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「九郎さんの奥様って物好きなんですか?」
「ん?」
静香との電話が終わって寛いでいる時に、山岸がポツリと言う。
「だって、いくら九郎さんのご実家でも全く知らないお家で勝手も分からないのに、お片付けって凄い大変だと思いますよ?」
山岸は今日も仕事帰りに九郎こ家に来る。そしていそいそと夕飯の支度をしてくれている。
「ま~そうなんだろうけどな~家は毎年田舎に帰ってるし、少しは勝手が分かるんじゃないのか?」
「ふ~~ん?そういうものですかねぇ?」
「ふふ、ま、俺が行けないからな。嫁に任せるしか無いんだわ…山岸ちゃん、心配してくれてありがとうね~」
行動力と判断力のある嫁で良かった。そして自分の前にいる今の癒やしは他人思いの良い女だし…
その夜も山岸の料理に舌鼓を打ち、一緒に寝ることにした。
部屋の電気を消す前に、フッと九郎の頭におふくろ元気かな?と今日話せなかった母の事が浮かんでくる。が、すぐに静香と美沙がいるしな~と、九郎の頭の中から、電気を消すのと同じくらいの速さで消えていった。
そんな日が数日続いたある日、妻静香から連絡が入った。なんでもご近所から猪肉を分けてもらったそうなのだが、余りにも量が多いので冷凍してこちらに送る、と言うものだった。冷凍しておけばいつでも食べられるし、焼肉様に下味を付けてくれているものもあって直ぐに食べられる様にしてくれていると言う。
「ほ~~珍しい物もらったんだなぁ~おっし!今夜は焼肉するかぁ!」
九郎は山岸にも連絡して休み中の彼女に荷物の受け取りをしておいてもらう。仕事が終わって帰った頃には焼肉がすぐに食べられるって言うのは嬉しいものだ。
帰宅後自室で着替えをしながら九郎はテレビ電話の準備をした。階下では山岸が今夜の焼肉の準備をしてくれているだろう気配が伝わってくる。家に帰れば必ず誰かの気配がする。真っ暗な家に帰るよりずっと安心するし、帰る足も早くなるというもの
だった。
「もしも~し!静香?聞こえる?」
「は~い!お疲れ様!どうしたの?」
「ん?仕事終わったからさ!肉、届いたよ!」
「あ、受け取れたんだ?良かった…」
「おう!今夜少し食べてみるよ。」
「そうね。なんだか今年の猪は痩せてたから身が固いかもって言ってたわ。」
「ふ~~ん。でも静香が下処理してくれたんだろ?」
「まぁ、出来るところはね。」
「じゃ、大丈夫だろ。楽しみだな~」
「ふ~ん。楽しみなんだ?」
「おう!」
「別に良いけど、あんまり飲みすぎて火の始末忘れないでよね?危ないから。」
「大丈夫、大丈夫!そこら辺はちゃんとするから!」
(家には山岸ちゃんがいるしな。静香には言えないけど…)
「それより美沙は?」
「今、庭でお義母さんと花火中よ。ちょっと待って。」
静香が携帯を持って動きだしたようだ。画面がしばらく揺れてぶれる。
「ほら。」
次に映し出されたのは縁側に座って窓の桟に寄りかかりながら、直ぐ側で花火を持っている美沙を見てやっている母の後ろ姿だ。 何やら美沙が話しかけている様だが、その内容までは聞き取れなかった。
「ね?夏休みを満喫しようと思って、今日スーパーで少し買って来たのよ。美沙が喜んじゃってさ。」
「本当だな。夏っぽい事できて美沙よかったな~」
「パパご飯まだでしょ?」
「おう!でももう少ししたら食べられるよ?」
「そ?早く着替えて食事してきちゃいなさいよ。後で美沙の花火の写真送るからね。」
「お!楽しみだわ!静香よろしく!」
「はーい!じゃあね?」
「おう、またな、お休み!」
今日も静香や美沙は元気で良い一日だったようだ。良かったよかった!
