[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

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「ラウード、何でダメ?」

 不服全開で耳を垂らし、尻尾を垂らしオリバーはラウードを見つめる。

「オリバー、良く考えてごらん?アリーだってまだここに慣れていないんだ。大変な苦労をしてここにきたんだから、夜中にそんな夢を見てアリーが暴れたらオリバーは潰されるよ?」

「え……?」

 驚いて声を上げる有都。

「アリー…暴れるの?」

 キョトンと見上げるオリバー。

「えぇ……?」

「そう言えば、最初は嫌だって泣いていたわ。」

 サクが真顔でそんな事を思い出してくれる。

「えぇぇぇぇ…俺、暴れてました?」

 今まで有都はラウードとベッドは共有だ。就寝からずっと一緒に寝ていたわけではないが、それでも同じ寝台を使っていたのだ。それなのに、暴れていたなんて一度も聞いたことはない。

「オリバー…もし、アリーが夢の中で苦しんでうなされていた時には、私が側にいたほうがいいと思わないかい?」

「…!…思う!……でも…ラウードが…」

 オリバーは有都も心配、ラウードも心配
、心配しすぎで更にシュンとしてしまった。

「だ、大丈夫!俺のスキルだって使えるの分かったし、ラウードさんには暴れた時に押さえてもらうようにする!」

 苦し紛れの言い訳だが、オリバーはピョコッと耳を上げた。

「本当?ラウードも苦しくない?」 

「もう、苦しく無いですよね?」

「…あぁ、そうだ。だから、オリバーはサクと一緒に寝なさい。」

「うん!」
  
 しょんぼりしたたのが嘘の様に、オリバーは元気にサクと小屋を後にした。オリバーはとても素直な子なのだ。






「あの、ラウードさん…?」

「何だ?」

「俺…暴れてないですよね…?」


 まさか…まさか、ね……?


「ふ…暴れはしていないが、寝言は言っている…」

「うぇ~どんな事、を?」

「アリーは自分が嫌いか?」

 寝る支度を整えながらラウードが聞く。

「えっと……」

 有都はこの質問に完全には答えられそうにもない。自分が嫌いか、好きかどちらかといえば、嫌い、に入るだろう。

「アリーの譫言からは、自分を嫌って、憎んでいる様にも聞こえた。」
 
 間違えではない…いつも嫌な目に遭って来て、あの時には抵抗も出来ない、そんな自分が大嫌いだった。

「……でも…ラウードさんが、取ってくれたんでしょう?」
 
 ラウードの苦悩のスキルには他人のを痛みや悩み、苦しみを取り除くものだから。それを最初の日に有都も味わっているのだから。

「言っただろう?サクの時もそうだが、記憶は取れないんだよ。だから何度でも思い出してしまうんだろうね?夜中に…泣いていることがある…」

 そっと、有都を抱きしめながらラウードは言う。

「…まさか…ラウードさん…その度に…?」

 有都がうなされて起きたり、寝覚めが悪くないのはラウードのお陰かも知れなかった。

「…苦しんで欲しくない、と思うのはいけない事か?」

 肯定も否定もしないラウードの答えは、多分肯定なのだろう。

「それならじゃあ、俺だって、オリバーだってサクだって…!ラウードさんには苦しんで欲しくなんかない…!」

「ふふふ…アリーはやっぱり良い子だな…そして心から本当に綺麗で強いと思うよ…」

 優しく有都を抱きしめながら、ラウードは有都の額にキスをする。

「ラウードさん…?」

「アリー、ラウードで良い…みんなそう呼ぶだろう?」

 有都はキスが好きじゃない。はっきり言って気持ち悪い行為として刷り込まれている…自分の能力に気がつく時まで、何度人気のいない所に連れ込まれて、荒い息遣いの唇を押し当てられ、舐められ、触られてきたか………ラウードが言う様に容易く記憶は思い出せる。ゾクリと、軽い嫌悪と恐怖が有都の背中を伝う……

「大丈夫…怖くない……アリーは綺麗だ。」

 ラウードに囁かれつつ、有都は優しいラウードの腕の中にスッポリと収まってしまった。額に落ちていたキスは頬に、ゆっくり降りてくる。

「え?…あの、ラウード…?」

 有都は混乱の極みだ…ここに来てまでも?また?そんな事を考えている間に、有都の唇はラウードに捉えられていた…

 荒々しくもなく、啄む様に、揶揄うように何度も触れて来るラウード。

「ん……」

 唇をちゅ…と吸われ、キスが深くなった時にはつい有都の方から吐息が漏れる…

 嫌だと思っていたキスが、嫌じゃない…
これは有都にとっては驚きだった。ラウードがこんな事をして来るのもだが、この行為に嫌悪感無く違う意味で身体が反応している…

「あの……ラウード……?」

 何度目かのキスの後、やっと有都は声を出せた。

「ん?」

「何で……?」

 こんなキス…今まで恋人も作らなかった有都には経験がない。嫌なキスなら残念ながら何回もあるけれど…そんな時は頑として口なんて開けなかったし、走って逃げるし…

「アリーはもっと知っていた方が良い。」

「え?」

「悪い事ではないんだと…」
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