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しおりを挟む一瞬で、解けた…
拘束を司るスキルそのものの消去……有都自身の身体や心には作用させる事が出来ないが、そのものを消す事は可能だった。
帝国の根幹がどうって………?そんなゴミの様な根幹、無くなったって誰も困らないだろ?
スキル持ちは奴隷扱いという認識の消去
スキル持ちを忌み嫌う認識の消去
シャラの森にいるスキル持ち達は敵であるという認識の消去
反逆者を捕まえて殺さなければならないという認識の消去
スキル持ちは帝国の物とする認識の消去
後は?……後は何がある?
有都の消去スキルはどこまでの範囲で効力を表すのか定かではなかったが有都は今ここで思いつく限りのものを消去し続ける。
身体が自由になった事で周囲に有都の拘束が解けた事は知れ渡っただろう。チラリ、と有都の様子を横目で確認したラウードは一瞬ホッとした目線を有都に送る。
周囲を見回しながら、他に何ができるのか、有都は考えながらラウードの隣で体勢を整えた。
「うわぁ!」
「ぎゃあ!?」
有都が動けるようになってすぐに、オロンガル帝国の兵士達の中で悲鳴が上がり、騒然とし出した。
「何の騒ぎだ!」
先程ラウードはスレイガー騎士団長を薙ぎ倒している為、オロンガル帝国兵士達は指揮官に欠いた状況下ではあるが、敵に不意打ちを食らった様な混乱ぶりは尋常では無かった。
「申し上げます!スキル持ち達が暴走しております!」
「なんだと!?」
有都がスキル持ち達を奴隷の位から引き上げた為に、当然のように繋がれていたスキル持ち達が今までの鬱憤を晴らすがの如くに暴れ出しているようだ。
「愚か者共め!内輪揉めとは…!……すぐに抑えよ!」
これじゃ、駄目なんだ……
有都が認識を消去したとしても、以前から今までの記憶は残っている。スキル持ちの奴隷だった身分の者の奴隷意識を取り除いた事で奮起させて起こった事が、今まで押さえつけられていた事への不満や恨みだ…
兵士達の壁の向こうでは有都には聞き慣れない金属音や兵士のものと思える生々しい悲鳴が聞こえて来る。戦場には全く縁の無かった有都には今の状況が飲み込めずにパニックになりそうだった。
「アリー!そのままスキルを使って逃げろ!」
有都はポンっとラウードに肩を叩かれる。パニックになりかけて叫びそうだった有都の頭の中は一瞬で冷静さを取り戻した。
ラウード…!
有都に自分のスキルを使ったラウードはそのまま振り返りもせずにオロンガル皇帝の元へと切り込んで行ってしまった。
皇帝が狙われているのだ。兵士達の視線も注意も一気に皇帝を守るべくそちらへと集中する。
たった一人で肉の壁の様な兵士達を薙ぎ倒しながら、ラウードはただひたすらにオロンガル皇帝の元へと歩を進めるのだ。
「ヨピール!!スキル持ちを解放し、帝国軍を全軍撤退させろ!」
ラウードの求める事はこれだけだ。地位も名誉も金銭ですら無い。ラウードの母が最後まで口にしていたこの望みのみ…
多勢に無勢!!ラウードがやられちゃう!
冷静さを取り戻した有都には兵士の数の圧倒的な差がよく見える。いくら屈強の騎士とは言え、多勢の兵士の前ではラウードの方が遅かれ早かれ力付きる…
ラウードの疲労消去!あと、あと!倒された兵士の即死と瀕死の消去!!
有都はラウードの後方から願い続ける。自国の兵士なのだからラウード自ら手に掛ければそれだけ自分の心に傷がつく…だから、怪我人は仕方ないにしても死亡者が出ない様に、と願うのだ。
「兄上!!貴方と言う人は!!こちらが穏便に済まそうとしているのが分からないのか!!」
「何を言う!元より、元凶を断っていたらばここまで拗れはせん!!お前こそ、皇帝としての気概は無いのか!!兵を下げよ!」
どちらも一歩も引かず、一人で帝国軍に立ち向かうラウードの異常な胆力に疑問を持ち始める者達も出てきた。
「皇帝陛下!あの者では?」
戦場の状況把握に長けた騎士らはラウードが何らかのサポートを受けていることに気づき始め、その元凶を探る。逃げろ、と言われていた有都は先の場所から一歩も動かずラウードの動きを必死に目で追っていた。
「拘束を一人で解いた者です!何らかのスキルを使っているのでしょう!」
「アリトを生捕にせよ!兄上もだ!二人とも我の者として連れ帰る!」
「…………ヨピール!!」
オロンガル皇帝は諦めてはいない。ラウードが再び皇帝の手の元で以前の様に従順に苦悩のスキルを使い続ける事を望み続けているのだ。
国々の統一と粛清……多くの犠牲の元で成り立った帝国には多くの苦しみが溢れ満ちている…皇族といえど、悪夢に飛び起きる夜もあるのだ。充分過ぎるほどにラウードはその事を熟知していた。けれども一番身近にいたラウードの母の姿が、正気を取り戻せば、ラウードの不安や恐怖まで全て引き受けようとする母の姿がラウードを突き動かす引き金になったのだ。国を作るのならば、負債を誰かに押し付けるのは間違っているのでは無いかと…ただ苦しむだけの為に生きている人間がいる事は間違っているのでは無いかと…
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