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「お父様…私の猶予とは一体?」
ストレー侯爵家からの帰り道、どうにも納得ができなくて、思わずメリカは口を開いた。
「メリカが気にする事はない、が、今後ストレー侯爵家には訪問禁止だ。」
父の神妙な物言いにメリカはその場では肯くしかなかった。
もう行かなくてもいいのではないかとも思える王城での舞踏会に、王の招待を断る事などできないメリカは今日も出席している。
いつもの人々にいつもの会話…変わり映えがあるとすれば身に纏う花の色だけ…
だけ…?だと、思っていたメリカの目にはなんだか不思議なものが見えていた。
(壁の花がチラホラと…?)
先日見た時よりも、壁の花と化している人が数名…
(花の人口が増えている?)
先日見かけたラシーナは当然の如くに花と化しているのだが、その他に確実に居なかった面々がポツポツと立っていた。令嬢ばかりではなく、どこかしらのご子息まで………ラシーナは流石に堂々としていたが、中には明らかに不安そうな表情で今にも泣き出しそうな令嬢さえ見かける。
ツツ…ツツツ……
メリカはそんな令嬢達に少しずつ接近してみる。堂々と側に行くとスッと逃げられてしまうかもしれない為に、気づかれないようにそっと、そして話しかけても逃げられないような身分のご令嬢…
(いましたわ…)
伯爵家よりも下位の家柄…そして今にも泣き出しそうになっていてプルプルしているご令嬢が。
(男爵家のイリヤーナ嬢…ですわね?)
横目でしっかりとお顔を確認の上、更にツツツ…と距離を詰める。
「そのままでお聞きになって?」
持っていた扇を口に当てて話していることがバレないように気をつけて、声も最小に抑えて…
「!?」
よほど驚いたのだろう、イリヤーナの肩がビクッと揺れた。
「周りをキョロキョロしないでいただけます?」
「メ、メリカ様ですか?」
メリカが小さな声で話すものだから、イリヤーナもそれに合わせてポツリと呟いた。
「ええ、そうです。いきなり声をかけてしまってごめんなさい…貴方にお聞きしたい事がございますの。」
「ご、ごめんなさい…お、お許し下さいませ……私……私………!」
泣きそうだったご令嬢の何がそんなに追い詰められているのかと、聞きたかっただけのメリカが追い討ちをかけた様に、イリヤーナを泣かせてしまった……
(えぇぇぇ?どうして泣いてしまいましたの?)
これではメリカが泣かせたようなものだ…
「顔を、お顔をお隠しくださいませ!イリヤーナ様!」
小声でメリカが言うのと、周りの人々がイリヤーナに注目してしまったのはほぼ同時くらいだろう。
「ま!イリヤーナ嬢だわ…いい気味ね…………様に手を出すから……」
「本当に、身分というものをご存じなかったんでしょう?………様とて一時の遊びのつもりで、きっと珍味の様に思っていたんではなくて?」
「まぁ、それはお可哀想ですわ!それに、お可哀想と言ったら、メリカ様の右に出る者はいらっしゃらないのでは?」
「まあ!それこそ、こんな所で仰ったならお可哀想ですわ!」
最初の方こそ声をひそめて噂だかを囁いていた周囲の令嬢達だが、後半では隠し立ても出来ないくらいの大きさで最早悪口というものを、しかも本人の目の前で披露してくれた…
(イリヤーナ嬢はどなたに手を出されたと?)
クスクスクスクス、周囲の嘲笑は続き、それに増してイリヤーナは更に涙を流している。
「何があったというのです?」
騒ぎを聞きつけ、王の近衞騎士が近づいて来た。
(国王の前で粗相をするわけにはまいりませんわね。)
イリヤーナの事が非常に気にはなるが、先ずは近衞騎士に向かって礼をとる。周囲の人々がざっと左右に割れてメリカ達は王座の目の前に出される事になった。
「イリヤーナ様の体調がお宜しくないようなのでお声をかけさせていただきました。」
これならば、あながち偽りではないだろう。
「ふむ…イリヤーナ?男爵家だったか?」
国王が面倒臭そうにイリヤーナに声をかけた。
「さ、左様にございます。」
「して、体調が悪いと?」
「いえ……それは……」
体調は悪くはない、が、泣き出してしまった事についての説明をどうするのか言いあぐねているようだ。
「なんだ?答えられないのか?誰か!事情を知る者はいないのか?」
王が不機嫌さを隠そうともせずに周囲に目を向けた。
「恐れながら陛下…」
「申してみよ。」
国王の前に進み出たのは、なんとタントルだ。
(タントル様が、何を?)
「先日イリヤーナ嬢と私は茶の席を共に致しまして、今はもう婚約破棄をしましたがメリカ嬢に申し訳なく思われたのではないでしょうか?」
「ふむ…メリカとイリヤーナ、確かに共にいたな?」
「はい、おりました。」
(茶の席とは?タントル様と?)
