9 / 24
9
しおりを挟む
身体が痛くて、動くのも怠くて…怠さにどうにもならずにスロウルは目を開ける。
ここ、は…どこ?
頭が痛くて、自分が何処にいたのかなんて、思い出そうとするのも辛い…
「全く…あんたがこんな子供に手を出すなんてな。妻子が聞いたら泣くぞ。」
「戦場じゃあよくある事だろ?その辺、内のは心得てるよ。」
「はぁ、なんとも言うのは簡単だけどな…」
「で?処置は終わりでいいのか?」
「まぁね。後はゆっくりと休ませてやんなよ。こんな身体も出来上がってない様な小さな子をよ…」
「仕方なかったんだよ。こうでもしなきゃさ…」
「分かってるって、皆まで言うな…全く、しょうがねぇな。」
「悪かったな、遅くに起こして…」
「これも仕事だ。人の生き死にじゃねぇからまだ良いよ。また何があったら呼びな。」
「あいよ。」
誰かがいる…?家族じゃ、ない…ここは、家じゃ、ない。
ここは………
「よう、スロウル。起きてるか?」
「…………」
声が、出ない……口だけパクパク動かして、ここは?と聞きたい事を呟いてみる。
「あぁ、声でねぇのか?待ってな。」
声の主は、部隊長だ……ボンヤリしている頭が少しだけ動き出した。何やらゴッソリと両手に布団を抱えてはベッドルームから消えて行く。
戻ってきた時には両手に水差しとコップを持っていた。
水を注ぐ音が心地良い…喉が渇いた…
「ほら。」
部隊長が水の入ったコップを片手に持って、器用に開いた腕でスロウルを抱き起こした。
「うっ…」
下半身がひどく怠く痛む…そうだ、昨夜は…
「悪い、痛むか?喉乾いてるんだろ?支えてやるからしっかり飲め。」
身体が怠い中、片手だけやっと上げて支えて貰いながらコップから冷たい水を飲む。水はこんなに甘かったのかと思う位に口腔に喉に沁み渡って行く。
コクコクコクと全ての水を飲み干すと、ホゥゥゥと大きく息を吐く。
「全部飲めたな?それじゃもう少し眠れよ。痛むところはあるか?」
「頭が…痛い、です。」
「あぁ、泣き叫んでたもんな…目も腫れるか?」
寝ろ、と言われても寝れるかどうか分からない。至る所が怠くて重苦しい…目を瞑り眠る努力をする。
部屋を出たり入ったり何やら片付けでもしているのか部隊長の動く気配がする。少しでも怠さが取れるように手足の力を抜き切って屍の様に横たわる。
そっと、冷たいタオルが目元に当てられた。身体に篭った怠さや熱が吸い取られる様な気持ち良さに、スロウルは意識を手放した。
「何、しているんです?」
次に目が覚めた時、両手一杯の洗濯物らしき物を抱えてバスルームから部隊長が出て来た所が見えた。
「お!目が覚めたか?」
洗濯物の後ろから部隊長の顔が覗く。
「おはよう…ございます。」
まだ身体はいう事をきいてくれそうにないが、昨夜よりかは楽になった。
「ちょっと待ってな。これを干し終わったら朝食にするから。」
やはり洗濯物だった…部隊長が洗ったんだろうか?洗濯係がいるのに?
自分も起きようとして今更ながらに長衣の寝衣を着ていた事にスロウルは気づく。
昨日の事を思い返せば、身悶えする程羞恥に苛まれるが、跡もわからない位に自分の身体は綺麗にされているし、ぐちゃぐちゃだった寝具も殆ど新品の様に綺麗だった。小まめにスロウルの体調を気遣う所からも、この大所帯をまとめ上げる部隊長は随分と世話焼きの様だ。
「なんだ、もう起きれるのか?流石に若いな。」
痛む下半身を誤魔化しながら、ゆっくりとベッドサイドまで移動しさらにゆっくりと上半身を起こし始めたスロウルに声が掛かる。
干し終わったであろう部隊長の手には二人分の朝食が用意されているトレーを持っていた。
「食えそうか?」
「はい。多分…」
空腹を感じてはいる、が今は何時か?
「今、何時です?」
一体自分はどれだけ眠っていたのだろうか?
「今か?早朝鍛錬が終わって、午前の警邏が出る頃だな。」
…完全に遅刻だ……
一瞬で頭がハッキリする。ガバっと起きようと思って、痛みに体が硬直した。
「おい!いきなり起きるなよ?まだ痛むんだろうが!」
「……ち、こくしました。」
蹲る様に痛みに耐えて、隊員としての務めを果たしていない事を告げる。
「あ?遅刻をとやかく言う本人が一緒にここにいるんだがな?お前は今日は休みにしたぞ?俺も臨時休暇。」
「………?」
「無理させた俺が悪いが、お前動けんだろうが?目元もまだ腫れてる。そんなんで警邏にも行けないだろう?」
そうだ、目の前の人は部隊長。ここの隊員を纏め上げてる人だった…
「まずは良く休んで体調を整えな。体が戻るまではお前の部屋はここ。」
ゆっくり体を起こすのを手伝ってくれる部隊長はやはり世話好きだ。
「ここは、部隊長の居室です……」
「分かってて言っている。既成事実は作ったし医者にも見せたから完璧だ。後は周囲に知らしめる事だな。うん。」
「……知らしめる…?」
「俺を利用しろと言ったろう。お前がお前らしく生きれる様になる迄は、お前の後ろに俺が居るって周囲に思わせとくんだよ。」
あれだけ酷いと思う事をした部隊長の主張が最初から最後まで一貫している事にスロウルはただ驚いた。
ここ、は…どこ?
