実家の領地でも、豊かな精霊の加護があったのだ。感謝しつつ精霊と共に過ごしていたあの日々がサラーラの脳裏にありありと蘇ってくる。
「……帰りたい……」
懐かしいあの地に…あの緑の大地の色に匂い…風の心地良さに、豊かな生き物達の息吹…全てがサラーラには懐かしい。
「……なるほど…サラーラの故郷は素晴らしいね…」
祈る思いで感謝を述べるサラーラから流れ出る思考が、リシュリーにも流れ込む。素晴らしかった故郷の景色に、深い深い感謝の念はリシュリー達が永年請い求めていたものだ。
フワリ…銀の髪が透けて輝く様に見えたのはきっと眼の錯覚かも知れない…
ゆったりとした、風というか空気そのものがリシュリーの周囲を意志があるものの様に自在に揺蕩っている様な不思議な空間がここに生まれているのも…
「うん…やっぱり人は僕らの共存体だ。サラーラの祈りだけで、物凄く気持ちがいい…」
気分が高揚するだけじゃなく、お腹が一杯になる様な…あ…力が溜まって行くんだ、これ……
キラキラした尊敬の瞳でサラーラはリシュリーを見つめている。もう、隠し立て出来ない程にサラーラの前ではリシュリーは人間の様には見えないだろう。
ニコニコ親しみを込めて微笑んでいる姿は人間そっくりだけれども…
「ありがとう、サラーラ!力が少し戻ったよ!これで行ける!」
自分の運命!一緒に子供を作る相手の所に!!
「リシュリー…?行くって…?見つかったら…!!」
「…大丈夫…でも、お願いがあるんだ。サラーラ…」
「な、何です?」
「時々でいい…心の中でいいから、さっきみたいに精霊にありがとうって伝えてくれる?」
サラーラの部屋の窓から、月明かりがリシュリーの周囲を包む様に照らす。
「もちろん!もちろんだわ!子供の頃からの習慣だもの!母だって、感謝したり無いほど感謝しているわ!」
「うわぉ!それは有難い!」
ニッコリと、満面の笑顔を残し、リシュリーはその場から飛び立つ。それは決して人間にはできない所業…その姿の美しさはどこをとっても邪神などとは程遠いのに、自分達はつくづく愚かだとサラーラは思わざるを得なかった……
74
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる