聖石を拾った村人Aに付いてきたのが魔王の溺愛

小葉石

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魔王との邂逅、魔王が俺を好きすぎる

11、貴方は誰? 4

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「では、ルアン…?いけない子だな…?そんな我儘を言うなんて…」

 ゾク……………

 昨日と同じ様な甘く低い声……そんな声で言われても、女神様のお名前を汚して良いはずがないでしょう!?それに、これは我儘じゃなくって人間なら神への畏怖は持たなくちゃいけないと思うし……!
 そもそも、俺の我儘は全て聞いてくれるんじゃなかった?

 あまりにも甘過ぎる声が怖くて、カーペ君に言い付けてあるあれこれを引っ張り出して反論する気も起きない……

 ギシリ……こんもりと掛け物に籠った俺の両側に、きっと大神官様は両手を突いた。俺の大腿両側には、膝だろう……
 ドサリ……丸まった足元のその先に、何か重い物が置かれた様でベッドに振動が伝わってくる。それが、ゾリゾリとベッドの上を右往左往している様な、音がする………

「なぜ、夕餉を食べなかった?もしかして、メニューが気に入らなかったのか?ならば、カーペを罰しようか?」

 は?カーペ君、関係ないですよね?

 何を言い出すかと思えば、全く関係無いどころか親身になってあれこれ尽くしてくれているカーペ君に在らぬ罰がいくの?そもそも罰せられる様な事してないよ!

 本当にそんなこと言われたら余りにもカーペ君が不憫と思い、ガバッと布団を跳ね除け………

「貴方……誰…?」

 思いの外、間抜けな質問をしたものだ…けれど、これが素直に出て来た俺の感想だ。

 目の前には、漆黒の瞳…それも吸い込まれそうな濃さの…美しく整った大神官シハル様と同じ造形の顔にも瞳と同じ漆黒の絹の様な髪がかかる…形が良い耳の上からはうねる二本の角が、天に向かって聳え立ち、俺を逃すまいと笑みを浮かべて覆いかぶさってくる!

「釣れないな?釣れなさすぎやしないか?ルアン?」

 俺が気にしているからか、シハル様は女神の名前を出さないでくれた。

「だって…!昨日………」

 そう、昨日会ったばかりだ。それも、こんな異形な姿を通常の精神状態の時に見てない!

 やはり………魔族……

 俺は恐怖のままに下へずり下がって逃げようとする。けれど……足に…は…確かに人の足では無いがあたる……

「ルアン……いや、ルシェーラが言ったのだぞ?其方をくれると?お前はどうやら憶えていないようだがな?」

 ずり下がる俺を、ヒョイっと抱え上げて、こっちが硬直している間に、何故だか、魔族の膝の上に乗せられる形で座らされている…魔族の足の横からは、蛇?蛇なのか…?蛇にしては少し太い様な、鱗が付いている尾のようなものが見えていて……

 昨日の俺……良く正気でいられたな?

 自分で自分を客観視して驚いてしまう。きっと今はそんな自虐的な思考に陥っている場合では無いんだろうけれども…あまりにも考えたくなくて、思考が彷徨う…

「ふん…傲慢なあいつのやりそうな事だ。この姿形は瓜二つ……しかし、中に記憶は残さないとは……」

 憎まれ口を叩きながらも、シハル様は酷く楽しそうだ。大神官様のお顔なのに、色や言葉遣いまで全く違うと同一人物には見えないけれど…

「あぁ…その惚けたような顔…あの時のあなたからは想像もつかなくて…良いな…」

 魔族の綺麗な顔に朱がさして、グッと色気が増した様な気がする。うっとりと俺の顔を見つめていたかと思うと、クイッと顎を掴み上げられ、そのまま唇が重なる…

「ふぅ…む!!」

 ボゥッとシハル様の顔に見惚れていた自分が悪いのか、いきなり人にこんな事をしてくる魔族が悪いのか……そもそも魔族の流儀も常識も知らないんだから、全面的に俺は悪くは無い!

「ちょ、ちょっ、ちょっと!!待ってくださいって!昨日から一体なんなんですか!?」

 昨日は散々人の身体を訳も分からぬうちに弄ってくれて…今日もなんて聞いてないし、いくら魔族が怖くても、流されるままに好きな様にはされたくない!

「ルアンが覚えていないのは無理もないが、お前はルシェーラなのだ。」

 瞬間的に思わず勢いに任せて、俺は魔族の顔を思いっきり押し退けた。言うに事欠いて、この魔族は俺を女神ルシェーラ様だと言い切った…あれだぞ?女神と言えば天上に住む神の一人で、豊穣やら、愛やら、美やら、光やらこの世の素晴らしいものを一気に詰め込んだ様な、正に神そのもののような存在だぞ?俺と言ったらただの農民で、権力も能力も美もない、ただの人間のそれもだぞ!?どこをどう辿ったら女神に行き着くんだ……!

 と言うような事を、頭に思い浮かぶままに全部目の前の魔族に言い切ってしまった……言った後に、思いっきり後悔したんだよ…魔族相手に何やってんのって?俺ばかりじゃなく、カーペ君やらほかの神官達に、この大神殿に来訪して来ている人達に危害が加わるかも知れなかったのに…泣きそうになりながら、精一杯の虚勢を張って、ギッと睨みつけていたら、この魔族……肩を震わせて、笑ってやがる!!!
















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