7 / 28
7
しおりを挟む
「ラウードのスキル……苦悩って言うの……」
観念したオリバーは口を開く。
「苦悩……?」
コクリ。
「相手の苦しいのを自分に、移しちゃうの……」
「え…」
それは、つまり、ラウードは今、誰かの苦しみを自分の身に受けている、と言う事?
「昼間…アリーを拾った……」
「うん…」
森に、倒れていたんだって言ってた。
「アリー、泣いてたの…嫌だって…もう、嫌だって……」
「!?…え?…それじゃ……」
「…………」
しょぼんとしたオリバーは顔を上げない。今、ラウードが苦しんでいるとしたらそれは有都の苦しみという事になる…?
「……ちょっと、オリバー。聞きたいんだけど…」
「……なぁに?」
有都はずっと使っていたのだ。自分の身を守るためにだけど。使える力は使おうって思って。それだけ容易く力は使えた。もし、ラウードの力も本人の意思だけですんなり使えるものならば…
今まで、ずっと?
「まさか…みんなの苦しみも?」
ここに来た後、あれだけ有都が憎んでいたのに、それがないんだ。世界全てが消えてしまえ、と思ったくらい憎んでいたはずなのに………自分が一番嫌いで、嫌いで、嫌いで………
それなのに、アリーは可愛い、アリーは綺麗だ、真っ新だって…
なんて…優しすぎるんだ………
「そう…僕はね。シャラの森でスキル持ちを探せって言われて、嫌だって言ったの。そうしたら……人間に斬られたんだ…」
「え…斬られたの!?」
コクン。可愛らしく肯いていても内容が可愛くはない。オリバーの家族はなんとか傷を負ったオリバー一人を森の奥へと逃し、そこでラウードに助けられたと言うのだ。斬られた時には痛みと恐怖でパニックになっていた様だし、人間が怖くて怖くて、オリバーは何度も何度もラウードに噛み付いたとか……
「でも、ラウードが取ってくれた…怖くて、痛くて、苦しいの…取ってくれたの。」
痛みと恐怖で錯乱していたオリバーの苦悩を全てラウードが引き受けたと言うのだ。すっかりオリバーが楽になった時には今度はラウードが苦しみ出して、大丈夫と言われても一晩気が気ではなかった様だった。
「じゃぁ、今まで、俺の中にあったのも……」
絶望とか憎しみとか、恐怖とか…それを一人で耐えてるの?
川辺で拳を握りしめながら、微かに震える肩は見間違えではないだろう……
ふらり、と有都は立ち上がる。オリバーを抱っこしたまま。
「アリー……」
心配そうなオリバーをまたいい子いい子と撫でながら、そっとラウードの側に膝をつく。
何をしたら良いか分からない。何て声をかけたら良いのかも分からない。あの時の自分は何をしてもらいたかった?
「…ごめん、なさい…もう、大丈夫ですから…ごんなさい………ごめん………」
有都のに記憶は嫌なもので、出来たら二度と思い出したくもない。けど、あの時の不快感は本当に今はなくて、全部ラウードが持って行ってくれたとしたら、本当に申し訳なくて……声をかけずにはいられなかった。
「いい……これが、私のスキルだから…アリーは気にしなくて良い…オリバー、一緒に帰って、寝なさい。」
明らかにラウードの顔色は良くないだろう。月明かりの中でさえもそう思うのだから…
ラウードの苦痛を表す表情に額には光る汗………
「でも………」
「ふふ…アリーは優しいね…その気持ちだけで大丈夫だよ?…アリー、君は綺麗だ……大丈夫…」
キュゥッと胸が締め付けられる気がする。今まで欲望を押し付けられてそう言われて来たことはあっても、自分の苦しみを知ってそんな事を言ってくれる人はいなかったから……ここに来てから、そういえば、自分の力を使っていない。自分の事を無かった者の様に仕向けてもいない。不思議とラウード達に対しては嫌悪感はなかったんだ。それも……?
心配そうにしているオリバーと共に、有都はその場で動けなくなって、思わず苦しみ蹲っているラウードに抱きついてしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい……ごめん…なさい………!」
オリバーがオロオロとする中、なぜか有都が泣き出して、止めることができなかった………
観念したオリバーは口を開く。
「苦悩……?」
コクリ。
「相手の苦しいのを自分に、移しちゃうの……」
「え…」
それは、つまり、ラウードは今、誰かの苦しみを自分の身に受けている、と言う事?
「昼間…アリーを拾った……」
「うん…」
森に、倒れていたんだって言ってた。
「アリー、泣いてたの…嫌だって…もう、嫌だって……」
「!?…え?…それじゃ……」
「…………」
しょぼんとしたオリバーは顔を上げない。今、ラウードが苦しんでいるとしたらそれは有都の苦しみという事になる…?
「……ちょっと、オリバー。聞きたいんだけど…」
「……なぁに?」
有都はずっと使っていたのだ。自分の身を守るためにだけど。使える力は使おうって思って。それだけ容易く力は使えた。もし、ラウードの力も本人の意思だけですんなり使えるものならば…
今まで、ずっと?
