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「ふえぇぇ………ふええぇ~~~ん!!」
ユリンがしっかりとアスタラージの腕の中に抱きしめられた時、小屋の中からはユーアの大きな泣き声が聞こえくる。
「ユーア…!」
今まで良く眠っていたのに目が覚めてしまった様だ。小屋に入ればベッドの上にチョコンと座り、両手を眼に当ててワンワンと泣いているユーアがいる。
「あぁ…!ユーア!」
何を思って泣いているのかわからないが、泣いていてもユーアがここにいる。それだけでユリンの心の中はホカホカと暖かくなる。
「どうしたと言うの?いつもこんなに泣きながら起きる事はないでしょう?」
いきなりの竜化でユーアの身体にとてつも無い負担がかかったのだろうか。それか、違う家で眠ったこともない子だ。だから不安になってしまったのだろうか?
「おば…ぇぐっ……おぼちゃ…くっ……」
エグエグとしゃくり上げながら泣くものだから何を言っているのか分からないし、さっきもしこたま泣いていたので目の周りが腫れてきてしまってる。
「ユーア……ユーア、ママはここよ?ここにいるでしょう?もう怖く無いわね?だから安心して………良い子ね?大丈夫だから………」
(怖い夢を見たの?大丈夫よ。)
ユリンはトントンとユーアの背を叩き撫でさすって何とか落ち着ける様にゆっくりとあやす。
「すん…っ……おばちゃまがね……すんっ…」
「うん。メージュ叔母様ね?」
「うん…………」
「どうしたと言うの?」
(まさか、病気か何かに?)
タラント病ならば治せるけど…その他は…………
「うぇ…………つれてかれちゃった~~~!!!」
うわぁぁぁぁぁん!!
と更に泣き声を上げながらユーアはユリンに抱きついてきた。
「メージュ叔母様が!?」
「うん、おじちゃまも………」
スンスン、エグエグと泣きながらユーアはユリンに辿々しく説明して行く。
「連れて……?誰が!?誰が連れて行ってしまったと言うの?」
メージュとバルンは唯一残されたユリンとユーアの親族だ。ユリンにとっては親代わりの二人と言っていい。
「兵隊さん~沢山きたの~」
「兵隊?騎士隊!?領主様の所の!?」
「うん!!うん!そうだよ~~!」
「じゃあユーアは逃げてきたのね?」
「ママかユーアを渡せって……でも、皆んなは嫌だって~~!!」
「そんな、こんな小さな子まで、連れて行って何をしようと……」
ユーアの竜化した所でもみられたんだろうか……ユリンならばいざ知らず、ユーアを渡せと言ってもまだやっと3歳なのに……
「行くの、やだったの~!ママもあげたくないの~~!!だから、ママをさがしたの~~!」
「そう……一人で頑張ったのね?良く、ここまで来れたわね…えらいわユーア………!アスター……お願いがあるの…!」
「どうした?」
傍観者とばかりにユリンとユーアを見つめているアスタラージにユリンはゆっくりと振り返った。
「領主館に行ってきます………」
「…ならん……」
「でも!それでは叔母様達が!!」
今まであの二人はユリンを守ってくれたのだ。今はこうしてユーアまで、ユリンの我が儘を快く引き受けてユリンを解放してくれた。そんな人達をこのままにしたら酷い目に合うとわかっているのに、もう見過ごしておく事はできない。
「ならん…お前が行く事は許さない。」
黒竜であるアスタラージの空よりも澄んだ青い双眸にゆらゆらと黒い焔が揺蕩う…
「行けばどうなるのか分かっているのだろう?」
人間の世には関与しない。それは黒竜の中では今も変わらない考えだが。自分の唯一の伴侶がそのまま人の世に生きていければ良いと今でもそう思う。けれどもそれは、ユリンの幸せあってのことだ。愛する者が幸せそうに笑えるならば、自分は目を瞑ろうとしていたのに。
「………………それは…」
最初からわかっていた事…それが嫌で、ユーアを置いて逃げ出した事もよく分かっている…けれども、親とも思う者達を見捨てる事もできそうにもない…
「あやつめ………」
ゆらりと………黒竜アスタラージの周囲に瘴気が立ち込めて徐々に濃くなり、ついにアスタラージの姿さえもみえなくなつた。
[ここにいろ…]
それだけ言い残して、アスラタージは姿を消した…
「アスター!?アスターどこ!?」
この谷にで声を張り上げて、またアスターの名前を呼ぶなんて…嫌な胸騒ぎしかしない。
「ユーア!アスターが、貴方のパパがどこにいるかわかる?」
「ヒック……パ…パ?」
どうやらユーアはアスタラージの事を父とは思っていない様子。アスタラージの気配を辿ったのでは無くて、純粋にユリンの跡を追いかけてきたのだ。
「そう!さっきの男の人が貴方のパパよ!?」
「パパ…行っちゃった………」
「ええ……どこに行ったか分かる?」
幼いユーアに辿れるだろうか?怒りを露わにしていたアスタラージが一体何をしに行ったの分からなくて不安が広がる。
(アスター…優しい貴方だもの…信じてるわ………)
幼いユーアはユリンにギュッと抱きつきながら谷の上を指差す。
やはり、人間の住む街に行ったのだろう。
ユリンがしっかりとアスタラージの腕の中に抱きしめられた時、小屋の中からはユーアの大きな泣き声が聞こえくる。
「ユーア…!」
今まで良く眠っていたのに目が覚めてしまった様だ。小屋に入ればベッドの上にチョコンと座り、両手を眼に当ててワンワンと泣いているユーアがいる。
「あぁ…!ユーア!」
何を思って泣いているのかわからないが、泣いていてもユーアがここにいる。それだけでユリンの心の中はホカホカと暖かくなる。
「どうしたと言うの?いつもこんなに泣きながら起きる事はないでしょう?」
いきなりの竜化でユーアの身体にとてつも無い負担がかかったのだろうか。それか、違う家で眠ったこともない子だ。だから不安になってしまったのだろうか?
