[完]僕の前から、君が消えた

小葉石

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 気が付けば、まさり、毎日居ない?
いや、間違い無く決まって面会時間に毎日来ている。

「あれ?まさりって、退院いつ?」 

 まさりって呼ぶにも抵抗がないほど、ここ病室に来るし。いつからか僕もまさりをまさりって呼んでた。

「はぇ?もうとっくに退院してるよ?」

「え?」

 もうとっくにって?いつ?

「う~ん、一週間前くらい?」

「へ?そんなに前?」

「そうそう。」

「え?だって、毎日来るし、まだ退院してないのかと思った……」

 呆然、とはこの事だろう。

「うん。学校が終わってから来てるから。」

「制服………」

「うちは私服なの。」

「部活は?」

「元々お金かかるって言われて入ってないし、まだ足のギプスも取れてないから運動部とかは無理でしょ?」

「はぁ……ま…そうだな…」

「そうなの。」

「で……?なんで毎日?」

 毎日毎日、もしかしたら家族でさえもそんなに面会には来ないかもしれないと言うのに、足も折れてて歩き難いだろうに……

「え~~良いじゃん?善君とお話ししたくて来てるんだもん。」

「話って、そんなに特別な事話してないだろ?」

 毎日ここに来て、取り止めのない事を話して一緒にオヤツを食べて帰って行く。いつもこれの繰り返しなのに…

「それでも私は良いんだけどな…あ!もしかして、善君迷惑だった…!?」

 こんな日が続いて相当経ってからやっとそんな意見に辿り着くまさりは鈍感なのか、それとも天然なのか………でも

「迷惑じゃ、ない……」

 うん…迷惑じゃない…何しろ、まさりが来ると病室の雰囲気が変わる。いつも神妙な顔つきで何かノートに書き綴っている母もまさりが来ると皆でお喋りを楽しもうとしていて笑顔が多い。まだ食欲が戻ってこない僕も、何となくまさりに釣られて色んな物に口を付けられる様になってきたとは思う。まだ、出された食事を完食する迄には行かないけど…

「本当……?良かった………」

 小さな声で、最後に言ったまさりの言葉は真底ホッとしたものの様に聞こえた。

「まさりちゃん?いらっしゃい!」

 実の母よりも早く病室に毎日いるって、どうよ?とは思うけど……

「こんにちは~!今日もお邪魔してます!」

「ふふふ、まさりちゃんなら大歓迎よ?今日のおやつはね~」

「あ!天むす!!」

 おやつにしては重いのでは………が、僕の大好物だ。

「そう!ちょっと重めのおやつだけどね?善も少し食欲が戻って来たようだし。ね?善、どれ食べる?」

 こう言う時には、なんだか嬉しいんだけどくすぐったくて、こんな所で天むす出すなよ、とか素直になれないのは思春期あるあるだ(もう、思春期通り越していると思うけど)
  
 母が持ってきた天むすは数種類のアレンジされた海老天が握られている物だ。はっきり言って食欲は無い。無いけど、目が欲しいのか…一つ指差す。それだけで、嬉しそうに母もまさりも笑うんだ。

「まさり…お前、家帰ってるの?」

 ちょっとした疑問…この病室に足繁く通う様になった理由が、里親の揉め事を見たく無いだったから。

「あ、今は施設の方にいる。」
 
「施設?児童養護施設?」

「そう…そっち。どうしても里親さんの方はゴタゴタしてて…このまま続行、は難しいんだって…」

 天むすをパクパク食べるまさりを見つつ、母がお茶を買いに行った隙をついて聞いてみたら、またびっくりする様な答えだ。

「そんなに、コロコロと住むところって変われるもん?」

「こればっかりはね?仕方ないんだ~。うん、この天むす美味しい~ね?善君、もう一つ食べよう?」

 確かに久しぶりに食べた天むすは美味しかった。食欲はないけど美味しいのはわかる。けど、一個でもう胃もたれがするほど十分だ…

「ん、もう良いかな…美味しかった…」

「でも、まだ、一個だよ?」

「まさり、食べて良いよ。」

 まさりは遠慮なく出されたものを食べるから、その食べっぷりは見ていて気持ちがいい。自分が食べていないのに沢山食べた気になって、なんだか良いことをしたみたいな気にさえなるから不思議だよな…

 それだけ、まさりは我が家に、というかこの病室に馴染んでいた。





















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