[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

文字の大きさ
上 下
20 / 28

20

しおりを挟む


 陛下………?兵士……?もしかしてこの人、オロンガル帝国の皇帝陛下!?


 まさか、と言う気持ちの方が有都には大きい。先日オロンガル帝国の兵士に襲われてオリバーが大怪我を負ったばかりだ。更に森の奥へと逃げて来たのに…

「ふふん…小僧…解せぬ様だな?」

 オロンガル皇帝の周りの兵士達は、それぞれ武器を手に持ち有都の周りを素早く取り囲んでいる。

「……!?」

「先日、川の水が消えた…」

 凛とした低い声が辺りに響く。いくらか兵士よりは華奢に見える皇帝だが、その声の張りと威厳は本物で、有都も声が出ない…

「この川下流のだ。帝国史以来この様な事は無かった…」

「…………」

「小僧…この森にはな。困った反逆者どもが潜伏しておるのよ。その者達がいる河川の川の水の異変だ。ここに、何があると思う?」

「…………」

 水が無くなった……つい、先日有都が起こした事だ。が、直ぐ水は元に戻ったのだ。作物や何かには被害だって出てないだろう。

「分からんか?それは、帝国に反旗を翻さんとする反逆行為よ!」

「…!?」

 
 反逆なんてしてないし!!

 
 そもそも有都には関係のない帝国なのだから反逆のしようもないのだ。けれど、ここにいる兵士達はオリバーに大怪我をさせた者達の仲間……
 キッと有都は陛下と呼ばれる男を睨みつける。金の髪と赤い瞳をした端正な顔の男だ。

「スキルを持つ者は誰でも我がオロンガルの為にその力を差し出さねばならない!帝国の人間ならば、幼子でさえ知っている事だ。この度スキルを帝国に差し出さず、川の水さえに消し去ったスキル持ちが出た様でな?わざわざ私が足を運び、調査しに来てやったのだ。小僧、これを反逆と言わず何という?」


 知らねぇよ!


 これが有都の本心だ。元々帝国なんてものには有都は関係のないものだから。が、目の前のオロンガル皇帝は居丈高に有都を見下ろして、さも当然とばかりに冷たい侮蔑を込めた視線を投げてくる。

「ふん…小僧、口も利けんのか?おい!この者のスキルを調べられる者は!?」

「!?」

 兵士達に囲まれてしまっては有都には最早出来ることなど何もない。蹲ったまま周囲を見回し状況を把握するしか…

「恐れながら陛下…スキル持ちは……」

「ちっ…!そうであった。使えぬ一族だ!」

「おい、ゼコ!この者がスキル待ちなのは確かだろうな?」

 ゼコと呼ばれた亜人の首の鎖を一人の兵士がグイッと乱暴に引き上げた。

「ぐぅっ…た…確かで、御座います……」

 首輪が付いているのだから鎖を引けば首が絞まる。くぐもった苦しそうな声がゼコから聞こえて来た。

「ふ…ん。お前のスキルは確かだからな。仕方ない。このままこれを連れ帰るか…」


 これ…?


 まるでゼコを奴隷か何かの様に扱う目の前の兵士達。苦しそうにしているのに誰もゼコを助ける者などいない。

「陛下…これだけの見目の者です。お側に置くのにも鼻が高うございましょう。」

「なるほど…見栄えは良いようだな。粗末な身なりだが着飾らせれば喉から手が出る程欲しがる者も出てこよう。」

「捉えて、尋問でもすればこの者が何のスキル持ちかも分かりましょう。」

「!?」


 捉える?捕まえられると言うことか?冗談じゃないよ!?捕まえたら、見せ物にでもするつもりなのか…?


 本人の目の前で拐かしの算段が着々と練られていく。

「拘束係はどこだ?」

 
 やばい……!


 有都の背中にジワリと汗が浮かんでくる。
 兵士の声にまた一人、ネズミの亜人と同じ様な粗末な服装の男が前に進み出た。こちらは純粋な人間の様だが、扱いは亜人と同じだ…

「ここにおります…」

 大勢の兵士に、スキル持ちの亜人…有都が一人で逃げる事も勝つ事もはっきりと分かるくらいに無理な事だ。ジリジリとにじり寄る兵士達の動きも気になるが、有都は拘束係のスキル持ちが何をするのか気が気ではない。

「あれを拘束せよ!」

 オロンガル皇帝の命に応える様に深々と頭を下げた男はゆっくりと有都の方に目を向ける。印象的な濃紺の瞳が有都の視線とぶつかった。

「拘束!」

「!?」

 びっくりした時の様に有都の肩が揺れた。

「…!?」


 拘束……スキル……?


 その名の通り、対象者の動きを止めるものの様で、有都ももれなく動けない…

「さて、これで逃げられる事は無くなったのだが?」

 ふむ、と満足そうに陛下は肯く。

「其方、名は?」

 上から見下ろす視線の冷たさは変わらなくて、有都はこの男に見つめられるのが酷く不快だ。

「………」

「…?おい、本当にこれは口が利けないのか?」

「いえ、話す事までは縛っておりません故、話せる者でしたら話す事はできますでしょう。」

 拘束スキルを使った男は頭を地面に付けるほどに低くしながらそう言った。もし、有都がこのオロンガル皇帝に捕まったならば、生涯飽きられるまでこのスキル持ちの男達のように奴隷の様に扱われるのだ…先程ジワリと背中に浮かんでいた汗は、今や額にも浮いてくる。

「おい!陛下の御前である!何とか申したらどうだ!」
 
「あっ…ぅ……」

 有都の中で高まる緊張感を押し殺す様に耐えていた所に、後ろにいた兵士が一撃有都の側頭部に拳を入れた。一瞬目の前に火花が散った有都は、手をつく事も叶わずそのまま地面に倒れ伏してしまう……









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。 幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。 人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。 彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。 しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。 命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。 一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。 拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。 王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔王になんてぜったいなりません!!

135
BL
僕の名前はニール。王宮魔術師の一人だ。 第三騎士団長のケルヴィン様に一途な愛を捧げる十六歳。 僕の住むラント国に異世界からの渡り人がやってきて、僕の世界は変わった。 予知夢のようなものを見た時、僕はこの世界を亡ぼす魔王として君臨していた。 魔王になんてぜったいなりません!! 僕は、ラント国から逃げ出した。 渡り人はスパイス程度で物語には絡んできません。 攻め(→→→→→)←←受けみたいな勘違い話です。 完成しているので、確認でき次第上げていきます。二万五千字程です。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...