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「アリー!!サク!!」
どれ位そうしていたのか、多分サクと有都には分からなかっただろう。二人して必死にオリバーの傷を泣きながら抑えつつ、その場にじっとしていると、二人を呼び求めるラウードの声が聞こえてきた。
「ラウード!!ラウード!ここよ!オリバーが!オリバーがぁぁ!」
もう一度絶叫するように泣きじゃくりながらサクがラウードに叫び返した。
「ここか!」
ラウードが藪を薙ぎ倒し、サクや有都、オリバーの姿を見た時には瞬時に顔面が蒼白になっていた。ラウードのいつもの優しい表情は微塵もなくて眉間にグッと皺を作り、片手には汚れた剣を持っている。
あぁ……騎士なんだ……
戦う事を恐れずに立つラウードのその姿を見たら、有都は嫌でも納得するしか無かった。ここが、有都の元いた世界ではない事、ラウードは命懸けでサクやオリバーを守ってきた事を……そのオリバーを有都達は守れなかった……
「サク、アリー!怪我は?」
「私達はないの!オリバーが、オリバーがぁ…」
サクは泣き続ける。サクと有都の姿を見れば誰かが深手を負っていることは一目瞭然だ。
「…………」
ラウードは無言で剣を置き、血濡れたオリバーを確認して行く。これだけの出血だ、もう……助からないかも……
グッと、有都の腹の底から込み上げるものがある。こんな小さな子供を守れないで、自分は怖くて震えていた。情けなくて…悲しくて…悔しくて………
「傷はないが…?」
ラウードの怪訝な顔がサクと有都を見つめている。
「…え?」
「う、嘘よ!だって、背中に…!」
そう、背中にバックリと開いた傷が…血が出てて止まらなくて………
「……無い…無い!」
次に叫んだのはサクだった。オリバーの背中には血が溢れて止まることのないパックリと開いた傷があったのに…今は背中に傷一つ見つけられそうにもない。
「でも、でも血が止まらなくて……」
混乱の極みだ…何度オリバーの背中を撫でても傷らしい物はない。
「治ってる……!?…何で…?すごい…」
「サク、アリー、取り敢えず此処を離れる。今回こちらに回ってきた兵士は潰したが、いつまた増援が来るかも知れないからな。」
ラウードは意識が無くグッタリとしているオリバーをヒョイと抱え上げると、サクと有都を促し森の奥へと入って行く。
「サクちゃん…どこに行くの?」
ラウードが向かっている所は有都達がいた小屋の方では無い。川辺ではあるがもっと上流で、途中川を渡ったのだ。
「心配しなくていいよ、アリー。私達の隠れ家は幾つもあってね。あそこは帝国側に見つかるのも時間の問題だ。だから、移動するよ。」
「もっと奥へ行けば皆んなが居るんだけど、私達がここを離れちゃうと帝国側の兵士の動きがわからなくなっちゃうの。」
落ち着きを取り戻したサクがラウードの説明を付け足してくれる。
サクは帝国兵士に命を狙われている様なのに、何故か前線に近いところにいる。それは彼女の鑑定スキルに秘密がある。サクの鑑定スキルをスキルを持っていない者に使うと一瞬だけだが身体と意識を縛ることができるのだそうだ。
「あんなに…危ない目に遭っても…?」
人に襲われることはあっても命を取りにこられたことはない有都は未だに手の震えが止まらない。
「それだけ……悔しかったからよ。」
少し微笑んだサクは無理して笑っている笑顔だ。
皆殺し………サクは、体験してるんだ……
「さ、着いた…」
無言で足を動かしてラウードとサクについて行けば、目の前には先ほどよりも小さな小屋が数棟並んでいる場所に出た。オリーバーを寝台に休ませてから、川から汲んだ水でサクも有都も身を清め着替えと洗濯を済ませる。数日間はここで動かず、折を見てラウードが必要な荷物を取りに行くそうだ。有都達が逃げる時に持ってきた手荷物は襲われたあの辺りに散乱していることだろう。
「ラウード…そっちには兵士は何人いたの?」
「小隊よりも少かった、オリバーが発見したのは囮り兵だろう。」
「そう……」
食後、サクとラウードが今日の報告をしている間も有都はオリバーから離れられなかった。出血は勿論傷が無くなっているので止まったが、あれからオリバーの意識は戻っていない。
オリバーの身体を清めた時も、古傷の痕以外新しい傷は見つからなかった。
「本当に…治ってたんだ。」
傷なんか無くなっちまえ、有都があの時に願ったことだ。安全な所にいる今、ボゥッとした頭であの時のことを思い返す。
「……ねぇ…大怪我して目覚めない時には何が起こってる?」
有都はラウードとサクに話しかけた。
「…そうだな。血を流しすぎると非常に体力を消耗する。」
「血……貧血…?」
じゃあ………
今までは、人から避けるために使ってたんだ。自分を消すために……サクは俺のスキルは消失だって言ってた………
「……消失…!」
