聖石を拾った村人Aに付いてきたのが魔王の溺愛

小葉石

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魔王との邂逅、魔王が俺を好きすぎる

28、魔王の小さな嫉妬 2

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 部屋に入って、入浴をし、散々泣き腫らして腫れてしまった目元に冷たいタオルをあてがってもらう。カーペ君は先程大神官に働いていた強気の姿勢はどこ行ったと思わせるほどの甲斐甲斐しさで俺のケアをしてくれる。全く、これだから…等々カーペ君はブツブツと文句を言いながらも、こうと決めたら周囲の反対を押し切るくらいの決断力と行動力を持ってるんですけどね、だからみんなに慕われているんですよ、と時折主人のフォローも忘れてはいないらしい。

「けれど、こんなに御使様を泣かせるなんて…今回ばかりは主人の悪手ですね!」

 優しく俺を労わりながら、カーペ君はフンと鼻息荒く怒ってくれるんだ…良かったよ…そんな優しいカーペ君に大事なくて…良かった…そんな事を考えたらまた止まった涙がこぼれてくる。

「うわぁ!御使様!申し訳ありません!僕、何か至らない事をしましたでしょうか?」

 オロオロとしだすカーペ君。

「違…これは…俺の方の問題で……」

 だってカーペ君に言うわけにはいかないだろう?自分が魔王に頼らないから、カーペ君やら村の人々やら世界中が危機に晒されたなんて…

「そうですか?後で、主人にはもっと抗議しておきますから…ね?御使様今日はもう休みましょう?」

 尋常ならざる俺の様子に、休んだ方が良いとカーペ君は俺をベッドに促した。

 確かにもう休みたい…逃げられなくなった事も、魔王に頼らざるを得なくなってしまった事からも頭を切り離して、何も考えずに眠りたかった…


 夢の中でもカーペ君の怒った声が聞こえた様に思う。猫が威嚇する様にかなり激した声が聞こえたけれど、それは普段のカーペ君からしたら考えられない様な喧騒だった。それを大人しく魔王は聞いていたみたいだし…けれど、夢の中でも俺の味方になってくれようとしているカーペ君の存在が今はありがたかった……





「御使様、ご覧ください!耕された畑からもう芽が出ましたよ?」

「こちらでは珍しい花に蕾がつきまして、今年の気候はなんと恵まれていることか…流石は御使様の出現された年ですね!」

「ささ、こちらへどうぞ?日差しが暑いでしょう?冷たい飲み物などは如何でしょうか?」

 大神官が神官達に俺が女神の御技を成したと宣言した後には、ほぼ全ての神官達に俺の顔は割れ、中庭に出て来れば皆んな親しく話しかけてくれる様になった。魔王に頼らないならば、と脅しに脅された俺は、以前よりもっと魔王といる事に拒否反応みたいなのが出てしまって、日中絶対に部屋には行かない様にしている…夜間はいたしかないにしても、その他大勢の神官が女神の御技云々に興味を持ち俺に注目を集めている所で魔王に好き勝手になんてされたくなかったからだ。何もせずにただぼぅっと庭に出て空を眺めているだけでも、手の空いている神官達がこうやって相手をしてくれるので、ま、注目されているのも暇つぶしにはなってくれているみたいだけれど…

「この様に世界が平和なのも、気候が落ち着いているのも、全ては御使様の愛の技故ですね。」

「ええ、本当に。感謝しかありませんね?」

 神官達は本人の俺を目の前にして、穏やかにニコニコと微笑み合いながらそんな事を言い合ってはお茶を飲み、本を読み、畑の世話をする。俺も時々畑の世話を手伝いながら次に中庭に来た神官達から感謝をされる。




「そんな事、した!?」

 純粋に自分の内に篭っていく疑問…この大神殿に魔王たる大神官にほぼ監禁状態で留め置かれ、魔王からの好意を一方的にこの身に受ける…俺のやっている事これだけ………

「それがルアンの存在意義なのだから、それで良いと思いますよ?」

 昼間は逃げていられるのに、夜間は大神官と同室で、今夜も上にのしかかってくる大神官に対して両手を突っ張って応戦しているつもりなんだけれど、力では叶わない事は既に承知済み…

「貴方がいるから私は暴れないのですから?ルアンが存在しているだけでそれは貴方の功績と言っていいでしょう?」

「俺がやった事でも、俺が望んだ事でもない!」

 自分には全くの記憶がないし、魔王に組み敷かれる事に対しては了承さえしていない…!気持ちが良くなってしまうのだって、女神様からの干渉だし…!

「良いんですよ?ルアンはそのままで…ルアンがルアンであったならばそれで良いんです。どんなわがままも聞きましょう。何がしたいのです?ルアン?」

 大神官の優しい声は、罪人を懺悔に導く天の声の様に慈愛に満ちて聞こえるのに、聞いてくる内容は全くそれに殉じない。

「………村に、帰りたい……」

 けれど、俺の精神だって限界ってものがある。神官として献身しようと思っていた訳じゃない。貴族になって贅沢したかったわけでもない。一生農作業と共に農民として生きるつもりだった……だから、そんなやましい自分勝手な望みをつい口に出す。

「ええ、分かっていますよ?ルアンが故郷を愛しているのは…私も同じくらいかそれ以上愛されたいとは思いますが……ま、いいでしょう?ルアンが私を頼ったのだから。」

 また、脅されると思った…でも恐ろしい文言ではなくて、ニコニコと酷く嬉しそうに微笑み続ける大神官の顔が目の前にあって、その晩は、混乱した……













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