[完]人嫌いの消失スキル持ちの転移男子は己の運命に歓喜する

小葉石

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 ラウードに触られている時に有都は気がついた、自分が裸だと言うことに……

「せ、制服!?」

 は、途中まで脱がされてて下半身は裸でも仕方ない。けど、上は?
 ラウードに触られてても気持ち悪いと感じなくなってからやっと自分の服の事へと気を回す有様で、非日常的な事が起こりすぎてて有都の頭は全然回っていないようだ。

「服かい?ならサクが用意してくれるよ。」

 またもや優しげな笑顔でラウードは言う。整った顔でそんなに甘やかに微笑まれたら、もの凄いモテるんだろうな、と思うのだが…いかんせん、中世の様な騎士服に側には剣らしきものを置き、自分を騎士と名乗る様では残念な部類の人なのかもしれない。

 有都の心も身体も落ち着いてくれば、思考を広げて考えられる様にもなって来た。

「……これ……」

「おや、オリバーがきたのか…?」

 小さな子共の声がした。ふと、そっちに目をやれば、赤茶の髪をした男の子が何やら着替えの衣類らしきものを持って部屋のドアから入って来たらしい。
 周りを見たら、ここは木造の建物で内装も見た感じ丸太小屋の様な物だろうか。

「可愛い……」

 おどおど近付いてくるその子は、頭に髪と同じ色の動物の耳付きカチューシャを付けていて、子供らしい可愛さが満載だった。

「だろう?ここの子達は皆んな可愛いんだ。勿論、アリーも可愛いよ?」

 ニコニコと微笑むラウードに、人見知りしてしまうのかラウードの背中に隠れて出てこないオリバー。オリバーは顔を出さずに服だけズイッと有都に渡してくる。

「この子は赤犬の亜人で少し人間が苦手なのと人見知りでね。慣れるまでゆっくり待ってあげてほしい。」

 オリバーから服を受け取る有都にラウードはそう言った。有都が受け取った服は有都の制服ではなかった。

「……………」


 赤犬……亜人………?何かのコスプレの設定?


 有都もその設定の一部と化すのだろうか?急いで着替えようと思っていた渡された衣類は、有都の見知った物ではなくて…
もたもたと着替えるのに手間取っていたら見かねたラウードがきちんと着替えさせてくれた。

「もしかして、有都は服も満足に着させてもらえなかったのか?」

 物凄く悲しそうな顔をしてラウードもオリバーも有都を見つめてくる。   


 ひょっとして、憐れまれてる?


「違いますよ!ちゃんと服はきてました!この服装は良く知らなかっただけで…!」

「知らないって………有都は帝国の人間だろう?」

「帝国…?」

「オロンガル帝国……」  

 キュッと眉を寄せて、嫌そうにラウードそう言った。

 オロンガル帝国。小さな国々で成り立っていた大陸の統一を目論み、その国々を侵攻してできた帝国だ。スキル持ちを異能者として狩り出しては奴隷の様に使うか、迫害していると言う。このシャラの森にはそうして迫害を受けて来たスキル持ち達が逃げ出して隠れて暮らしているのだ。ラウードはそんな彼らを守る騎士らしい。

「設定が、大きい……」

「設定?」

「コスプレの…世界観?」

「こすぷれ、とはなんだろうか?」

「えっと…何かの登場人物を真似て、自分を着飾らせる事かな…?その人に成りきるつもりで…?」

 有都にだってコスプレはした事がない。友達らしい友達もいなかったんだからそんな話もした事がない。ただそういうものか、と理解していたからそうなのかと思った。

「何かに、真似る?」

「そう、話とか、ゲームとか。だからこんな丸太小屋まで作って雰囲気を出しているんですよね?」

 そこに有都はなぜか巻き込まれたことになる。

「…アリー、こっちに来てごらん。」

 ラウードは部屋の窓を開け放つ。凄い土の匂いと緑の匂い…爽やかな風と一緒に部屋の中へと入って来た。


 こんなの、知らないよ……


 有都の学校ではこんな匂いなんてしなかった。匂いというか、空気そのものが違う感じがする。

 飛びつく様に窓辺に行けば、外は一面の木々…木々………どこまでも豊かに続く自然だった。

「ここが、シャラの森と言う。アリーの言う世界観とはこう言うものか?」


 違う………ここ、どこだよ…………!!


 なんだよ、これ…!叫びそうになるのを必死に耐えて、ボソッと感情なく呟いたと思う。

「ダメ……アリー、苦しんじゃダメ………」

 キュッと、服を下に引っ張られるのを有都は感じた。

「…!?」

 険しい顔をしていたと思う。下を見れば、同じく泣きそうな顔をしたオリバーがギュウッと有都の服を握りしめている。

「苦しんじゃ、ダメって……」

 こんなに、頭がこんがらがる様な事を目の前で見せられたら無理っていうものだ。そんな有都よりもオリバーの方が泣きそうでこぼれそうな茶色い大きな目にいっぱい涙を溜めて有都を仰ぎ見ている。


 可愛い………


 捨てらてしまった、哀れさを誘う子犬みたいに、オリバーは耳をペタンと倒してフルフル震えていた。




 

 

 
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