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1、幸せに
しおりを挟む2人の出会いは、牢の中……
そして別れは……
幸せに…
ただ、幸せに…
そう願って、温かな手の優しい母達は
自らの子供を宿し、手放していく…
ただその子の幸せだけを願って……
………サージェ…あの子を、
よろしくお願いします………
最後の言葉を言い残し、我が子を手放した白い腕が力無く落ちる…銀の長い髪を周囲に散らしながら、リシュリーは、光が散る様に、消えていった……
---------------------------------------
「失敗、なのかな…これ?」
乾いた石造りの頑強な建物に放り込まれてから、かれこれ数時間は経つ。素朴な石造りの部屋の中には調度品は何も無し。扉は一つで放り込まれた時に鍵をかけられ勿論外に出る事は叶わない。唯一あるのは石壁の手の届かない様な上部に、外部とつながる格子がはまった小窓が一つ……
「あ~~ぁ……」
仕方がないから、勢いよく冷たい石の床にゴロンと寝転がる。柔らかな銀の髪がその勢いでパサリ、と目元にかかってきた。それを指でチョイチョイ、と跳ね除けながらゴロリと横に向き直る。
"しっぱい?なら、そとにでる?"
"もういちど?"
濃い紫の瞳を閉じて耳をすませば、優しい子達の声がする。力が弱くなって、今の自分でも集中しないと音が聞き取れない。
「さっきは、行けると思ったんだけどなぁ…?」
何がいけなかったのか…?ここまで連れてきてくれた兵士は確かに自分に興味を持ってくれていたはず。縄で縛る時も痛くはしなかったし……
"でる?とかす?"
先程からまだかまだかと言うように、ピョンピョンと跳ねながら、赤い火の精霊が必死にアピールしてくる。
この子は木の扉を燃やすか、窓についている格子でも溶かすつもりでいるらしい。
「だめ、そんな事したら力が尽きるよ?」
けれどももう一度、いや何度でも、目的の為には繰り返すほかないのは事実で…目的を果たすにはまず、ここから出なければいけないだろう。
「さて…?」
どうしたものかと、う~ん、う~んと考えてみても、当然のこと良い答えなんて浮かばないのである。
「爺ちゃんは行けば分かるって言ってたのに…」
皆んなから預かった力を使って、やっと大事な役目を果たす時が来た。それなのに、人間側にはこの情報は共有されていないのだろうか?ここに入れられる前に大きな公園の前を通った。その中央には綺麗な紫の宝石が嵌め込まれた精霊王と思しき石像が建てられていて、人間達が完全に精霊を忘れてしまったのではない事をちゃんと物語っていると言うのに……
「結果、これだもんねぇ…?」
多分、今自分は捕まっている。それも牢屋にぶち込まれた状態で…
「この姿、ダメだったの?」
首を傾げて見上げてくる火の精霊に、銀の髪を持つ青年リシュリーも首を傾げて聞き返す。
"せいれいおうのすがた、まちがえない!"
皆んな口を揃えて称賛してくれるこの姿は間違えようもなく精霊の血を引く証。だから直ぐにでも出会えると思っていたのに、現実はちっとも甘くはない様だ……
マランダ王国はかつて精霊王の血を受けた者が起こした王国と言われている。精霊王の血筋とされる紫の瞳を持つ子供達が代々この地を受け継ぎ、精霊と交信することで国を栄えさせてきたと言う。
しかしこれは昔々のお話で、今ではすっかりとおとぎ話の様に語り継がれているものとなり、今ではその真偽を測る術もない。
しかし産まれてくる王族の瞳は伝承の通りの薄紫色。王族達は代々伝統に則り祭事をし、精霊との交信に努めてきたと言う。だが時代の流れと共に、精霊との交信は頻度が減りそれに伴い信心もまた薄まった。
その様な王国で国王はどうやって己の地位を守るべきか…逸話となって久しい精霊王の血と力を確固たるものとする為に、精霊の力を受け継ぐ王族を絶やさず、彼らを全面に押し出し、王家の力の盤石さを世に知らしめた。精霊王の血を引くと言われている薄紫の瞳を持つ子供達には何某かの不思議な力があった。ある者は風を読み、ある者は水を操る。また火に愛される者もいれば氷に愛され生涯人と触れ合うことすらできなかった者もいたと言う。
大地を統べる精霊の申し子として彼らは崇められ、王族として王国を長年支配してきたが、長い年月は反発する者達をも生み出した。盲目的に続く国王の支配に疑問を抱き、真っ向から反発する勢力…長い年月をかけ、ジワジワと力を溜め込んで来た反勢力は、まやつばなる精霊の力に常に疑問を投げかけ、能力がある者達による公平な統治をと謳いだしたのだ。
精霊の力は劣る…長い年月のうちに人々の心は彼らより離れ、親愛と友愛、感謝は猜疑や疑義に立ち代わり、更にはこの世から精霊を排除しようとする動きにまで発展してしまった。
「幸せに……」
なって欲しいと願いを込めて…かつての精霊王は人間と交わってきたのに…
「忘れちゃったのかな…」
賑やかな人々の楽しそうな声。親しみと喜び、愛情を込めて自分達を呼ぶ声をリシュリーは1番近くで聞いてきたのだ。
いずれ自分も人間の元に行く事をことの他楽しみに待ちながら…
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