「なんだか、野生味あふれる味って感じ?」
今日の夕食には山岸がささっと焼き肉の準備をしてくれて、着替えて来た九郎は難なく夕食にありついた。
夕食は静香が送ってよこした猪肉のタレ付き焼き肉だ。味はしっかりと染み込んでいるが、肉がいくらか硬めである。
「ん~~どうだろう?しょっ中食べるわけじゃないからなぁ…こんなもんだったと思うけどな。」
「うん。でも、悪くないですね?」
野生の猪肉だから食べ慣れていない者にとっては好き嫌いが分かれるかも知れなかったが、山岸はそれでもよく食べてくれた。
「良かったよ。嫌いな物でなくってさ。」
「ふふ、九郎さんの為に美味しく焼いたんですから私も頑張って食べましたよ?うん、実際そんなに悪くはなかったですしね。」
なんと、先程の静香の電話によると、まだまだ肉が余っているそうで、出来るだけこちらに送るという事だった。しかし、身が硬い肉なのでご近所にお裾分けと言うわけにもいかずに我が家で消費しようと話がまとまったばかりだ。
「これからどんどん肉を送ってくるってさ。しばらく肉には困らなくなるぞ。」
「そうなんですか?じゃあ美味しく作るレシピ仕入れてこよう~っと!」
「あ、何々?すげ~楽しみ!」
「ふふふ、楽しみにしていてくださいね?じゃあ早速だけど、冷凍庫の中身をどんどん片付けちゃいますか!」
「ん?おおぅ?冷凍庫何が入ってたっけ?」
「こちらも、奥様の常備菜でしょうね?」
ちょっと山岸は嫌そうな顔になってゴソゴソと冷凍庫を漁っている。
「それ、明日食べる?」
「………どうでしょう?」
はっきりしない山岸に、なんとなく九郎はこれ以上の事を聞くのをやめた。
「ん?」
静香との電話が終わって寛いでいる時に、山岸がポツリと言う。
「だって、いくら九郎さんのご実家でも全く知らないお家で勝手も分からないのに、お片付けって凄い大変だと思いますよ?」
山岸は今日も仕事帰りに九郎こ家に来る。そしていそいそと夕飯の支度をしてくれている。
「ま~そうなんだろうけどな~家は毎年田舎に帰ってるし、少しは勝手が分かるんじゃないのか?」
「ふ~~ん?そういうものですかねぇ?」
「ふふ、ま、俺が行けないからな。嫁に任せるしか無いんだわ…山岸ちゃん、心配してくれてありがとうね~」
行動力と判断力のある嫁で良かった。そして自分の前にいる今の癒やしは他人思いの良い女だし…
その夜も山岸の料理に舌鼓を打ち、一緒に寝ることにした。
部屋の電気を消す前に、フッと九郎の頭におふくろ元気かな?と今日話せなかった母の事が浮かんでくる。が、すぐに静香と美沙がいるしな~と、九郎の頭の中から、電気を消すのと同じくらいの速さで消えていった。
そんな日が数日続いたある日、妻静香から連絡が入った。なんでもご近所から猪肉を分けてもらったそうなのだが、余りにも量が多いので冷凍してこちらに送る、と言うものだった。冷凍しておけばいつでも食べられるし、焼肉様に下味を付けてくれているものもあって直ぐに食べられる様にしてくれていると言う。
「ほ~~珍しい物もらったんだなぁ~おっし!今夜は焼肉するかぁ!」
九郎は山岸にも連絡して休み中の彼女に荷物の受け取りをしておいてもらう。仕事が終わって帰った頃には焼肉がすぐに食べられるって言うのは嬉しいものだ。
帰宅後自室で着替えをしながら九郎はテレビ電話の準備をした。階下では山岸が今夜の焼肉の準備をしてくれているだろう気配が伝わってくる。家に帰れば必ず誰かの気配がする。真っ暗な家に帰るよりずっと安心するし、帰る足も早くなるというもの
