[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石

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 身体が痛くて、動くのも怠くて…怠さにどうにもならずにスロウルは目を開ける。


 ここ、は…どこ?

 頭が痛くて、自分が何処にいたのかなんて、思い出そうとするのも辛い…



「全く…あんたがこんな子供に手を出すなんてな。妻子が聞いたら泣くぞ。」

「戦場じゃあよくある事だろ?その辺、内のは心得てるよ。」

「はぁ、なんとも言うのは簡単だけどな…」

「で?処置は終わりでいいのか?」

「まぁね。後はゆっくりと休ませてやんなよ。こんな身体も出来上がってない様な小さな子をよ…」

「仕方なかったんだよ。こうでもしなきゃさ…」

「分かってるって、皆まで言うな…全く、しょうがねぇな。」

「悪かったな、遅くに起こして…」

「これも仕事だ。人の生き死にじゃねぇからまだ良いよ。また何があったら呼びな。」

「あいよ。」



 誰かがいる…?家族じゃ、ない…ここは、家じゃ、ない。

 ここは………


「よう、スロウル。起きてるか?」

「…………」

 声が、出ない……口だけパクパク動かして、ここは?と聞きたい事を呟いてみる。

「あぁ、声でねぇのか?待ってな。」


 声の主は、部隊長だ……ボンヤリしている頭が少しだけ動き出した。何やらゴッソリと両手に布団を抱えてはベッドルームから消えて行く。

 戻ってきた時には両手に水差しとコップを持っていた。
 水を注ぐ音が心地良い…喉が渇いた…


「ほら。」

 部隊長が水の入ったコップを片手に持って、器用に開いた腕でスロウルを抱き起こした。

「うっ…」

 下半身がひどく怠く痛む…そうだ、昨夜は…


「悪い、痛むか?喉乾いてるんだろ?支えてやるからしっかり飲め。」

 身体が怠い中、片手だけやっと上げて支えて貰いながらコップから冷たい水を飲む。水はこんなに甘かったのかと思う位に口腔に喉に沁み渡って行く。

 コクコクコクと全ての水を飲み干すと、ホゥゥゥと大きく息を吐く。


「全部飲めたな?それじゃもう少し眠れよ。痛むところはあるか?」

「頭が…痛い、です。」

「あぁ、泣き叫んでたもんな…目も腫れるか?」


 寝ろ、と言われても寝れるかどうか分からない。至る所が怠くて重苦しい…目を瞑り眠る努力をする。

 部屋を出たり入ったり何やら片付けでもしているのか部隊長の動く気配がする。少しでも怠さが取れるように手足の力を抜き切って屍の様に横たわる。


 そっと、冷たいタオルが目元に当てられた。身体に篭った怠さや熱が吸い取られる様な気持ち良さに、スロウルは意識を手放した。



 

「何、しているんです?」

 次に目が覚めた時、両手一杯の洗濯物らしき物を抱えてバスルームから部隊長が出て来た所が見えた。


「お!目が覚めたか?」

 洗濯物の後ろから部隊長の顔が覗く。


「おはよう…ございます。」

 まだ身体はいう事をきいてくれそうにないが、昨夜よりかは楽になった。


「ちょっと待ってな。これを干し終わったら朝食にするから。」

 やはり洗濯物だった…部隊長が洗ったんだろうか?洗濯係がいるのに?


 自分も起きようとして今更ながらに長衣の寝衣を着ていた事にスロウルは気づく。

 
 昨日の事を思い返せば、身悶えする程羞恥に苛まれるが、跡もわからない位に自分の身体は綺麗にされているし、ぐちゃぐちゃだった寝具も殆ど新品の様に綺麗だった。小まめにスロウルの体調を気遣う所からも、この大所帯をまとめ上げる部隊長は随分と世話焼きの様だ。


「なんだ、もう起きれるのか?流石に若いな。」

 痛む下半身を誤魔化しながら、ゆっくりとベッドサイドまで移動しさらにゆっくりと上半身を起こし始めたスロウルに声が掛かる。

 干し終わったであろう部隊長の手には二人分の朝食が用意されているトレーを持っていた。

 
「食えそうか?」

「はい。多分…」

 空腹を感じてはいる、が今は何時か?


「今、何時です?」

 一体自分はどれだけ眠っていたのだろうか?

「今か?早朝鍛錬が終わって、午前の警邏が出る頃だな。」


 …完全に遅刻だ……

 一瞬で頭がハッキリする。ガバっと起きようと思って、痛みに体が硬直した。


「おい!いきなり起きるなよ?まだ痛むんだろうが!」

「……ち、こくしました。」
 
 蹲る様に痛みに耐えて、隊員としての務めを果たしていない事を告げる。


「あ?遅刻をとやかく言う本人が一緒にここにいるんだがな?お前は今日は休みにしたぞ?俺も臨時休暇。」

「………?」

「無理させた俺が悪いが、お前動けんだろうが?目元もまだ腫れてる。そんなんで警邏にも行けないだろう?」


 そうだ、目の前の人は部隊長。ここの隊員を纏め上げてる人だった…


「まずは良く休んで体調を整えな。体が戻るまではお前の部屋はここ。」

 ゆっくり体を起こすのを手伝ってくれる部隊長はやはり世話好きだ。


「ここは、部隊長の居室です……」

「分かってて言っている。既成事実は作ったし医者にも見せたから完璧だ。後は周囲に知らしめる事だな。うん。」

「……知らしめる…?」

「俺を利用しろと言ったろう。お前がお前らしく生きれる様になる迄は、お前の後ろに俺が居るって周囲に思わせとくんだよ。」


 あれだけ酷いと思う事をした部隊長の主張が最初から最後まで一貫している事にスロウルはただ驚いた。
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