[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

文字の大きさ
上 下
13 / 28

13 *

しおりを挟む
「ラウード、何でダメ?」

 不服全開で耳を垂らし、尻尾を垂らしオリバーはラウードを見つめる。

「オリバー、良く考えてごらん?アリーだってまだここに慣れていないんだ。大変な苦労をしてここにきたんだから、夜中にそんな夢を見てアリーが暴れたらオリバーは潰されるよ?」

「え……?」

 驚いて声を上げる有都。

「アリー…暴れるの?」

 キョトンと見上げるオリバー。

「えぇ……?」

「そう言えば、最初は嫌だって泣いていたわ。」

 サクが真顔でそんな事を思い出してくれる。

「えぇぇぇぇ…俺、暴れてました?」

 今まで有都はラウードとベッドは共有だ。就寝からずっと一緒に寝ていたわけではないが、それでも同じ寝台を使っていたのだ。それなのに、暴れていたなんて一度も聞いたことはない。

「オリバー…もし、アリーが夢の中で苦しんでうなされていた時には、私が側にいたほうがいいと思わないかい?」

「…!…思う!……でも…ラウードが…」

 オリバーは有都も心配、ラウードも心配
、心配しすぎで更にシュンとしてしまった。

「だ、大丈夫!俺のスキルだって使えるの分かったし、ラウードさんには暴れた時に押さえてもらうようにする!」

 苦し紛れの言い訳だが、オリバーはピョコッと耳を上げた。

「本当?ラウードも苦しくない?」 

「もう、苦しく無いですよね?」

「…あぁ、そうだ。だから、オリバーはサクと一緒に寝なさい。」

「うん!」
  
 しょんぼりしたたのが嘘の様に、オリバーは元気にサクと小屋を後にした。オリバーはとても素直な子なのだ。






「あの、ラウードさん…?」

「何だ?」

「俺…暴れてないですよね…?」


 まさか…まさか、ね……?


「ふ…暴れはしていないが、寝言は言っている…」

「うぇ~どんな事、を?」

「アリーは自分が嫌いか?」

 寝る支度を整えながらラウードが聞く。

「えっと……」

 有都はこの質問に完全には答えられそうにもない。自分が嫌いか、好きかどちらかといえば、嫌い、に入るだろう。

「アリーの譫言からは、自分を嫌って、憎んでいる様にも聞こえた。」
 
 間違えではない…いつも嫌な目に遭って来て、あの時には抵抗も出来ない、そんな自分が大嫌いだった。

「……でも…ラウードさんが、取ってくれたんでしょう?」
 
 ラウードの苦悩のスキルには他人のを痛みや悩み、苦しみを取り除くものだから。それを最初の日に有都も味わっているのだから。

「言っただろう?サクの時もそうだが、記憶は取れないんだよ。だから何度でも思い出してしまうんだろうね?夜中に…泣いていることがある…」

 そっと、有都を抱きしめながらラウードは言う。

「…まさか…ラウードさん…その度に…?」

 有都がうなされて起きたり、寝覚めが悪くないのはラウードのお陰かも知れなかった。

「…苦しんで欲しくない、と思うのはいけない事か?」

 肯定も否定もしないラウードの答えは、多分肯定なのだろう。

「それならじゃあ、俺だって、オリバーだってサクだって…!ラウードさんには苦しんで欲しくなんかない…!」

「ふふふ…アリーはやっぱり良い子だな…そして心から本当に綺麗で強いと思うよ…」

 優しく有都を抱きしめながら、ラウードは有都の額にキスをする。

「ラウードさん…?」

「アリー、ラウードで良い…みんなそう呼ぶだろう?」

 有都はキスが好きじゃない。はっきり言って気持ち悪い行為として刷り込まれている…自分の能力に気がつく時まで、何度人気のいない所に連れ込まれて、荒い息遣いの唇を押し当てられ、舐められ、触られてきたか………ラウードが言う様に容易く記憶は思い出せる。ゾクリと、軽い嫌悪と恐怖が有都の背中を伝う……

「大丈夫…怖くない……アリーは綺麗だ。」

 ラウードに囁かれつつ、有都は優しいラウードの腕の中にスッポリと収まってしまった。額に落ちていたキスは頬に、ゆっくり降りてくる。

「え?…あの、ラウード…?」

 有都は混乱の極みだ…ここに来てまでも?また?そんな事を考えている間に、有都の唇はラウードに捉えられていた…

 荒々しくもなく、啄む様に、揶揄うように何度も触れて来るラウード。

「ん……」

 唇をちゅ…と吸われ、キスが深くなった時にはつい有都の方から吐息が漏れる…

 嫌だと思っていたキスが、嫌じゃない…
これは有都にとっては驚きだった。ラウードがこんな事をして来るのもだが、この行為に嫌悪感無く違う意味で身体が反応している…

「あの……ラウード……?」

 何度目かのキスの後、やっと有都は声を出せた。

「ん?」

「何で……?」

 こんなキス…今まで恋人も作らなかった有都には経験がない。嫌なキスなら残念ながら何回もあるけれど…そんな時は頑として口なんて開けなかったし、走って逃げるし…

「アリーはもっと知っていた方が良い。」

「え?」

「悪い事ではないんだと…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。 幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。 人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。 彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。 しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。 命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。 一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。 拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。 王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔王になんてぜったいなりません!!

135
BL
僕の名前はニール。王宮魔術師の一人だ。 第三騎士団長のケルヴィン様に一途な愛を捧げる十六歳。 僕の住むラント国に異世界からの渡り人がやってきて、僕の世界は変わった。 予知夢のようなものを見た時、僕はこの世界を亡ぼす魔王として君臨していた。 魔王になんてぜったいなりません!! 僕は、ラント国から逃げ出した。 渡り人はスパイス程度で物語には絡んできません。 攻め(→→→→→)←←受けみたいな勘違い話です。 完成しているので、確認でき次第上げていきます。二万五千字程です。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...