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14、失踪 4

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「ちょっっっと!!」

 サラーラは叫び声を殺す為に、自分の声を飲み込んで勢い余ってむせこんでしまった……

「だ、大丈夫?」

 お客が帰ったタイミングを見計らい、窓に小石を打つけると言う古典的な方法でサラーラに気がついてもらえたのだが…サラーラは酷く驚いた様だ。

「しっ!!静かに…!見つかったら、半殺しでは済まないのに…なぜ、帰ってしまったの?」

 リシュリーの無事を確かめる様に、サラーラはそっと優しくリシュリーの頬に手を当てる。あの後、大変だったそうだ。数日はリシュリーは具合が悪いと思われていたそうなのだが、ふと気がついたらいないではないか。娼館の中だけでオーナーは大騒ぎをしたそうだ。事情を知る兵士達にもリシュリーの行方を聞いたが全く足取りがつかめないと…これ以上見つからなければ、上官へ報告した上で大々的な大捜索になるかもしれないと言われ、オーナーは真っ青な顔でガタガタと震えているらしい。それでも店を開かないわけには行かないので、毎日営業はしているのだが…

「ん。だよね?でも、どうしても、探し物を見つける力が足りなくて……ここに戻ってきちゃった。」

 リシュリーはニコッと笑う。天使かと思うほどの整った笑顔には、捕まった時の危険性など微塵も感じさせはしないくらい、いつまででも見ていたくなる美しさがある。

 ハッとサラーラは気がついたようだ。ここにいてはいけない人物が当たり前の様にいるから当たり前のようにそれを受け入れてしまっていたけれども、リシュリーは本来ならここにいてはいけない様な存在だった。

「貴方様のお陰ですわ。手紙がきたのです。先日。母が…母の病がすっかりと癒やされたと……」

 サラーラは両手を組み、床に跪いて嬉しそうにそう述べる。病が治った母親はまた収監される運命にあるのだが、母親本人のしっかりした字で精霊の導きだと感謝を述べる旨がつらつらと書かれていたのだと言う。その手紙が見つかったら酷く責められるのでもう燃やしてしまったのだが。サラーラの話を聞いて火の精霊が大きく肯き、本当だとサラーラの周りをピョンピョン跳ね回っている。

「うん…良かったね。」

「貴方様の、いいえ、精霊様のお陰ですわ。私達は人間達はおろかな選択をしたというのに……助けて貰うばかりだなんて……」

 今は無きサラーラの実家の領地でも、豊かな精霊の加護があったのだ。感謝しつつ精霊と共に過ごしていたあの日々がサラーラの脳裏にありありと蘇ってくる。

「……帰りたい……」

 懐かしいあの地に…あの緑の大地の色に匂い…風の心地良さに、豊かな生き物達の息吹…全てがサラーラには懐かしい。

「……なるほど…サラーラの故郷は素晴らしいね…」

 祈る思いで感謝を述べるサラーラから流れ出る思考が、リシュリーにも流れ込む。素晴らしかった故郷の景色に、深い深い感謝の念はが永年請い求めていたものだ。

 フワリ…銀の髪が透けて輝く様に見えたのはきっと眼の錯覚かも知れない…

 ゆったりとした、風というか空気そのものがリシュリーの周囲を意志があるものの様に自在に揺蕩っている様な不思議な空間がここに生まれているのも…

「うん…やっぱり人は僕らの共存体だ。サラーラの祈りだけで、物凄く気持ちがいい…」

 気分が高揚するだけじゃなく、お腹が一杯になる様な…あ…力が溜まって行くんだ、これ……  

 キラキラした尊敬の瞳でサラーラはリシュリーを見つめている。もう、隠し立て出来ない程にサラーラの前ではリシュリーは人間の様には見えないだろう。

 ニコニコ親しみを込めて微笑んでいる姿は人間そっくりだけれども…

「ありがとう、サラーラ!力が少し戻ったよ!これで!」

 自分の運命!一緒に子供を作る相手の所に!!

「リシュリー…?行くって…?見つかったら…!!」

「…大丈夫…でも、お願いがあるんだ。サラーラ…」

「な、何です?」

「時々でいい…心の中でいいから、さっきみたいに精霊にありがとうって伝えてくれる?」
  
 サラーラの部屋の窓から、月明かりがリシュリーの周囲を包む様に照らす。

「もちろん!もちろんだわ!子供の頃からの習慣だもの!母だって、感謝したり無いほど感謝しているわ!」

「うわぉ!それは有難い!」

 ニッコリと、満面の笑顔を残し、リシュリーはその場から飛び立つ。それは決して人間にはできない所業…その姿の美しさはどこをとっても邪神などとは程遠いのに、自分達人間はつくづく愚かだとサラーラは思わざるを得なかった……







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