「おば…ぇぐっ……おぼちゃ…くっ……」
エグエグとしゃくり上げながら泣くものだから何を言っているのか分からないし、さっきもしこたま泣いていたので目の周りが腫れてきてしまってる。
「ユーア……ユーア、ママはここよ?ここにいるでしょう?もう怖く無いわね?だから安心して………良い子ね?大丈夫だから………」
(怖い夢を見たの?大丈夫よ。)
ユリンはトントンとユーアの背を叩き撫でさすって何とか落ち着ける様にゆっくりとあやす。
「すん…っ……おばちゃまがね……すんっ…」
「うん。メージュ叔母様ね?」
「うん…………」
「どうしたと言うの?」
(まさか、病気か何かに?)
タラント病ならば治せるけど…その他は…………
「うぇ…………つれてかれちゃった~~~!!!」
うわぁぁぁぁぁん!!
と更に泣き声を上げながらユーアはユリンに抱きついてきた。
「メージュ叔母様が!?」
「うん、おじちゃまも………」
スンスン、エグエグと泣きながらユーアはユリンに辿々しく説明して行く。
「連れて……?誰が!?誰が連れて行ってしまったと言うの?」
メージュとバルンは唯一残されたユリンとユーアの親族だ。ユリンにとっては親代わりの二人と言っていい。
「兵隊さん~沢山きたの~」
「兵隊?騎士隊!?領主様の所の!?」
「うん!!うん!そうだよ~~!」
「じゃあユーアは逃げてきたのね?」
「ママかユーアを渡せって……でも、皆んなは嫌だって~~!!」
「そんな、こんな小さな子まで、連れて行って何をしようと……」
ユーアの竜化した所でもみられたんだろうか……ユリンならばいざ知らず、ユーアを渡せと言ってもまだやっと3歳なのに……
「行くの、やだったの~!ママもあげたくないの~~!!だから、ママをさがしたの~~!」
「そう……一人で頑張ったのね?良く、ここまで来れたわね…えらいわユーア………!アスター……お願いがあるの…!」
「どうした?」
傍観者とばかりにユリンとユーアを見つめているアスタラージにユリンはゆっくりと振り返った。
「領主館に行ってきます………」
「…ならん……」
「でも!それでは叔母様達が!!」
今まであの二人はユリンを守ってくれたのだ。今はこうしてユーアまで、ユリンの我が儘を快く引き受けてユリンを解放してくれた。そんな人達をこのままにしたら酷い目に合うとわかっているのに、もう見過ごしておく事はできない。
「ならん…お前が行く事は許さない。」
黒竜であるアスタラージの空よりも澄んだ青い双眸にゆらゆらと黒い焔が揺蕩う…
「行けばどうなるのか分かっているのだろう?」
人間の世には関与しない。それは黒竜の中では今も変わらない考えだが。自分の唯一の伴侶がそのまま人の世に生きていければ良いと今でもそう思う。けれどもそれは、ユリンの幸せあってのことだ。愛する者が幸せそうに笑えるならば、自分は目を瞑ろうとしていたのに。
「………………それは…」
最初からわかっていた事…それが嫌で、ユーアを置いて逃げ出した事もよく分かっている…けれども、親とも思う者達を見捨てる事もできそうにもない…
「あやつめ………」
ゆらりと………黒竜アスタラージの周囲に瘴気が立ち込めて徐々に濃くなり、ついにアスタラージの姿さえもみえなくなつた。
[ここにいろ…]
それだけ言い残して、アスラタージは姿を消した…
「アスター!?アスターどこ!?」
この谷にで声を張り上げて、またアスターの名前を呼ぶなんて…嫌な胸騒ぎしかしない。
「ユーア!アスターが、貴方のパパがどこにいるかわかる?」
「ヒック……パ…パ?」
どうやらユーアはアスタラージの事を父とは思っていない様子。アスタラージの気配を辿ったのでは無くて、純粋にユリンの跡を追いかけてきたのだ。
「そう!さっきの男の人が貴方のパパよ!?」
「パパ…行っちゃった………」
「ええ……どこに行ったか分かる?」
幼いユーアに辿れるだろうか?怒りを露わにしていたアスタラージが一体何をしに行ったの分からなくて不安が広がる。
(アスター…優しい貴方だもの…信じてるわ………)
幼いユーアはユリンにギュッと抱きつきながら谷の上を指差す。
やはり、人間の住む街に行ったのだろう。
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