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何故だか浴室まで掛け布団と共にユリージュを連れて来たカイルが、何故だか一緒に入ろうとするのをなんとか押しとどめて、ユリージュは一通りシャワーで身を清めた後にダイニングへと入って来た。
そこには、いつもの様な朝食の風景……
暖かいスープに、焼きたてのパン。まだ湯気が出ている様な、出来立てのメイン料理がいい匂いを香らせて狭いテーブルに所狭しと並べてある。勿論、使役人であるカイルは料理を食べなくても良いので(昨夜、散々ユリージュを食べて魔力を補っているので)これは全てユリージュの朝食分だ。
(あったかいなぁ……)
勿論室温では無くて、テーブルの上に用意されてる食事の温度でも無くて………いつもユリージュの為に用意してくれるカイルの気持ちが全部詰まったような家の中のこの雰囲気……
短いため息と共にユリージュが少しだけ目を瞑れば、忘れかけていた子供の頃の自分の姿が目に浮かぶ…
決して家とはいえない様な壊れかけの廃屋の様な建物と、どんよりとした空が続く村の中……お腹が空いてても構ってもらえず、寒くて震えていても薄い布切れ一枚だけを放り投げて来る様な親達だった。元々が物凄く貧しい村の産まれだったので村民に教養があるわけでもなく、その日その日を生きて行くのに皆んな精一杯で。農耕地を与えられていても岩場の様な土地では碌な作物も作れなくて、唯一長期保存がし易い芋類を主に主食としていたっけ……
親達はユリージュの分の食事を用意できなかったわけではない。なんとか親子三人位なら食べていけるほどの糧はあったはずだ。貧さではなくて、恐ろしさから親達はユリージュをやっかむ様になってしまった。ユリージュが魔力を持っていると知った時から、まるで怪物を見る様な目でユリージュを見ていた。それが物心つく前だからユリージュには親達から愛情を受けて過ごしたという記憶なんてない。いつも飢えていて、寒くて、心細くて…家の中に入れてもらいたいのに、一晩中外に締め出されていた事もあった。
でも何かに縋り付いていなければ生きていけない子供には、邪険にされようとも突き放されようとも目の前にいる親達しかいないのだから……家からも村からも離れることができなかったユリージュがよく覚えているのは、家族や村人から浴びていた冷たい視線だ。
膨大な魔力の制御を教えてくれたのは灰色の髪の先生…
人の暖かさや柔らかさと笑顔を教えてくれたのはカイル……
フッと目を開けたユリージュの目には今日もカイルの笑顔が飛び込んでくる。
「どうした?まだ目が覚めないのか?」
いつも余裕そうな笑顔で、ユリージュを翻弄してくるユリージュが心を許した、たった一人の人。
「………美味しそう……」
あの時の事を思い出せば、思わず泣いてしまいそうになる程切なくて、嬉しくて、大切な宝物で……
(なんで、僕……)
今日は特別な日なんかじゃない。記念日でも何かイベントがある訳でもない。田舎に帰りたくないユリージュは望郷の思いに駆られることもないのに…
(こんな事、朝から思い出したんだろ)
その場から動かなくなってしまったユリージュにカインが近寄って来た。ユリージュの額に口付けを落としゆっくりと頭を撫でてから、カイルはユリージュを横抱きに抱え上げた。元より体格差があるのでカイルは難なくユリージュを持ち運ぶ。
「僕も、カイルみたいに大きくなるかな?」
「え?」
唐突にまた何のことだ?とキョトンとしてしまったカイルから恥ずかしそうにユリージュは目を伏せる。
「……そうしたら、僕だってカイルを運べるし…」
「プッ…ククク…ククククク……」
「何で笑うの?」
ユリージュは真っ赤になって、ククククと笑い続けるカインをキッと睨む。それでもカインは笑い止まなくて、ダイニングの席にユリージュを座らせてフォークを持たせてもまだ笑っていた。
「カイル!」
「ハハ!だって俺、お前の使役人だろ?」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ、なんで主人のお前が使役物運ぼうとしてんの?」
「…う、それは…」
「……作られた物は主人に尽くすんだろ?主人が尽くそうとしてどうする?ほらユリージュ、あったかいうちに食べる食べる!」
「あ、はい、いただきます…」
確かにユリージュはカインの主人。ユリージュの魔力でカイルは生きているわけだし。
「おいし……」
カイルは料理が上手だ。最初からだったろうか?出会った頃はこんなに上手かなんて知らなかったと思う。そもそも、食事がこんなに暖かくて美味しいものなんてユリージュは知らなかったから。
カイルの作った料理をユリージュは手を休めずにせっせと口に運び入れて行く。いつもの朝の風景がいつもの様に見れる事がこの上もなくカイルには嬉しい。
「初めて俺の飯を食べた時、ユリはなんて言ったっけな……?」
空腹だっただろうユリージュが夢中で黙々と食べている様を見ながら、カイルは思わずそう漏らした。
ここにいる事さえカイルにとっては奇跡に等しい。これ以上の幸せなんかないんだろうなとさえ思う。
