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13、失踪 3
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王都の中はなかなか広い。大きく立派な建造物が整然と立ち並ぶ。今は殆ど見られないが数カ所ある大きな公園には大木が茂り、きっと人々に心地よい木陰を作り出していたに違いないだろうと思われるのだ。人々の活気はある。幸せかどうかは別にして、物流に関してはまださほど問題は見られない様に思う。きっと、徐々に減りゆく収穫物は王都を中心に集められているからにほかならないのだろうけれど。
城下外の荒れようを見るに、最盛期にはどれだけの国力を誇っていただろうかと口惜しくなる…広大な大地に肥沃な土地…一面に靡く麦穂畑…人々の活気ある声と笑顔で走り回る子供達に、空を忙しそうに飛び交う小鳥の群れ……
それのどれをとっても、一つもここにはないのだった。
「悔しいなぁ……」
なんでこんな事になっているのか、リシュリーには何一つ理解なんてできなかった。かつての栄華を想像だけで噛み締める。けれど、この地にはそれがあった形跡がちゃんと残っていて、痛々しくてやりきれない。
小さな子達が、ダンダン、ダンダンとさっきから足を踏み鳴らしている。
悔しいよね…?誰がやったんだよ、こんな事…精霊達を追い払って、いじめ抜いてさ…何が楽しいって言うんだよ………
「少しだけ、反応があるんだ…まだ生きてるよ。だから、まだ間に合う…こんな人知りませんかって顔出せば……ダメなんだろうなぁ………」
この地の精霊を徹底的に排除しようとしている者達の前に、自分は精霊ですって容姿で出て行くなんて、一番最初にしてしまった愚行だ………
「また捕まっちゃうよねぇ?」
そしてまた牢屋行き…前は娼館に売られたけど、今度はどうかな?処刑もありな国だから、もしかしたら…と言う事もあり得るし…
「見つからない方向で、行くしかないよね?」
グッとフードを引き下げればどこにでもいる旅人風情。今しばらく、このままで城下街中を歩き回るしかないだろう。
でも……………
「動いてるよな……?絶対に、動いてるよな…?」
王都は広い…それは仕方がない…それに精霊の末裔なる王族も、精霊の血が薄まりすぎて気配がほぼ読めない…上に…なんとか辿っても、既にそこから動いていて……
まるで追いかけっこだ……それもこのままじゃ永遠に続く、ていう現実を突きつけられそう…
「ふぅ………」
静かな路地で一休みする。精霊だけども身体は人間なのだから喉も乾くし、腹も減るから……
「ありがと……!」
風の精霊が何処かから拝借してきたパンに果物で腹を満たし、空中から搾り取ってきた水で渇きを満たす。
「さぁて………どうする?」
ここまできたんだから見つけられないことはないのだが、何分両者とも力が乏しくて…
小さな精霊達は必死にハイハイ!とやる気満々で手を挙げてきてアピールするけど…
「まだ、ダメだよ…」
つい最近、水の精霊が帰ってしまったばかりだ。大掛かりな力を使ったら、また小さな精霊が消えて行く…大掛かりな力を使うのは最終手段にしとかなければ…!
「ん~~~分けてもらいに行くかなぁ?」
考えあぐねた末、本当なら戻りたくない、戻っちゃいけないと本能が警鐘を鳴らしているけど、ちょっと薄すぎる精霊の気配を追うには力が必要で…
ブンブンブン!!
