12 / 28
12
しおりを挟む
「アリー?」
「消失…!」
瞬間、フッとラウードの表情が和らぐ。
「アリー…!」
「どうですか?」
「私の中の、苦痛を消したね?」
「…!…消えました…!?」
「凄いね…君の力は………」
「良かった~~~…怪我が消えたから、できるかもと思って……」
「……アリー…ありがとう…でも、君の恐怖は取らなくて良いのか?」
「ラウードさんはやっちゃダメですよ?また、苦しくなるんでしょう?」
「いや…今ので随分と楽にはなった…」
「俺もこんな事できるのなんて知らなかったから…スキルって凄いですね…!」
「あぁ、そうか。アリーは誰にも教えてもらえなかったのだな?」
「スキルの事ですか?だったら、そうです。」
「一つ言っておくよ。私のスキルで人の苦痛を取れたとしても、その人の記憶まで取るわけではないんだ。だから、辛いことがあった記憶は残る。」
「…はい。」
それは有都にも分かる。ここにきてから恨みとか、嫌な感覚はすっかり無くなったけど、やられた記憶はちゃんとあるのだ。
「だから、また同じ様に苦しくなることもある。」
「そうかもしれません…」
「ふふ…そうなんだよ…何度も何度も繰り返して、今に至るんだ………」
ラウードの苦しみは消失したはずなのに、明るくなった表情に影が差している様に感じるのはなぜだろうか?
「あの、まだどこか痛む所でも?」
「…大丈夫…これは、私のケジメだから……」
「ラウードさん…?」
「さ、寝ようアリー。明日はもう少しここを片付けなくちゃいけない。オリバーの回復を待ってもう少し移動しよう!」
もう少し、ラウードの話を聞きたかった有都ははぐらかされた様に話を終わりにされてしまった。
なんだろう……?楽にはなったと思うんだけど………
翌日には昏睡していたオリバーは目を覚ます。出血の影響からか、オリバーは食欲旺盛でその日一日中有都とサクは食料集めに奔走する事になった………
「サク、アリー、ハイ!」
動ける様になったオリバーは今度は自分が、と率先して果物集めをしてくれる。一日中歩き続けたサクと有都は病み上がりのオリバーに少しだけ甘えさせてもらって夜を迎えたのだ。
「これだけ回収できたが、サク、使えそうか?」
夜帰ってきたラウードが持ってきたのは、襲われた森の周辺にぶちまけてしまった鍋やら着替えやらの諸々だ。
「ありがとう、ラウード。十分よ。」
土で汚れてしまっているものはあるが、どれも皆んな使えそうで何よりだった。
サクの様子は出会った時と変わらない。ラウードにも昨日の様な辛さはなさそうだった。
「………………」
モジモジモジ………
片付けも粗方終わり、そろそろ眠ろうかとそれぞれの小屋へ引き上げようとしている中で、ずっと……チラチラとオリバーが有都を見て来る…
見られてるなぁ……?
怪我の後からは大分懐いてくれる様になったと思うオリバーだ。有都とも視線を逸らせずに話をしてくれる。
「……………」
有都が見つめ返すと、スッとサクかラウードの後ろに隠れてしまう。
「オリバー……?」
仕方なく、有都はしゃがみ込んでオリバーに話しかける。小さい子に話す様に、優しく、を心がけて。
「おいで、オリバー……」
両手を広げて、抱きつきOK体制を作って待ってみると、オリバーはそっと近付いて来てくれた。
「オリバー…何か俺に言いたい事、ある?」
「…………」
「ん?」
フワフワの髪や尻尾はあんな大怪我した事なんて嘘みたいに艶やかだ。
「………ありがとう……助けてくれて……」
有都に抱きつきながら、小さな声でオリバーが言う。その姿が微笑ましくて微笑ましくて、有都はここに飛ばされてきて初めての幸せを感じた。自然と有都の顔もニコニコと笑顔になる。
「うん。オリバーが治って良かったよ……」
抱きついて来るオリバーに有都も抱きしめ返してポンポンと背中をたたいてやる。
以前街で見かけた親子連れが、泣いている子供をそうやってあやしていたのを有都は見たことがあって、ついつい自分でも真似てみたくなった。
「人間…嫌いだけど、ラウードとサクとアリーは好き………」
「うん…俺も好きだよ…」
純粋な子供にこんな事を言われて抱きつかれてしまっては、言われた方もこう答えざるを得ない。
「僕、アリーと寝る…!」
スリスリと頭をこすりつけて甘えてきてくれるオリバーが可愛い……可愛くてつい良いよ、と言いたくもなるのだが…
実際問題、小屋も小さく寝台が少ないのだ。オリバーとアリーが一緒に寝ては、ラウードとサクが一緒に眠る事になる。
いや、それはまずいよね?
まだ幼くてもサクだって女子だし…本当の家族でもないし。ラウードが野宿という手もあるけれど、それでは疲れが取れないだろう。
あ、そうしたら俺がラウードさんの疲れを消失で消せば良いのかな?
「じゃ、オリバー……」
それだったらオリバーと一緒に寝てやることもできる。友達らしい友達もいなかった有都にとってほ純粋に懐いて頼ってくれるオリバーが可愛くてたまらない。ラウードは既に野宿決定の案を遂行すべく、オリバーに一緒に眠る事を告げようとしていた。
「ダメだよ。オリバー…?」
そこに、まったをかけたのは他でもないラウードだった。
「消失…!」
瞬間、フッとラウードの表情が和らぐ。
「アリー…!」
「どうですか?」
「私の中の、苦痛を消したね?」
「…!…消えました…!?」
「凄いね…君の力は………」
「良かった~~~…怪我が消えたから、できるかもと思って……」
「……アリー…ありがとう…でも、君の恐怖は取らなくて良いのか?」
「ラウードさんはやっちゃダメですよ?また、苦しくなるんでしょう?」
「いや…今ので随分と楽にはなった…」
「俺もこんな事できるのなんて知らなかったから…スキルって凄いですね…!」
「あぁ、そうか。アリーは誰にも教えてもらえなかったのだな?」
「スキルの事ですか?だったら、そうです。」
「一つ言っておくよ。私のスキルで人の苦痛を取れたとしても、その人の記憶まで取るわけではないんだ。だから、辛いことがあった記憶は残る。」
「…はい。」
それは有都にも分かる。ここにきてから恨みとか、嫌な感覚はすっかり無くなったけど、やられた記憶はちゃんとあるのだ。
「だから、また同じ様に苦しくなることもある。」
「そうかもしれません…」
「ふふ…そうなんだよ…何度も何度も繰り返して、今に至るんだ………」
ラウードの苦しみは消失したはずなのに、明るくなった表情に影が差している様に感じるのはなぜだろうか?
「あの、まだどこか痛む所でも?」
「…大丈夫…これは、私のケジメだから……」
「ラウードさん…?」
「さ、寝ようアリー。明日はもう少しここを片付けなくちゃいけない。オリバーの回復を待ってもう少し移動しよう!」
もう少し、ラウードの話を聞きたかった有都ははぐらかされた様に話を終わりにされてしまった。
なんだろう……?楽にはなったと思うんだけど………
翌日には昏睡していたオリバーは目を覚ます。出血の影響からか、オリバーは食欲旺盛でその日一日中有都とサクは食料集めに奔走する事になった………
「サク、アリー、ハイ!」
動ける様になったオリバーは今度は自分が、と率先して果物集めをしてくれる。一日中歩き続けたサクと有都は病み上がりのオリバーに少しだけ甘えさせてもらって夜を迎えたのだ。
「これだけ回収できたが、サク、使えそうか?」
夜帰ってきたラウードが持ってきたのは、襲われた森の周辺にぶちまけてしまった鍋やら着替えやらの諸々だ。
「ありがとう、ラウード。十分よ。」
土で汚れてしまっているものはあるが、どれも皆んな使えそうで何よりだった。
サクの様子は出会った時と変わらない。ラウードにも昨日の様な辛さはなさそうだった。
「………………」
モジモジモジ………
片付けも粗方終わり、そろそろ眠ろうかとそれぞれの小屋へ引き上げようとしている中で、ずっと……チラチラとオリバーが有都を見て来る…
見られてるなぁ……?
怪我の後からは大分懐いてくれる様になったと思うオリバーだ。有都とも視線を逸らせずに話をしてくれる。
「……………」
有都が見つめ返すと、スッとサクかラウードの後ろに隠れてしまう。
「オリバー……?」
仕方なく、有都はしゃがみ込んでオリバーに話しかける。小さい子に話す様に、優しく、を心がけて。
「おいで、オリバー……」
両手を広げて、抱きつきOK体制を作って待ってみると、オリバーはそっと近付いて来てくれた。
「オリバー…何か俺に言いたい事、ある?」
「…………」
「ん?」
フワフワの髪や尻尾はあんな大怪我した事なんて嘘みたいに艶やかだ。
「………ありがとう……助けてくれて……」
有都に抱きつきながら、小さな声でオリバーが言う。その姿が微笑ましくて微笑ましくて、有都はここに飛ばされてきて初めての幸せを感じた。自然と有都の顔もニコニコと笑顔になる。
「うん。オリバーが治って良かったよ……」
抱きついて来るオリバーに有都も抱きしめ返してポンポンと背中をたたいてやる。
以前街で見かけた親子連れが、泣いている子供をそうやってあやしていたのを有都は見たことがあって、ついつい自分でも真似てみたくなった。
「人間…嫌いだけど、ラウードとサクとアリーは好き………」
「うん…俺も好きだよ…」
純粋な子供にこんな事を言われて抱きつかれてしまっては、言われた方もこう答えざるを得ない。
「僕、アリーと寝る…!」
スリスリと頭をこすりつけて甘えてきてくれるオリバーが可愛い……可愛くてつい良いよ、と言いたくもなるのだが…
実際問題、小屋も小さく寝台が少ないのだ。オリバーとアリーが一緒に寝ては、ラウードとサクが一緒に眠る事になる。
いや、それはまずいよね?
まだ幼くてもサクだって女子だし…本当の家族でもないし。ラウードが野宿という手もあるけれど、それでは疲れが取れないだろう。
あ、そうしたら俺がラウードさんの疲れを消失で消せば良いのかな?
「じゃ、オリバー……」
それだったらオリバーと一緒に寝てやることもできる。友達らしい友達もいなかった有都にとってほ純粋に懐いて頼ってくれるオリバーが可愛くてたまらない。ラウードは既に野宿決定の案を遂行すべく、オリバーに一緒に眠る事を告げようとしていた。
「ダメだよ。オリバー…?」
そこに、まったをかけたのは他でもないラウードだった。
33
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

追放系治癒術師は今日も無能
リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。
追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【完結】暁の騎士と宵闇の賢者
エウラ
BL
転生者であるセラータは宮廷魔導師団長を義父に持ち、自身もその副師団長を務めるほどの腕のいい魔導師。
幼馴染みの宮廷騎士団副団長に片想いをしている。
その幼馴染みに自分の見た目や噂のせいでどうやら嫌われているらしいと思っていたが・・・・・・。
※竜人の番い設定は今回は緩いです。独占欲や嫉妬はありますが、番いが亡くなった場合でも狂ったりはしない設定です。
普通に女性もいる世界。様々な種族がいる。
魔法で子供が出来るので普通に同性婚可能。
名前は日本名と同じくファミリーネーム(苗字)・ファーストネーム(名前)の表記です。
ハッピーエンド確定です。
R18は*印付きます。そこまで行くのは後半だと思います。
※番外編も終わり、完結しました。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

生まれ変わったら知ってるモブだった
マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。
貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。
毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。
この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。
その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。
その瞬間に思い出したんだ。
僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる