［完結］ひきこもり執事のオンオフスイッチ！あ、今それ押さないでくださいね！

68 旦那様の決意

「何を聞いて来た？」

　私をスッポリと言うより、ガッチリ抱きしめて耳元で旦那様が聞いてくる。


「ええと、ええと…」
　
　何と言ったら良いのか、下を向いて言い澱んでしまった私の顎を掴んで上を向かせる。
　旦那様の赤い瞳…綺麗な、私の好きな瞳…
今日は少し、陰りがある様だけど……


　少し、不穏な物を感じ取っていた私を逃さないとでも言う様に抱きかかえた力は緩まない。


「何を思って、大森林と話していた？」

　静かな静かな旦那様の声が、ズッと心にのしかかってくるみたいに聞こえる。

　知っている…？旦那様は私が何を話そうとしていたか、知っている…


「私だとて万能では無い。其方が心の奥底深くに秘めてしまっているものは解らん。だから聞いている。何をその腹に抱えているのか？」


　赤く光る瞳は好きでずっと見ていたい。けれど今はこの手を逃れたくて堪らない…


「私では其方の隣は相応しく無いか？」

　絶望にも似た声色に、ビックリして目を見開く。相応しく無い？誰が？レーン様が？この、気高く美しいこの方に相応しく無いなどと言える者がいるものですか！


「相応しく無いのは私の方です！」

　思わず、声が出てしまった。言わないつもりだったのに…ずっと黙っていようと……


「だが、其方は私を求めぬだろう…」　


「求めていました！心からずっとずっと叫んでいました！貴方も知っているではないですか？」

　だめだ、止まらない…どうしよう……


「しかし、答えるつもりは無いのだろう？」

「応えるも何も、今しか共にいる事ができないのに、貴方が此処にいてくれるだけで、もう一杯で、これ以上何を望んだらいいのです？」


「其方は今の時も、この後も共に居たいとは思わないのか？」

　今の世ならば共に生きれる。レーン様に言われた時、夢の中にいるかの様に嬉しかった。でも、その後は……


「できません……」
　　
　震えるな、声！震えるな……！

「約束は、できません…」

　歯を喰いしばれ…


「森が、良いか……？」


　力の抜けた様な旦那様の声…諦めた様に抱きしめていた腕から力が抜ける。その瞳には明らかに苦痛が宿る。レーン様を苦しめたい訳では無いのに！


「違います！！森を選ぶのではありません！貴方を諦めて、森に帰る事など出来ません！」

　だめだ…堰き止めても、止めても涙が溢れてくる…

「私は貴方が好きなのです！森の精でありながら！森を選べず今も貴方を選んでいます！貴方しか要らないと思ったから、此処に居るんです…！」

　森を捨てる様な愚かな行為をしているから、今しか此処には居られない…決して、決してレーン様を選ばない訳では……

　
　言い終わるかどうかの所で、今までに無いほど、きつく、きつく息も出来ない程レーン様に抱き竦められた。