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国王の召喚
4 画策
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「よし、俺は病床と言うことで!」
王太子タルコットが居なくなった庭でキールは一人可愛らしい拳を握りしめながら断言する。
「キール殿は病気にはならないのでは?」
すかさず考古学者カーンに横槍を入れられて、キールはうっと返答に詰まった。
「では、人間の住む環境が合わなくて気鬱を発症!」
「この所、随分と馴染んでいらっしゃいますよね?寛ぎながら読書まで堪能なさって。」
「………」
「国王の前には出たくないのですね?」
「………………」
「では出なければよろしいのでは?」
カーンはサラッとそんな事を言う。
「え?だって、出なければ、人間の王が罰を下すのだろ?」
「それは貴方にではありませんよ?キール殿?」
「…………」
「罰はレビンジャー騎士団長だけです。王太子殿下も私も他の者も負いません。ですから貴方は気兼ねなくお断りください。」
ニッコリと微笑んで話すカーンにキールは信じられない様な表情を向けた。
「仲間じゃないのか?」
「…同僚ではあります。」
「その同僚が罰せられると言ってるんだが……」
「そうですね?」
キールには訳がわからない。ニコニコとしながら普段と変わらない様に話しているカーンではある。が、仲間が罰を受けるかもしれないのになぜこうもニコニコしていられるのか。
「自分さえ、良ければいいと言うことか………」
キールの顔に久しぶりに人間に対する嫌悪の色が濃く現れた。
「私の場合は少し、違います。」
カーンの癪に触る様なニコニコ顔は変わらない。
「なんだよ、それ……」
「では、私からもキール殿にお聞きしますね?」
「………」
「キール殿にとって、私達人間は異種族です。私達があの日に太古の森へ行かなければ一生涯関わりになる事もありませんでした。」
「…そうだけど…」
「そして、キール殿は人間が嫌いですね?」
「まぁ………」
「で、あれば。貴方が嫌だと思う事はしなくても良いんです。レビンジャー騎士団長が罰を受けたとしてもそれは彼の職務怠慢の所為ですし、貴方の所為ではありませんから無視しておけばいいはずです。違いますか?」
「………違わない……」
「ほら、答えは出ましたよ?私もレビンジャー騎士団長も貴方が嫌がる事なんてしたくないんですよ?貴方が嫌だと言うのなら、そのまま嫌で結構です。ね?レビンジャー騎士団長?」
今までずっと黙していたフレトールを振り返りカーンが同意を求める。鞭打ちやら水責めやら火責めを受けるかもしれない当の本人は、カーンと同じくニコニコとしている。
こいつら……おかしいのか………?
責め苦を前に喜ぶのは人間の習性だっただろうか?キールが祖母に聞き伝えられていた人間像とはかけ離れている様に見えるのだが…フレトールは今までで一番、と言ってもいいほど晴れ晴れとした嬉しそうな笑顔を向けてくるのだ。
キールの頭の中では、拷問に責められ血を流し苦しむフレトールの姿と今の笑顔がどうにも繋がらなくて混乱している。人間はもっと自己中心的な者だと思っていた。だから罰をちらつかせられれば、喜んでキールを国王の側に引っ張っていくと思っていたのに。どうやらここにいるフレトールとカーンはキールの知っている人間とは違うのだろうか。
「お前ら、実は人間じゃない?」
キールが人間を見たのはここにきてからが初めてで、数百年生きてきたとしても実は人間と思っていた目の前の者達は、人間では無かった………?