「ん…?あぁに?」
モグモグしながらユリージュはカイルを見つめた。
そこには、いつもの様な朝食の風景……
暖かいスープに、焼きたてのパン。まだ湯気が出ている様な、出来立てのメイン料理がいい匂いを香らせて狭いテーブルに所狭しと並べてある。勿論、使役人であるカイルは料理を食べなくても良いので(昨夜、散々ユリージュを食べて魔力を補っているので)これは全てユリージュの朝食分だ。
(あったかいなぁ……)
勿論室温では無くて、テーブルの上に用意されてる食事の温度でも無くて………いつもユリージュの為に用意してくれるカイルの気持ちが全部詰まったような家の中のこの雰囲気……
短いため息と共にユリージュが少しだけ目を瞑れば、忘れかけていた子供の頃の自分の姿が目に浮かぶ…
決して家とはいえない様な壊れかけの廃屋の様な建物と、どんよりとした空が続く村の中……お腹が空いてても構ってもらえず、寒くて震えていても薄い布切れ一枚だけを放り投げて来る様な親達だった。元々が物凄く貧しい村の産まれだったので村民に教養があるわけでもなく、その日その日を生きて行くのに皆んな精一杯で。農耕地を与えられていても岩場の様な土地では碌な作物も作れなくて、唯一長期保存がし易い芋類を主に主食としていたっけ……
親達はユリージュの分の食事を用意できなかったわけではない。なんとか親子三人位なら食べていけるほどの糧はあったはずだ。貧さではなくて、恐ろしさから親達はユリージュをやっかむ様になってしまった。ユリージュが魔力を持っていると知った時から、まるで怪物を見る様な目でユリージュを見ていた。それが物心つく前だからユリージュには親達から愛情を受けて過ごしたという記憶なんてない。いつも飢えていて、寒くて、心細くて…家の中に入れてもらいたいのに、一晩中外に締め出されていた事もあった。
でも何かに縋り付いていなければ生きていけない子供には、邪険にされようとも突き放されようとも目の前にいる親達しかいないのだから……家からも村からも離れることができなかったユリージュがよく覚えているのは、家族や村人から浴びていた冷たい視線だ。
膨大な魔力の制御を教えてくれたのは灰色の髪の先生…
人の暖かさや柔らかさと笑顔を教えてくれたのはカイル……
フッと目を開けたユリージュの目には今日もカイルの笑顔が飛び込んでくる。
「どうした?まだ目が覚めないのか?」
いつも余裕そうな笑顔で、ユリージュを翻弄してくるユリージュが心を許した、たった一人の人。
「………美味しそう……」
あの時の事を思い出せば、思わず泣いてしまいそうになる程切なくて、嬉しくて、大切な宝物で……
(なんで、僕……)
今日は特別な日なんかじゃない。記念日でも何かイベントがある訳でもない。田舎に帰りたくないユリージュは望郷の思いに駆られることもないのに…
(こんな事、朝から思い出したんだろ)
その場から動かなくなってしまったユリージュにカインが近寄って来た。ユリージュの額に口付けを落としゆっくりと頭を撫でてから、カイルはユリージュを横抱きに抱え上げた。元より体格差があるのでカイルは難なくユリージュを持ち運ぶ。
「僕も、カイルみたいに大きくなるかな?」
「え?」
唐突にまた何のことだ?とキョトンとしてしまったカイルから恥ずかしそうにユリージュは目を伏せる。
「……そうしたら、僕だってカイルを運べるし…」
「プッ…ククク…ククククク……」
「何で笑うの?」
ユリージュは真っ赤になって、ククククと笑い続けるカインをキッと睨む。それでもカインは笑い止まなくて、ダイニングの席にユリージュを座らせてフォークを持たせてもまだ笑っていた。
「カイル!」
「ハハ!だって俺、お前の使役人だろ?」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ、なんで主人のお前が使役物運ぼうとしてんの?」
「…う、それは…」
「……作られた物は主人に尽くすんだろ?主人が尽くそうとしてどうする?ほらユリージュ、あったかいうちに食べる食べる!」
「あ、はい、いただきます…」
確かにユリージュはカインの主人。ユリージュの魔力でカイルは生きているわけだし。
「おいし……」
カイルは料理が上手だ。最初からだったろうか?出会った頃はこんなに上手かなんて知らなかったと思う。そもそも、食事がこんなに暖かくて美味しいものなんてユリージュは知らなかったから。
カイルの作った料理をユリージュは手を休めずにせっせと口に運び入れて行く。いつもの朝の風景がいつもの様に見れる事がこの上もなくカイルには嬉しい。
「初めて俺の飯を食べた時、ユリはなんて言ったっけな……?」
空腹だっただろうユリージュが夢中で黙々と食べている様を見ながら、カイルは思わずそう漏らした。
ここにいる事さえカイルにとっては奇跡に等しい。これ以上の幸せなんかないんだろうなとさえ思う。
「ん…?あぁに?」
モグモグしながらユリージュはカイルを見つめた。
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