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サクの料理を美味しく全部食べた有都とラウードの二人の食後には、有都のためのリハビリの様な接触が続いている。有都が望んでいるものでは無いが、嫌、と言うわけでも無く…ラウードが与えてくれる刺激は、嘘偽りなく気持ちが良かったのだ。
だから、寝る前にツイッと首筋なんかを触られれば、ついつい有都は無言でラウードを見つめてしまう。回を重ねる度に、与えられる刺激が深く、種類も増す様に感じるのは気のせいでは無いと思う……惚けた様な有都の頬ををやさしげに一撫でして、今日もいつもの様に警戒の為に外に出て行くラウード…これが毎晩の習慣の様になっているのだ。
全部、取る……!
火照った身体を持て余している間も、有都はあの時宣言した言葉を忘れてなんか無い。ラウードからキスされている間も、出来る限りラウードへ自分の嫌な記憶の感覚を消すようにと消失スキルを使っている。そして、夜中にコッソリと抜け出すラウードを見つけては、有都はラウードの側にしゃがみ込むのだ。
「何で?夜になると苦しみ出すんだ?」
なんとなく、先程の触れ合いの余韻が消えきらない有都の頬はまだ赤い。
ラウードは毎晩、こうやって人知れずに苦しみに耐えている。今日、誰かから苦悩をとったわけでも無いだろうに、そう言う時にも苦しんで、何かに耐えているんだ。
「さあ、な……いつも休もうとする時間にやってくる…昔から変わらん。」
「昔からって……?」
「…自分の力を自覚した時からだ。」
話しながらも有都は、片っ端からスキルを使う。ラウードが何に苦しんでいるのか有都には分からないのだが、ラウードの顔から苦悶の表情が無くなるまで徹底的にやってやろうと思っているからだ。
「そんなに、昔から…?」
有都が力を自覚したのはいつだったか……?小学校に進級してからだと言う事は覚えている。何年生の時だったか?まだ当時は公園に行けば一緒に遊べる様な友達がいた。暗くなるまでひとしきり遊んで、綺麗な夕日を見ていた頃だと思う。家に早く帰らなければいけない事は良く分かっていたのに、見た事も無いほど見事に空がピンクに染まっていて、あの時はしばし呆然と眺めてしまっていたのだ。
暗くなる前には公園に迎えにくる保護者や兄弟がいて、その中には当然の様に有都に声をかけてくる者もいた。有都はこんな人々が苦手だったのだ。
友達なら、まだいい。けどその友達の家族や兄弟は中には有都を子供を見る様な目ではなくて、獲物を見つめる様な目で見てくる者が確かにいるのだ。最初は頭を撫でて、背中を撫でてと当たり障りない接触が、少しずつ違ったものになっていくのがまだ幼い有都にも感じられるほどに…
その日の夕方は友人の歳の離れた兄が数名の友人達を連れ立って、友達を公園まで迎えに来ていた。有都もすぐに帰ろうと思ったのだが、あまりにも空が綺麗で、時間を忘れて見入ってしまっていた。友人は兄に呼ばれ、その場を離れた。有都も公園を出ようとする前に、友人の兄と来ていた高校生の一人に捕まった。
こっちが近道だと、さも親切そうに有都の手を引くその高校生男子は、握った有都の手を離さなかった。有都はこれから良く無いことが起こると分かっていても、この男子生徒の手の力が強くて怖くて何も言い出せなかった。手を引かれ、男子学生のいいように木陰に引っ張り込まれれば、後は、有都には耐えることしか出来ない苦痛の時間が待っている。早く帰ればよかったと、半べそ状態になっている有都のそんな姿にも男子学生は唾を飲み込むのだった。
「本当に、男の子?」
不躾に聞いてくる男子学生は、いきなり有都の下半身を触りに来たのだ。
「っ………!?」
びっくりして、声にならない声が出た。
「あ、男だ…スッゲー可愛いのに……」
そんな事を言いながら男子学生は有都の手も下半身を捉えた手も離してはくれない。
「や…だっ……離し……て」
怖くて、怖くて声が震えていたと思う。この世に自分を守ってくれる者はいないと思ってしまう程の絶望感さえ感じてしまう。
「声も可愛いー…もうちょっと触らせて?怖く無いから…」
もう十分に有都は怖いのに、怖く無いと言い続ける男子学生はどんどん行動が大胆になって来た。
「ね、ここ、弄ると気持ちいいだろ?」
「自分でもやってごらんよ?」
フルフルフルフル、必死に首を振り続ける有都にはお構いなしで触っている手の動きは止まらない。
「い、痛い…やだ……」
有都はポロポロと泣き出してしまう…
「あ、痛かったか…?ごめん、ごめん。泣かないで…君があんまりにも可愛いからいけないんだよ?」
お詫びのつもりでもあるのか、男子学生の下半身を触っていた手は有都の後頭部をしっかりと押さえて来て、泣き顔に歪んでいる有都に、あろうことかキスをして来たのだ。この行為は全て有都がいけないんだ、なんて言う罪悪感まで何度も何度も植え付けて……
キスは触れ合う様な軽いものから、チュッと有都の唇を吸い出してくる。その感覚が有都には気持ち悪くて、仕方が無かった。
何で……僕ばっかり………
バイバーイと手を振って走って帰った友達達はこんな事されてはいないだろう。明日も何食わぬ顔で、何も知らないままこの公園で遊ぶだろう。有都にとってはもうこの公園は恐怖の対象でしかないのに……
僕だって、何にも知らないみんなと同じでいたかった…!嫌だ、嫌だ、嫌だ!僕なんか、消えちゃえ!いなくなっちゃえばいいんだ!
どうして自分を消そうとしたのか、有都にもわからない。ただ、もうここには居たくない……!
有都の反応を確かめようと、じっと有都の目を覗き込みに来た男子学生の目をきっと睨みつけながら、ありとは強く心の中で願ったのだ。
だから、寝る前にツイッと首筋なんかを触られれば、ついつい有都は無言でラウードを見つめてしまう。回を重ねる度に、与えられる刺激が深く、種類も増す様に感じるのは気のせいでは無いと思う……惚けた様な有都の頬ををやさしげに一撫でして、今日もいつもの様に警戒の為に外に出て行くラウード…これが毎晩の習慣の様になっているのだ。
全部、取る……!
火照った身体を持て余している間も、有都はあの時宣言した言葉を忘れてなんか無い。ラウードからキスされている間も、出来る限りラウードへ自分の嫌な記憶の感覚を消すようにと消失スキルを使っている。そして、夜中にコッソリと抜け出すラウードを見つけては、有都はラウードの側にしゃがみ込むのだ。
「何で?夜になると苦しみ出すんだ?」
なんとなく、先程の触れ合いの余韻が消えきらない有都の頬はまだ赤い。
ラウードは毎晩、こうやって人知れずに苦しみに耐えている。今日、誰かから苦悩をとったわけでも無いだろうに、そう言う時にも苦しんで、何かに耐えているんだ。
「さあ、な……いつも休もうとする時間にやってくる…昔から変わらん。」
「昔からって……?」
「…自分の力を自覚した時からだ。」
話しながらも有都は、片っ端からスキルを使う。ラウードが何に苦しんでいるのか有都には分からないのだが、ラウードの顔から苦悶の表情が無くなるまで徹底的にやってやろうと思っているからだ。
「そんなに、昔から…?」
有都が力を自覚したのはいつだったか……?小学校に進級してからだと言う事は覚えている。何年生の時だったか?まだ当時は公園に行けば一緒に遊べる様な友達がいた。暗くなるまでひとしきり遊んで、綺麗な夕日を見ていた頃だと思う。家に早く帰らなければいけない事は良く分かっていたのに、見た事も無いほど見事に空がピンクに染まっていて、あの時はしばし呆然と眺めてしまっていたのだ。
暗くなる前には公園に迎えにくる保護者や兄弟がいて、その中には当然の様に有都に声をかけてくる者もいた。有都はこんな人々が苦手だったのだ。
友達なら、まだいい。けどその友達の家族や兄弟は中には有都を子供を見る様な目ではなくて、獲物を見つめる様な目で見てくる者が確かにいるのだ。最初は頭を撫でて、背中を撫でてと当たり障りない接触が、少しずつ違ったものになっていくのがまだ幼い有都にも感じられるほどに…
その日の夕方は友人の歳の離れた兄が数名の友人達を連れ立って、友達を公園まで迎えに来ていた。有都もすぐに帰ろうと思ったのだが、あまりにも空が綺麗で、時間を忘れて見入ってしまっていた。友人は兄に呼ばれ、その場を離れた。有都も公園を出ようとする前に、友人の兄と来ていた高校生の一人に捕まった。
こっちが近道だと、さも親切そうに有都の手を引くその高校生男子は、握った有都の手を離さなかった。有都はこれから良く無いことが起こると分かっていても、この男子生徒の手の力が強くて怖くて何も言い出せなかった。手を引かれ、男子学生のいいように木陰に引っ張り込まれれば、後は、有都には耐えることしか出来ない苦痛の時間が待っている。早く帰ればよかったと、半べそ状態になっている有都のそんな姿にも男子学生は唾を飲み込むのだった。
「本当に、男の子?」
不躾に聞いてくる男子学生は、いきなり有都の下半身を触りに来たのだ。
「っ………!?」
びっくりして、声にならない声が出た。
「あ、男だ…スッゲー可愛いのに……」
そんな事を言いながら男子学生は有都の手も下半身を捉えた手も離してはくれない。
「や…だっ……離し……て」
怖くて、怖くて声が震えていたと思う。この世に自分を守ってくれる者はいないと思ってしまう程の絶望感さえ感じてしまう。
「声も可愛いー…もうちょっと触らせて?怖く無いから…」
もう十分に有都は怖いのに、怖く無いと言い続ける男子学生はどんどん行動が大胆になって来た。
「ね、ここ、弄ると気持ちいいだろ?」
「自分でもやってごらんよ?」
フルフルフルフル、必死に首を振り続ける有都にはお構いなしで触っている手の動きは止まらない。
「い、痛い…やだ……」
有都はポロポロと泣き出してしまう…
「あ、痛かったか…?ごめん、ごめん。泣かないで…君があんまりにも可愛いからいけないんだよ?」
お詫びのつもりでもあるのか、男子学生の下半身を触っていた手は有都の後頭部をしっかりと押さえて来て、泣き顔に歪んでいる有都に、あろうことかキスをして来たのだ。この行為は全て有都がいけないんだ、なんて言う罪悪感まで何度も何度も植え付けて……
キスは触れ合う様な軽いものから、チュッと有都の唇を吸い出してくる。その感覚が有都には気持ち悪くて、仕方が無かった。
何で……僕ばっかり………
バイバーイと手を振って走って帰った友達達はこんな事されてはいないだろう。明日も何食わぬ顔で、何も知らないままこの公園で遊ぶだろう。有都にとってはもうこの公園は恐怖の対象でしかないのに……
僕だって、何にも知らないみんなと同じでいたかった…!嫌だ、嫌だ、嫌だ!僕なんか、消えちゃえ!いなくなっちゃえばいいんだ!
どうして自分を消そうとしたのか、有都にもわからない。ただ、もうここには居たくない……!
有都の反応を確かめようと、じっと有都の目を覗き込みに来た男子学生の目をきっと睨みつけながら、ありとは強く心の中で願ったのだ。
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