32 / 78
魔王との邂逅、魔王が俺を好きすぎる
21、案内された部屋は 1
しおりを挟む
フェクルト神官様は大神殿の中に入って行く。また戻ってきてしまった内部はやはり素晴らしく、壁に彫られた壁画をゆっくりじっくりと鑑賞したい気もするのだが、この壁画を管理しているアレって魔王だよね?封印されてないよね?女神様…何で俺を?などのツッコミと恨み言が出てきてしまいそうで、これ以上は無心で目の端に写るがままにさせておく……それでも素晴らしい出来ではあるんだよね…ここ。
「どうされました?」
歩調がゆっくりとなってしまった俺を振り返ってフェクルト神官様が首を傾げる。
「あ、いえ!相変わらず素晴らしい壁画ですから、ゆっくり拝見したいと思って見ておりました。」
俺の中のツッコミや恨み言は出さないで素直な感想のみを話す。
「あぁ、そうですね。………けれど…う~ん?ちょっと今は難しいのではないでしょうか?」
フェクルト神官様は非常に残念そうな申し訳なさそうな表情と声で、俺にそう言ってくれた。大神殿内は今日も人が多い様だ。これから参拝者で溢れかえってくる、そんな状況なのだろうから。見習い神官みたいな俺がゆっくりと壁画を堪能していると邪魔である事は良く分かるので諦めます………
「はい…すみませんでした………」
神官服…外に出やすいかと思ったのに、返って仇になってないか?もう最早自分の足枷にしか見えないんだけど…
フェクルト神官様が案内してくれたのは、神官達の居室があるのとは逆の方だ。大神殿を入って左手の方に神官達の居住区があるとすれば、右手側の方向に進む。広々としている広間なのでここを通り抜けるにしてもかなり歩く。ここをフェクルト神官様も忘れ物を取りに走り抜けるのか、と考えると、神官職も体力勝負な力仕事の者達と変わらないのかもしれない。農民だった俺としては勝手に親近感が湧いてくる。
だって今まで俺は身体一つで生きてきた様ものだしな…神官の仕事はもっと複雑なんだろうけれど…
「さ、こちらですよ。」
少し思い出に浸っている内に付き添い申請所だろう所に到着したようだ。居住区とは違ってここのドアは剥き出しの木では無い。艶やかな塗料で塗られていて装飾も少し施されていた。質素な中にも神聖な高級感とかがある、そんな感じを受ける。
コンコン、とフェクルト神官様は躊躇なくドアをノックした。
中からは入室の許可が出る。そういえば、俺はフェクルト神官様に名前を名乗っていなかった。
「あの、お世話になりましたのに、名前も告げておりませんでした!申し訳ありません。」
中に入れば何かしらの手続きをしなければいけないのだろうから、お礼と名乗りを今の内にしておこうと思ったのだ。
「ああ、お礼には及びませんよ。これも私の役目の一つと思っておりますから。御使様をお守りいたしますのは全神官達の悲願でもございましょう?」
ん?御使様………?
俺が首を傾げた所で、入室を促すためか中からドアが開けられる。
「………!?…カーペ君……!?」
何でここに?ここに来て良く見知った顔がドアから出てきたので、びっくりして一歩下がる。
「おかえりなさいませ!御使様!フェクルト神官ご苦労様です。」
カーペ君はニコリとまだ少年らしい可愛いい笑顔でフェクルト神官様に挨拶している。同じ大神殿で働く者通し、見知っていてもおかしくはない…のだけれども……
そろり、と俺はフェクルト神官様の方を向く。
「知っていたのですか?」
もう泣きそうである。フェクルト神官様の方では何もかも知っていて、俺をここに案内したのだから。だとしたらきっとここは付き添い申請所ではないだろう…
「さあ、どうぞ!御使様、かなり歩かれたでしょうから、喉が渇きませんか?」
いつもの様にニコニコ、ニコニコとしているカーペ君にはきっと悪気なんてないんだ。今回は俺が、俺の意志でここからから出て行こうとしたんだし…カーペ君を騙す形で出て行こうとした俺の中の罪悪感はものすごいけど…
「では、私はこれで。カーペ様、しかと送り届けました。」
フェクルト神官様はそのままカーペ君と俺に頭を下げて、踵を返して行ってしまった…
「さ、御使様中へどうぞ!温かい物と冷たい物、どちらをご用意いたしましょうか?」
カーペ君に促されるがままに部屋の中に入るしかなかった。
「…冷たい、物で……」
確かに大神殿の中をぐるっと回ろうとしていたし、よく歩いたし、喉は乾いていたのだけれども、ここにはお茶を飲みにきたのではない。この部屋にはきっと…
「ああ、お帰りなさい。ルアン。」
質の良い執務机に座って何やら書類と睨めっこをしている大神官がこちらに視線をゆっくりと向ける。
やっぱり………
「こちらですよ。御使様!どうぞ。」
ニコニコと俺を中に促してくれるカーペ君と同じ様に柔かな笑顔を向けて俺を迎えてくれる大神官の薄茶の綺麗な瞳。
なんで……?これも魔王の力の成せる技なのだろうか?
