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「手、手を……離して、下さい…!」
見知らぬ人間と話す事すらきついのに、至近距離で腕まで掴まれたらユリージュはどうして良いか分からなくなる。
「うん。ちゃんと離すから安心しな?さっきも言ったけどさ、魔術師側の防御魔法のコツ、一つだけでも教えてくれないか?」
そんな、こと言われたって………
ユリージュの額にジワリと嫌な汗が滲み出る。
「どうも、うちの奴らは剣技で突っ走る癖があるから、魔法とのコントロールバランスがイマイチで………」
ユリージュの腕を掴みながら、う~ん、と考え出すハーク。
考え事なら、お願いだから、一人でして…!
一向に離そうともしない腕を必死に引き戻そうとしながら、他の隊員がこの状況に気がついてくれまいかと、ユリージュは周囲に目を凝らす。魔法剣士も魔術師もそれぞれ皆一定の間隔を空けて警護につき結界を維持している。遠くの方で聞こえてくるのは王女様達がいる場所の馬の鳴き声だろうと思われた。
「………!」
掴まれるのが怖くて声をあげそうになるけれど、ユリージュは必死に声を抑えた。仮にも王族が過ごしているこの空間で、警護の者が問題を起こすわけにはいかなかったから。
「そこまでにしておきましょうか?ハーク魔剣士隊長?」
「……先生…………」
隣に現れた魔術師長スーレの顔を見上げるユリージュは既に金の瞳に一杯涙を溜めて半泣きだ。
「お!スーレ魔術師長!」
「全く、魔剣士の隊長ともあろう方が弱い者いじめですか?」
「え?弱い者?」
ハークはスーレの言葉に一瞬キョトンとする。
「まっさか!花の様な麗しさは心から認めるけど、この子は弱くなんてないじゃ無いか。この見事な結界もほとんど一人で張ってるんだろう?」
だったらこんなに魔術師の人員も要らないよな?などとハークは人事についても口にしている。
「……よく見てくださいね、ハーク魔剣士隊長?ユリージュが本気で泣きそうなので…」
スーレの登場にも未だにユリージュの腕を離さないハークの手を振り解きたくて、ユリージュは涙目でスーレに助けを求めて来た。
「おっ?それは、すまん…おい、本当に泣いてんのか?俺、そんなに怖い?」
「………」
フルフルフル、ハーク自身が怖いとかでは無い。ただ、人が近付くのがユリージュにとっては辛い…
「ハーク魔剣士隊長……取り敢えずはユリージュの腕を離してあげてください。」
「すまん……」
散々スーレに促されて、ハークはやっとユリージュの手を離す。
「そもそも、魔法剣士と魔術師では術の完成度に求めるものが違うでしょうに。」
ユリージュを背後に庇いながら、スーレは面倒臭そうに言う。
魔術師は文字通り魔術のみで敵に向き合わなければならない。その為に人よりも高い魔力が求められるし、そのコントロールについても完成度を非常に上げる訓練をしている。が、魔法剣士といえば剣技に耐える身体と魔術を操れる魔力とをバランスよく育て上げていくもので、どちらかに偏ればいいと言うものでも無い。逆に魔力が少なくとも剣技に優れていれば、魔術を目眩しの代わりに上手く利用しながら戦う者も多い。なので、魔法剣士にとっては魔術の完成度を徹底的に追い求める風潮は無いのだが……
「ま、そう言ってくれるな…スーレ魔術師長。そこは、俺も分かっているんだがね。結界力が高い事は別に悪い事ではないだろ?」
それだけ、部下の死亡率が下がるからな。そう言ったハークは、不躾な距離のわからない男ではなくて部下思いの熱意ある男だった。
「分かりますが、ユリージュは人に近付かれるのも苦手なんですよ。悪戯に恐怖心を与えないでくださいね?」
「なんだ?聞いていた通り、随分と過保護だな?」
ケラケラと揶揄う様にハークは笑う。
「ユリージュ、チーと一緒に向こうに行ってなさい。少し、私はこの人と話をしたいので。」
笑っているハークを綺麗に無視して、スーレはユリージュに向き直る。
「はい……」
不本意にズイッと距離を詰められたユリージュはまだ治らない寒気のする自分の身体を抱きしめる様にして、先に飛ぶチーの後について行く。
「スーレの言う事は素直に聞くんだな?」
その後ろ姿を見送るハークの顔は少々呆れ顔だ。
「そうでしょうね?彼が懐いている数少ない人間ですから。」
「ふ~~ん。なぁ、あの子貸してくれないか?」
「ダメです…それに、魔術防衛課の魔術訓練は極秘事項ですよ?」
「やっぱダメかぁ~~」
「貴方はいくつになっても変わりませんね……」
呆れ顔のハークよりも更に表情を崩してスーレはため息を吐く…
合同任務……こう言う輩がいるから面倒なんだ、とスーレは独りごちた。ハークの言う通り、警護だけならば魔術師長が出てくる必要は無いのだが、稀にハークの様な輩が魔術師に絡む事がある。魔法剣士の中には剣一筋の騎士や魔術一筋の魔術師に対抗意識を持つ者もいるから。
「ハーク、よく覚えていてくださいね?余り魔術師側の邪魔はしないで頂きたい。集中力が切れたら結界が崩壊しますから…」
「分かっているけどさ。この結界頑丈過ぎるだろ?」
スーレの言葉に、ククッと面白そうにハークは笑う。どう見ても、結界が揺れた様子も、効力が薄まった様子も見えないからだ。言わば完璧……どうしてもと、ハークが教えてもらいたいと思うほどに見事な結界が周囲に張り巡らされていた……
見知らぬ人間と話す事すらきついのに、至近距離で腕まで掴まれたらユリージュはどうして良いか分からなくなる。
「うん。ちゃんと離すから安心しな?さっきも言ったけどさ、魔術師側の防御魔法のコツ、一つだけでも教えてくれないか?」
そんな、こと言われたって………
ユリージュの額にジワリと嫌な汗が滲み出る。
「どうも、うちの奴らは剣技で突っ走る癖があるから、魔法とのコントロールバランスがイマイチで………」
ユリージュの腕を掴みながら、う~ん、と考え出すハーク。
考え事なら、お願いだから、一人でして…!