「まさか…みんなの苦しみも?」
ここに来た後、あれだけ有都が憎んでいたのに、それがないんだ。世界全てが消えてしまえ、と思ったくらい憎んでいたはずなのに………自分が一番嫌いで、嫌いで、嫌いで………
それなのに、アリーは可愛い、アリーは綺麗だ、真っ新だって…
なんて…優しすぎるんだ………
「そう…僕はね。シャラの森でスキル持ちを探せって言われて、嫌だって言ったの。そうしたら……人間に斬られたんだ…」
「え…斬られたの!?」
コクン。可愛らしく肯いていても内容が可愛くはない。オリバーの家族はなんとか傷を負ったオリバー一人を森の奥へと逃し、そこでラウードに助けられたと言うのだ。斬られた時には痛みと恐怖でパニックになっていた様だし、人間が怖くて怖くて、オリバーは何度も何度もラウードに噛み付いたとか……
「でも、ラウードが取ってくれた…怖くて、痛くて、苦しいの…取ってくれたの。」
痛みと恐怖で錯乱していたオリバーの苦悩を全てラウードが引き受けたと言うのだ。すっかりオリバーが楽になった時には今度はラウードが苦しみ出して、大丈夫と言われても一晩気が気ではなかった様だった。
「じゃぁ、今まで、俺の中にあったのも……」
絶望とか憎しみとか、恐怖とか…それを一人で耐えてるの?
川辺で拳を握りしめながら、微かに震える肩は見間違えではないだろう……
ふらり、と有都は立ち上がる。オリバーを抱っこしたまま。
「アリー……」
心配そうなオリバーをまたいい子いい子と撫でながら、そっとラウードの側に膝をつく。
何をしたら良いか分からない。何て声をかけたら良いのかも分からない。あの時の自分は何をしてもらいたかった?
「…ごめん、なさい…もう、大丈夫ですから…ごんなさい………ごめん………」
有都のに記憶は嫌なもので、出来たら二度と思い出したくもない。けど、あの時の不快感は本当に今はなくて、全部ラウードが持って行ってくれたとしたら、本当に申し訳なくて……声をかけずにはいられなかった。
「いい……これが、私のスキルだから…アリーは気にしなくて良い…オリバー、一緒に帰って、寝なさい。」
明らかにラウードの顔色は良くないだろう。月明かりの中でさえもそう思うのだから…
ラウードの苦痛を表す表情に額には光る汗………
「でも………」
「ふふ…アリーは優しいね…その気持ちだけで大丈夫だよ?…アリー、君は綺麗だ……大丈夫…」
キュゥッと胸が締め付けられる気がする。今まで欲望を押し付けられてそう言われて来たことはあっても、自分の苦しみを知ってそんな事を言ってくれる人はいなかったから……ここに来てから、そういえば、自分の力を使っていない。自分の事を無かった者の様に仕向けてもいない。不思議とラウード達に対しては嫌悪感はなかったんだ。それも……?
心配そうにしているオリバーと共に、有都はその場で動けなくなって、思わず苦しみ蹲っているラウードに抱きついてしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい……ごめん…なさい………!」
オリバーがオロオロとする中、なぜか有都が泣き出して、止めることができなかった………
32
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説

龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。
【完結】両性を持つ魔性の王が唯一手に入れられないのは、千年族の男の心
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
BL
【美形の王×異種族の青年の、主従・寿命差・執着愛】ハーディス王国の王ナギリは、両性を持ち、魔性の銀の瞳と中性的な美貌で人々を魅了し、大勢の側室を囲っている王であった。
幼い頃、家臣から謀反を起こされ命の危機にさらされた時、救ってくれた「千年族」。その名も”青銅の蝋燭立て”という名の黒髪の男に十年ぶりに再会する。
人間の十分の一の速さでゆっくりと心臓が鼓動するため、十倍長生きをする千年族。感情表現はほとんどなく、動きや言葉が緩慢で、不思議な雰囲気を纏っている。
彼から剣を学び、傍にいるうちに、幼いナギリは次第に彼に惹かれていき、城が再建し自分が王になった時に傍にいてくれと頼む。
しかし、それを断り青銅の蝋燭立ては去って行ってしまった。
命の恩人である彼と久々に過ごし、生まれて初めて心からの恋をするが―――。
一世一代の告白にも、王の想いには応えられないと、去っていってしまう青銅の蝋燭立て。
拒絶された悲しさに打ちひしがれるが、愛しの彼の本心を知った時、王の取る行動とは……。
王国を守り、子孫を残さねばならない王としての使命と、種族の違う彼への恋心に揺れる、両性具有の魔性の王×ミステリアスな異種族の青年のせつない恋愛ファンタジー。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
魔王になんてぜったいなりません!!
135
BL
僕の名前はニール。王宮魔術師の一人だ。
第三騎士団長のケルヴィン様に一途な愛を捧げる十六歳。
僕の住むラント国に異世界からの渡り人がやってきて、僕の世界は変わった。
予知夢のようなものを見た時、僕はこの世界を亡ぼす魔王として君臨していた。
魔王になんてぜったいなりません!!
僕は、ラント国から逃げ出した。
渡り人はスパイス程度で物語には絡んできません。
攻め(→→→→→)←←受けみたいな勘違い話です。
完成しているので、確認でき次第上げていきます。二万五千字程です。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる