[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

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 丸太小屋は二つ建ててあって、一つが有都がいたラウードの部屋、もう一つがサクとオリバーの部屋となっている。急遽有都を拾ってしまったので、当分は有都はラウードと同じ小屋での生活をする事になりそうだ。

 ここは、シャラの森と帝国側との国境附近らしい。言うなれば、ラウード達は国境警備隊の様な役割をしているのだとか。たったの三人で……

「ラウードは強いよ!」

 少しだけ有都に警戒心を持ってしまったオリバーがサクの足に齧り付き、そう話す。森の奥に行けば、逃げて来たスキル持ちの仲間達が集落を作っているらしい。ラウード達は帝国側の動きを見張りつつ、逃げて来たスキル持ち達を救出する為にしばらく交代でここに待機していたそうだ。そこへ有都が現れた、という事らしい。

「一人でだって、軍隊を追い返すんだから!」

 オリバーはまるで自分のことの様に胸を張って、尻尾を振って、嬉しそうにラウードの事を自慢するのだった。


 尻尾がある!!??今更だけど、本当に亜人なんだ……


「やっぱり、可愛い……」

 オリバーのフスフスと興奮しつつ話すその姿が、一生懸命主人にアピールする子犬の様で愛おしくなる。

 皆んな物凄い過去持ちなんだろうけど、そんな片鱗も見せずに協力しつつ自分のなすべき事をなす。良いチームワークができていた。

「もう寝たほうがいい…環境が変わったんだろう?精神的にはまだキツイはずだから。」

 ラウードに促されるまま、ラウードのベッドに有都は入ったが、色んなことが頭の中をぐるぐるしててなかなか寝落ちできないのが正直なところだ。  


 違う世界……
 そんな言葉がしっくりくる。


 亜人に…帝国…皆殺し……?


 ゾワッと背筋に寒気が走った。そんな所に自分はいて、可愛いだけのオリバーも美少女のサクも生きてるの……


 ザワザワする…落ち着かない………


 寝ろ、と言われても神経が昂ってしまって眠れそうになかった。ラウードと話をしようにも小屋にはいない。

 そっとベッドを抜け出して、小屋の外に出る。小屋から少し離れれば直ぐそこに小川があって、気持ちの良いせせらぎが微かにここまで聞こえて来ていた。
 今夜は満月の月夜…月の明るさまで違うのか手元に灯りがなくても十分に明るくて、有都は難なく小川まで行くことができる。

 少しだけ、小川の音を聞きながらボゥッとしたら眠くなるかもしれない。せせらぎASMRを求めて、有都はフラフラと小川に近付く。

「…ん?」

 小川の淵には既に先客が?蹲っている大柄の人がいた。


 誰……?


 吸い寄せられる様に近付こうと思った有都の服の裾が引っ張られて……

「……ダメ………見ないであげて……」

 振り向けば、オリバーが有都の服を一生懸命引っ張っていた。

「オリバー?」

「………」

 有都には警戒していたはずなのに、必死に見上げてくるオリバーの目は真剣だ。

「ん?どうしたの?向こうに行っちゃ駄目なのか?」

 有都は無理に動くのを諦めてその場にしゃがみ込み、オリバーと視線を合わせた。

「うん。ラウードは見られたくないと思うから……」

 恥ずかしそうに視線を逸らしながらオリバーは言う。時々ラウードは皆んなの側から離れるのだそうだ。一人で、夜中に、こっそりと……

「で、何してるの?あそこで…」

「痛いの……我慢してる………」

「痛い…?どこか怪我でも?それとも病気?」

「違う。ラウードのスキルなの…」

「ラウードの、スキル……」

「うん。」

 何故か、しょんぼりするオリバー。怒られているわけではないのに、怒られた時の様にしゅんとして、耳を倒して悲しそうなのだ。

「オリバー……撫でても良い?」

「………」

 コク…

 頷きを確認して、オリバーの頭を有都はよしよしと撫でる。赤茶の髪はふわふわでサラサラで手触りがものすごく良い。
 オリバーが言うように、有都はそれ以上ラウードには近付かなかった。でも近付かないだけで、見えないわけじゃない。月夜の明かりは明るくて、ちょうど木の無い川のほとりはよく見えたから。

 大きく見えたラウードの身体が、少しだけ震えている様に見えるのは目の錯覚だろうか?ギュッと拳を握りしめて、身体を小さく丸めて、まるで泣いている子供の様にも見える。


 オリバーは我慢しているって…?


「オリバー…良い子だから、教えてくれないか?ラウードは何を我慢してるの?」

「……………」

 撫でられて、まんざらでもなさそうに気持ち良さげにしていたオリバーが、ピクリ、と反応した。

「オリバー?」

 フルフルフル…知らない、とでも言いたいのか、オリバーはフルフルと首を振るばかり。

「オリバー。」

 有都はヒョイとオリバーを自分の膝の上に抱き上げた。一瞬ビクッと身を固くしたオリバーだったが、そっと有都の膝の上に向かい合わせで座らされて、オリバーは更に耳を倒す。


 尻尾もフワフワだ……


 謎な感動で胸を打ちつつ、有都はオリバーに聞きたい事をもう一度聞く。

「オリバー、お願いだから知っている事を教えて?」

 ここに居なくては行けないんだとしたら、それはきっと有都も知らなければならない事だと思うのだ。












 
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