[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

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 待って………待ってくれ……俺、昨日何をした………


 遅めの朝食を摂った有都はいつも魚を獲っている川の側にくずおれる様にして蹲っている。
 有都が目を覚ましたのは、朝も明けもう昼近くの時間だった。とっくにラウードとオリバーは仕事に出かけ、あまりに起きてこない有都を心配してサクが起こしに来てくれたのだ。サクに言われるままに着替えをして朝食をとり有都はそのままノロノロと小屋を後にして今、川の側にいる。
 
 昨日の事を覚えていない訳じゃなく、有都は目が覚めた時にはもうはっきりと思い出していた…


 ラウードと……何を……


 思い出せないのではなくて、思い出そうとすると頭が沸騰しそうな程に恥ずかしいのだ。今まで徹底的に人を避けてきたものだから有都には男女共に交際経験なんて無い。が、言い寄られてきた経験だけは豊富であって男女間のアレコレやら同性間のアレコレならば知識として知っている。お節介なストーカーから色々な予備知識として度々そちら系の情報を押し付けられてきたからだ。
 
 知識として知っていたとしても、有都はまさか同性とその一線を越えるとまでは思っていなかった。難しい事と分かっていても、いつの日にか自分だけの恋人ができる幸せは味わってみたいと夢の様な事を考えてみた事はあるのだが。


 その、相手が…ラウード………!?


 思い出すまいとしても、まだ身体の奥深くに残っている、ラウードが入っていた違和感は全く消えてくれそうに無い。思わず有都は消失スキルを口ずさんだが、自分自身には効かない事は先に証明済で、尚更ラウードとの一夜をまざまざと思い起こす結果となってしまった。


 ラウード……男でもいいのかよ…?


 散々同性にも言い寄られてきていたと言うのにラウードが有都に欲情した事に有都は驚きを隠せない。


 欲しいと思うから、抱くんだよな?


 自分から誰かを欲した事がない有都には、堪えきれないような、激情に流される情欲には縁がない。なのに、いつもは最後までしないのにラウードは有都を抱いた。

「~~~~~~!?」

 またまた有都は声にならない叫び声をあげて、地に蹲る。


 全然…嫌じゃなかった………嫌だなんて、思わなかった……


 もしかしたらラウードは最後まで苦悩のスキルを使い続けていたのかもしれなかった。有都が感じていたのはただラウードの腕の中にいる安心感と、果てしない羞恥と快楽だ…


 どうするの?俺……朝は寝てたから顔を合わせなくて良かったけど、どんな顔してラウードに会えばいい?サクやオリバーにも……この事、言うの?


 今朝有都はサクとも顔を合わせているのだが、昨日のあまりの衝撃に有都はサクに対してどんなリアクションを取って食事をしたのなんて覚えていないのだ。
 そもそも誰が誰と寝て、誰と付き合って別れたとか…誰が好きとか、遊びとか、周囲の人々に懇切丁寧に話して理解を求める必要はないのだが、有都自身がまだ昨夜の出来事を自分自身で消化しきれていないのだ。

「どうしよう………」

 川のせせらぎはいつもと変わらず清く、心地よく聞こえてくる。ただ、有都の中の欲望がムクムクと頭をもたげて来ている事なんて知る由もないほどに清々しい流れを湛えていて……

「どうしたら…」

 知らなかった時には戻れない程の衝撃を有都はラウードから与えられたのだ。無かった時と同じ様に過ごすのなんて絶対に無理だろう。


 また、ラウードがしたいって言ったら…するのか…?


 自問する有都の心の答えは、YES、に大きく傾いてさえいる事に有都自身がまだ信じられない………






「ほう…!この森に人とはな…!」

 突然だった。地べたに寝転がってゴロゴロと悶絶していた有都の後ろから急に男の声がしたのは。

「誰だ!?」

 びっくりして有都は飛び起きて周りを見た。このシャラの森にいるのはラウード達の仲間のスキル持ち達か、オロンガル帝国の兵士達…!そして今、有都の目の前には先日見たオロンガル帝国の兵士の制服を来た兵士達が目に入って来ている。


 敵!?


 兵士たちの先頭に、一人豪奢な衣類に身を包む者がいた。どうやらこの者がこの兵士達の指揮官らしい。指揮官らしい者の体躯は決して大きくは無いが、この者の持つ目鼻立ちに見知った者がいる様な気がして有都は落ち着かない。

「どうだ?ゼコ!」

 指揮官が声を上げる。

「はい…間違えない様で御座います。」


 なんだ……?


 兵士達の間から、ほっそりとした風貌のネズミ耳をした茶髪に灰色の目の男が進み出る。頬は痩けヒョロヒョロとした男の亜人だ。この者の衣類は粗末な物で、首には首輪と鎖までぶら下がっている。

「陛下…そこの者は、確かにスキル持ちの人間に御座います。」

 ゼコと呼ばれた亜人の男は、陛下と呼ばれた指揮官の足元に深々と平伏しながらこう言ったのである。












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