[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

文字の大きさ
上 下
9 / 28

9 ※

しおりを挟む
 ガサ!!ガササササ!ガサササ!!

 突然に聞こえてきた葉擦れの音に、全身がビクッとなった。

「オリバー!!!」

「オ、オリバー?」

 サクがオリバーを見つけた様だが、葉擦れの音はどう聞いても一人の物じゃない。

「ダメだ!サク来ないで!!」

 大の大人数人に追いかけられながらも身体の小さなオリバーは負けず劣らず、右へ左へと体を振って何とか振り切ろうとしているのだ。

「オリバーどうしたの?ラウードは?ラウード、やられたの!?」

 まさか、と言うサクの表情。

「違う!サク逃げて!あっちの兵士はお取りだったんだ!何箇所にも分散してる!逃げてーー!」

「オリバー!」

 逃げろと言うオリバーに、見捨てられないサクが大木の影から飛び出していく。

「な!?」

 こんな事、現実には起こらなかった…!どうやって対処したらいいかなんて有都にはわかるはずもない。

 もうスピードで走って来るオリバーに向かって、サクも真っ向から突っ込んでいく。向かう先は帝国の兵士だろう。甲冑を着た兵士たちがチラチラと見えた。

「サクッ!!だめーーー!!」

「どいて!オリバー!」
 
「くぅっ!」

 ばっと傍に飛び退いたオリバーの後ろから追いかけてきた兵士に向かってサクが手を上げる。

「鑑定!!!」

 サクの手が兵士の額近くに伸びた時、サクは自分のスキルを叫ぶ。

「ぐぅ……」

 何と、兵士はそのままバタンと倒れてしまったのだ。

「オリバー、早く逃げて!」

「サクも一緒!!」

 ガササササササササ!!!

 避けたオリバーがサクの方へと走り寄って来る。

「このチビ!!!」

「ギャン!!!」

 草むらに足を取られて転びそうになっていた兵士の一人が、思い切り振り下ろした剣の間合いに運悪くオリバーが入ってしまった。兵士はそのまま草むらへと勢いよく転倒して行った。

「オリバーーー!!!」

 サクの絶叫の中、足音がもっと増えていって………

「サ、サクちゃん!こっち!!」

 居ても立ってもいられずに、有都も手軽に掴んだ木の棒を持って走り出す。
 サクは斬られたであろうオリバーを両腕に抱えて、次に来た兵士から身を翻していた所だった。

「サクちゃん!!」

 有都は持っていた木の棒を兵士に向かって思い切り投げつけた。これでも高校生男子だ。女子や子供の攻撃よりもまともに当たれば痛いだろう。

「アリー!!逃げて!」

「サクちゃん!こっち!こっちにオリバー渡して!!」

 女子のサクよりも有都のほうが力がある。小さな子供一人抱えて走るのだって有都のほうが有利に決まっているからだ。

 サクからオリバーを受け取った有都は、全身の血の気が引く思いをする。オリバーの身体から流れ出て来る温かいものは……………

「アリー!!早く!!こっちへ!!!」

 サクに促されるまま、グッタリとしたオリバーを抱えて、走る。何も考えずに、考えられずに…ただ、ひた走った…

「小娘!!」

 ザッと音がして…藪の中から、兵士が…

「サク……!」

 先に走るサクに兵士が襲い掛かって、スローモーションの様にサクが倒れて行こうとしたところで、襲い掛かっていた兵士が横に飛ばされて行った…

「!?」

 何が起こったか分からなくて、全速力で走っていた有都は、倒れ込んだサクの上にオリバーと一緒に、サクを守る様に倒れ込んだ。

「サク!…サクちゃん!」

「う…いった…」


 良かった…意識はある…


「さっきのは?兵士を飛ばしたの、サクちゃん?」

 大人の男一人をほぼ真横に吹っ飛ばして行ったのだから、物凄い力技だろうと思うのだが…

「違う…ラウード、間に合った…」

「ラウー…」

 ダァン!!!

 有都が名前を言い終わる前に、物凄い音が後ろから聞こえて来た。第二波、第三波と続け様に何をしているのかと言うほどに大きな音。

「…オリバー?アリー、オリバーは?」

 サクの上に倒れ込んでいるから、オリバーはサクの足元に有都と一緒に倒れている。サクはもう兵士の事を気にもしていない様子だ。

「そうだ、オリバー!」

 サクも有都もオリバーに近付いて状態を確認した。

 グッタリとして動かないオリバー。かろうじて浅く速く胸は動いていて呼吸はしている。けれど、オリバーを抱いていた有都の両手はオリバーの血でベッタリと濡れてしまっているのだ。


 こんなに、出血…して……


 オリバーは背後から肩から背中にかけて斬られていた様で、傷口が大きく、抑え様にも血が止まらない…

「ど…どうしよう……?どうしよう?オリバー…?オリバ………」

 気丈なサクは取り乱し、必死にオリバーの傷口を手で抑えているが、血は止まらない…
 有都だってただの高校生だ。ちょっとした応急処置なら出来るかもしれないが、本格的な医療が必要な大怪我に対しての知識なんて無い。

「オリバー…!オリバー!しっかり!しっかりしろよ!」

 サクと一緒になってただ傷口を抑える。

「誰か…!オリバーを助けて…まだ、こんなに小さいのに…!」

 有都の手に触れる柔らかいオリバーの肌。子供特有のモチモチの肌が何の反応も示さない…


 やだ、嫌だ!嘘だろ?こんな小さい子が?何で!何で、こんな事に………


「うぅぅ…アリー…助けてぇ……ラウード、助け…てぇぇぇ……」

 サクはもう錯乱状態だ、誰彼構わず藁をも掴む心境で泣きながら助けを求めている。

「血、止まれよ!こんな傷、無くなっちまえばいいのに!!」

 有都もただ、願うしかできなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

追放系治癒術師は今日も無能

リラックス@ピロー
BL
「エディ、お前もうパーティ抜けろ」ある夜、幼馴染でパーティを組むイーノックは唐突にそう言った。剣術に優れているわけでも、秀でた魔術が使える訳でもない。治癒術師を名乗っているが、それも実力が伴わない半人前。完全にパーティのお荷物。そんな俺では共に旅が出来るわけも無く。 追放されたその日から、俺の生活は一変した。しかし一人街に降りた先で出会ったのは、かつて俺とイーノックがパーティを組むきっかけとなった冒険者、グレアムだった。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【完結】暁の騎士と宵闇の賢者

エウラ
BL
転生者であるセラータは宮廷魔導師団長を義父に持ち、自身もその副師団長を務めるほどの腕のいい魔導師。 幼馴染みの宮廷騎士団副団長に片想いをしている。 その幼馴染みに自分の見た目や噂のせいでどうやら嫌われているらしいと思っていたが・・・・・・。 ※竜人の番い設定は今回は緩いです。独占欲や嫉妬はありますが、番いが亡くなった場合でも狂ったりはしない設定です。 普通に女性もいる世界。様々な種族がいる。 魔法で子供が出来るので普通に同性婚可能。 名前は日本名と同じくファミリーネーム(苗字)・ファーストネーム(名前)の表記です。 ハッピーエンド確定です。 R18は*印付きます。そこまで行くのは後半だと思います。 ※番外編も終わり、完結しました。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...