座らされたソファーの前にはこれまた沢山のお菓子や軽食の山…いいの?神殿なのに?と疑問が飛ぶほどだ。
「どうされました?」
歩調がゆっくりとなってしまった俺を振り返ってフェクルト神官様が首を傾げる。
「あ、いえ!相変わらず素晴らしい壁画ですから、ゆっくり拝見したいと思って見ておりました。」
俺の中のツッコミや恨み言は出さないで素直な感想のみを話す。
「あぁ、そうですね。………けれど…う~ん?ちょっと今は難しいのではないでしょうか?」
フェクルト神官様は非常に残念そうな申し訳なさそうな表情と声で、俺にそう言ってくれた。大神殿内は今日も人が多い様だ。これから参拝者で溢れかえってくる、そんな状況なのだろうから。見習い神官みたいな俺がゆっくりと壁画を堪能していると邪魔である事は良く分かるので諦めます………
「はい…すみませんでした………」
神官服…外に出やすいかと思ったのに、返って仇になってないか?もう最早自分の足枷にしか見えないんだけど…
フェクルト神官様が案内してくれたのは、神官達の居室があるのとは逆の方だ。大神殿を入って左手の方に神官達の居住区があるとすれば、右手側の方向に進む。広々としている広間なのでここを通り抜けるにしてもかなり歩く。ここをフェクルト神官様も忘れ物を取りに走り抜けるのか、と考えると、神官職も体力勝負な力仕事の者達と変わらないのかもしれない。農民だった俺としては勝手に親近感が湧いてくる。
だって今まで俺は身体一つで生きてきた様ものだしな…神官の仕事はもっと複雑なんだろうけれど…
「さ、こちらですよ。」
少し思い出に浸っている内に付き添い申請所だろう所に到着したようだ。居住区とは違ってここのドアは剥き出しの木では無い。艶やかな塗料で塗られていて装飾も少し施されていた。質素な中にも神聖な高級感とかがある、そんな感じを受ける。
コンコン、とフェクルト神官様は躊躇なくドアをノックした。
中からは入室の許可が出る。そういえば、俺はフェクルト神官様に名前を名乗っていなかった。
「あの、お世話になりましたのに、名前も告げておりませんでした!申し訳ありません。」
中に入れば何かしらの手続きをしなければいけないのだろうから、お礼と名乗りを今の内にしておこうと思ったのだ。
「ああ、お礼には及びませんよ。これも私の役目の一つと思っておりますから。御使様をお守りいたしますのは全神官達の悲願でもございましょう?」
ん?御使様………?
俺が首を傾げた所で、入室を促すためか中からドアが開けられる。
「………!?…カーペ君……!?」
何でここに?ここに来て良く見知った顔がドアから出てきたので、びっくりして一歩下がる。
「おかえりなさいませ!御使様!フェクルト神官ご苦労様です。」
カーペ君はニコリとまだ少年らしい可愛いい笑顔でフェクルト神官様に挨拶している。同じ大神殿で働く者通し、見知っていてもおかしくはない…のだけれども……
そろり、と俺はフェクルト神官様の方を向く。
「知っていたのですか?」
もう泣きそうである。フェクルト神官様の方では何もかも知っていて、俺をここに案内したのだから。だとしたらきっとここは付き添い申請所ではないだろう…
「さあ、どうぞ!御使様、かなり歩かれたでしょうから、喉が渇きませんか?」
いつもの様にニコニコ、ニコニコとしているカーペ君にはきっと悪気なんてないんだ。今回は俺が、俺の意志でここからから出て行こうとしたんだし…カーペ君を騙す形で出て行こうとした俺の中の罪悪感はものすごいけど…
「では、私はこれで。カーペ様、しかと送り届けました。」
フェクルト神官様はそのままカーペ君と俺に頭を下げて、踵を返して行ってしまった…
「さ、御使様中へどうぞ!温かい物と冷たい物、どちらをご用意いたしましょうか?」
カーペ君に促されるがままに部屋の中に入るしかなかった。
「…冷たい、物で……」
確かに大神殿の中をぐるっと回ろうとしていたし、よく歩いたし、喉は乾いていたのだけれども、ここにはお茶を飲みにきたのではない。この部屋にはきっと…
「ああ、お帰りなさい。ルアン。」
質の良い執務机に座って何やら書類と睨めっこをしている大神官がこちらに視線をゆっくりと向ける。
やっぱり………
「こちらですよ。御使様!どうぞ。」
ニコニコと俺を中に促してくれるカーペ君と同じ様に柔かな笑顔を向けて俺を迎えてくれる大神官の薄茶の綺麗な瞳。
なんで……?これも魔王の力の成せる技なのだろうか?
座らされたソファーの前にはこれまた沢山のお菓子や軽食の山…いいの?神殿なのに?と疑問が飛ぶほどだ。
5
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

物語なんかじゃない
mahiro
BL
あの日、俺は知った。
俺は彼等に良いように使われ、用が済んだら捨てられる存在であると。
それから数百年後。
俺は転生し、ひとり旅に出ていた。
あてもなくただ、村を点々とする毎日であったのだが、とある人物に遭遇しその日々が変わることとなり………?

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる