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有都を目の前にしたラウードは驚愕に目を見開く。何かを言うよりも、ラウードはその胸に有都を掻き抱いた。
「どうして、逃げなかった?」
「全部、取るって約束した……」
そっとラウードの胸元に手を添えて、有都はニコリと笑う。
ラウードの苦しみを……
「アリー…」
困った様な苦笑をラウードは漏らして、ギュッと有都を抱きしめる。
「俺から、離れるなよ?絶対に守り切ってやる!!」
有都のスキルが効いていたのかラウードの身体には一筋の切り傷も無く、ラウードからは疲労感も見て取れない。有都を抱え込む腕に入っている力も満ち満ちている様に感じる。
良かった…………ラウードが今感じている苦しみを全て消去…!
有都心の中で呟いた瞬間に兵士の中から又もや悲鳴が上がり始める。辺りには光が点滅し始め、一気に混乱状態となった。ラウードと有都は兵士達に囲まれている為に、何が起こっているのか確認はできないが、ラウードは剣を下げず周囲の動きに全神経を集中している様だった。
「ラウード…大好き……」
そうだ…好き……大好き……
「……ごめん……勝手だけど、全部、全部消すよ?」
生活には困らない位に残して後の記憶全部……ラウードとここに居る全ての人の…
「アリー…!?」
「約束……守るからね。みんな忘れちゃっても、俺が覚えてるから…もし、生活に困るような人が出たら、ちゃんと助けるから…だから……ごめんね…?ラウード…記憶を………消すよ…!」
「何を!?」
ここに居る全てのオロンガル兵の、恨みも、憎しみも、悲しみも、戦わなくてはいけないその理由となる記憶…… 兵士達の怪我と疲労…その全てを消去!!スキル持ちに対する迫害や侮蔑、支配の記憶も消去!傷付けられて、失ってしまったスキル持ちの、悲しみや憎しみに関する記憶の消去!
「ラウード…愛してる……」
有都が消去のスキルを使い終わるとラウードの両頬を両手で挟み込んで、有都はラウードにキスをする。
「アリー、記憶そのものを!?」
周囲の人々の動きが止まる。有都のスキルで記憶の消去が始まりその状況が飲み込めていない周囲の人々の喧騒は引き続く。武器を持っていた者は訝しんで武器を捨て、混乱してしまっているスキル持ちは未だに身の安全確保のためにか一部スキルを使い続けている者もいた。
「うん………ごめん、ごめんなさい…ラウード…勝手に…!ごめん…!!」
ラウードの苦しむ姿をもう見たくない。できたら、この後一生笑っていて……
自分の事を全部忘れてしまっても………
不安そうに有都を見下ろすラウードが、何かを悟ったかの様にキュッと眉を寄せる。有都の両目からは後から後から涙が溢れて止まらない。
人生で初めての愛の告白が、お別れの瞬間になってしまったのだから……
「ラウード…の、苦しみの、原因となってる、記憶…全…消去…!」
ごめん…ごめん…ラウードごめん…!
消す記憶の中にはラウードのお母さんの記憶もあるはず…大切な人達の記憶を、ごめん……ごめんなさい………!
最後まで有都はラウードを見ていようと思った。有都のスキルで大切な人の記憶を勝手に奪って…この後、酷く恨まれるかもしれないし、有都の事などすっかりと忘れて何もなかったかの様に帝都に帰るかもしれない。もしかしたら、日常生活がままならなくなるくらい記憶が無くなるかもしれない。どう転んでも、有都は自分で責任を最後まで負うつもりだ。目を逸らさず、この目に焼き付けて、自分ができる最後の時までずっとラウードと共にいる…!
キュウッとラウードの眉根が寄る。苦しいのか混乱しているのか見ている有都はヒヤヒヤしながらギュッとラウードの衣を掴む。
「ラウード…?苦しくない…?ラウード?」
表情が変わらないラウードの事が心配で心配で堪らなくて、有都は瞬きも忘れてラウードの顔を覗き込む。
「ラウードが、どうなっても俺、側にいるから…もう良いって、嫌だって言われても側にいるから…」
記憶を消された事の不安感はどれほどだろうか。人の人生を狂わせる程の行為を有都は人々の了承なく行った。今後大勢の人に恨まれても、仕方がないことを…
あぁ…やはり、大丈夫だ……
俺の中には大切な者がちゃんと居る…
初めて俺を苦しみから解放してくれたあの時から、お前は俺の心の最奥で俺の全てとなっていた……
それ程の幸福を与えてくれたお前を、この俺が忘れる事など、天地が崩れ落ちたとしても許されるものか………!
瞬きもしたない有都の瞳には、どこかで光る閃光が差し込み、耳にはあらゆる喧騒が響き渡ってくる。けれど、瞳は一瞬たりとも逸らさなかった。愛しいと、初めて心から思うラウードの瞳から……
「どうして、逃げなかった?」
「全部、取るって約束した……」
そっとラウードの胸元に手を添えて、有都はニコリと笑う。
ラウードの苦しみを……
「アリー…」
困った様な苦笑をラウードは漏らして、ギュッと有都を抱きしめる。
「俺から、離れるなよ?絶対に守り切ってやる!!」
有都のスキルが効いていたのかラウードの身体には一筋の切り傷も無く、ラウードからは疲労感も見て取れない。有都を抱え込む腕に入っている力も満ち満ちている様に感じる。
良かった…………ラウードが今感じている苦しみを全て消去…!
有都心の中で呟いた瞬間に兵士の中から又もや悲鳴が上がり始める。辺りには光が点滅し始め、一気に混乱状態となった。ラウードと有都は兵士達に囲まれている為に、何が起こっているのか確認はできないが、ラウードは剣を下げず周囲の動きに全神経を集中している様だった。
「ラウード…大好き……」
そうだ…好き……大好き……
「……ごめん……勝手だけど、全部、全部消すよ?」
生活には困らない位に残して後の記憶全部……ラウードとここに居る全ての人の…
「アリー…!?」
「約束……守るからね。みんな忘れちゃっても、俺が覚えてるから…もし、生活に困るような人が出たら、ちゃんと助けるから…だから……ごめんね…?ラウード…記憶を………消すよ…!」
「何を!?」
ここに居る全てのオロンガル兵の、恨みも、憎しみも、悲しみも、戦わなくてはいけないその理由となる記憶…… 兵士達の怪我と疲労…その全てを消去!!スキル持ちに対する迫害や侮蔑、支配の記憶も消去!傷付けられて、失ってしまったスキル持ちの、悲しみや憎しみに関する記憶の消去!
「ラウード…愛してる……」
有都が消去のスキルを使い終わるとラウードの両頬を両手で挟み込んで、有都はラウードにキスをする。
「アリー、記憶そのものを!?」
周囲の人々の動きが止まる。有都のスキルで記憶の消去が始まりその状況が飲み込めていない周囲の人々の喧騒は引き続く。武器を持っていた者は訝しんで武器を捨て、混乱してしまっているスキル持ちは未だに身の安全確保のためにか一部スキルを使い続けている者もいた。
「うん………ごめん、ごめんなさい…ラウード…勝手に…!ごめん…!!」
ラウードの苦しむ姿をもう見たくない。できたら、この後一生笑っていて……
自分の事を全部忘れてしまっても………
不安そうに有都を見下ろすラウードが、何かを悟ったかの様にキュッと眉を寄せる。有都の両目からは後から後から涙が溢れて止まらない。
人生で初めての愛の告白が、お別れの瞬間になってしまったのだから……
「ラウード…の、苦しみの、原因となってる、記憶…全…消去…!」
ごめん…ごめん…ラウードごめん…!
消す記憶の中にはラウードのお母さんの記憶もあるはず…大切な人達の記憶を、ごめん……ごめんなさい………!
最後まで有都はラウードを見ていようと思った。有都のスキルで大切な人の記憶を勝手に奪って…この後、酷く恨まれるかもしれないし、有都の事などすっかりと忘れて何もなかったかの様に帝都に帰るかもしれない。もしかしたら、日常生活がままならなくなるくらい記憶が無くなるかもしれない。どう転んでも、有都は自分で責任を最後まで負うつもりだ。目を逸らさず、この目に焼き付けて、自分ができる最後の時までずっとラウードと共にいる…!
キュウッとラウードの眉根が寄る。苦しいのか混乱しているのか見ている有都はヒヤヒヤしながらギュッとラウードの衣を掴む。
「ラウード…?苦しくない…?ラウード?」
表情が変わらないラウードの事が心配で心配で堪らなくて、有都は瞬きも忘れてラウードの顔を覗き込む。
「ラウードが、どうなっても俺、側にいるから…もう良いって、嫌だって言われても側にいるから…」
記憶を消された事の不安感はどれほどだろうか。人の人生を狂わせる程の行為を有都は人々の了承なく行った。今後大勢の人に恨まれても、仕方がないことを…
あぁ…やはり、大丈夫だ……
俺の中には大切な者がちゃんと居る…
初めて俺を苦しみから解放してくれたあの時から、お前は俺の心の最奥で俺の全てとなっていた……
それ程の幸福を与えてくれたお前を、この俺が忘れる事など、天地が崩れ落ちたとしても許されるものか………!
瞬きもしたない有都の瞳には、どこかで光る閃光が差し込み、耳にはあらゆる喧騒が響き渡ってくる。けれど、瞳は一瞬たりとも逸らさなかった。愛しいと、初めて心から思うラウードの瞳から……
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