[完]鎖の付いた使役人はコミュ障マスターを溺愛したい

小葉石

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「で?どうしたと言うのですか?いつもならばもう少し冷静だったでしょう?」

 カイルが言った通りに、入浴を終えて大量の朝食兼昼食を処理し終わって食後のお茶を飲んでいると、宿舎のドアが鳴った。
開けなくても訪問者は魔術師長のスーレだ。

 スーレはカイルが出してくれた茶に目礼で答えるとゆっくりと口をつけながら話し出した。


「はい……すいませんでした。」

 自宅だと言うのに、いつもスーレに会う時の元気はユリージュは今は見えない。椅子の上でユリージュの小さな身体がさらに小さくなっている。

「ユリージュ…責めているのではありませんよ?カイルだって貴方の呼び掛けに答えただけでしょう?」

「あぁ。」

 然も当然、カイルの返事は明確だった。

「人の、いる所には、行きたく有りませんでした…」

「……ユリージュが人混みを苦手なのは知っています。だから、私はこれ以上深くは聞くつもりは無いのです…シヨンも側にいましたね?」

「……はい…」

「では、わかりました……」

 ふぅ、と溜息を吐いたスーレはユリージュが何に恐怖しているのか分かった様だ。

「ユリージュ……」

「はい…」

「全て、嫌なことから逃げる事がいいことでは無いと、私も知ってはいるんです。」

「…僕も、知っています…」

「そうだね…だけど、コクラン村の事は君の責任じゃ無い。」

「………」

「分かるね?あの村は消滅したけれど、消えたのは村だけでしたよ?怪我をした者はのだから。ね、カイル?」

「………そうそう、先生の言う通りだろ?お前、村人全員に防御魔法張ってたって聞いてるぞ?だから村民は欠けなかった。………やっぱり、俺のユリージュは凄いな…!」

 カイルの言葉にユリージュはバッと、下を向いていた顔を上げる。ジッと大きく見開いた金の瞳はカイルの緑色の目を凝視していた。

 ぽんぽん、ぽんぽんカイルはいつもの様にユリージュの頭を撫でる。いや、いつもより優しく労わる様に……

 
 幼い時のユリージュの記憶の中で………ぽんぽんと頭を撫でるカイル………凄いな!とまるで自分のことの様にカイルはユリージュを誉めたっけ………

 一つも変わったところなんて無いのに……なのに、何でこんなに苦しいんだろう……?

「あぁ~~ほら!泣くなって!そんなに泣いたら目が溶けるぞ?」

 ユリージュの金の瞳から、ポロポロと流れ落ちる大粒の涙。

………こうやって、泣くところはいつまで経っても変わらないな………

 妙な感慨を受けているカイルだが、今はそれに浸っている場合では無い。

………しょうがないなぁ………

 いい加減、カイルもユリージュのこの泣き顔には弱いのだ。

「ほら、お前の防御魔法は完璧なんだから、コクラン村では人的被害は!だろ?」

 膨大な魔力の持ち主であるユリージュだからこそできた技だ。ユリージュであったから良かったとも言える。

「……カイル……?」

「ほい、ここにいる。」

 ユリージュの呼び声に、なでなでしていたカイルの手は自分の方へとユリージュの頭を寄せた。ポンと、逞しいカイルの胸板にユリージュは寄りかかる形になる。当然ながらそこにはカイルの鼓動の音がする。ユリージュがよく知っている昔から変わらない音………

 カイルはユリージュが作り出した使役人だから………

「カイル……ごめんなさい………」

 ボタボタと流れ落ちるユリージュの涙は止まらない。

「何で謝ることがある?俺はここにいるだろう?一緒に背負ってやるから泣くな…」

 言いながら、カイルはスーレに帰れと手振りで示した。

 魔術師長スーレはどこか不安げな表情を貼り付けたまま、カイルにはやれやれと言いたげな視線を投げてくる。が、何も言わずにカイルの指示に従い静かに宿舎を出て行った。

 ボタボタボタボタ…流れる涙の量は変わらない。ユリージュは身体中の水分でも出し切るつもりなのだろうか…?

「ほら、ユリ…スーレ先生帰ったぞ?……手紙があるな?後で読めよ?」

 スーレが座っていたテーブルの上には、一枚の書類が置いてあるのが見える。


「………被害はなかった……?……本当に……?…………嘘だ……………」

 普段は平気そうに気丈に振る舞っているユリージュだが、コクラン村の被害が全くのゼロでは無いことを知っている………  
 消えそうな声で呟いたユリージュに、カイルは優しく抱き締めることで答えてくる。

「それでも、俺はここにいるだろう?」

 この温かさは、偽物じゃ無い………心臓の音はいつも変わらないけれど、ホカホカと暖かいカイルはユリージュよりも体温が高いのでは無いだろうか?

 いつもいつも、温かい………出会った頃からその笑顔は眩しかった……カイルはユリージュが大切だと心から初めて思った人で、無くしたくなくて、呆れられたく無くて、いつも自分に目を向けてもらいたくて、カイルにまた褒めてもらいたくて、はいつも以上に無茶をした。


(忘れようと思っても…忘れる事なんてできない……カイル、ごめんなさい………)










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