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「なんとか、しなくてなならないわ!」
部屋の中を行ったり来たりと先ほどから令嬢らしからぬ振る舞いをしている伯爵令嬢ステイシーに、オロオロと付き従っているのはパートナーで婚約者の伯爵家のジョゼフだ。
「ステイシー落ち着いて?あまり歩き回ると、君の息が切れてしまうよ?」
ジョゼフはステイシーの息切れを心配して、一生懸命に落ち着くてくれる様に宥めながら声をかけている。ステイシーの方が婚約者のジョゼフを訪ねてきたというのにも関わらず、全くと言ってもいいほどジョゼフの事を気に留めた様子は無い。
「だって!見まして!?あの人達の視線を!」
王城での舞踏会の最中、壁側でジャゼフと何やらやり取りをしていたステイシーに向かって、出席していた大多数の人々は遠巻きにしながら始終ヒソヒソと何かを囁き合っていた。いくら離れていたとしても時折聞こえてくる笑い声や、明らかに目線を逸らす者達から、自分達が見せ物的な者になっている事くらい分かった。
「皆んなで私の事を馬鹿にしていましたわ!」
「そんな事ないよ、ステイシー…」
ヒステリックに怒鳴るステイシーを必死に宥めているジョゼフに向かってもステイシーは歯を剥いた。
「貴方だって!私の事を馬鹿にしているのでしょう?高位の方の口車に乗った頭の緩い女とお思い?貴方がしっかりとしていてくだされば、私だって他の方になびいたりは致しませんのに!」
「ステイシー…取り敢えずここに座って、まずは落ち着こう…?」
こんなにもステイシーが理不尽に怒り散らしているというのに、ジョゼフは根気よくステイシーの手を取って柔らかなソファーへとステイシーをエスコートする。
「私、私!次からはどんな顔をして王城へ出向けばいいんですの?タントル様だとて、もう私を見もしないのに!!」
「もう、城へは行かなくていいよ、ステイシー。」
そっとジョゼフはステイシーの両手を取る。
「なんですって!?貴族の令嬢たる私が城へ行かなくていいなんて、どんな了見ですの?」
カチンッ………
ステイシーの白くて細い手首で軽い金属音が鳴った。
「え…?」
「ほら、これでもう城へはいけないよ。」
「何を、したの…?」
「ずっと、君を護りたいと思っていたんだよ?ステイシー、これならもうどこにもいけないでしょ?」
「貴方………!?」
ステイシーの両腕には柔らかな毛皮が付いた手錠がしっかりとはめられていた。
「これで、もう君が傷付く事なんてないよ?バーン伯爵家には急な病気で、こちらで面倒を見させて頂きたいと連絡をするよ。いいね?ステイシー…」
「………」
良いかと言えば決して良くないこの状況だが、余りにもいきなりな展開にステイシーは言葉も出なかった………
「どういう事ですの…?」
昼間掛けられた手錠はそのままに、何故か豪華な晩餐がステイシーの目の前に…隣の席にはジョゼフがいて、両手が不自由な状態でも食事がしやすい様に、料理を切り分けてくれている。
それをぼんやりと見つめつつステイシーはしばらくこの状況に適応しようと多大な努力を要している。
「あれ?君の嫌いな物が出ていたかな?」
「………そういう事ではございませんわ……なぜに、私は、拘束されているのか、と聞いているの…」
好物があるか無いかなんて、もうこの場合どうでもいいのではないだろうか…?
カチャリ、と手の手錠を持ち上げて見せて、ギッとステイシーはジョゼフを睨みつけた。それだけでジョゼフはビクッと身をすくめる程の気の弱い令息なのに、ステイシーにした事は自分の度肝を抜かれる事以上のものではないのか?
「気の弱い貴方が、何でこんな事を?」
手を拘束されてからステイシーはそれは大切に扱われている。重病人の如くに常に侍女が付き従い、あれこれと甲斐甲斐しく世話をする。侍女ばかりではなく、なぜか手錠を掛けたジョゼフ本人もそれに加わり、ステイシーが不自由しない様に心を砕いていた。だからだろうか、不当な扱いをされた憤りよりも、余りにも大切に扱われすぎてて毒気を抜かれた様な心持ちだ。
「だって、君、わざわざ傷付きに出て行こうとするでしょう?」
「……?」
ステイシーは意味がわからず、眉を顰める。
「温かい内に食べながら話そう?」
ステイシーにフォークを持たせると、ジョゼフは食事を促す。
「見て、いられなかったんだよね……高位の方々に何も言えないからこそ、君を護りたくても、僕は何も出来ないし……」
「それが……これ、ですの?」
ジャラッと手を動かす度に手元からは不快な音がする。
「だって、止めても君、行ってしまうでしょう?」
昨日の様に、気位の高いステイシーはきっと衆人環視の中にわざわざ見せ物になりに入っていこうとする。
「僕が嫌だったんだよ。ストレー様に抗議の手紙を書こうかとも思ったけれど、君自身は嫌がってはいないみたいだし、どうしたら良いかと散々考えたんだ。」
そして、考えた結果がこれ、になったと。
「ジョゼフ…気が弱いだけの人だと思っていたけど、頭の中は飛び抜けていてよ?」
「フフ…お褒めに預かり光栄です。君を護れる為ならば、なんでも出来る気がしてきたよ。」
ステイシーは決して褒めたわけではないのだが、ステイシーの言葉にジョゼフは物凄く満足した様だ。今までで一番と言うくらいの眩しい笑顔でステイシーに微笑み返した。
「城へは君は病気休養として連絡してある。だからここでゆっくりと過ごして…?君に必要な物は全て揃えてあるからね?」
部屋の中を行ったり来たりと先ほどから令嬢らしからぬ振る舞いをしている伯爵令嬢ステイシーに、オロオロと付き従っているのはパートナーで婚約者の伯爵家のジョゼフだ。
「ステイシー落ち着いて?あまり歩き回ると、君の息が切れてしまうよ?」
ジョゼフはステイシーの息切れを心配して、一生懸命に落ち着くてくれる様に宥めながら声をかけている。ステイシーの方が婚約者のジョゼフを訪ねてきたというのにも関わらず、全くと言ってもいいほどジョゼフの事を気に留めた様子は無い。
「だって!見まして!?あの人達の視線を!」
王城での舞踏会の最中、壁側でジャゼフと何やらやり取りをしていたステイシーに向かって、出席していた大多数の人々は遠巻きにしながら始終ヒソヒソと何かを囁き合っていた。いくら離れていたとしても時折聞こえてくる笑い声や、明らかに目線を逸らす者達から、自分達が見せ物的な者になっている事くらい分かった。
「皆んなで私の事を馬鹿にしていましたわ!」
「そんな事ないよ、ステイシー…」
ヒステリックに怒鳴るステイシーを必死に宥めているジョゼフに向かってもステイシーは歯を剥いた。
「貴方だって!私の事を馬鹿にしているのでしょう?高位の方の口車に乗った頭の緩い女とお思い?貴方がしっかりとしていてくだされば、私だって他の方になびいたりは致しませんのに!」
「ステイシー…取り敢えずここに座って、まずは落ち着こう…?」
こんなにもステイシーが理不尽に怒り散らしているというのに、ジョゼフは根気よくステイシーの手を取って柔らかなソファーへとステイシーをエスコートする。
「私、私!次からはどんな顔をして王城へ出向けばいいんですの?タントル様だとて、もう私を見もしないのに!!」
「もう、城へは行かなくていいよ、ステイシー。」
そっとジョゼフはステイシーの両手を取る。
「なんですって!?貴族の令嬢たる私が城へ行かなくていいなんて、どんな了見ですの?」
カチンッ………
ステイシーの白くて細い手首で軽い金属音が鳴った。
「え…?」
「ほら、これでもう城へはいけないよ。」
「何を、したの…?」
「ずっと、君を護りたいと思っていたんだよ?ステイシー、これならもうどこにもいけないでしょ?」
「貴方………!?」
ステイシーの両腕には柔らかな毛皮が付いた手錠がしっかりとはめられていた。
「これで、もう君が傷付く事なんてないよ?バーン伯爵家には急な病気で、こちらで面倒を見させて頂きたいと連絡をするよ。いいね?ステイシー…」
「………」
良いかと言えば決して良くないこの状況だが、余りにもいきなりな展開にステイシーは言葉も出なかった………
「どういう事ですの…?」
昼間掛けられた手錠はそのままに、何故か豪華な晩餐がステイシーの目の前に…隣の席にはジョゼフがいて、両手が不自由な状態でも食事がしやすい様に、料理を切り分けてくれている。
それをぼんやりと見つめつつステイシーはしばらくこの状況に適応しようと多大な努力を要している。
「あれ?君の嫌いな物が出ていたかな?」
「………そういう事ではございませんわ……なぜに、私は、拘束されているのか、と聞いているの…」
好物があるか無いかなんて、もうこの場合どうでもいいのではないだろうか…?
カチャリ、と手の手錠を持ち上げて見せて、ギッとステイシーはジョゼフを睨みつけた。それだけでジョゼフはビクッと身をすくめる程の気の弱い令息なのに、ステイシーにした事は自分の度肝を抜かれる事以上のものではないのか?
「気の弱い貴方が、何でこんな事を?」
手を拘束されてからステイシーはそれは大切に扱われている。重病人の如くに常に侍女が付き従い、あれこれと甲斐甲斐しく世話をする。侍女ばかりではなく、なぜか手錠を掛けたジョゼフ本人もそれに加わり、ステイシーが不自由しない様に心を砕いていた。だからだろうか、不当な扱いをされた憤りよりも、余りにも大切に扱われすぎてて毒気を抜かれた様な心持ちだ。
「だって、君、わざわざ傷付きに出て行こうとするでしょう?」
「……?」
ステイシーは意味がわからず、眉を顰める。
「温かい内に食べながら話そう?」
ステイシーにフォークを持たせると、ジョゼフは食事を促す。
「見て、いられなかったんだよね……高位の方々に何も言えないからこそ、君を護りたくても、僕は何も出来ないし……」
「それが……これ、ですの?」
ジャラッと手を動かす度に手元からは不快な音がする。
「だって、止めても君、行ってしまうでしょう?」
昨日の様に、気位の高いステイシーはきっと衆人環視の中にわざわざ見せ物になりに入っていこうとする。
「僕が嫌だったんだよ。ストレー様に抗議の手紙を書こうかとも思ったけれど、君自身は嫌がってはいないみたいだし、どうしたら良いかと散々考えたんだ。」
そして、考えた結果がこれ、になったと。
「ジョゼフ…気が弱いだけの人だと思っていたけど、頭の中は飛び抜けていてよ?」
「フフ…お褒めに預かり光栄です。君を護れる為ならば、なんでも出来る気がしてきたよ。」
ステイシーは決して褒めたわけではないのだが、ステイシーの言葉にジョゼフは物凄く満足した様だ。今までで一番と言うくらいの眩しい笑顔でステイシーに微笑み返した。
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