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しおりを挟む陛下………?兵士……?もしかしてこの人、オロンガル帝国の皇帝陛下!?
まさか、と言う気持ちの方が有都には大きい。先日オロンガル帝国の兵士に襲われてオリバーが大怪我を負ったばかりだ。更に森の奥へと逃げて来たのに…
「ふふん…小僧…解せぬ様だな?」
オロンガル皇帝の周りの兵士達は、それぞれ武器を手に持ち有都の周りを素早く取り囲んでいる。
「……!?」
「先日、川の水が消えた…」
凛とした低い声が辺りに響く。いくらか兵士よりは華奢に見える皇帝だが、その声の張りと威厳は本物で、有都も声が出ない…
「この川下流全てのだ。帝国史以来この様な事は無かった…」
「…………」
「小僧…この森にはな。困った反逆者どもが潜伏しておるのよ。その者達がいる河川の川の水の異変だ。ここに、何があると思う?」
「…………」
水が無くなった……つい、先日有都が起こした事だ。が、直ぐ水は元に戻ったのだ。作物や何かには被害だって出てないだろう。
「分からんか?それは、帝国に反旗を翻さんとする反逆行為よ!」
「…!?」
反逆なんてしてないし!!
そもそも有都には関係のない帝国なのだから反逆のしようもないのだ。けれど、ここにいる兵士達はオリバーに大怪我をさせた者達の仲間……
キッと有都は陛下と呼ばれる男を睨みつける。金の髪と赤い瞳をした端正な顔の男だ。
「スキルを持つ者は誰でも我がオロンガルの為にその力を差し出さねばならない!帝国の人間ならば、幼子でさえ知っている事だ。この度スキルを帝国に差し出さず、川の水さえ瞬時に消し去ったスキル持ちが出た様でな?わざわざ私が足を運び、調査しに来てやったのだ。小僧、これを反逆と言わず何という?」
知らねぇよ!
これが有都の本心だ。元々帝国なんてものには有都は関係のないものだから。が、目の前のオロンガル皇帝は居丈高に有都を見下ろして、さも当然とばかりに冷たい侮蔑を込めた視線を投げてくる。
「ふん…小僧、口も利けんのか?おい!この者のスキルを調べられる者は!?」
「!?」
兵士達に囲まれてしまっては有都には最早出来ることなど何もない。蹲ったまま周囲を見回し状況を把握するしか…
「恐れながら陛下…鑑定スキル持ちは……」
「ちっ…!そうであった。使えぬ一族だ!」
「おい、ゼコ!この者がスキル待ちなのは確かだろうな?」
ゼコと呼ばれた亜人の首の鎖を一人の兵士がグイッと乱暴に引き上げた。
「ぐぅっ…た…確かで、御座います……」
首輪が付いているのだから鎖を引けば首が絞まる。くぐもった苦しそうな声がゼコから聞こえて来た。
「ふ…ん。お前のスキルは確かだからな。仕方ない。このままこれを連れ帰るか…」
これ…?
まるでゼコを奴隷か何かの様に扱う目の前の兵士達。苦しそうにしているのに誰もゼコを助ける者などいない。
「陛下…これだけの見目の者です。お側に置くのにも鼻が高うございましょう。」
「なるほど…見栄えは良いようだな。粗末な身なりだが着飾らせれば喉から手が出る程欲しがる者も出てこよう。」
「捉えて、尋問でもすればこの者が何のスキル持ちかも分かりましょう。」
「!?」
捉える?捕まえられると言うことか?冗談じゃないよ!?捕まえたら、見せ物にでもするつもりなのか…?
本人の目の前で拐かしの算段が着々と練られていく。
「拘束係はどこだ?」
やばい……!
有都の背中にジワリと汗が浮かんでくる。
兵士の声にまた一人、ネズミの亜人と同じ様な粗末な服装の男が前に進み出た。こちらは純粋な人間の様だが、扱いは亜人と同じだ…
「ここにおります…」
大勢の兵士に、スキル持ちの亜人…有都が一人で逃げる事も勝つ事もはっきりと分かるくらいに無理な事だ。ジリジリとにじり寄る兵士達の動きも気になるが、有都は拘束係のスキル持ちが何をするのか気が気ではない。
「あれを拘束せよ!」
オロンガル皇帝の命に応える様に深々と頭を下げた男はゆっくりと有都の方に目を向ける。印象的な濃紺の瞳が有都の視線とぶつかった。
「拘束!」
「!?」
びっくりした時の様に有都の肩が揺れた。
「…!?」
拘束……スキル……?
その名の通り、対象者の動きを止めるものの様で、有都ももれなく動けない…
「さて、これで逃げられる事は無くなったのだが?」
ふむ、と満足そうに陛下は肯く。
「其方、名は?」
上から見下ろす視線の冷たさは変わらなくて、有都はこの男に見つめられるのが酷く不快だ。
「………」
「…?おい、本当にこれは口が利けないのか?」
「いえ、話す事までは縛っておりません故、話せる者でしたら話す事はできますでしょう。」
拘束スキルを使った男は頭を地面に付けるほどに低くしながらそう言った。もし、有都がこのオロンガル皇帝に捕まったならば、生涯飽きられるまでこのスキル持ちの男達のように奴隷の様に扱われるのだ…先程ジワリと背中に浮かんでいた汗は、今や額にも浮いてくる。
「おい!陛下の御前である!何とか申したらどうだ!」
「あっ…ぅ……」
有都の中で高まる緊張感を押し殺す様に耐えていた所に、後ろにいた兵士が一撃有都の側頭部に拳を入れた。一瞬目の前に火花が散った有都は、手をつく事も叶わずそのまま地面に倒れ伏してしまう……
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