[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石

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「………んっ……」

 朝日が眩しくて、目が覚めた。
ここ、は自室ではない?部隊長の寝室でもない…どこ?


「起きたか?」

「……スレントル様?」

 ここ、スレントル様の私室だ!目が覚めてくれば昨日の事が一気に思い出されていく。


「私は、あのまま眠ってしまったのですか?」

 起こしてくれる様に頼んでいたはず、だが?結局寝台を占領してしまったのか。

「良く眠っていた様だったから、起こさなかった。ま、ソファーも寝心地は悪くなかったな。遠征にいく時よりもまだまだましだ。」

「昨日、帰ってきたばかりでしたよね?お疲れだったのでは?」

「構わん。俺はどこでも眠れるし、睡眠時間も短くてもいい。」


「そう、ですか…今は何時ですか?」

 まさか、また寝こけて寝坊を?訓練兵にはあるまじき失態なのに…!


「今日は、休みを貰ってる。勿論お前もだ、。」

「……!」

 初めて名を呼ばれた…


「お前も俺のことを名前で呼べよ?同じ兵舎にいる仲間だ。おかしい事ではないだろう?」

「…けれど、私と懇意にしていると貴方も何を言われるか…」

「構わん。部隊長には伝えてきた。」

「何をです?」

「お前の身柄を引き受けると…。」

「!!?…私の、後見にですか?」

「違うな。後見になったらルドルフ公爵に何を言われるか分からない。ただ後ろ盾じゃなくて…」

「……では、なくて?」


 いつも堂々している彼には珍しく、少し言い淀んでいる…スロウルはじっとアクサードの言葉の続きを待った。思えばこんなにゆっくりと落ち着いて誰かと話をしたことなど、ここに来てから無かったように思う。アクサードの低く変わったばかりの声は心地良くて、この時間がスロウルには凄く大切に思えた。


「お前と、共に生きたいと思っている。」

 意を決した様に真っ直ぐにスロウルを見つめつつ、アクサードははっきりとそう告げた。

「共に…?私なんかとですか?」

「なんかとかは言うなよ、約束しろ。」

「…分かりました。気をつける様に善処します。しかし、私には戻りたい場所がありますから……」

 貴方といつも共にいる事は難しいかもしれない、と付け加えようとしたスロウルの言葉を遮り、

「構わん。戻りたい所に戻って…でも俺が隣にいる事には反対はないな?」

 反対も何も、今まで友らしい友も居なかったスロウルだ。誰かが側にいてくれる事はこれ以上ない程心強いものだろう。が、スロウルは浮かない表情で下を向く。

「何だ、俺が居たら不満か?」

 スッとアクサードはスロウルの前に跪く。

「いいえ。不満はありませんけど、貴方を巻き込まない自信が、私にはありません。」

 自分の身の振り方も今の今で精一杯だ。生き残ってルウアの元に帰る事。それだけを目標としてきている。何か降りかかって来た時にアクサードを守る事など到底出来そうにない、とスロウルは判断した。


「フッ巻き込まれても、対処できると自負しているし、そのつもりなんだが?」

「…そこまでして、どうしてです?」

 スルリとアクサードの手が伸びてスロウルの柔らかな頬をゆっくりと撫でる。スロウルは訝しげに、アクサードを見つめている。

「ただ、俺がそうしたいだけなんだ。だから、許して欲しい…。」

 
 許すも何もスロウルにはアクサードの行動を拒否する権利も制限する権限もない。


「スロウル、お前は不満はないと言った。しっかりと言質は取ったからな?後から撤回なんてのは無しだぞ?」 

 些か、子供っぽい約束ではないのか?けれど、とても嬉しそうに、そうとしか見えない笑顔がアクサードの顔に張り付いている。
 誰かをこんなに喜ばせた事はあったか?母はいつも悲しい顔…ルウアも泣かせ、無理をさせた…けれど、アクサードは自分といるだけでいいと言う。

「側に、いるだけで良いのですか?」

 立場も何も考えずに?

「今はそれでいい。スロウルが居てくれたら、うん、それでいいな…」


 ほんのりとアクサードの頬が上気している気がする。まだ頬を撫でている手はそのままで、優しく触れられる行為にどう答えたら良いのか分からない。

 けど、ここに居ていいのか……どこに居ても厄介な目で見られても来たのに。母の元にでさえ、ずっと居続けられなかった。居ても良い、と許される事、見返りも無く居て良いって、私にとっては物凄い事……この人はサラッと与えようとしてくれる…


「頼むから、泣いてくれるな?腹が減ったか?今食事を用意させるから一緒に食べよう?体の痛みが無くなるまで休んで良いと言う事だから、気分転換に何処かに出かけるか?あぁ、髪も揃えないとな…」

 アクサードは、スロウル自身も気づかぬ内に流れてきた涙を、何時迄も指で掬いながら、口早に話し続けた。

 困った様に眉を下げて、それでも凄く嬉しそうに少し頬を赤らめて、何時迄もいつまでも………


 
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