[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

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「して…?アリトよ。其方のスキルは何だ?それさえ吐けば、今は集落の事は脇に置いておいてやるぞ。ん?」

 相変わらずオロンガル皇帝の目は笑ってはいない。口角だけを器用に上げて作られた笑いを有都に向けてくる。
 有都は先程から何度も衣類を破かれ最早上半身に衣類は無い。

「くっそ…」

 有都の隣では実に楽しそうにスレイガー騎士団長が有都に手を伸ばしてくる。その姿が、何度も襲われかけて来た有都の記憶を呼び起こして、嫌でも嫌悪で身体が震えてくるのだ。
 
 先ほどまでは、ラウードから与えられた快楽の余韻に浸って仮初でも構わない幸せを夢見ていたのに…今は作り笑いも恐ろしいオロンガル皇帝の目の前で自分は半裸にされ、ただオロンガル皇帝の目を楽しませる道具となっている。

「まだすぐには言うなよ?アリト、すぐに終わってしまったらつまらんからな。」

 有都の側にはニヤつくスレイガー騎士団長が有都の下衣に手を伸ばす。

「触るな!」

「クックックッ威勢がいいな、アリトよ。どこまで我を楽しませてくれるやら。」

 いつの間にかオロンガル皇帝は優雅に酒瓶を手に持って楽しんでいたりする。


 サクちゃん……逃げろよ…!


 まだ自分だけ捕まっている分にはここで慰み者になるくらいだろうが、もしサクが外の異変に気がついて川の方まで来てしまったら、有都の前で今度こそ確実にサクは殺されてしまうだろうから。


 だから、まだ、我慢できる…!


 スレイガー騎士団長に、下衣に手をかけるふりをしながら色々な所を触られたってまだ我慢できる、と有都は自分に言い聞かせた。



「いい…御身分だな……ヨピール…」

 有都がギュッと目を瞑り、覚悟を決めた直後に、地を這う様な男の声が聞こえた。有都が目を開ける間も無く、有都の直ぐ身近で何かが激しくぶつかる様な音と共に、男のくぐもった声が低く響き、消えていく…


 何……?なん…?


 状況が把握できずに目を開けた有都の前には…

「ラウード………?」

 有都の目の前には、抜剣をしたラウードが立っていた。いやらしく有都を触っていたスレイガー騎士団長は……周囲に集まっていたオロンガル帝国兵士の一団の中へ倒れ伏している様だ……


 あそこまで、吹き飛ばされた……?


 有都の周囲を囲っていたオロンガル帝国兵士達は有都とラウードとの距離を取り、後退る様に一気に距離を空けていた。

「ラウード…?どうして?」

 兵士達の動きなんて全く気にしていない様に、ラウードはヒョイと有都を抱え起こしに来る。拘束されている有都は自由に体を動かす事ができずに、ラウードにされるがままだ。

「遅くなって悪かった…オリバーが帝国兵を見つけたのがまさか、小屋付近とはな…」

「サクちゃんは?」

 
 見つかったら殺される…!


「大丈夫だ。オリバーと森の奥へと向かわせた。」

 有都を抱き起こしながら、ラウードはそっとそう呟く。ホッとして有都から力が抜ける。

「動けんのか?」

「拘束、スキル持ちの人がいて…」

「いい、御身分とは自分の事か?ラウード兄上…?」

 しばし、ラウードと有都を静観していた
オロンガル皇帝の言葉に有都はびっくりしてラウードを凝視してしまう…

「ラウード…?」


 兄上って…兄弟!?オロンガル帝国の皇帝とラウードが兄弟?


 そう言われてみれば、オロンガル皇帝の顔はどこかで見た顔だと思った…この所毎日の様に隣で寝ているラウードの顔に……

兄だと思われているとは知らなかったな……」

 ラウードの事を兄と慕って声をかけたオロンガル皇帝に反して、ラウードの反応は非常に冷たいもので、オロンガル皇帝に向けられているラウードの冷たい視線と声色は有都から見ても背筋に冷たいものが走る程……

「アリーに、何をした?」

 見るからに有都は悲惨な格好をしている。上半身の衣類はボロボロで素肌はさらけ出し放題。身体の動きは拘束で戒められていて立たせた所で、自分で上手く立っていられないくらいだ。

「何を言うのだ?家を出てからこうしてお会いするのは非常に久しぶりというのに、兄上は素っ気無いですね?」

 オロンガル皇帝は兄とラウードを慕う様な言葉を紡ぐが、ジリジリとラウードを囲み始めたオロンガル帝国の兵士がそれを否定している。


 兄弟、なのか…?なのに何でラウードはオロンガル帝国に反発して?


 兵士達の動きからもラウードをオロンガル皇帝の兄君と敬っている訳ではない事は一目瞭然だった。








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