聖石を拾った村人Aに付いてきたのが魔王の溺愛

小葉石

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魔王との邂逅、魔王が俺を好きすぎる

20、脱出するぞ 2

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 とりあえず、あれが正面出入り口だろう。他に出入りできる門がないか一度回ってみてもいいかもしれない。左に行けば正門方向で、きっと大神殿の大きな正面入り口と神殿の素晴らしい意匠が見えるはずだ。右側は人影はまばらで主に神官やら下働きの様な人達がチラホラ行き交っている。木々が植えてあって整えられた気持ちの良さそうな林に続いていく。もしや散策できる様にもなっているのかもしれない。この大神殿の周囲には人が登るには無理がありそうな柵で囲まれていて、外に出るには正門を通るか他の出入り口を探す必要があるのだが、あまり柵付近をウロウロとしては怪しまれてしまいそうだな…

 その場でしばらく考えたけれども埒が開かない。だから、正門突破の方向で外に出ようと思う。意を決して、俺は正門の方へと歩いていく。ここへ来た時には華やかな衣装を着た貴族と思しき人々がほとんどだったけれども、正門を通って歩いて入ってくる人々は殆どが平民の様だ。貴族ならば馬車で入ってくるのが普通だろう。正門から少し離れた所に馬車用の大きな門があるのが見えるのであそこから入るんだ。

 きっと俺もあそこから入ったんだろうな。あの時は周囲を見る余裕があまりなかったっけ…今も無事に外に出られるか緊張は最高潮に向かって行く………

 行き交う人々に時々チラッと見られている様な気がするけれども、気にしたら負けだ…!挙動不審になったらそこで止められるかもしれないんだから………

「あの…もし?」

「ひゃい!」

 あ、変な声出た…………

 控えめに声をかかられただけなのだから、恐る事はない筈なのに、何でこんな時ってこんなに驚くんだろう………がっくり肩を落としそうになりながらも、背筋を伸ばして変な態度を取らない様に体裁を繕う。

「何でしょう?」

 声が震えない様に話すのって、こんなに大変だったっけ?

「失礼ですが、お一人ですか?」

「ええ…まぁ……」

 そうです…一人で行きたいんですから。

「それはあまりにも不用心ですね。神官にも必ず供が付きますのに…」

 え、そうなの?

 急いで周囲を見渡せば、神官の後ろには必ず一人が二人、平民と思われる格好をした者、多分下働きの人、が付いているのがわかった。

「あ…!そうなのですね!すみません。来たばかりでまだ不慣れでして…」

 焦ってしまわない様に微笑みを絶やさず穏やかに受け答えをした。

「だと思いました。よろしければ、付き添い申請をお手伝いいたしましょうか?」

 そんな制度あるの?付き添い申請…?

「あの、付き添い無く外に出たら……」

「お辞めになった方が宜しいかと…神官は意外に人気があるのです。女神様の御使様が現れなさったでしょう?少しでも女神様のお力にあやかろうとされる人は少なくはないのですから…」

 心配そうな表情の神官は中年の域だろうか?とても人の良さそうな方だった。背後に一人ついている付き添い人は俺よりも年上だろうけれど、まだ若い。こちらも心配そうに俺を見てくる。
 無体な事は起こらないかもしれないけれども、神殿の権威や力にあやかろうと無理難題を押しつけられる事くらいあるかもしれないという事だった。

「……そうですね。」

 それを聞いたら、神官として外に出れなくなった事がわかって…若干途方に暮れる。このまま一人で出ても良からぬ事に巻き込まれる様では、義父上にも迷惑がかかるというものだろう。

「あの、宜しければ、付き添い申請所までご案内いたしましょうか?」

 しゅんと肩を落としてしまった俺に酷く同情してくれた様でこの神官は優しい言葉をかけてくれる。お名前はフェクルト様と言うそうだ。見た目通りの神官で、これから城下の孤児院で無料で勉強を教えに行くそうな。

「お仕事の邪魔になりませんか?」

 出来ればこちらの方をチラチラと伺う人が増えてきた様子もあるので、早くここから離れてしまいたい。けれど、フェクルト神官にも迷惑はかけたくない、ので俺は更にシュンと小さくなって行く……

「いえいえ、邪魔になどなりませんよ。私だって忘れ物を取りにこの広い大神殿を駆け巡る事もあるのですから。」

 俺の心配を吹き飛ばそうとしているているのか、フェクルト神官様はカラカラと笑って見せてくれる、優しい人だった。

「では、お願いしても?」

「ええ、喜んで!テフラ、孤児院に連絡を。」

「かしこまりました。フェクルト神官様。」

 テフラと呼ばれた付き添い人の若者は、ペコリと頭を下げた後、急足で正門から出ていった。

 いいなぁ……本当なら俺がああやってここから颯爽と出て行くはずだってのに……
  
 羨ましそうに見つめている俺にフェクルト神官様が声をかけてくれる。

「さ、こちらですよ。」

 ニコリと微笑むフェクルト様に付き添われて俺は正門前を後にする。この時には俺の後ろにはかなりの人だかりができていて、もしや、通行する人々の邪魔をしていたのかとかなり焦ったものだった…

 




















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