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「ラウードのスキル……苦悩って言うの……」
観念したオリバーは口を開く。
「苦悩……?」
コクリ。
「相手の苦しいのを自分に、移しちゃうの……」
「え…」
それは、つまり、ラウードは今、誰かの苦しみを自分の身に受けている、と言う事?
「昼間…アリーを拾った……」
「うん…」
森に、倒れていたんだって言ってた。
「アリー、泣いてたの…嫌だって…もう、嫌だって……」
「!?…え?…それじゃ……」
「…………」
しょぼんとしたオリバーは顔を上げない。今、ラウードが苦しんでいるとしたらそれは有都の苦しみという事になる…?
「……ちょっと、オリバー。聞きたいんだけど…」
「……なぁに?」
有都はずっと使っていたのだ。自分の身を守るためにだけど。使える力は使おうって思って。それだけ容易く力は使えた。もし、ラウードの力も本人の意思だけですんなり使えるものならば…
今まで、ずっと?
「まさか…みんなの苦しみも?」
ここに来た後、あれだけ有都が憎んでいたのに、それがないんだ。世界全てが消えてしまえ、と思ったくらい憎んでいたはずなのに………自分が一番嫌いで、嫌いで、嫌いで………
それなのに、アリーは可愛い、アリーは綺麗だ、真っ新だって…
なんて…優しすぎるんだ………
「そう…僕はね。シャラの森でスキル持ちを探せって言われて、嫌だって言ったの。そうしたら……人間に斬られたんだ…」
「え…斬られたの!?」
コクン。可愛らしく肯いていても内容が可愛くはない。オリバーの家族はなんとか傷を負ったオリバー一人を森の奥へと逃し、そこでラウードに助けられたと言うのだ。斬られた時には痛みと恐怖でパニックになっていた様だし、人間が怖くて怖くて、オリバーは何度も何度もラウードに噛み付いたとか……
「でも、ラウードが取ってくれた…怖くて、痛くて、苦しいの…取ってくれたの。」
痛みと恐怖で錯乱していたオリバーの苦悩を全てラウードが引き受けたと言うのだ。すっかりオリバーが楽になった時には今度はラウードが苦しみ出して、大丈夫と言われても一晩気が気ではなかった様だった。
「じゃぁ、今まで、俺の中にあったのも……」
絶望とか憎しみとか、恐怖とか…それを一人で耐えてるの?
川辺で拳を握りしめながら、微かに震える肩は見間違えではないだろう……
ふらり、と有都は立ち上がる。オリバーを抱っこしたまま。
「アリー……」
心配そうなオリバーをまたいい子いい子と撫でながら、そっとラウードの側に膝をつく。
何をしたら良いか分からない。何て声をかけたら良いのかも分からない。あの時の自分は何をしてもらいたかった?
「…ごめん、なさい…もう、大丈夫ですから…ごんなさい………ごめん………」
有都のに記憶は嫌なもので、出来たら二度と思い出したくもない。けど、あの時の不快感は本当に今はなくて、全部ラウードが持って行ってくれたとしたら、本当に申し訳なくて……声をかけずにはいられなかった。
「いい……これが、私のスキルだから…アリーは気にしなくて良い…オリバー、一緒に帰って、寝なさい。」
明らかにラウードの顔色は良くないだろう。月明かりの中でさえもそう思うのだから…
ラウードの苦痛を表す表情に額には光る汗………
「でも………」
「ふふ…アリーは優しいね…その気持ちだけで大丈夫だよ?…アリー、君は綺麗だ……大丈夫…」
キュゥッと胸が締め付けられる気がする。今まで欲望を押し付けられてそう言われて来たことはあっても、自分の苦しみを知ってそんな事を言ってくれる人はいなかったから……ここに来てから、そういえば、自分の力を使っていない。自分の事を無かった者の様に仕向けてもいない。不思議とラウード達に対しては嫌悪感はなかったんだ。それも……?
心配そうにしているオリバーと共に、有都はその場で動けなくなって、思わず苦しみ蹲っているラウードに抱きついてしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい……ごめん…なさい………!」
オリバーがオロオロとする中、なぜか有都が泣き出して、止めることができなかった………
観念したオリバーは口を開く。
「苦悩……?」
コクリ。
「相手の苦しいのを自分に、移しちゃうの……」
「え…」
それは、つまり、ラウードは今、誰かの苦しみを自分の身に受けている、と言う事?
「昼間…アリーを拾った……」
「うん…」
森に、倒れていたんだって言ってた。
「アリー、泣いてたの…嫌だって…もう、嫌だって……」
「!?…え?…それじゃ……」
「…………」
しょぼんとしたオリバーは顔を上げない。今、ラウードが苦しんでいるとしたらそれは有都の苦しみという事になる…?
「……ちょっと、オリバー。聞きたいんだけど…」
「……なぁに?」
有都はずっと使っていたのだ。自分の身を守るためにだけど。使える力は使おうって思って。それだけ容易く力は使えた。もし、ラウードの力も本人の意思だけですんなり使えるものならば…
今まで、ずっと?
「まさか…みんなの苦しみも?」
ここに来た後、あれだけ有都が憎んでいたのに、それがないんだ。世界全てが消えてしまえ、と思ったくらい憎んでいたはずなのに………自分が一番嫌いで、嫌いで、嫌いで………
それなのに、アリーは可愛い、アリーは綺麗だ、真っ新だって…
なんて…優しすぎるんだ………
「そう…僕はね。シャラの森でスキル持ちを探せって言われて、嫌だって言ったの。そうしたら……人間に斬られたんだ…」
「え…斬られたの!?」
コクン。可愛らしく肯いていても内容が可愛くはない。オリバーの家族はなんとか傷を負ったオリバー一人を森の奥へと逃し、そこでラウードに助けられたと言うのだ。斬られた時には痛みと恐怖でパニックになっていた様だし、人間が怖くて怖くて、オリバーは何度も何度もラウードに噛み付いたとか……
「でも、ラウードが取ってくれた…怖くて、痛くて、苦しいの…取ってくれたの。」
痛みと恐怖で錯乱していたオリバーの苦悩を全てラウードが引き受けたと言うのだ。すっかりオリバーが楽になった時には今度はラウードが苦しみ出して、大丈夫と言われても一晩気が気ではなかった様だった。
「じゃぁ、今まで、俺の中にあったのも……」
絶望とか憎しみとか、恐怖とか…それを一人で耐えてるの?
川辺で拳を握りしめながら、微かに震える肩は見間違えではないだろう……
ふらり、と有都は立ち上がる。オリバーを抱っこしたまま。
「アリー……」
心配そうなオリバーをまたいい子いい子と撫でながら、そっとラウードの側に膝をつく。
何をしたら良いか分からない。何て声をかけたら良いのかも分からない。あの時の自分は何をしてもらいたかった?
「…ごめん、なさい…もう、大丈夫ですから…ごんなさい………ごめん………」
有都のに記憶は嫌なもので、出来たら二度と思い出したくもない。けど、あの時の不快感は本当に今はなくて、全部ラウードが持って行ってくれたとしたら、本当に申し訳なくて……声をかけずにはいられなかった。
「いい……これが、私のスキルだから…アリーは気にしなくて良い…オリバー、一緒に帰って、寝なさい。」
明らかにラウードの顔色は良くないだろう。月明かりの中でさえもそう思うのだから…
ラウードの苦痛を表す表情に額には光る汗………
「でも………」
「ふふ…アリーは優しいね…その気持ちだけで大丈夫だよ?…アリー、君は綺麗だ……大丈夫…」
キュゥッと胸が締め付けられる気がする。今まで欲望を押し付けられてそう言われて来たことはあっても、自分の苦しみを知ってそんな事を言ってくれる人はいなかったから……ここに来てから、そういえば、自分の力を使っていない。自分の事を無かった者の様に仕向けてもいない。不思議とラウード達に対しては嫌悪感はなかったんだ。それも……?
心配そうにしているオリバーと共に、有都はその場で動けなくなって、思わず苦しみ蹲っているラウードに抱きついてしまった。
「ごめんなさい。ごめんなさい……ごめん…なさい………!」
オリバーがオロオロとする中、なぜか有都が泣き出して、止めることができなかった………
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