[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

文字の大きさ
上 下
10 / 28

10 ※

しおりを挟む
「アリー!!サク!!」

 どれ位そうしていたのか、多分サクと有都には分からなかっただろう。二人して必死にオリバーの傷を泣きながら抑えつつ、その場にじっとしていると、二人を呼び求めるラウードの声が聞こえてきた。

「ラウード!!ラウード!ここよ!オリバーが!オリバーがぁぁ!」

 もう一度絶叫するように泣きじゃくりながらサクがラウードに叫び返した。

「ここか!」

 ラウードが藪を薙ぎ倒し、サクや有都、オリバーの姿を見た時には瞬時に顔面が蒼白になっていた。ラウードのいつもの優しい表情は微塵もなくて眉間にグッと皺を作り、片手には汚れた剣を持っている。


 あぁ……騎士なんだ……


 戦う事を恐れずに立つラウードのその姿を見たら、有都は嫌でも納得するしか無かった。ここが、有都の元いた世界ではない事、ラウードは命懸けでサクやオリバーを守ってきた事を……そのオリバーを有都達は守れなかった……

「サク、アリー!怪我は?」

「私達はないの!オリバーが、オリバーがぁ…」

 サクは泣き続ける。サクと有都の姿を見れば誰かが深手を負っていることは一目瞭然だ。

「…………」

 ラウードは無言で剣を置き、血濡れたオリバーを確認して行く。これだけの出血だ、もう……助からないかも……

 グッと、有都の腹の底から込み上げるものがある。こんな小さな子供を守れないで、自分は怖くて震えていた。情けなくて…悲しくて…悔しくて………

「傷はないが…?」

 ラウードの怪訝な顔がサクと有都を見つめている。

「…え?」

「う、嘘よ!だって、背中に…!」

 そう、背中にバックリと開いた傷が…血が出てて止まらなくて………

「……無い…無い!」

 次に叫んだのはサクだった。オリバーの背中には血が溢れて止まることのないパックリと開いた傷があったのに…今は背中に傷一つ見つけられそうにもない。

「でも、でも血が止まらなくて……」

 混乱の極みだ…何度オリバーの背中を撫でても傷らしい物はない。

「治ってる……!?…何で…?すごい…」

「サク、アリー、取り敢えず此処を離れる。今回こちらに回ってきた兵士は潰したが、いつまた増援が来るかも知れないからな。」

 ラウードは意識が無くグッタリとしているオリバーをヒョイと抱え上げると、サクと有都を促し森の奥へと入って行く。

「サクちゃん…どこに行くの?」

 ラウードが向かっている所は有都達がいた小屋の方では無い。川辺ではあるがもっと上流で、途中川を渡ったのだ。

「心配しなくていいよ、アリー。私達の隠れ家は幾つもあってね。あそこは帝国側に見つかるのも時間の問題だ。だから、移動するよ。」

「もっと奥へ行けば皆んなが居るんだけど、私達がここを離れちゃうと帝国側の兵士の動きがわからなくなっちゃうの。」

 落ち着きを取り戻したサクがラウードの説明を付け足してくれる。

 サクは帝国兵士に命を狙われている様なのに、何故か前線に近いところにいる。それは彼女の鑑定スキルに秘密がある。サクの鑑定スキルをスキルを持っていない者に使うと一瞬だけだが身体と意識を縛ることができるのだそうだ。

「あんなに…危ない目に遭っても…?」

 人に襲われることはあっても命を取りにこられたことはない有都は未だに手の震えが止まらない。

「それだけ……悔しかったからよ。」

 少し微笑んだサクは無理して笑っている笑顔だ。


 皆殺し………サクは、体験してるんだ……


「さ、着いた…」

 無言で足を動かしてラウードとサクについて行けば、目の前には先ほどよりも小さな小屋が数棟並んでいる場所に出た。オリーバーを寝台に休ませてから、川から汲んだ水でサクも有都も身を清め着替えと洗濯を済ませる。数日間はここで動かず、折を見てラウードが必要な荷物を取りに行くそうだ。有都達が逃げる時に持ってきた手荷物は襲われたあの辺りに散乱していることだろう。

「ラウード…そっちには兵士は何人いたの?」  

「小隊よりも少かった、オリバーが発見したのは囮り兵だろう。」

「そう……」

 食後、サクとラウードが今日の報告をしている間も有都はオリバーから離れられなかった。出血は勿論傷が無くなっているので止まったが、あれからオリバーの意識は戻っていない。
 オリバーの身体を清めた時も、古傷の痕以外新しい傷は見つからなかった。

「本当に…治ってたんだ。」

 傷なんか無くなっちまえ、有都があの時に願ったことだ。安全な所にいる今、ボゥッとした頭であの時のことを思い返す。

「……ねぇ…大怪我して目覚めない時には何が起こってる?」

 有都はラウードとサクに話しかけた。

「…そうだな。血を流しすぎると非常に体力を消耗する。」

「血……貧血…?」


 じゃあ………

 今までは、人から避けるために使ってたんだ。自分を消すために……サクは俺のスキルは消失だって言ってた………


「……消失…!」

 願いを込めて、有都はオリバーに手を触れた。














しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心

たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。 幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。 人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。 彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。 しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。 命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。 一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。 拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。 王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔王になんてぜったいなりません!!

135
BL
僕の名前はニール。王宮魔術師の一人だ。 第三騎士団長のケルヴィン様に一途な愛を捧げる十六歳。 僕の住むラント国に異世界からの渡り人がやってきて、僕の世界は変わった。 予知夢のようなものを見た時、僕はこの世界を亡ぼす魔王として君臨していた。 魔王になんてぜったいなりません!! 僕は、ラント国から逃げ出した。 渡り人はスパイス程度で物語には絡んできません。 攻め(→→→→→)←←受けみたいな勘違い話です。 完成しているので、確認でき次第上げていきます。二万五千字程です。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...