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「兄弟……ね……」
自重気味にそう呟くラウードの瞳の奥には暗い影が揺らめき立っている。
「そうではないか?たった二人きりの兄弟だ!昔の様に戻ってくるならば、此度の反逆の件については多めに見よう!あぁ、そこのスキル持ちも当然一緒に連れてくるが良い。兄上の伴侶なのだろう?こんな所まで自らの足を運んだくらいなのだから。楽しみが増えて良いではないか!」
「楽しみだと……?」
「ふふふ…狂いの塔で狂い死ぬよりはましと言うものだろう?父上も待っておられる。」
「戻るつもりはない…」
「その様な我儘を……折角ここまで兄上がお出ましになったのだ、このまま離れ離れも兄上にとっても寂しいだろうに?」
「どの口が言っている………」
ラウードは冷静に見えるのだが、声の端々に肉親に対する様な愛情は微塵も感じられない。それだけラウードの心底にあるものは暗く、根深くラウードの内に巣食っている。
「この口ですよ?兄上。忘れたのですか?最愛の父と弟が貴方の帰りを待って居るのだ!ここは、喜び踊る所でしょう?」
「残念だが、その顔は忘れたな…」
「そうですか?でも狂いの塔に飾られた歴代の皇族達の顔を見れば思い出すのでは?」
ピクっとラウードが反応する。
「貴方のお母上の絵もつい先日飾られたと聞いた。」
「何を……!?」
「思い当たる事があるだろう?あの側女が気が触れてからもう大分経つからな。あぁ、そうそう。その側女は兄上の母上だったか?」
馬鹿にして!!
有都は、動かない身体をグッと前に突き出した。
さっきから聞いていれば、ラウードは戻りたく無いって言ってるだろうが!ただでさえ戻った所で、お前達の所なんか絶対にいい事ねぇ!それを……それを……!!
有都にはオロンガル皇帝が何を言っているのか分かろうはずもないのだが、ラウードや、その母親の事を面白おかしく馬鹿にしながら話している事はわかる。
「アリー……落ち着け…」
ラウードの方がまだ平静だ。オロンガル皇帝の言葉に反応はしていても冷静さを失わないのだから。
「母上も……俺もだが、不運な元に生まれ落ちた者だと…もう随分と前から覚悟はできていたのだ…」
「殊勝な事だな……」
ニヤリ……不敵に笑うオロンガル皇帝が有都には酷く不気味に見える。
兄弟なんだろう…?何で……?
「アリー……自分のスキルを思う存分使え。俺の事は気にしなくていい…」
ラウードは静かに有都にそう囁くと、そっと有都を地に下ろす。
「ラウード……何するつもり?」
有都は身動きが上手くできない中でも、必死にラウードを見上げて来る。ラウードは悲しい様な、寂しい様な、そんな笑顔で有都を見下ろしていて…恨みとか、憎しみとか、誰かを責める色とかそんなもの見当たらなくて、有都には酷く、悲しく見える。
「おっと、伴侶殿は兄上を知らんのか?…ふん。この森で生まれ育ったならば知らぬのも無理はないか…?良いだろう。余興程度に教えてやろう!」
「ヨピール!」
「構わんだろう?今更何を取り繕う?帝国に帰れば自ずとその伴侶殿も狂いの塔に投げ込まれるのだから。何も知らせずとはそれこそ不誠実というもの。」
オロンガル皇帝には皇族専用の塔がある。その名を苦しみの塔、狂いの塔、嘆きの塔…時代により呼び名は変わるが、昔から変わらないのは此処には特定の皇族が入れられるという事だった。
特定の皇族…広大な国土と民を支配し続ける支配階級の皇族の補佐のため、その身に代わって苦痛を請け負うスキルを持って生まれて来た皇族達だ。国土を広げ、民を制圧し、厳しい規律の元に国政を行なっていく支配階級の皇族には苦悩が必ず付きまとう。スキル持ちの皇族はそれらの苦悩や苦痛をスキルを使って自らの身体や精神に移す役割がある。これを聞くだけならば、自己犠牲の元に素晴らしい美談の様に映るだろうが、果たして本人達の心からの献身からの行為ばかりでは無い。オロンガル帝国では、スキル持ちは蔑まれる対象として扱われる。スキルを持って産まれた者は必ず帝国へと献上されなければならないのだ。スキル持ち達はその能力をありがたがられ宝の様に扱われるかと思いきや、ほとんどの者が大陸統一のためと言う崇高な目的の為に奴隷の様な扱いを受け力を使い続けているのが実情だ。これは勿論、皇族に対しても言える事で、苦悩を取り去る為のスキル持ちを産み落とすだけの為に側妃として皇族位を与えられる事も珍しくは無い。
オロンガル帝国第一皇子であったラウードの母は、苦悩のスキル持ちであった。当時の彼女は一人で戦に出て行く皇帝や皇族達の苦悩を背負い込んでいたと言う。