頭が痛くて、自分が何処にいたのかなんて、思い出そうとするのも辛い…
「全く…あんたがこんな子供に手を出すなんてな。妻子が聞いたら泣くぞ。」
「戦場じゃあよくある事だろ?その辺、内のは心得てるよ。」
「はぁ、なんとも言うのは簡単だけどな…」
「で?処置は終わりでいいのか?」
「まぁね。後はゆっくりと休ませてやんなよ。こんな身体も出来上がってない様な小さな子をよ…」
「仕方なかったんだよ。こうでもしなきゃさ…」
「分かってるって、皆まで言うな…全く、しょうがねぇな。」
「悪かったな、遅くに起こして…」
「これも仕事だ。人の生き死にじゃねぇからまだ良いよ。また何があったら呼びな。」
「あいよ。」
誰かがいる…?家族じゃ、ない…ここは、家じゃ、ない。
ここは………
「よう、スロウル。起きてるか?」
「…………」
声が、出ない……口だけパクパク動かして、ここは?と聞きたい事を呟いてみる。
「あぁ、声でねぇのか?待ってな。」
声の主は、部隊長だ……ボンヤリしている頭が少しだけ動き出した。何やらゴッソリと両手に布団を抱えてはベッドルームから消えて行く。
戻ってきた時には両手に水差しとコップを持っていた。
水を注ぐ音が心地良い…喉が渇いた…
「ほら。」
部隊長が水の入ったコップを片手に持って、器用に開いた腕でスロウルを抱き起こした。
「うっ…」
下半身がひどく怠く痛む…そうだ、昨夜は…
「悪い、痛むか?喉乾いてるんだろ?支えてやるからしっかり飲め。」
身体が怠い中、片手だけやっと上げて支えて貰いながらコップから冷たい水を飲む。水はこんなに甘かったのかと思う位に口腔に喉に沁み渡って行く。
コクコクコクと全ての水を飲み干すと、ホゥゥゥと大きく息を吐く。
「全部飲めたな?それじゃもう少し眠れよ。痛むところはあるか?」
「頭が…痛い、です。」
「あぁ、泣き叫んでたもんな…目も腫れるか?」
寝ろ、と言われても寝れるかどうか分からない。至る所が怠くて重苦しい…目を瞑り眠る努力をする。
部屋を出たり入ったり何やら片付けでもしているのか部隊長の動く気配がする。少しでも怠さが取れるように手足の力を抜き切って屍の様に横たわる。
そっと、冷たいタオルが目元に当てられた。身体に篭った怠さや熱が吸い取られる様な気持ち良さに、スロウルは意識を手放した。
「何、しているんです?」
次に目が覚めた時、両手一杯の洗濯物らしき物を抱えてバスルームから部隊長が出て来た所が見えた。
「お!目が覚めたか?」
洗濯物の後ろから部隊長の顔が覗く。
「おはよう…ございます。」
まだ身体はいう事をきいてくれそうにないが、昨夜よりかは楽になった。
「ちょっと待ってな。これを干し終わったら朝食にするから。」
やはり洗濯物だった…部隊長が洗ったんだろうか?洗濯係がいるのに?
自分も起きようとして今更ながらに長衣の寝衣を着ていた事にスロウルは気づく。
昨日の事を思い返せば、身悶えする程羞恥に苛まれるが、跡もわからない位に自分の身体は綺麗にされているし、ぐちゃぐちゃだった寝具も殆ど新品の様に綺麗だった。小まめにスロウルの体調を気遣う所からも、この大所帯をまとめ上げる部隊長は随分と世話焼きの様だ。
「なんだ、もう起きれるのか?流石に若いな。」
痛む下半身を誤魔化しながら、ゆっくりとベッドサイドまで移動しさらにゆっくりと上半身を起こし始めたスロウルに声が掛かる。
干し終わったであろう部隊長の手には二人分の朝食が用意されているトレーを持っていた。
「食えそうか?」
「はい。多分…」
空腹を感じてはいる、が今は何時か?
「今、何時です?」
一体自分はどれだけ眠っていたのだろうか?
「今か?早朝鍛錬が終わって、午前の警邏が出る頃だな。」
…完全に遅刻だ……
一瞬で頭がハッキリする。ガバっと起きようと思って、痛みに体が硬直した。
「おい!いきなり起きるなよ?まだ痛むんだろうが!」
「……ち、こくしました。」
蹲る様に痛みに耐えて、隊員としての務めを果たしていない事を告げる。
「あ?遅刻をとやかく言う本人が一緒にここにいるんだがな?お前は今日は休みにしたぞ?俺も臨時休暇。」
「………?」
「無理させた俺が悪いが、お前動けんだろうが?目元もまだ腫れてる。そんなんで警邏にも行けないだろう?」
そうだ、目の前の人は部隊長。ここの隊員を纏め上げてる人だった…
「まずは良く休んで体調を整えな。体が戻るまではお前の部屋はここ。」
ゆっくり体を起こすのを手伝ってくれる部隊長はやはり世話好きだ。
「ここは、部隊長の居室です……」
「分かってて言っている。既成事実は作ったし医者にも見せたから完璧だ。後は周囲に知らしめる事だな。うん。」
「……知らしめる…?」
「俺を利用しろと言ったろう。お前がお前らしく生きれる様になる迄は、お前の後ろに俺が居るって周囲に思わせとくんだよ。」
あれだけ酷いと思う事をした部隊長の主張が最初から最後まで一貫している事にスロウルはただ驚いた。
12
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪


【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる