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10、邪教徒の占い師 3
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「まったく、まいったまいった……」
余程焦ったか、暑かったのだろう。旦那様は汗だくだくで食堂に戻って来た。サラーラの事が頭からすっぽり抜けてしまえるくらいには釜戸の火と格闘して来たらしい。メイシールが入れて来てくれた冷たい水を飲んで一息ついている。
「なんて事だ。こんな事産まれて初めてだぞ…」
「オーナー、この建物も所々傷んでいるし、隙間風が入りすぎるんじゃ無いですかね?」
隙間風どころの騒ぎでは無い程の騒ぎではあるがメイシールはそれで済ませたい様だ。
「まぁ、長い事この娼館をやってるからな。あ、リシュリーもう仕事は終わっただろ?食事をしたら部屋へ帰れよ?」
娼館で働く者にはほぼ自由がないのである。リシュリーもまだこの館の外に出た事もなく、周辺がどんな風景なのかも知らないでいる。リシュリーの場合はその外見から尚更、人目につく様な所へ旦那様は出したくないらしい。
「は~~い。」
今日の仕事はもうお終い。後は自由時間だけど、自由というよりは部屋でぼ~ッとして過ごしている感じ。この間に少し精霊達と交流していたりする。のだが、皆力が弱くて、ここらにいるだろう精霊を捕まえるのも一苦労している。
「窓からも顔を出すなよ?物音も立てずに大人しくしておくんだぞ?」
軟禁状態である。
う~ん…困ったな…外に出られないんじゃ精霊王の末裔を探しにいく事も出来ない…この国にいる事は分かってるのに…受け継いでいる精霊の力が余りにも弱い為にその位置までは特定できないのだけど…確かに反応は有る。
本音は直ぐにでも王子のところに行きたい!行って、ここで見て習ったお姉さん達のテクニックで…!そしてあわよくば直ぐに子供を産んであげたい!
それを、王子が気に入ってくれればいいんだけどなぁ…気がつくの遅いけど、僕、男の姿なんだよな…女の方が良かった?
王子の好みなんて知りもしない。本人の顔も知らないんだから、こればかりは仕方がない。でも、早くしなくちゃいけない事は肌で感じている。なんだか空気が違うんだよな…なんだろう?僕を受け付けない様な?違うな…無理矢理力を吸い尽くそうとしている?
肌にまとわりつく空気が触れた所から何とか力を吸い出そうとしている様にも感じるんだ。それだけ、この大地は飢え、渇き、危機に瀕しているという事…
「このままの姿で出たらダメかな?」
娼館で占い師として働き出してからしばらく経った。だから周囲の人々にはフードを被った姿がここにいる占い師だって分かるだろう。だから、きっと酷い事にはならないんじゃ…とまで考えて、フルフルと首を振る。
もし、フードが外れて見つかれば、きっと最悪の場合、邪教徒の占い師として捕まって処刑………?……までは、されないよね?いやいや、貴族であったサラーラさえも親族は牢へ、サラーラは娼館へと落とされたのだから…精霊王の姿を完全に模している様なリシュリーならば、その存在を即刻抹消されてもおかしくないのでは…?
「こわっ………」
リシュリーはキュッと眉間を顰めて見せて、恐怖の後に襲いくる怒りにもまた頭を悩ませる。
小さい精霊も足をダンダンと踏み締めて怒っている。リシュリーの感情と同期していてリシュリーに代わって怒ってくれてる。
音、立てられないしな…
邪教だ、呪いだなんて言われて、ダンダンと足を踏み鳴らしたいのをグッと堪えるしかないなんて…肩身が狭すぎる…
「飛んでみたいな…」
部屋にある小さな小窓から見える空はどこまでも高くて、広くて、まるで全力でリシュリーを誘っている様にしか見えない。
精霊なんだ…
世界中を風に乗って、または雲に混じって渡り歩く。ここにに来たら自分達が働きかける世界中を見て回りたいと思っていたんだ。
けど、まだ、窓から顔も出せない…
"ああああ~~!!!"
人間には聞こえない精霊の言葉で発散を試みる。得た効果は小さな精霊達がビックリして飛び上がっただけだった。
「よし、行こう!!」
決めた!もう決めたもんね!!地上に出たら自由に過ごすって決めてたもんね!それで、この国の本当の後継者に子孫を残す。
ウジウジ考えるのはもうや~めた!!
夜、人間の目が覆われている時にここから出る!身代わりの目眩しをかけておけば少しは時間稼ぎもできるだろうし、それ位ならばそんなに影響はないから…
リシュリーはじっと窓の下に座り込んだ。これからが娼館の賑やかな時間帯だ。この辺り数件同じような店があるのは外から聞こえてくる音でわかっている。深夜に続く狂乱が治ってから決行する!
精霊だから、食べ物も、飲み物も要らない。なんなら王子のところまで移動するだけなのでお金だって要らない。
ただ、この身一つで行ってみせるさ……
余程焦ったか、暑かったのだろう。旦那様は汗だくだくで食堂に戻って来た。サラーラの事が頭からすっぽり抜けてしまえるくらいには釜戸の火と格闘して来たらしい。メイシールが入れて来てくれた冷たい水を飲んで一息ついている。
「なんて事だ。こんな事産まれて初めてだぞ…」
「オーナー、この建物も所々傷んでいるし、隙間風が入りすぎるんじゃ無いですかね?」
隙間風どころの騒ぎでは無い程の騒ぎではあるがメイシールはそれで済ませたい様だ。
「まぁ、長い事この娼館をやってるからな。あ、リシュリーもう仕事は終わっただろ?食事をしたら部屋へ帰れよ?」
娼館で働く者にはほぼ自由がないのである。リシュリーもまだこの館の外に出た事もなく、周辺がどんな風景なのかも知らないでいる。リシュリーの場合はその外見から尚更、人目につく様な所へ旦那様は出したくないらしい。
「は~~い。」
今日の仕事はもうお終い。後は自由時間だけど、自由というよりは部屋でぼ~ッとして過ごしている感じ。この間に少し精霊達と交流していたりする。のだが、皆力が弱くて、ここらにいるだろう精霊を捕まえるのも一苦労している。
「窓からも顔を出すなよ?物音も立てずに大人しくしておくんだぞ?」
軟禁状態である。
う~ん…困ったな…外に出られないんじゃ精霊王の末裔を探しにいく事も出来ない…この国にいる事は分かってるのに…受け継いでいる精霊の力が余りにも弱い為にその位置までは特定できないのだけど…確かに反応は有る。
本音は直ぐにでも王子のところに行きたい!行って、ここで見て習ったお姉さん達のテクニックで…!そしてあわよくば直ぐに子供を産んであげたい!
それを、王子が気に入ってくれればいいんだけどなぁ…気がつくの遅いけど、僕、男の姿なんだよな…女の方が良かった?
王子の好みなんて知りもしない。本人の顔も知らないんだから、こればかりは仕方がない。でも、早くしなくちゃいけない事は肌で感じている。なんだか空気が違うんだよな…なんだろう?僕を受け付けない様な?違うな…無理矢理力を吸い尽くそうとしている?
肌にまとわりつく空気が触れた所から何とか力を吸い出そうとしている様にも感じるんだ。それだけ、この大地は飢え、渇き、危機に瀕しているという事…
「このままの姿で出たらダメかな?」
娼館で占い師として働き出してからしばらく経った。だから周囲の人々にはフードを被った姿がここにいる占い師だって分かるだろう。だから、きっと酷い事にはならないんじゃ…とまで考えて、フルフルと首を振る。
もし、フードが外れて見つかれば、きっと最悪の場合、邪教徒の占い師として捕まって処刑………?……までは、されないよね?いやいや、貴族であったサラーラさえも親族は牢へ、サラーラは娼館へと落とされたのだから…精霊王の姿を完全に模している様なリシュリーならば、その存在を即刻抹消されてもおかしくないのでは…?
「こわっ………」
リシュリーはキュッと眉間を顰めて見せて、恐怖の後に襲いくる怒りにもまた頭を悩ませる。
小さい精霊も足をダンダンと踏み締めて怒っている。リシュリーの感情と同期していてリシュリーに代わって怒ってくれてる。
音、立てられないしな…
邪教だ、呪いだなんて言われて、ダンダンと足を踏み鳴らしたいのをグッと堪えるしかないなんて…肩身が狭すぎる…
「飛んでみたいな…」
部屋にある小さな小窓から見える空はどこまでも高くて、広くて、まるで全力でリシュリーを誘っている様にしか見えない。
精霊なんだ…
世界中を風に乗って、または雲に混じって渡り歩く。ここにに来たら自分達が働きかける世界中を見て回りたいと思っていたんだ。
けど、まだ、窓から顔も出せない…
"ああああ~~!!!"
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夜、人間の目が覆われている時にここから出る!身代わりの目眩しをかけておけば少しは時間稼ぎもできるだろうし、それ位ならばそんなに影響はないから…
リシュリーはじっと窓の下に座り込んだ。これからが娼館の賑やかな時間帯だ。この辺り数件同じような店があるのは外から聞こえてくる音でわかっている。深夜に続く狂乱が治ってから決行する!
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