小さい精霊達は首を振る。
「見つからない様にする。今だってこれで見つかってないでしょ?」
リシュリーの事情を知っているのは捕まえた守衛の兵士と娼館の面々だけだろうから。匿っているのがバレただけでもきっと不味いだろうから、娼館のオーナーはリシュリーという存在を周囲においそれと漏らしてはいないだろう。
「兎に角今は見つけない事には、何も先には進めないよ。分かるだろ?」
物凄いチビ達の不服そうな顔に思いっきりいい笑顔でリシュリーは微笑んだ。爺ちゃんのお墨付きの最強スマイルだ。それからきゅうっと足元に縋りついてくる子らをそっと抱きしめてよしよしする。
「行こう…何があっても、やらなきゃだろ?」
夜の娼館は賑やかで、食堂では延々と男達が飲み歌い騒ぎ尽くす声が響いていて、2階に上がった部屋にはお姉さん達が相手をするお客が入っていく。サラーラの部屋は2階の一番奥の端だ。逃げられない様にしているのか分からないが、窓には他の部屋にはない格子が嵌めてある。こんな所も精霊の信仰者とそうでない者達との差が出ているのかもしれない。
「見つからない様にしないとな……」
どの部屋の窓にも何となく人影がチラチラと写っていて、今日は盛況の様だ。接触するにはお客が寝た後、又は帰った後…少しの時間、若しくは朝まで待って皆んなが寝静まった頃合いだろう。
待つ間、夜風が鼻をくすぐっていく。目を瞑り、耳をすませばただの風音が苦しむ悲鳴の様に聞こえてきて、胸が締まる…
「もう、ほんとに、どこにいんの?」
呟いても答えてもらえない愚痴をどうしても呟かざるを得ない……
城下外の荒れようを見るに、最盛期にはどれだけの国力を誇っていただろうかと口惜しくなる…広大な大地に肥沃な土地…一面に靡く麦穂畑…人々の活気ある声と笑顔で走り回る子供達に、空を忙しそうに飛び交う小鳥の群れ……
それのどれをとっても、一つもここにはないのだった。
「悔しいなぁ……」
なんでこんな事になっているのか、リシュリーには何一つ理解なんてできなかった。かつての栄華を想像だけで噛み締める。けれど、この地にはそれがあった形跡がちゃんと残っていて、痛々しくてやりきれない。
小さな子達が、ダンダン、ダンダンとさっきから足を踏み鳴らしている。
悔しいよね…?誰がやったんだよ、こんな事…精霊達を追い払って、いじめ抜いてさ…何が楽しいって言うんだよ………
「少しだけ、反応があるんだ…まだ生きてるよ。だから、まだ間に合う…こんな人知りませんかって顔出せば……ダメなんだろうなぁ………」
この地の精霊を徹底的に排除しようとしている者達の前に、自分は精霊ですって容姿で出て行くなんて、一番最初にしてしまった愚行だ………
「また捕まっちゃうよねぇ?」
そしてまた牢屋行き…前は娼館に売られたけど、今度はどうかな?処刑もありな国だから、もしかしたら…と言う事もあり得るし…
「見つからない方向で、行くしかないよね?」
グッとフードを引き下げればどこにでもいる旅人風情。今しばらく、このままで城下街中を歩き回るしかないだろう。
でも……………
「動いてるよな……?絶対に、動いてるよな…?」
王都は広い…それは仕方がない…それに精霊の末裔なる王族も、精霊の血が薄まりすぎて気配がほぼ読めない…上に…なんとか辿っても、既にそこから動いていて……
まるで追いかけっこだ……それもこのままじゃ永遠に続く、ていう現実を突きつけられそう…
「ふぅ………」
静かな路地で一休みする。精霊だけども身体は人間なのだから喉も乾くし、腹も減るから……
「ありがと……!」
風の精霊が何処かから拝借してきたパンに果物で腹を満たし、空中から搾り取ってきた水で渇きを満たす。
「さぁて………どうする?」
ここまできたんだから見つけられないことはないのだが、何分両者とも力が乏しくて…
小さな精霊達は必死にハイハイ!とやる気満々で手を挙げてきてアピールするけど…
「まだ、ダメだよ…」
つい最近、水の精霊が帰ってしまったばかりだ。大掛かりな力を使ったら、また小さな精霊が消えて行く…大掛かりな力を使うのは最終手段にしとかなければ…!
「ん~~~分けてもらいに行くかなぁ?」
考えあぐねた末、本当なら戻りたくない、戻っちゃいけないと本能が警鐘を鳴らしているけど、ちょっと薄すぎる精霊の気配を追うには力が必要で…
ブンブンブン!!
小さい精霊達は首を振る。
「見つからない様にする。今だってこれで見つかってないでしょ?」
リシュリーの事情を知っているのは捕まえた守衛の兵士と娼館の面々だけだろうから。匿っているのがバレただけでもきっと不味いだろうから、娼館のオーナーはリシュリーという存在を周囲においそれと漏らしてはいないだろう。
「兎に角今は見つけない事には、何も先には進めないよ。分かるだろ?」
物凄いチビ達の不服そうな顔に思いっきりいい笑顔でリシュリーは微笑んだ。爺ちゃんのお墨付きの最強スマイルだ。それからきゅうっと足元に縋りついてくる子らをそっと抱きしめてよしよしする。
「行こう…何があっても、やらなきゃだろ?」
夜の娼館は賑やかで、食堂では延々と男達が飲み歌い騒ぎ尽くす声が響いていて、2階に上がった部屋にはお姉さん達が相手をするお客が入っていく。サラーラの部屋は2階の一番奥の端だ。逃げられない様にしているのか分からないが、窓には他の部屋にはない格子が嵌めてある。こんな所も精霊の信仰者とそうでない者達との差が出ているのかもしれない。
「見つからない様にしないとな……」
どの部屋の窓にも何となく人影がチラチラと写っていて、今日は盛況の様だ。接触するにはお客が寝た後、又は帰った後…少しの時間、若しくは朝まで待って皆んなが寝静まった頃合いだろう。
待つ間、夜風が鼻をくすぐっていく。目を瞑り、耳をすませばただの風音が苦しむ悲鳴の様に聞こえてきて、胸が締まる…
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