「あのですね……何を勘違いなさっているか分かりませんが、私達は魔物ではありませんよ?他の種族の者でもありません。列記とした人間です。」
キッパリと言い切るカーン。ニコニコと笑顔が絶えないフレトール。キールはやはり人間がよくわからない。強欲で自己中心、排他的で傲慢……協力する振りをして自身の利益を得る為に容易く裏切る……
ここ数日はカーンに指摘されていた様にキールも随分伸び伸びとしている自覚はあった。いずれは出て行くのだから、今少し、疑問の謎が解けるまではここにいてもいいかとさえ思ってきているのだが、やはり、それは間違えだったかもしれない。
キールは人間観察をしたい訳ではない。ただ、疑問ができてしまったからここにいようとしている。既に今のキールにとっては、以前の人間などどうでもよかった時の様には扱えない疑問だ…日々それが大きくなってキールを突き動かしている様にも感じているのだ。
王太子タルコットが居なくなった庭でキールは一人可愛らしい拳を握りしめながら断言する。
「キール殿は病気にはならないのでは?」
すかさず考古学者カーンに横槍を入れられて、キールはうっと返答に詰まった。
「では、人間の住む環境が合わなくて気鬱を発症!」
「この所、随分と馴染んでいらっしゃいますよね?寛ぎながら読書まで堪能なさって。」
「………」
「国王の前には出たくないのですね?」
「………………」
「では出なければよろしいのでは?」
カーンはサラッとそんな事を言う。
「え?だって、出なければ、人間の王が罰を下すのだろ?」
「それは貴方にではありませんよ?キール殿?」
「…………」
「罰はレビンジャー騎士団長だけです。王太子殿下も私も他の者も負いません。ですから貴方は気兼ねなくお断りください。」
ニッコリと微笑んで話すカーンにキールは信じられない様な表情を向けた。
「仲間じゃないのか?」
「…同僚ではあります。」
「その同僚が罰せられると言ってるんだが……」
「そうですね?」
キールには訳がわからない。ニコニコとしながら普段と変わらない様に話しているカーンではある。が、仲間が罰を受けるかもしれないのになぜこうもニコニコしていられるのか。
「自分さえ、良ければいいと言うことか………」
キールの顔に久しぶりに人間に対する嫌悪の色が濃く現れた。
「私の場合は少し、違います。」
カーンの癪に触る様なニコニコ顔は変わらない。
「なんだよ、それ……」
「では、私からもキール殿にお聞きしますね?」
「………」
「キール殿にとって、私達人間は異種族です。私達があの日に太古の森へ行かなければ一生涯関わりになる事もありませんでした。」
「…そうだけど…」
「そして、キール殿は人間が嫌いですね?」
「まぁ………」
「で、あれば。貴方が嫌だと思う事はしなくても良いんです。レビンジャー騎士団長が罰を受けたとしてもそれは彼の職務怠慢の所為ですし、貴方の所為ではありませんから無視しておけばいいはずです。違いますか?」
「………違わない……」
「ほら、答えは出ましたよ?私もレビンジャー騎士団長も貴方が嫌がる事なんてしたくないんですよ?貴方が嫌だと言うのなら、そのまま嫌で結構です。ね?レビンジャー騎士団長?」
今までずっと黙していたフレトールを振り返りカーンが同意を求める。鞭打ちやら水責めやら火責めを受けるかもしれない当の本人は、カーンと同じくニコニコとしている。
こいつら……おかしいのか………?
責め苦を前に喜ぶのは人間の習性だっただろうか?キールが祖母に聞き伝えられていた人間像とはかけ離れている様に見えるのだが…フレトールは今までで一番、と言ってもいいほど晴れ晴れとした嬉しそうな笑顔を向けてくるのだ。
キールの頭の中では、拷問に責められ血を流し苦しむフレトールの姿と今の笑顔がどうにも繋がらなくて混乱している。人間はもっと自己中心的な者だと思っていた。だから罰をちらつかせられれば、喜んでキールを国王の側に引っ張っていくと思っていたのに。どうやらここにいるフレトールとカーンはキールの知っている人間とは違うのだろうか。
「お前ら、実は人間じゃない?」
キールが人間を見たのはここにきてからが初めてで、数百年生きてきたとしても実は人間と思っていた目の前の者達は、人間では無かった………?
「あのですね……何を勘違いなさっているか分かりませんが、私達は魔物ではありませんよ?他の種族の者でもありません。列記とした人間です。」
キッパリと言い切るカーン。ニコニコと笑顔が絶えないフレトール。キールはやはり人間がよくわからない。強欲で自己中心、排他的で傲慢……協力する振りをして自身の利益を得る為に容易く裏切る……
ここ数日はカーンに指摘されていた様にキールも随分伸び伸びとしている自覚はあった。いずれは出て行くのだから、今少し、疑問の謎が解けるまではここにいてもいいかとさえ思ってきているのだが、やはり、それは間違えだったかもしれない。
キールは人間観察をしたい訳ではない。ただ、疑問ができてしまったからここにいようとしている。既に今のキールにとっては、以前の人間などどうでもよかった時の様には扱えない疑問だ…日々それが大きくなってキールを突き動かしている様にも感じているのだ。
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