[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

文字の大きさ
上 下
24 / 28

24

しおりを挟む
「狂いの塔には背負い込んだ苦悩のゆえに気が触れた皇族達が投げ込まれるのだ。」

 表情一つ変えずにオロンガル皇帝はそう告げる。多くの皇族の苦悩や痛みを背負い続けた精神はやがて病み、壊れて行く…

 ラウードが物心ついた時にはラウードの母はたび重なる皇族達からの召し出しで苦悩を取り続けた結果、心は壊れて夢か現か定かでは無い状態であった。


"それが、定め……"


 ラウードはそう自分自身の事を幼い時から理解していたが、時折目の焦点が合う母親はその度にこう言ったのだ。

「お前の代で、この帝国を終わらせて欲しい…出来れば、スキル持ちを解放して…」

と………


 狂ってる……!こいつら、狂ってる…!!


 産まれた時から定められた運命に、従順に我が子までも差し出して従うしかなかったラウードの母の無念はどれほどだろう…そんな母を物心付く前から、いや産まれた時からまたラウードも見せられて来たのだ。

 有都の中では言いようの無い怒りが渦巻いている。愛する家族であるべきなのに、血を分けた兄弟であるのに、一方は蔑み踏みつけ、一方はそれを良しとする…


 こんなの、あってたまるか!!


 ラウードは有都がここに来てからの有都の支えとなってくれた最早恩人以上の存在で…虚しい人生を送るかもしれなかった有都の中に愛したり、愛されたりする事の素晴らしさも教えてくれた。苦しめられて、苦しめられて、ゴミの様に捨てられて良いはずがない…!

「ヨピール…スキル持ちを解放しろ…そうすれば、これ以上反抗はしないし、おとなしく帝国のものともなろう。」

 ラウードの母の生涯で願った数少ない望み……

「フフフ…フフフフ!何を!馬鹿げた事を!兄上だとて知っているのだろう?我らの皇室の苦悩を!?国々をまとめあげ、一つの国家とし、民に平和をくれてやるまでは、此奴らの力とて必要不可欠!それが成されれば喜んで!兄上だとて共に泣いて下さっていたではないか?」

「………お前が、力の無い町の人々を焼き捨てた時か…?お前が見せしめのために罪の無いスキル持ちの子供達を吊るした時か……?それとも、皇族の男児を皆殺しにした時か!?」

「左様ですとも…その傷が未だに夜な夜な痛むのだ!兄上もよぉくご存知でしょう?」

「ヨピール……為政者ともなればその重圧に押し潰される事もあろうと思えばこそ……!?」

「そうでしょうとも?それこそ我が帝国のスキル持ち!あぁ!兄上には拘束はかけぬ。映えある第一皇子が帰還するのだからな!見苦しい姿を晒すことはできますまい。そして此処に!光のスキル持ちを用意しましたので、セレモニーの如くに帰還は賑々しく執り行いましょうぞ?」

「いい…加減に、しろ!!」

 
 ラウードは好きにしろと言った!!


「アリトよ。拘束されてても威勢がいいな?」

 上機嫌なのだろうか?椅子の上から見下ろすオロンガル皇帝はニヤニヤと鼻に付く笑みを浮かべている。   

「うるさい!ラウードは物じゃない!スキル持ちだって物じゃないし、奴隷でもない!!」

「フン!いくらお前が吠えた所で帝国の根幹は変わらん。要らぬ我を張らずに素直になれば良いものを…」

「素直になってるから言ってるんだ!ラウードはお前達に従う必要なんてない!」

「そうかな…?」
 
 ニヤリ、オロンガル皇帝の顔が歪む。

「兄上は知っているのだ。我が皇室の苦悩をな…?それ故、離れられんのだ。」

「……!?」

 反旗をひるがしているラウードに対し、オロンガル皇帝は焦りも見せない。

「残念だが……ヨピール…お前達の苦しみを知ってはいても…それでも、お前達はやり過ぎたのだ…」

「ククク…ククククク……兄上…全てを無にされるつもりか?帝国の安寧こそ人々の幸福と、皇室の為に身を挺して来た人々の犠牲を無碍になさるか?出来ぬだろう?血反吐を吐く思いを舐め尽くした先人達をその足で踏みつけるおつもりか?」

 ギリッ……有都の隣から、苦しそうな歯軋りが聞こえてくる。ラウードは剣の構えを崩さないままオロンガル皇帝と対峙し、その首を取る勢いの気迫を込めている。がその反面、ラウードの中にある己の苦悩の記憶とも戦って、震える拳を握りしめながら耐えているのだ。

「………ラウード……」

 有都はずっと、ここに来てからラウードの苦しみを見て来た。大柄な屈強と思える騎士が蹲って、声を殺して必死に耐えている姿を…そんな情けない姿誰にも見せまいとして…夜中にひっそりと…

 
 思いつきで消すだけじゃ…全然ダメだった…

 もっと、もっと深い所でラウードは苦しんでて今まで一人で耐えて、これからも……?


「……消すって…約束したんだ……」


 それができる、スキルがある……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。 幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。 人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。 彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。 しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。 命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。 一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。 拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。 王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔王になんてぜったいなりません!!

135
BL
僕の名前はニール。王宮魔術師の一人だ。 第三騎士団長のケルヴィン様に一途な愛を捧げる十六歳。 僕の住むラント国に異世界からの渡り人がやってきて、僕の世界は変わった。 予知夢のようなものを見た時、僕はこの世界を亡ぼす魔王として君臨していた。 魔王になんてぜったいなりません!! 僕は、ラント国から逃げ出した。 渡り人はスパイス程度で物語には絡んできません。 攻め(→→→→→)←←受けみたいな勘違い話です。 完成しているので、確認でき次第上げていきます。二万五千字程です。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...