一向に離そうともしない腕を必死に引き戻そうとしながら、他の隊員がこの状況に気がついてくれまいかと、ユリージュは周囲に目を凝らす。魔法剣士も魔術師もそれぞれ皆一定の間隔を空けて警護につき結界を維持している。遠くの方で聞こえてくるのは王女様達がいる場所の馬の鳴き声だろうと思われた。
「………!」
掴まれるのが怖くて声をあげそうになるけれど、ユリージュは必死に声を抑えた。仮にも王族が過ごしているこの空間で、警護の者が問題を起こすわけにはいかなかったから。
「そこまでにしておきましょうか?ハーク魔剣士隊長?」
「……先生…………」
隣に現れた魔術師長スーレの顔を見上げるユリージュは既に金の瞳に一杯涙を溜めて半泣きだ。
「お!スーレ魔術師長!」
「全く、魔剣士の隊長ともあろう方が弱い者いじめですか?」
「え?弱い者?」
ハークはスーレの言葉に一瞬キョトンとする。
「まっさか!花の様な麗しさは心から認めるけど、この子は弱くなんてないじゃ無いか。この見事な結界もほとんど一人で張ってるんだろう?」
だったらこんなに魔術師の人員も要らないよな?などとハークは人事についても口にしている。
「……よく見てくださいね、ハーク魔剣士隊長?ユリージュが本気で泣きそうなので…」
スーレの登場にも未だにユリージュの腕を離さないハークの手を振り解きたくて、ユリージュは涙目でスーレに助けを求めて来た。
「おっ?それは、すまん…おい、本当に泣いてんのか?俺、そんなに怖い?」
「………」
フルフルフル、ハーク自身が怖いとかでは無い。ただ、人が近付くのがユリージュにとっては辛い…
「ハーク魔剣士隊長……取り敢えずはユリージュの腕を離してあげてください。」
「すまん……」
散々スーレに促されて、ハークはやっとユリージュの手を離す。
「そもそも、魔法剣士と魔術師では術の完成度に求めるものが違うでしょうに。」
ユリージュを背後に庇いながら、スーレは面倒臭そうに言う。
魔術師は文字通り魔術のみで敵に向き合わなければならない。その為に人よりも高い魔力が求められるし、そのコントロールについても完成度を非常に上げる訓練をしている。が、魔法剣士といえば剣技に耐える身体と魔術を操れる魔力とをバランスよく育て上げていくもので、どちらかに偏ればいいと言うものでも無い。逆に魔力が少なくとも剣技に優れていれば、魔術を目眩しの代わりに上手く利用しながら戦う者も多い。なので、魔法剣士にとっては魔術の完成度を徹底的に追い求める風潮は無いのだが……
「ま、そう言ってくれるな…スーレ魔術師長。そこは、俺も分かっているんだがね。結界力が高い事は別に悪い事ではないだろ?」
それだけ、部下の死亡率が下がるからな。そう言ったハークは、不躾な距離のわからない男ではなくて部下思いの熱意ある男だった。
「分かりますが、ユリージュは人に近付かれるのも苦手なんですよ。悪戯に恐怖心を与えないでくださいね?」
「なんだ?聞いていた通り、随分と過保護だな?」
ケラケラと揶揄う様にハークは笑う。
「ユリージュ、チーと一緒に向こうに行ってなさい。少し、私はこの人と話をしたいので。」
笑っているハークを綺麗に無視して、スーレはユリージュに向き直る。
「はい……」
不本意にズイッと距離を詰められたユリージュはまだ治らない寒気のする自分の身体を抱きしめる様にして、先に飛ぶチーの後について行く。
「スーレの言う事は素直に聞くんだな?」
その後ろ姿を見送るハークの顔は少々呆れ顔だ。
「そうでしょうね?彼が懐いている数少ない人間ですから。」
「ふ~~ん。なぁ、あの子貸してくれないか?」
「ダメです…それに、魔術防衛課の魔術訓練は極秘事項ですよ?」
「やっぱダメかぁ~~」
「貴方はいくつになっても変わりませんね……」
呆れ顔のハークよりも更に表情を崩してスーレはため息を吐く…
合同任務……こう言う輩がいるから面倒なんだ、とスーレは独りごちた。ハークの言う通り、警護だけならば魔術師長が出てくる必要は無いのだが、稀にハークの様な輩が魔術師に絡む事がある。魔法剣士の中には剣一筋の騎士や魔術一筋の魔術師に対抗意識を持つ者もいるから。
「ハーク、よく覚えていてくださいね?余り魔術師側の邪魔はしないで頂きたい。集中力が切れたら結界が崩壊しますから…」
「分かっているけどさ。この結界頑丈過ぎるだろ?」
スーレの言葉に、ククッと面白そうにハークは笑う。どう見ても、結界が揺れた様子も、効力が薄まった様子も見えないからだ。言わば完璧……どうしてもと、ハークが教えてもらいたいと思うほどに見事な結界が周囲に張り巡らされていた……
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