願いを込めて、有都はオリバーに手を触れた。
どれ位そうしていたのか、多分サクと有都には分からなかっただろう。二人して必死にオリバーの傷を泣きながら抑えつつ、その場にじっとしていると、二人を呼び求めるラウードの声が聞こえてきた。
「ラウード!!ラウード!ここよ!オリバーが!オリバーがぁぁ!」
もう一度絶叫するように泣きじゃくりながらサクがラウードに叫び返した。
「ここか!」
ラウードが藪を薙ぎ倒し、サクや有都、オリバーの姿を見た時には瞬時に顔面が蒼白になっていた。ラウードのいつもの優しい表情は微塵もなくて眉間にグッと皺を作り、片手には汚れた剣を持っている。
あぁ……騎士なんだ……
戦う事を恐れずに立つラウードのその姿を見たら、有都は嫌でも納得するしか無かった。ここが、有都の元いた世界ではない事、ラウードは命懸けでサクやオリバーを守ってきた事を……そのオリバーを有都達は守れなかった……
「サク、アリー!怪我は?」
「私達はないの!オリバーが、オリバーがぁ…」
サクは泣き続ける。サクと有都の姿を見れば誰かが深手を負っていることは一目瞭然だ。
「…………」
ラウードは無言で剣を置き、血濡れたオリバーを確認して行く。これだけの出血だ、もう……助からないかも……
グッと、有都の腹の底から込み上げるものがある。こんな小さな子供を守れないで、自分は怖くて震えていた。情けなくて…悲しくて…悔しくて………
「傷はないが…?」
ラウードの怪訝な顔がサクと有都を見つめている。
「…え?」
「う、嘘よ!だって、背中に…!」
そう、背中にバックリと開いた傷が…血が出てて止まらなくて………
「……無い…無い!」
次に叫んだのはサクだった。オリバーの背中には血が溢れて止まることのないパックリと開いた傷があったのに…今は背中に傷一つ見つけられそうにもない。
「でも、でも血が止まらなくて……」
混乱の極みだ…何度オリバーの背中を撫でても傷らしい物はない。
「治ってる……!?…何で…?すごい…」
「サク、アリー、取り敢えず此処を離れる。今回こちらに回ってきた兵士は潰したが、いつまた増援が来るかも知れないからな。」
ラウードは意識が無くグッタリとしているオリバーをヒョイと抱え上げると、サクと有都を促し森の奥へと入って行く。
「サクちゃん…どこに行くの?」
ラウードが向かっている所は有都達がいた小屋の方では無い。川辺ではあるがもっと上流で、途中川を渡ったのだ。
「心配しなくていいよ、アリー。私達の隠れ家は幾つもあってね。あそこは帝国側に見つかるのも時間の問題だ。だから、移動するよ。」
「もっと奥へ行けば皆んなが居るんだけど、私達がここを離れちゃうと帝国側の兵士の動きがわからなくなっちゃうの。」
落ち着きを取り戻したサクがラウードの説明を付け足してくれる。
サクは帝国兵士に命を狙われている様なのに、何故か前線に近いところにいる。それは彼女の鑑定スキルに秘密がある。サクの鑑定スキルをスキルを持っていない者に使うと一瞬だけだが身体と意識を縛ることができるのだそうだ。
「あんなに…危ない目に遭っても…?」
人に襲われることはあっても命を取りにこられたことはない有都は未だに手の震えが止まらない。
「それだけ……悔しかったからよ。」
少し微笑んだサクは無理して笑っている笑顔だ。
皆殺し………サクは、体験してるんだ……
「さ、着いた…」
無言で足を動かしてラウードとサクについて行けば、目の前には先ほどよりも小さな小屋が数棟並んでいる場所に出た。オリーバーを寝台に休ませてから、川から汲んだ水でサクも有都も身を清め着替えと洗濯を済ませる。数日間はここで動かず、折を見てラウードが必要な荷物を取りに行くそうだ。有都達が逃げる時に持ってきた手荷物は襲われたあの辺りに散乱していることだろう。
「ラウード…そっちには兵士は何人いたの?」
「小隊よりも少かった、オリバーが発見したのは囮り兵だろう。」
「そう……」
食後、サクとラウードが今日の報告をしている間も有都はオリバーから離れられなかった。出血は勿論傷が無くなっているので止まったが、あれからオリバーの意識は戻っていない。
オリバーの身体を清めた時も、古傷の痕以外新しい傷は見つからなかった。
「本当に…治ってたんだ。」
傷なんか無くなっちまえ、有都があの時に願ったことだ。安全な所にいる今、ボゥッとした頭であの時のことを思い返す。
「……ねぇ…大怪我して目覚めない時には何が起こってる?」
有都はラウードとサクに話しかけた。
「…そうだな。血を流しすぎると非常に体力を消耗する。」
「血……貧血…?」
じゃあ………
今までは、人から避けるために使ってたんだ。自分を消すために……サクは俺のスキルは消失だって言ってた………
「……消失…!」
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