「ならば、致し方ない…この場は双方とも引くがいい…タントル!」
「はい、陛下…」
「茶の席とは羨ましい…よほど良い華の香りの茶だったのであろうな?」
「はい、それはもう…」
ニッコリと国王と談笑しているタントルの隣ではイリヤーナ嬢が真っ赤になっていた。
ストレー侯爵家からの帰り道、どうにも納得ができなくて、思わずメリカは口を開いた。
「メリカが気にする事はない、が、今後ストレー侯爵家には訪問禁止だ。」
父の神妙な物言いにメリカはその場では肯くしかなかった。
もう行かなくてもいいのではないかとも思える王城での舞踏会に、王の招待を断る事などできないメリカは今日も出席している。
いつもの人々にいつもの会話…変わり映えがあるとすれば身に纏う花の色だけ…
だけ…?だと、思っていたメリカの目にはなんだか不思議なものが見えていた。
(壁の花がチラホラと…?)
先日見た時よりも、壁の花と化している人が数名…
(花の人口が増えている?)
先日見かけたラシーナは当然の如くに花と化しているのだが、その他に確実に居なかった面々がポツポツと立っていた。令嬢ばかりではなく、どこかしらのご子息まで………ラシーナは流石に堂々としていたが、中には明らかに不安そうな表情で今にも泣き出しそうな令嬢さえ見かける。
ツツ…ツツツ……
メリカはそんな令嬢達に少しずつ接近してみる。堂々と側に行くとスッと逃げられてしまうかもしれない為に、気づかれないようにそっと、そして話しかけても逃げられないような身分のご令嬢…
(いましたわ…)
伯爵家よりも下位の家柄…そして今にも泣き出しそうになっていてプルプルしているご令嬢が。
(男爵家のイリヤーナ嬢…ですわね?)
横目でしっかりとお顔を確認の上、更にツツツ…と距離を詰める。
「そのままでお聞きになって?」
持っていた扇を口に当てて話していることがバレないように気をつけて、声も最小に抑えて…
「!?」
よほど驚いたのだろう、イリヤーナの肩がビクッと揺れた。
「周りをキョロキョロしないでいただけます?」
「メ、メリカ様ですか?」
メリカが小さな声で話すものだから、イリヤーナもそれに合わせてポツリと呟いた。
「ええ、そうです。いきなり声をかけてしまってごめんなさい…貴方にお聞きしたい事がございますの。」
「ご、ごめんなさい…お、お許し下さいませ……私……私………!」
泣きそうだったご令嬢の何がそんなに追い詰められているのかと、聞きたかっただけのメリカが追い討ちをかけた様に、イリヤーナを泣かせてしまった……
(えぇぇぇ?どうして泣いてしまいましたの?)
これではメリカが泣かせたようなものだ…
「顔を、お顔をお隠しくださいませ!イリヤーナ様!」
小声でメリカが言うのと、周りの人々がイリヤーナに注目してしまったのはほぼ同時くらいだろう。
「ま!イリヤーナ嬢だわ…いい気味ね…………様に手を出すから……」
「本当に、身分というものをご存じなかったんでしょう?………様とて一時の遊びのつもりで、きっと珍味の様に思っていたんではなくて?」
「まぁ、それはお可哀想ですわ!それに、お可哀想と言ったら、メリカ様の右に出る者はいらっしゃらないのでは?」
「まあ!それこそ、こんな所で仰ったならお可哀想ですわ!」
最初の方こそ声をひそめて噂だかを囁いていた周囲の令嬢達だが、後半では隠し立ても出来ないくらいの大きさで最早悪口というものを、しかも本人の目の前で披露してくれた…
(イリヤーナ嬢はどなたに手を出されたと?)
クスクスクスクス、周囲の嘲笑は続き、それに増してイリヤーナは更に涙を流している。
「何があったというのです?」
騒ぎを聞きつけ、王の近衞騎士が近づいて来た。
(国王の前で粗相をするわけにはまいりませんわね。)
イリヤーナの事が非常に気にはなるが、先ずは近衞騎士に向かって礼をとる。周囲の人々がざっと左右に割れてメリカ達は王座の目の前に出される事になった。
「イリヤーナ様の体調がお宜しくないようなのでお声をかけさせていただきました。」
これならば、あながち偽りではないだろう。
「ふむ…イリヤーナ?男爵家だったか?」
国王が面倒臭そうにイリヤーナに声をかけた。
「さ、左様にございます。」
「して、体調が悪いと?」
「いえ……それは……」
体調は悪くはない、が、泣き出してしまった事についての説明をどうするのか言いあぐねているようだ。
「なんだ?答えられないのか?誰か!事情を知る者はいないのか?」
王が不機嫌さを隠そうともせずに周囲に目を向けた。
「恐れながら陛下…」
「申してみよ。」
国王の前に進み出たのは、なんとタントルだ。
(タントル様が、何を?)
「先日イリヤーナ嬢と私は茶の席を共に致しまして、今はもう婚約破棄をしましたがメリカ嬢に申し訳なく思われたのではないでしょうか?」
「ふむ…メリカとイリヤーナ、確かに共にいたな?」
「はい、おりました。」
(茶の席とは?タントル様と?)
「ならば、致し方ない…この場は双方とも引くがいい…タントル!」
「はい、陛下…」
「茶の席とは羨ましい…よほど良い華の香りの茶だったのであろうな?」
「はい、それはもう…」
ニッコリと国王と談笑しているタントルの隣ではイリヤーナ嬢が真っ赤になっていた。
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