[完]僕の前から、君が消えた

小葉石

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 色白は七難隠すって昔ばあちゃんが言ってたような…でもまさりの場合、少しばかり色白で顔が可愛くても、あの煩さじゃ誰も寄ってこないのではないだろうか…?



 病室に戻って夕食を取ろうにも食欲がなく、案の定、熱が出てた…熱が出る前の怠さと寒気はどうにも慣れないし嫌いだったのだが…久々に家族や医療者以外の人間と話をしたからだろうか…?未だ興奮冷めやまない様なちょっとした変化は発熱前の不快な症状も気にせずに夕食まで過ごさせてくれた様に思う。

 熱が出始めるとなんとも言えない倦怠感と全身が痛んでいつもなかなか寝付く事ができない………ふっと最初に入院した時のことを思い出した。グッタリベッドで動けなくなっている僕の側には両親が心配そうな顔を覗かせていたっけ?

「…あいつには……いなかったんだ………」

 心細い時に手を握ってくれる人も、痛む身体を優しくさすってくれる人も、寝付けない時、取り止めのない愚痴に付き合って寝付くまで側にいてくれる人も…………

「……そっか……あいつ…いなかったんだ………」

 寝入る前に不思議な連帯感みたいなものを勝手に感じ取って、まさりを自分が今いる不幸な底まで引っ張り込めた事に変な満足感を抱いてしまった僕は、きっと性格が悪い………
 







「あ、ここだ!」

 ウトウトと怠い身体が休息を欲して、痛みがないうちに少しでも休もうとしていた所で、部屋の外から似つかわしくない元気な声が聞こえてきた…

「こ~んに~ちは~?いるかな?」

「……………」

 聞いた事ある声は昨日あったまさりで間違いない。ひょっこりとドアから室内を覗き込むその顔だってまだ忘れてはいないさ…

 何してんの?あいつ?

「あっ!善君、いた!」

 無言で見つめてた僕の視線と合えばまさりはニコ~~と満面の笑顔だ。

「…………何やってんの?」

 素で遠慮もない低い声が出た。

「え、お見舞い?」

「……まだ、面会時間じゃねぇよ?」

「うん。知ってる!でも入院患者同志だしさ?今暇で暇で…する事ないんだよね~」

「………」

 こっちは怠くて、眠くて、少し休もうとしてたのに……暇じゃねぇよ…

「…こっち来て、怒られねぇの?」
 
「うん。友達の顔を見てきますって言ってきたから。行ってらっしゃいって!」

「まじか……」

「もしや、しんどい?」

「……ん…」

 まだ、下がったと言えども平熱までじゃない…やっと横を向いてまさりの顔をちゃんと見た。

「…大丈夫…?」

「ん~~どうだろ…?」

 慣れていると言えば慣れている。でも
大丈夫かと言えば大丈夫じゃない…怠いし、気分悪いし、眠いし…お前くるし……

「そっか、ごめんね?昨日元気そうだから、またおしゃべりできるかなって思って……」
 
 ほんのちょっとだけ、まさりが申し訳なさそうな大人びた顔になる。でも、そんな大人みたいなら、今ここにはいないよな?

「……いいよ…べつに……」

 本当はぐっすり眠りたかったけど、なんだかまさりを突っぱねる事ができない。昨日、勝手に不幸認定しちゃった負い目が有るのかもしれないけど……

「本当?良かった……あのね?実は今病室にいたくなくてさ…」

「…なんで…?」

「話し合いに、来てるのね…?」

「………?」

 話し合い?熱があって、夜もあまり眠れなかった僕の頭が働くわけはなくて、何のことかさっぱり分からない。

「…医者の回診?」

 それしか頭に浮かんでなんてこないさ。

「ん~~ん!違う…里親とその家族かな……」

「里親?」

 まさりは捨て子だったんだろ?

「そう、大人になるまで少しの間代わりに育ててもらってるんだけど……」

 育てと言っても親がいるって言うことは心強いものじゃないか?なのに、まさりの顔がどんどん暗くなるのはなんでだろうな……

「私、あんまり歓迎されていなくてね…」

 本当の子供ではない子供を預かるのだから本当の親子の様にできないのは分かっているけど、心底嫌われているとは思わなかった…と、真剣に話すまさりの口からは衝撃的な事実が飛び出した。

「お義父さんとお義母さんのお婆ちゃんに階段から落とされたんだよ……」














   


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