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エピローグ
[完結]76 訪問者
しおりを挟むまさか……!?そんな…!!
シェインは目の前の少女と思しき人物を見て愕然とする。
銀の瞳に白髪にも近い銀髪の、冷たい雰囲気を漂わせた、美少女だ。いつもの様に執事の仕事をしていたシェインは玄関に備えられていたベルに対応してここに来たのだが、執事にあるまじくも、来たことを後悔さえしている。
自分の記憶と、この感覚が合っているなら間違えなくこの方は…!一気に過去の記憶が掘り起こされてきて胸が苦しくなる。訪問の理由が全く分からないが、自分はきっとここにいてはいけない…本能的な恐怖を感じ取り、シェインはギュウッと目を瞑る。
レーン様!!
咄嗟に心から叫び声を上げてしまった。
「訪問者に対して、それは失礼ではないの?」
少女の静かな声が耳を擽る。
「常識ある訪問者ならば先触れを立てるはずだが?」
目を瞑ったシェインを後ろから腕の中に隠す様に抱きしめながら、ガラット王子がいつの間にか後ろに立っていた。
途端、銀髪美少女の眉根が嫌というほど寄せられる。
目をそうっと開けてみれば辺りにはレーン様の光が洩れる…?振り返って見上げればお顔も瞳も輝いておられて…
あぁ…レーン様だ…心の底からホッとする。
イラァァァ…前方からかなりの負の感情を感じますが、彼方を見返すのが怖いです……
「なんの用だ?」
旦那様の優しい声が、今日は数段低くおなりです……
「貴方に用があるのではないのよ。下がっていてくださる?」
え?それでは、もしかしなくてもご用は私ですか?
ビクッと肩を震わせたままシェインは動けなくなってしまった。
「これに用があるのならば私に用があるのと同じ事だ。」
「相変わらず嫌な物言いね。その子をまるで自分の物の様に扱うなんて。」
「物ではない。私の愛する伴侶だ。」
「何、を!偉そうに!横から奪い去ったくせに!!」
銀髪美少女が叫ぶと同時にシェインの身体にも電流の様な刺激が走る。
「…やっ!…あぁんっ…んやぁ…っぃぁ!」
うそ?今?旦那様、なんで?
精霊石から強烈な快感が襲ってくる。
側に、いるのに…呼ばれる、必要、ない、のに…
言葉に出来ない思いを必死に心の中で纏める。そうでないと何も考えられなくなるから…
お客様の、前で…羞恥に顔が染まってしまい、涙目だ。
足がガクガクして立っていることも出来なくてシェインは後ろからしっかりとガラット王子に抱きしめられる。
「………貴方って…貴方って……!!」
フルフルと怒りでわななく銀髪美少女は口元に手を当てて、真っ赤に赤面してしまった。
「客人を前に、玄関先でする様なことではないでしょ!!」
「私の物に、いつ私が触れようと私の勝手だろう?お前に言われる筋合いはない。そもそもお前は客でも無いだろう?何しに来た?」
シェインを抱き抱えていたガラット王子の手がシェインの前に回る。
「ぁっ…!…んぅ…」
だ、旦那様、今、それは…だ、駄目、でしょう?
これ以上、変な声が出ない様に必死に両手で口を覆う…
「くっ!本当に嫌な性格ね!……いい加減に離してあげなさいな!謝りに来たのに!」
これ以上正視出来ないとばかりに、銀髪美少女は顔を背けて視線を外した。
「ほぇ……?」
ガラット王子の腕の中で、半ばグッタリとしていたシェインはゆっくりと目を開けた。
「あや、まりに……?」
「……そうよ…。」
私に……?なぜ?
「あれは……貴方を手に入れる為だったの…」
あれ……私の森を、壊滅させたあの大寒波!?
「そうよ。森から引き離さなければ貴方を連れて行くことも出来ないじゃない!」
グルグル、グルグル、シェインの中の記憶が回る。亡くしてしまった物たちの、小さな影が移りゆく…どうして?
シェインは潤む瞳で、前に佇む美少女を見つめている。
「私は、寒波の精よ?命を護り育む事の大切さなど分からないわ。貴方を手に入れるにはそうするしか無いと思っていたの。」
けれど、これが間違っていた。森から直ぐに離れると思っていたシェインは限界以上に力を出そうとして消滅手前まで消耗してしまうし、消滅寸前のシェインを回収しようとしたらもはや存在そのものが消えているし、探そうにも夜が明けると憤怒と化した暁の君に捕まり太陽の元へ投げ入れられるわで今の今まで動くことも叶わなかった。
「なぜ、ここへ来れた?」
「月の精霊に力を借りたの。私だけでは後数十年は身動きすらとれないもの。」
なる程、あの後大寒波の精は灼熱の太陽の元に投げ込まれたのか…よく、消滅しなかったものです……
「消滅は免れたけど、力を借りないと、今は一人で形を保つ事すらできないわ。その、力を貸す代わりに、貴方に謝りに行けと、周りの精霊に責付かれたのよ。私が、貴方の掛け替えの無いものを奪ってしまったからって……」
「………」
「謝罪したとて、お前が取り返しのない事をした事は変わらぬ。去れ…」
「それも十分承知の上での謝罪よ…シェインリーフ…許してくれなくても良いわ。貴方の気持ちも考えずに悪かったわ…」
言いたいことだけ言って、大寒波の精は跡形もなく消えた…
「私を…私のせいで、森が?」
何とも衝撃的な告白に頭が追いつかない。一体私はどうすれば良かった?
「シェインリーフはどうする事も出来なかっただろう?もう、考えるな。」
いつの間にか、応接室まで連れて来られて座らされている。
「分不相応な者を求めた結果の悲劇だろう。非が有るとすれば、自制ができなかったあちらの方だ。決してシェインリーフのせいでは無い。」
私を強く、強く抱き締めてくる腕がひどく愛しい……口付けてくれる暖かい唇も、暖かい身体も、息遣いも全てが愛しい…分不相応は私も同じだ…あの方だけを責める事は出来ないもの。
「シェインリーフ、其方はここを私の元を選んだ…悔いはないか?」
有るかと聞かれれば、ない……私も他の精霊を責められたものではない。
自分に与えられた物ではなくて、自分で選び取った者を力一杯抱きしめ返す。自分の持てる最大限の愛情を込めて……
……完……
ここまで、お読みくださってありがとうございました。お気に入り登録やしおりを挟んで頂けてとても励みになりました。皆様に楽しんで貰えたら幸いです。
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