だった。
「もしも~し!静香?聞こえる?」
「は~い!お疲れ様!どうしたの?」
「ん?仕事終わったからさ!肉、届いたよ!」
「あ、受け取れたんだ?良かった…」
「おう!今夜少し食べてみるよ。」
「そうね。なんだか今年の猪は痩せてたから身が固いかもって言ってたわ。」
「ふ~~ん。でも静香が下処理してくれたんだろ?」
「まぁ、出来るところはね。」
「じゃ、大丈夫だろ。楽しみだな~」
「ふ~ん。楽しみなんだ?」
「おう!」
「別に良いけど、あんまり飲みすぎて火の始末忘れないでよね?危ないから。」
「大丈夫、大丈夫!そこら辺はちゃんとするから!」
(家には山岸ちゃんがいるしな。静香には言えないけど…)
「それより美沙は?」
「今、庭でお義母さんと花火中よ。ちょっと待って。」
静香が携帯を持って動きだしたようだ。画面がしばらく揺れてぶれる。
「ほら。」
次に映し出されたのは縁側に座って窓の桟に寄りかかりながら、直ぐ側で花火を持っている美沙を見てやっている母の後ろ姿だ。 何やら美沙が話しかけている様だが、その内容までは聞き取れなかった。
「ね?夏休みを満喫しようと思って、今日スーパーで少し買って来たのよ。美沙が喜んじゃってさ。」
「本当だな。夏っぽい事できて美沙よかったな~」
「パパご飯まだでしょ?」
「おう!でももう少ししたら食べられるよ?」
「そ?早く着替えて食事してきちゃいなさいよ。後で美沙の花火の写真送るからね。」
「お!楽しみだわ!静香よろしく!」
「はーい!じゃあね?」
「おう、またな、お休み!」
今日も静香や美沙は元気で良い一日だったようだ。良かったよかった!
「なんだか、野生味あふれる味って感じ?」
今日の夕食には山岸がささっと焼き肉の準備をしてくれて、着替えて来た九郎は難なく夕食にありついた。
夕食は静香が送ってよこした猪肉のタレ付き焼き肉だ。味はしっかりと染み込んでいるが、肉がいくらか硬めである。
「ん~~どうだろう?しょっ中食べるわけじゃないからなぁ…こんなもんだったと思うけどな。」
「うん。でも、悪くないですね?」
野生の猪肉だから食べ慣れていない者にとっては好き嫌いが分かれるかも知れなかったが、山岸はそれでもよく食べてくれた。
「良かったよ。嫌いな物でなくってさ。」
「ふふ、九郎さんの為に美味しく焼いたんですから私も頑張って食べましたよ?うん、実際そんなに悪くはなかったですしね。」
なんと、先程の静香の電話によると、まだまだ肉が余っているそうで、出来るだけこちらに送るという事だった。しかし、身が硬い肉なのでご近所にお裾分けと言うわけにもいかずに我が家で消費しようと話がまとまったばかりだ。
「これからどんどん肉を送ってくるってさ。しばらく肉には困らなくなるぞ。」
「そうなんですか?じゃあ美味しく作るレシピ仕入れてこよう~っと!」
「あ、何々?すげ~楽しみ!」
「ふふふ、楽しみにしていてくださいね?じゃあ早速だけど、冷凍庫の中身をどんどん片付けちゃいますか!」
「ん?おおぅ?冷凍庫何が入ってたっけ?」
「こちらも、奥様の常備菜でしょうね?」
ちょっと山岸は嫌そうな顔になってゴソゴソと冷凍庫を漁っている。
「それ、明日食べる?」
「………どうでしょう?」
はっきりしない山岸に、なんとなく九郎はこれ以上の事を聞くのをやめた。
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