自重気味にそう呟くラウードの瞳の奥には暗い影が揺らめき立っている。
「そうではないか?たった二人きりの兄弟だ!昔の様に戻ってくるならば、此度の反逆の件については多めに見よう!あぁ、そこのスキル持ちも当然一緒に連れてくるが良い。兄上の伴侶なのだろう?こんな所まで自らの足を運んだくらいなのだから。楽しみが増えて良いではないか!」
「楽しみだと……?」
「ふふふ…狂いの塔で狂い死ぬよりはましと言うものだろう?父上も待っておられる。」
「戻るつもりはない…」
「その様な我儘を……折角ここまで兄上がお出ましになったのだ、このまま離れ離れも兄上にとっても寂しいだろうに?」
「どの口が言っている………」
ラウードは冷静に見えるのだが、声の端々に肉親に対する様な愛情は微塵も感じられない。それだけラウードの心底にあるものは暗く、根深くラウードの内に巣食っている。
「この口ですよ?兄上。忘れたのですか?最愛の父と弟が貴方の帰りを待って居るのだ!ここは、喜び踊る所でしょう?」
「残念だが、その顔は忘れたな…」
「そうですか?でも狂いの塔に飾られた歴代の皇族達の顔を見れば思い出すのでは?」
ピクっとラウードが反応する。
「貴方のお母上の絵もつい先日飾られたと聞いた。」
「何を……!?」
「思い当たる事があるだろう?あの側女が気が触れてからもう大分経つからな。あぁ、そうそう。その側女は兄上の母上だったか?」
馬鹿にして!!
有都は、動かない身体をグッと前に突き出した。
さっきから聞いていれば、ラウードは戻りたく無いって言ってるだろうが!ただでさえ戻った所で、お前達の所なんか絶対にいい事ねぇ!それを……それを……!!
有都にはオロンガル皇帝が何を言っているのか分かろうはずもないのだが、ラウードや、その母親の事を面白おかしく馬鹿にしながら話している事はわかる。
「アリー……落ち着け…」
ラウードの方がまだ平静だ。オロンガル皇帝の言葉に反応はしていても冷静さを失わないのだから。
「母上も……俺もだが、不運な元に生まれ落ちた者だと…もう随分と前から覚悟はできていたのだ…」
「殊勝な事だな……」
ニヤリ……不敵に笑うオロンガル皇帝が有都には酷く不気味に見える。
兄弟なんだろう…?何で……?
「アリー……自分のスキルを思う存分使え。俺の事は気にしなくていい…」
ラウードは静かに有都にそう囁くと、そっと有都を地に下ろす。
「ラウード……何するつもり?」
有都は身動きが上手くできない中でも、必死にラウードを見上げて来る。ラウードは悲しい様な、寂しい様な、そんな笑顔で有都を見下ろしていて…恨みとか、憎しみとか、誰かを責める色とかそんなもの見当たらなくて、有都には酷く、悲しく見える。
「おっと、伴侶殿は兄上を知らんのか?…ふん。この森で生まれ育ったならば知らぬのも無理はないか…?良いだろう。余興程度に教えてやろう!」
「ヨピール!」
「構わんだろう?今更何を取り繕う?帝国に帰れば自ずとその伴侶殿も狂いの塔に投げ込まれるのだから。何も知らせずとはそれこそ不誠実というもの。」
オロンガル皇帝には皇族専用の塔がある。その名を苦しみの塔、狂いの塔、嘆きの塔…時代により呼び名は変わるが、昔から変わらないのは此処には特定の皇族が入れられるという事だった。
特定の皇族…広大な国土と民を支配し続ける支配階級の皇族の補佐のため、その身に代わって苦痛を請け負うスキルを持って生まれて来た皇族達だ。国土を広げ、民を制圧し、厳しい規律の元に国政を行なっていく支配階級の皇族には苦悩が必ず付きまとう。スキル持ちの皇族はそれらの苦悩や苦痛をスキルを使って自らの身体や精神に移す役割がある。これを聞くだけならば、自己犠牲の元に素晴らしい美談の様に映るだろうが、果たして本人達の心からの献身からの行為ばかりでは無い。オロンガル帝国では、スキル持ちは蔑まれる対象として扱われる。スキルを持って産まれた者は必ず帝国へと献上されなければならないのだ。スキル持ち達はその能力をありがたがられ宝の様に扱われるかと思いきや、ほとんどの者が大陸統一のためと言う崇高な目的の為に奴隷の様な扱いを受け力を使い続けているのが実情だ。これは勿論、皇族に対しても言える事で、苦悩を取り去る為のスキル持ちを産み落とすだけの為に側妃として皇族位を与えられる事も珍しくは無い。
オロンガル帝国第一皇子であったラウードの母は、苦悩のスキル持ちであった。当時の彼女は一人で戦に出て行く皇帝や皇族達の苦悩を背負い込んでいたと言う。
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