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しおりを挟む耳………?え、耳…動くの!?
ガバッと有都はオリバーに飛びついた。
「ぴぇ!!」
可愛い声をあげて、オリバーが固まる。
「耳!耳、本物?付いてる!!」
「い、痛い…!痛い、アリー!引っ張んないで~」
そんなに強くは引っ張っていないものの、興奮状態の有都はまだオリバーの耳を離さない。
耳………カチューシャじゃない…………
「こらこら、アリー。オリバーが泣いちゃうよ?」
うずくまってオリバーに迫っていた有都をラウードは後ろからヒョイっと抱え上げてしまった。
「ラウード~~…アリー、耳取る~~~」
オリバーは怖かったのだろう。ポロポロと大粒の涙をこぼして泣き出した。
「大丈夫だよ、オリバー。アリーはオリバーが嫌いなわけじゃない。どうやら、事情がありそうだね?もしかしたら、アリーはここが初めてなんじゃないだろうか…」
オロンガル帝国の人間ならば、亜人を知らないわけがない。スキル持ちの人間ならば尚のこと、オロンガル帝国には敏感なはずだ。いつ自分が帝国に狩られ、したくもない事に手を染めさせられるか、皆んな戦々恐々としているのだから。なのにアリーにはそれが無い。日常的な事も、亜人に関しても、こことはまるで別の世界に生きているみたいだ。
「ご、ごめん……そんなに痛かった?俺、加減が分からなくて……ごめん………」
オリバーは本当に可愛いのだ。大きな茶色の目を涙でうるうるに潤ませて恨みがましく有都を見上げている。そんな姿を見たら、もう罪悪感で一杯になる。
ごめん、を繰り返す有都に、未だにフルフルと震えているオリバーに、有都を片手で抱えたまま考え込んでいるラウードに……
「貴方達、何してるの?」
黒髪の美少女サクが声をかけるまで、そんな状況は続いていたのだった。
オリバー達亜人の集落はこじんまりと点在していた。それぞれが自分達の規律を守り問題なく生活していたのに、その殆どが帝国側に落ちてしまったそう…今は帝国の一部として決められた区域での生活を強いられているそうだ。オリバーは発見のスキル持ちで本人の臨む物を探せるそうなのだが、あまりの幼いオリバーを帝国側に渡したくなかったオリバーの家族はオリバーだけを逃した。
サクは人間でスキル鑑定ができる特殊能力持ち。一族の血筋だそうで帝国側から能力の献上を求められた時、一族総出で反発して粛清された、生き残りだそうだ。
「私の一族、全滅したの…」
サクは食事ができたと呼びに来たのだ。丸太小屋の外に出れば広場が広がっていて、そこにテーブルと椅子、焚き火に鍋がかかっていて簡易な調理場みたいになっていた。テーブルの上にはいくつかの皿と中にはスープ、パンの様な塊とフルーツらしきものが盛られている。
サクが手際良く食事の支度を進め、それぞれが食べ始めて、この帝国についてもう一度ラウードが話していた時にサクが言った言葉だ。
全滅したの…
悲しむでも、苦しむでもない何気ない言い方で、サクはサラッとそんな事を言うものだから、有都はなんと答えていいのか戸惑ってしまう。ただでさえ空腹を訴えている腹を満たそうと見たこともないパンをスープにつけて食べようと格闘していたところだ。
「え………」
黙々と食べ進めるサク。コクコクとサクの言葉を肯定しているオリバー。表情一つ変わらないラウード。
「何、それ…」
「文字通り、全員殺されたのよ。私だけ、逃げてここにいるの。」
着の身着のままの状態でシャラの森まで逃げおおせたサク以外の者は帝国に反発した罪でその場で処刑となったのだ。
「そんな、ことってあるの…?反発したって…裁判とかは………?」
「裁判?なんだ、それは?帝国に逆らった時点で即、処刑…これが彼らのやり方だ。」
そんな事、聞いた事もない……なんだよ、その暴君は………
「アリー、ちゃんと食べて?ここは帝国側と近い所だから、もし何かあった時にはちゃんと動けなくなるわ。」
「え、直ぐ側が帝国側なの!?」
それは、怖すぎる………
「やはり……アリーは帝国から来たのではないのだな?」
「違うって!俺のいた所には帝国なんてないよ!日本って国があって、そこの高校に居たんだから!」
「にほん……こうこ、う?」
聞いた事もない、とサクは首を振る。サクの見た目は女子中学生くらいだろうか。文明が有る国ならば、殆どの子供達が学校に通っていると思うのに…高校の制度もわからないらしい。
「なんだよ………ここ…………」
日本と違う、こんな世界があったなんて…今まで知る事も無かったけれど、なんでここに来たのか、ここに来て…有都は何の為にここにいるのか、全く分からない………
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