聖石を拾った村人Aに付いてきたのが魔王の溺愛

小葉石

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魔王との邂逅、魔王が俺を好きすぎる

10、貴方は誰? 3

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 人の世には色々ある。けれども、作物はきっと裏切らない…カーペ君が許可してくれたこじんまりとした畑に入らせてもらう。手入れが行き届いた良い畑だ。ここで神官達が食べる野菜達が作られているそう。やはり寄付で何もかも賄っているので、自分達ができる事は全て自分達で、が基本の様だ。
 ちゃんと手入れされているから、特に手を出すこともなく、少しだけ間引いたり、土を寄せたり…

「良い土だな……」

 はぁ…とため息を吐きながら、村のことを思い出す。一人だけここに残されて、聖石を見出した御使みたいに扱われているけれど、聖石を触れる事と土を弄る事以外でこれと言って俺に、特別な特技もないしな……

「ん~~~~!」

 やっぱり、生き返る!神殿の中とかで大人しく過ごすより、こっちが性に合っている!

 土を触っていたら無性に身体を動かしたくなって、カーペ君に無理矢理鍬を借りて、ザクザクザクザクと土を耕した。いつぶりだろうか?土を耕すなんて…あの聖石を見つけてから自分を取り巻く環境が一気に変わってしまったから。
 この時間が好きだった。農民は作物が取れなくちゃ飢饉一直線の最前線にいるから、気楽に農民最高!なんて言えないんだけど、何も考えずに土に触れ合う…良いことも、嫌なことも、全部土に返してしまって肥料にしてしまえ!そう言えば…昨日、何やらあった様な……

「御使様!!」

 無心になって土を起こしていたら、カーペ君が悲鳴を上げてる。

「ん?」

「そこまでして頂かなくても大丈夫です!担当の神官がおりますからー!」

 どうやら、俺はやりすぎていたみたい…
休耕地かな?余計なところまで土を返してしまってた……

「ごめん…怒られるかな?」

 俺の我儘を聞く様に大神官様には言われていたみたいだけれども、ここは他人の地だ。我が物顔で好き勝手して良いわけがなかった…

「いいえ。御使様は怒られる様なことをしておりません!僕達が居たたまれないのです!」

 何せ俺は女神の御使で、女神の息吹を授かった聖石に触れる事ができる唯一の人…と言われている…ので、心が痛むらしい……
 今まで言われ続けてきた事を全て集めて改めて言われてみると、物凄い場違いな肩書きすぎる。

 本当に、なんにもできないんだよ?いいの、それで?と問い正したい。心酔しきっているカーペ君に問うても無駄だろうとは思うのだけれど……

「あ……!御使様!大神官様です!」

 カーペ君に鍬を返していると、カーペ君は俺の後ろ側を指差した。

「………あ……」
 
 向こうの廊下を早足で通り過ぎようとする大神官様だ。

「多分、これからお昼を召し上がってすぐに午後のお祈りに入ります。それから執務室で運営の会議があって、夕拝に、夜間祈祷と逗留者方の為に少しお時間を取られるのです。」

 その合間合間に参拝に来ている身分ある者達、一般市民の人々の対応をすると言う。大神官とは目が回る様な忙し過ぎる身分であった。

「良かった…今日は昼食を召し上がれそうですね。」

 忙しい時には食事は二の次になるそうだ。神に仕え、民の為に働くのだからそれが当たり前なのだとカーペ君も平然とそんなことを言う。

「そんなに、忙しいんだ……」

 早足だから茶の髪が風に靡いてキラキラして見える…

 ん?茶色………?茶色だったか?昨日、最後に見た髪色は………

「違う……」

 そうだ、違う…茶色じゃない……!あれは、漆黒の………

「御使様!?どうなさいました?お、お顔の色が!?御使様?」

 流石に昨日の事を忘れていたなんて信じられないけれども、あそこで颯爽と歩いている大神官様は






「食事を取らなかったそうですね?」

 自室に帰ってくるなり、シハル大神官様は最初にそう言った。何故だか俺は、女神云々の件で客室は与えられず、大神官と同等の位と見られているので、大神官様と同室にて神殿について諸々教授されたし、と言う有難い様な迷惑の様な待遇で、まだシハル大神官様と同じ部屋だ。あの後、昨日のことを全て思い出した俺はカーペ君にすぐ様この部屋へと連れ戻された。
 そして全てを思い出した俺としては、恥よりも恐怖の方が勝ってしまい、カーペ君にも打ち明ける事ができずに、寝具の中に避難すると言う……
 この大神殿より逃げ出そうとしても、神殿内にも大勢の人がいすぎだし、もしもカーペ君に何やらの罰でも降ったらと思うと行動にうつせなかった…
 
 だからこれは、魔族なんかには負けないぞと言う、ささやかな意志表示である。

「ルアン?…ルシェーラ…?」

 また…その名前で俺を呼ぶ!?不敬も不敬だ!女神の不況を買ったらどうしてくれるつもりなんだろう?

「……女神様の、お名前で呼ばないでください!!」

 せめて、それだけはやめて欲しくて…この魔族がやめてくれるかどうか分からないけれども…精一杯の虚勢を張って震える声を押し殺して、そう俺は言い返す。











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